地方からの視点 中小企業で働く未来を見つめる 『地方中小企業就業者の働く意識調査レポート』

地方からの視点 中小企業で働く未来を見つめる 『地方中小企業就業者の働く意識調査レポート』

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

地方都市の人口減少が進み、中小企業の人手不足感が高まっています。生産年齢人口が減少する「人口オーナス」を迎えつつある中、地方に拠点を置く中小企業の人材課題は今後ますます深刻化する可能性があります。

本調査レポートでは、地方中小企業で働く人の就業実態を明らかにし、そこから地方中小企業が取り組むべき組織づくりの対策を考えます。

問題意識

中小企業就業者は日本における就業者の約7割を占め、日本の「働く」の大多数を占める存在として社会の発展に貢献してきました。取り組み開始から10年の時が経つ「地方創生」に象徴されるように、これからの経済成長に向けて地方の企業に期待される役割が大きくなっている実感があります。

一方で、東京圏への人口集中により地方から労働の担い手となる人材が流出しています。生産年齢層が減少する中で、地方を拠点とする中小企業の人手不足は一層深刻になることが予想されます。

労働・雇用の現状や課題は、大企業や都市圏を起点に語られることが少なくありません。ですが、大企業と中小企業、都市圏と地方部では置かれた状況が異なり、人材の採用・定着に向けて同じような施策を打てるとは限りません。働く人の目線で考えても、地方ならでは、中小企業ならではの「働く」の実態がありそうですが、うまくつかみきれていないのが実情ではないでしょうか。

このような問題意識から、マイナビキャリアリサーチLabでは、地方中小企業就業者を起点とした就業実態調査を行いました。そこで働く人たちは、何に魅力を感じ、何に不満を感じているのか。自身が望むキャリアに何が不足していて、組織に何を求めているのか。大企業就業者との違いも踏まえながら、2025年の地方中小企業就業者の現状を整理し、未来に向けて地方中小企業が取り組むべき対策のヒントを探ります。

定義

本調査レポートでは「地方中小企業就業者」と「大企業就業者」を以下のように定義しています。

地方中小企業就業者

  • 【エリア】現在の勤務地が東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)を除く全国43道府県
  • 【規模】会社全体の従業員数が5名以上、300名以下の民間企業
  • 【属性】正社員として働く20代から50代

大企業就業者

  • 【エリア】現在の勤務地が全国47都道府県
  • 【規模】会社全体の従業員数が1,000名以上の民間企業
  • 【属性】正社員として働く20代から50代

※「地方中小企業就業者」のエリアは、東京都心から一定の距離にあり、住民基本台帳人口移動報告で示される「東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)」を除く43道府県としました。東京圏は全国でも特に転入超過数が多く、東京圏を除く43道府県が人口減少に伴う労働力不足の影響が大きい可能性を加味し、定義しました。
※今回の調査では仕事や所属先に関する設問が多く、一定期間仕事や職場を経験していることを前提とした内容が多く含まれるため、「地方中小企業就業者」「大企業就業者」ともに「勤続年数1年以上」の就業者サンプルを抽出しました。

就業実態

※本ページの内容は「地方中小企業就業者の働く意識調査レポート」の内容を一部抜粋したものです

働く魅力

まず、現在の勤務先で感じている「働く魅力」について見ていきます。地方中小企業就業者は、「休日・残業時間が適正であること」「希望のエリアで働けること」が上位となりました。

また地方中小企業就業者と大企業就業者を比較すると、特に「福利厚生が整っていること」「会社に安定性・将来性があること」の差が大きく、10pt以上あります。このように、大企業就業者と地方中小企業就業者では仕事で優先するものや会社に求めるものに差があり、視点に違いがあることがわかります。

現在の勤務先で魅力に感じていること(3つまで)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
現在の勤務先で魅力に感じていること(3つまで)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

キャリア実現度

次に、自身のキャリアについてどれ程実現できているのか(=キャリア実現度)をみていきます。地方
中小企業就業者の結果を見ると、「自分らしく働くこと」「自分らしく生きること」が特に高く、実現で
きている(実現できている+やや実現できている)割合が4割を超えています。

「自分らしさ」の解釈は人それぞれですが、自分が担当している業務や仕事を通じて得られるものが、自身の考える基準と照らし合わせた時に「納得できるものなのか」を考えながら仕事に向き合い、実現している様子がうかがえます。

キャリア実現度(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
キャリア実現度(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

キャリア実現度について、地方中小企業就業者と大企業就業者を比較してみていきます。ここで見逃せないことは、すべての項目において地方中小企業就業者の方が大企業就業者よりもスコアが低い(実現度が低い)ということです。「キャリアの安定」「人生設計の見通し」「社会的地位の向上」「十分な収入」は特に地方中小企業就業者のポイントが低い項目で、大企業就業者とのスコア差も大きいです。

「キャリア実現度」の結果はあくまで働く人それぞれの基準にもとづいた主観であるため、個々の働く人と組織の関係を客観的に見た時に、どの程度実情とリンクしているかは定かではありません。それでも、地方中小企業就業者自身が描くキャリアと現実との間にはギャップがあり、今のキャリアが思っていたほど実現できていない“物足りなさ”を感じている人も少なくないと推察できます。

キャリア実現度(地方中小企業就業者・大企業就業者比較)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
キャリア実現度(地方中小企業就業者・大企業就業者比較)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

仕事・環境の満足度

仕事やキャリアを構成するさまざまな要素を踏まえて現在の仕事・環境の満足度を調べました。自身が担当する業務や所属する職場に対する満足度はモチベーションにも影響を与える可能性があり、組織のパフォーマンスを考える上で大切な要素と言えます。

地方中小企業就業者は「業務量・労働時間」「職場の人間関係」で満足(満足+やや満足)の割合が比較的高くなりました。一方で、「収入」「組織からの評価」「福利厚生」で不満(やや不満+不満)の割合が特に高くなりました。

収入は、単に「収入が低い」ということだけが働く人に不満を抱かせる要因とは限りません。収入は評価と関連が深く、評価が不透明であったり不公正さを感じられたりする場合に、収入に対する納得感や満足感が下がることは大いに考えられます。そのため、収入の不満に対する課題は、現在の評価の在り方とセットで捉える必要があります。

仕事・環境の満足度(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
仕事・環境の満足度(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

仕事・環境の満足度について、地方中小企業就業者と大企業就業者を比較してみていきます。こちらも「キャリア実現度」と同様にすべての項目で、地方中小企業就業者の方がスコアが低くなりました。

とりわけ顕著だったのが「福利厚生」と「収入」の項目です。福利厚生は、給与・賞与とは別に従業員や家族に対して与えられるもので、報酬の側面をもちます。近年では、給与や賞与に次ぐ「第三の賃上げ」として、従業員の待遇と働きやすさの向上へ福利厚生を充実させようという動きもみられます。

この結果が示すように、報酬や自身が仕事をすることによって受ける待遇の満足度には、地方中小企業と大企業との間にギャップがあります。今後、地方中小企業の雇用を守っていくために解消しなければならない重要な課題と言えるでしょう。

仕事・環境の満足度(地方中小企業就業者・大企業就業者比較)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
仕事・環境の満足度(地方中小企業就業者・大企業就業者比較)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

退職したいと思った経験

会社や仕事に対する不満や不安は、その会社で働き続けるか否かにも関わる重要な問題です。社会全体で転職を希望する人の数は上昇トレンドとなる中、退職を考える「きっかけ」となる要因に目を向け検証していく必要があると考えます。

「今の会社に勤め始めてから現在までに退職したいと思ったことがあるか」の結果を見ると、地方中小企業就業者のうち「退職したいと思ったことがある」割合は65.1%となり、大企業就業者に比べて若干高くなりました。

退職したいと思った経験/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
退職したいと思った経験/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

また、これまでに退職したいと思ったことがあるとした人に「退職をしたいと思うきっかけとなった不満」の項目を聞きました。仕事がうまくいかなかったり、働く環境でストレスを感じたりすることはどんな人にも起こり得るものですが、退職を考えるほどの強い不満要因とはどのようなものでしょうか。

結果をみると、地方中小企業就業者では「給与」が55.6%でもっとも高く、次いで「人間関係」が49.6%となり、この2項目が特に高くなりました。大企業就業者のスコアと比較しても差がみられます。反対に、「仕事内容」や「評価」などは大企業就業者に比べて低くなりました。

退職したいと思うきっかけとなった不満(複数回答)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
退職したいと思うきっかけとなった不満(複数回答)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

今後のキャリアの不安

続いて、「今の会社で今後働き続ける場合に不安に感じること」の結果です。地方中小企業就業者では「十分な収入を得られるか」が51.0%で最多となり、「会社が成長できるか(19.1%)」「仕事と私生活を両立できるか(18.8%)」などの他の項目と比較しても特にスコアが高くなりました。また「十分な収入を得られるか」は大企業就業者との差も顕著です。

地方中小企業就業者の「収入」に対する現状の不満が大きい傾向にあることは、これまでのデータにもあらわれていましたが、自身の『今後のキャリア』を考えるにあたっても収入面がネックとなっている様子がうかがえます。

この背景には、社会が急速に進展して会社・仕事の社会的価値が変化する中で、将来の自身のキャリアの見通しがつきにくくなっている現状もあると考えます。

今の会社で働き続ける場合に不安に感じること(3つまで)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
今の会社で働き続ける場合に不安に感じること(3つまで)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

今後のキャリアに対する考え

「今後のキャリアに対する考え」では、地方中小企業就業者と大企業就業者との間で特徴的な差があらわれました。結果をみると、「これからも今の会社で頑張りたい」とした割合は、地方中小企業就業者が23.2%だったのに対して、大企業就業者は35.3%で、10pt以上の差がありました。

「他に良い会社があれば転職したい」の割合も地方中小企業就業者の方が高くなっており、働く場所の選択肢は必ずしも今の会社ではないと考える人も多いことが推察できます。この結果は、地方中小企業就業者のキャリアに対する不満・不安、とりわけ収入に対する不満が大きいことが影響していると分析します。

今後のキャリアに対する考え/中小企業就業者の働く意識調査レポート
今後のキャリアに対する考え/中小企業就業者の働く意識調査レポート

さらに、同じ地方中小企業の就業者でも年代によって違いがみられます。「これからも今の会社で頑張りたい」の割合は20代が18.5%で特に低く、年代が上がるほどスコアが高い傾向にありました。

反対に、「他に良い会社があれば転職したい」の割合は年代が下がるほど高い傾向にあります。つまり、若年層の方が、今の会社を離れることに対する抵抗感が小さいと解釈することもできます。

年代別・今後のキャリアに対する考え(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
年代別・今後のキャリアに対する考え(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

仕事・出世に対する姿勢

全国の20代~50代の正社員を対象にマイナビが行った調査(※1)では、出世や仕事に対して消極的な正社員が多くいることがわかりました。

この結果を踏まえ、仕事に対する姿勢について調査しました。地方中小企業就業者のうち「できることなら最低限の仕事をこなしたい(あてはまる+ややあてはまる)」の割合は42.9%となり、20代・30代で特に高くなっています。

仕事・出世に対する姿勢・できることなら最低限の仕事をしたい(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
仕事・出世に対する姿勢・できることなら最低限の仕事をしたい(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

キャリアアップの意向も調査しています。これまでは「キャリアアップ=内部昇格・内部昇進」と捉えるのが一般的でしたが、今の時代の考え方は多様化しています。結果をみると、地方中小企業就業者のうち、「キャリアアップすることを望んでいない(あてはまる+ややあてはまる)」割合は48.6%にのぼり、どの世代も50%前後となりました。仕事への向き合い方も人それぞれであることがうかがえます。

仕事・出世に対する姿勢・キャリアアップすることを望んでいない(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
仕事・出世に対する姿勢・キャリアアップすることを望んでいない(地方中小企業就業者)/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

自分らしさ

地方中小企業就業者の「キャリア実現度」に関する結果では、「自分らしく働くこと」「自分らしく生き
ること」を実現している割合が高い傾向にありました。この「自分らしさ」とは何なのでしょうか。

『あなたにとって「自分らしく生きる」とはどのようなことか』という問いに自由記述で回答してもら
い、収集した2,086のテキストデータを分析しました(※2)。すると、「自分らしさ」の背後にある詳細な要素がみえてきました。ここでは、地方中小企業で働く人たちの価値観を読み解くための『7つのキーワード』を紹介します。

「自分らしく生きる」の自由回答から抽出した7つのキーワード/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート
「自分らしく生きる」の自由回答から抽出した7つのキーワード/地方中小企業就業者の働く意識調査レポート

まとめ

本調査では、地方中小企業就業者のさまざまな働く魅力や課題が浮かび上がってきました。その中でも特徴的だった内容に着目しながら、地方中小企業で働く人の「今」を考察します。

まずは待遇満足度の格差です。中小企業と大企業、地方と都市部では物理的な賃金の格差が見られますが(※3)、賃金を受ける側の地方中小企業就業者の収入に対する不満は高い傾向にあり、大企業就業者との間に満足度の差があることが浮き彫りになりました。この収入に対する不満・不安は退職を考えるきっかけにもなっている様子で、地方中小企業の今後の「働く」を考える上で大事な要素と言えます。

また、地方中小企業就業者の現在所属している会社に対する定着意識は低い傾向がみられました。働き続けても昇給が期待できなかったり、仕事と私生活の両立のイメージが難しかったりするなど、これから組織で働き続ける場合の見通しのつきにくさも相まって、より安定的な「外の世界」を視野に入れてキャリアを考えている人も少なくないと考えます。このことも、地方中小企業が今後の組織づくりを進める上で目を向けるべきことでしょう。

キャリアリサーチラボ研究員 宮本祥太

※就業実態を踏まえた地方中小企業が取り組むべき対策の提案については、「地方中小企業就業者の働く意識調査レポート」で詳しく紹介しています。


※1 マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版」
※2 テキストデータに含まれる単語だけでなく、文章全体の意味や文脈を踏まえて、回答に含まれる文章のまとまりに対して縮約した言葉(コード)を割り当て、さらに関連性の高いコード同士をまとめながらカテゴリ分けを行った。
※3 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」/内閣官房「地方創生2.0基本構想」より

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