労働力不足時代、地方公務員の人材確保の現状は

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

地方公務員の人材確保は深刻な課題

日本では少子高齢化が進行し、今後さらに労働力不足が深刻な問題となっていくと考えられており、多くの企業が働きやすい職場の実現や、賃金の引き上げなどを行い、人材確保に向けて尽力している。

そのような環境下で、公務員も同様に人材確保が深刻な課題となっている。特に、地方公務員は、市民への距離が近く、地域社会の生活基盤を支える重要な役割を担っており、人材が確保できないとその地域の生活基盤が維持できなくなる恐れがある。

このような背景から、地方公務員の人材確保の現状とその課題を明らかにし、効果的な人材確保の取り組みを探ることが求められているのではないかと考えた。そこで、「労働力不足時代、生活の基盤を支える地方公務員の人材確保を考える」という連載企画を行うことにした。

第1回となる本稿では、地方公務員の人材確保の現状についてデータをもとにまとめて、地方自治体が直面する実態を把握する。なお、ここで対象とするのは「地方公務員法」が適用される「一般職」である。(知事・市町村長・議員といった特別職については言及しない。)

地方公務員の仕事内容

さきほど、地方公務員は「地域社会の生活基盤を支える重要な役割」と述べたが、具体的な仕事内容について説明する。地方公務員の役割は多岐にわたり、行政サービスの提供、地域の安全確保、福祉サービスの運営など、地域住民の生活を支えるために欠かせない存在である。

行政職

行政職は、地方自治体が実施する事業において、行政施策の企画・立案、予算の編成から具体的な業務に関連する事務処理を担当する。通常、地域住民に対する行政の窓口業務は市区町村が行い、都道府県は市区町村域を越える業務や中央政府と市町村、市町村間の連携調整などを担っている。また、政令指定都市は都道府県と同等の役割と機能を有している。

市町村は基礎的自治体として、住民登録及び戸籍関連事務、地方税に関する業務、保育所への入所手続き、小中学校などの運営、医療・介護・福祉・年金手続き、道路・都市計画、保健・衛生、水道事業、ごみの収集・処理等を担当している。

都道府県は、広域的な業務及び市町村に関する連絡調整を担う役割を持ち、農地・都市計画、道路、河川・海岸等の建設・整備、高等学校などの教育機関の運営、農林水産業・商工業などの産業振興などを行っている。

住民が都道府県庁や市区役所などに行った際の窓口業務を担当していることもあり、住民からはイメージしやすい職種といえる。しかしながら、いわゆる役所以外の場(たとえば学校や警察など)でも勤務している場合があり、その仕事の種類は幅広い。

技術職

地方公務員の技術職には、さまざまな専門分野がある。地域住民の生活を支える重要な役割を果たしており、公共のインフラや環境を整備・維持する仕事である。

具体的には以下の通りである。

  • 土木職…道路の新設や改良工事、橋やトンネルの建設、河川の整備など。災害時の復旧作業や防災対策も担当する。
  • 建築職…公共施設(学校、図書館、市役所など)の新築や改修工事の設計・監理、都市計画や建築基準法に基づく建築確認業務を行う。
  • 電気職…市有施設の電気設備の設計・施工監理、保守管理。浄水場や下水処理場の電気設備、街路灯の設置・管理などが含まれる。
  • 機械職…市有施設の機械設備(空調設備、給排水設備など)の設計・施工監理、保守管理、プラント施設の運営や維持管理などを行う。
  • 衛生職…食品衛生や環境衛生の監視指導、水質管理、環境保全など。保健所での食品衛生監視や、環境調査などが主な業務とある。

教育公務員

教育公務員とは、地方公務員のうち、市町村や都道府県が設置する幼稚園、認定こども園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、特別支援学校に勤務する職員を意味する。

基本的に義務教育段階の小中学校は市町村に設置義務があり(都道府県や国が設置することは可能)。公立の小中学校の教員の多くは人事権が都道府県にありながら市町村の公務員となり、地方公務員法の適用を受ける。

公安職

公安職は、国・地域の秩序や治安を守ることを目的としている職業の区分であり、警察官や消防士などの職種を含む。

心理職・福祉職

心理職は各種相談所において心理判定などの業務を行う。また、福祉職は児童相談所や福祉事務所でケースワークに携わる。

上記以外にもさまざまな専門職が存在する。

地方公務員の人材確保の現状と課題

公務員試験の受験者数の減少

地方公務員になるためには、一般的に「公務員試験」と呼ばれている競争試験 に合格する必要がある。地方公務員の競争試験の受験者数の推移を確認すると、年を追うごとに減少傾向にあり、競争率は低下してきている。令和5年度の競争率は4.6%で、10年前の7.0%と比較すると大きく減少した【図1】。

過去10年間の競争試験における受験者数、合格者数及び競争率の推移 /令和5年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果(総務省) P.35より
【図1】過去10年間の競争試験における受験者数、合格者数及び競争率の推移 /令和5年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果(総務省) P.35より

全体では定員割れにはなっていないが、地域や職種によっては定員割れを起こしているケースもあるようだ。

地方公務員の人材確保の課題

自治体の人材確保が一般企業に比べて難しい理由

冒頭で述べたように、人材確保が困難になっているのは自治体だけではない。しかしながら、一般企業に比べて自治体の人材確保を難しくする理由がある。

まず、1点目は先ほど述べた競争試験の存在だ。競争試験に合格するためには、半年~1年ほど勉強する必要があるといわれており、合格するためには一定の準備期間が必要となる。つまり、就職活動を始めるより前から、「公務員になろう」という決断をして、準備をしておく必要があるのだ。その点で、一般企業に比べると、大きなハードルを越える必要があるといえる。

2点目は、入職後の待遇である。人材の採用・定着が困難になっているなか、多くの企業は競争力を上げるために、賃上げや働きやすい職場づくりなど、さまざまな対策をとっている。

マイナビが実施した調査によると、2025年の新規採用者の賃上げを予定している企業は全体の71.1%となっている。コロナ後、特にこの傾向は高まっており、直近3年間はいずれも7割を超える結果となった【図2】。

2025年の新規採用者の賃上げ予定(マイナビ企業の雇用施策に関するレポート2025年版 )
【図2】2025年の新規採用者の賃上げ予定(企業の雇用施策に関するレポート2025年版

また、従業員を定着させるための施策として実施したこととしては、「有給取得率向上(29.3%)」など、より従業員が納得して働けるような施策が並んでいる【図3】

現在実施している施策/2024年に特に力を入れた施策(マイナビ企業の雇用施策に関するレポート2025年版 )
【図3】現在実施している施策/2024年に特に力を入れた施策(企業の雇用施策に関するレポート2025年版

一般企業が人材の採用・定着のためにさまざまな対策をとる一方で、自組織だけの判断や取り組みだけで働き方を変えたり、賃金を引き上げたりできないのが自治体である。

自治体で働く公務員の服務や給与などについては「国家公務員法 」や「地方公務員法 」に規定がある。そのなかの服務の根本基準として「すべて職員は、(国民*)全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」とある。
*国家公務員法では「国民全体」、地方公務員法では「全体」という記載になっている。

一般企業と異なり、財源が税金となる自治体では、当然ながら、簡単に賃金を引き上げることはできない。また、働き方においても、市民の安心・安全な生活を守ることが優先され、職員の働きやすさを追求しづらい状況がある。

地方の人材確保が首都圏に比べて難しい理由

ただでさえ、一般企業と比較して待遇面や働きやすさの面でアドバンテージを示しづらい自治体だが、さらに、首都圏と地方で状況は変わる。一般企業においてもいえることだが、まだまだ日本では東京一極集中が解消されず、地方での人材確保はより困難な状況だ。

【図4】に示した通り、2024年の都道府県別の転入超過数を見ると、東京都への転入が突出して高い。関東圏と大阪府、福岡県で転入がプラスとなっているが、それ以外の都道府県ではすべて転出超過になっている。

【図4】転入超過数(-は転出超過)/令和6年(2024年)住民基本台帳人口移動報告 よりマイナビ作成
【図4】転入超過数(-は転出超過)/令和6年(2024年)住民基本台帳人口移動報告 よりマイナビ作成

特に若年層(20~29歳)については、少子高齢化の影響で減少トレンドであることに加え、国内でも首都圏へ人口が流出している。【図4】で東京への転入が多いと述べたが、年齢階層別にみる見ると、20~24歳での転入が特に多くなっている【図5】。

【図5】(5歳階級 20~24歳、25~29歳)転入超過数(-は転出超過)/令和6年(2024年)住民基本台帳人口移動報告 よりマイナビ作成
【図5】(5歳階級 20~24歳、25~29歳)転入超過数(-は転出超過)/令和6年(2024年)住民基本台帳人口移動報告 よりマイナビ作成

これは、就職などをきっかけに上京する人が多いためだと推察される。

ここに挙げた待遇や地域特有の理由以外にも、「キャリアパスの不透明さ」などが指摘されている。理由はさまざま考えられるものの、これらの状況を踏まえると、人材確保において「公務員」かつ且つ「地方」であるための課題によって、地方公務員が人材不足に陥る可能性が高くなると考えられる。

首都圏でも公務員の人材確保が難しくなっている状況は変わらないが、この企画ではより困難だと思われる「地方」に焦点を当てたい。

さいごに

ここまで、地方公務員ならではの人材確保の課題について述べてきたが、自治体においても人材確保のためにさまざまな工夫がされ始めている。

たとえば、民間企業と併願する学生が受験しやすいような日程にあわせて競争試験の日程を調整したり、試験の内容についても、筆記試験だけでなく、面接やグループディスカッション、実技試験といった多様な方針を導入したりすることで、多面的な評価ができるような取り組みを始めているケースもある。

また仕事理解の促進のために、民間企業で盛んに実施されるようになったインターンシップを取り入れている自治体もあり、こうした見直しは今後も進められると考えられる。また、新卒だけでなく経験者採用枠を増やす自治体もあるようだ。

一方で、入職後の定着にも課題は残る。特に、若手職員の離職の増大は深刻で、30歳未満の普通退職者の数は2013年の10,680人から2023年の18,418人となり、10年間で1.7倍になっている。(「地方公務員の退職状況調査」総務省 平成25年度(2013年度)令和5年度(2023年度)

労働力不足時代を迎え、人材の確保・定着に向けた取り組みが急務となっている現状がありつつも、公務員である以上、一般企業に比べると、さまざまな制約のなかで対策しなければならないという現状もある。

次回の記事では、地方自治体の人事戦略について提言を出されている早稲田大学の稲継教授に地方公務員の人材不足の課題や今後とるべき対策についてうかがった。ぜひ、次回の記事もご覧いただきたい。(5月下旬公開予定 )

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