本調査では、若年層のキャリア形成において注目される「ロールモデル」に着目し、その形成を促す要素として「インフォーマルコミュニケーション(業務に直接関係しない、自由な会話や雑談など)」の効果を検討した。統計分析の結果および、そこから得られる示唆についてまとめる。
本調査の目的
多様化する価値観
近年、若年層の働き方に対する価値観は多様化しており、ワークライフバランスや仕事以外の生きがいを重視する傾向が強まっている。
令和5年(2023年)の厚生労働省の調査によると、若年層の正社員において今後の職業生活で「管理的な地位になっていくコース」を望ましいと思う割合は29.7%で、2013年と比較して4.2pt減少している。一方で、「自分の生活に合わせた働き方が選択できるコース」を望ましいと思う割合は35.9%で、2013年と比較して5.4pt増加している。【図1】
【図1】若年層の価値観の変化/厚生労働省「若年者雇用実態調査の概況」
また、仕事以外の生きがいがあると回答した割合は、40-50代(以下、中年層)と比較して、20-30代(以下、若年層)で高い傾向にあり、昇進や昇格といった従来型のキャリアアップを必ずしも目指さない、ライフ面での充実も重視する考え方も広がりつつある。【図2】
【図2】仕事以外の生きがいがあるか/マイナビ「ライフキャリア実態調査 2025年度」
ロールモデル形成の難しさ
厚生労働省の「労働経済の分析」によると、39歳以下の正社員において「ロールモデルとなる先輩社員がいるといった所感がある」と答えた割合は27.9%にとどまり、決して高いとはいえない状況にある。
この背景には、前述のような若年層の仕事や昇進への価値観の変化が影響していると考えられる。一部の若者では、従来のように職場の先輩・上司等が「仕事ができる」ことだけではロールモデルとして十分ではなく、仕事以外の側面を含めて、「自分もこうなりたい」と思える存在こそがロールモデルとして意識されるようになっているのではないだろうか。
そして、その結果、価値観の多様化により、ロールモデルとなる存在を見つけにくくなっているのではないだろうか。【図3】
ロールモデル形成に必要なインフォーマルコミュニケーション
しかし、仮にそうであるとすれば、ここで一つの課題が浮かび上がる。それは、職場の業務上のみの会話では、先輩や上司等の価値観や生活の充実度といった側面を把握することは難しいということである。
こういった側面を若年層が認知するためには、業務以外の内容に関する会話など、いわゆる雑談と呼ばれるコミュニケーション(=インフォーマルコミュニケーション)を上司や先輩と取っていくことが必要となる。
ロールモデルは、目標達成や自己成長のための指針となる、モチベーションを高める、といったさまざまなポジティブな影響が期待されているが、若年層のロールモデル像の変化やロールモデルを形成するための具体的な取り組みについて調べた調査は少ない。
≪本調査の目的≫
若年層のロールモデル形成に必要な情報について整理する。その後、「インフォーマルコミュニケーションがロールモデル形成を促す」という仮説について検証していく。
若年層がロールモデルを意識する際に必要な情報
仕事面だけでいい?私生活面も必要?
20-30代の正社員のうち、ロールモデルを意識する際に、「仕事面以外(私生活等)の考え方や行動に関する情報も必要」と回答した割合は、46.1%だった。特に20代前半では56.9%で半数を超える。【図4】
【図4】ロールモデルを意識する際に、必要な情報/インフォーマルコミュニケーション調査
また、「仕事面以外の情報もいる」と回答した層に対して、ロールモデルに求める特徴を尋ねたところ、仕事面では「仕事で周りからの信頼が厚い(47.4%)」「仕事の効率が良い(44.1%)」が上位に挙がり、私生活面では「ワークライフバランスがとれている(44.0%)」がもっとも高かった。【図5】
【図5】ロールモデルに求める特徴や価値観/インフォーマルコミュニケーション調査
若年層はロールモデルに対して単なる成果や能力だけでなく、周囲の評価やその成果を得るまでのプロセスや時間の使い方にも強い関心を持っていることがうかがえる。
以上の結果から、若年層の約5割において、ロールモデル形成には仕事面以外の側面に関する情報も必要であることが認められた。
ロールモデル形成に対してインフォーマルコミュニケーションが与える影響
ここからは、下記仮説について検証を行っていく。
【仮説】「インフォーマルコミュニケーションがロールモデル形成を促す」
先行研究
検証にあたり、先行研究について整理する。
インフォーマルコミュニケーション
コミュニケーションには、伝達を目的とする側面と、相手との交わりを目的とする側面の2つがある。(加藤,1986)前者はフォーマルコミュニケーション、後者はインフォーマルコミュニケーションと呼ばれる。(仲谷ほか,1994)
フォーマルコミュニケーションが、会議や業務報告など、業務を円滑に進めるために行われる一方で、インフォーマルコミュニケーションは、雑談や気軽な声かけなど、業務外の場面で自然発生的に行われる。
本調査では、二瓶ら(2021)が作成したインフォーマルコミュニケーションの一形式である職場交流活動を測定する尺度を参考に、設問を設計した。
二瓶ら(2021)の研究では、職場交流活動尺度は4因子(親和的交流・儀式的交流・調和的交流・緩和的交流)により構成されており、職場(組織)の交流について着目しているが、今回は活動を個人レベルで検討するため、主語を「私は」とし、選択肢に関しても、組織的な段階を示す「定着している」という表現から「いつもある」という表現に変更した。【図6】
![【図6】本調査のインフォーマルコミュニケーションに関する設問項目/インフォーマルコミュニケーション調査]()
【図6】本調査のインフォーマルコミュニケーションに関する設問項目/インフォーマルコミュニケーション調査
その上で、本調査ではインフォーマルコミュニケーションを「業務に直接関係しない、自由な会話や雑談」と操作的に定義する。
ロールモデル
ロールモデルとは、広辞苑によると「他の人の模範となる人」「目標とされる人」という意味を指す。
広辞苑,第七版,2018
しかし、近年は特定の役割での模範、手本という考え方に限定せず、広い意味でキャリアや生き方に影響する人物を指す意味でも用いられるようになっている。
さらに溝口ら(2020)によると、ロールモデルからの影響には「ロールモデルのようにはなりたくない」という回避的な一面もあることも明らかとなっている。
そのため、本調査ではロールモデルを「働き方やキャリアについて考える上で、影響を受け、参考にした人物」と操作的に定義し、ロールモデルを大きく2つのタイプに分けた。一つは、「この人のようになりたい」と思える「憧れや理想とするロールモデル」、もう一つは、「この人のようにはなりたくない」と思える回避的な存在である「反面から学びを得たロールモデル」である。【図7】
【図7】ロールモデルの種類/インフォーマルコミュニケーション調査
仮説
先行研究を踏まえ、仮説を再設定した。
【仮説1】インフォーマルコミュニケーションの頻度が高いほど、現在の職場に「憧れ・理想とするロールモデル」が存在する可能性が高い。
【仮説2】インフォーマルコミュニケーションの頻度が高いほど、現在の職場に「反面から学びを得たロールモデル」が存在する可能性が高い。
調査詳細
「調査方法」「調査対象者」「調査の意義」についてまとめる。
調査方法
本調査では、インフォーマルコミュニケーションの頻度がロールモデル形成に与える影響を正確に比較するため、勤務年数が1年以上の正社員として働く若年層(20~39歳)を対象に、インターネット調査を実施した。
調査対象者
調査対象者は、正社員数11名以上の企業に勤務する男女 1,400名である。
男女比は、労働力調査に基づき、男性:825名/女性:525名とした。
調査の意義
本調査は、職場におけるロールモデル形成に関して、インフォーマルコミュニケーションの役割を検証することで、従来の業務上の関係性やフォーマルな制度に焦点を当てた研究に対し、新たな視座を提示するものである。
加えて、人材育成に課題を抱える企業にとって、自由な交流の重要性を再認識する契機となり、ロールモデル形成を促進する施策の理論的背景として活用可能である。
分析結果
ロールモデルの有無に影響を与える要因を検討するにあたり、まず探索的因子分析を実施し、職場交流行動に関する因子構造の妥当性を確認した。因子構造を明らかにした上で、抽出された因子を説明変数としてロジスティック回帰分析を行い、各因子がロールモデル形成に与える影響について検証した。
尺度構成
その結果、以下の4因子が抽出され、各因子の内的整合性は十分であることが確認された(Cronbach’s α = .60〜.91)。【図8】
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因子1:親和的行動(α = .91)
業務外の雑談やユーモアのあるやり取り、気遣い、プライベートな話題の共有など、職場内での心理的距離を縮める行動を示す項目群で構成されている。
因子2:儀式的行動(α = .88)
歓送迎会や忘年会、飲み会など、職場における定例的なイベントへの参加を通じて、飲食を共にしながら多面的な関わりを生み出す行動を示す項目群で構成されている。
因子3:調和的行動(α = .77)
季節の挨拶や物品の貸し借り、飲食を伴うミーティングなど、職場内での協調性や互助的な関係性を示す項目群で構成されている。
因子4:緩和的行動(α = .60)
おやつタイムのようなくつろぎの場の提供や菓子の振る舞いなど、職場の緊張を和らげる行動を示す項目群で構成されている。
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【図8】尺度構成/インフォーマルコミュニケーション調査
各因子の共通性も概ね良好であり、職場交流行動の多様な側面を捉える尺度として妥当性が確認された。
「憧れや理想とするロールモデル」形成への影響
探索的因子分析の結果、妥当性が確認された4因子を説明変数として、ロジスティック回帰分析を実施し、「憧れや理想とするロールモデル」の有無との関連性を検討した。
その結果、インフォーマルコミュニケーションの中でも、「業務とは関係のないやり取りを行うことがある」「他のメンバーとプライベートなやり取りをすることがある」など、互いの心理的距離を縮める【親和的行動】が「憧れや理想とするロールモデル」がいる確率を有意に高めることが明らかとなった。
また、「歓送迎会に参加する」「忘年会に参加する」など飲食を共にし、多面的な関わりを生み出す【儀式的行動】が親和的行動ほどではないが、「憧れや理想とするロールモデル」がいる確率を有意に高めることが明らかとなった。【図9】
【図9】<憧れや理想とするロールモデル>ロジスティック回帰分析の結果/インフォーマルコミュニケーション調査
「反面から学びを得たロールモデル」形成への影響
「反面から学びを得たロールモデル」についてもロジスティック回帰分析を実施した。その結果、「憧れや理想とするロールモデル」と同様に、【親和的行動】【儀式的行動】が「反面から学びを得たロールモデル」がいる確率を有意に高めることが明らかとなった。
また「年賀状や暑中見舞い等、季節に応じた文面のやり取りを行うことがある」「他のメンバーとモノの貸し借りをすることがある」など他者に気を遣い、摩擦を避けようとする【調和的行動】が「反面から学びを得たロールモデル」がいる確率を有意に低下させることが明らかとなった。【図10】
【図10】<反面から学びを得たロールモデル>ロジスティック回帰分析の結果/インフォーマルコミュニケーション調査
考察
得られた分析結果に基づき、各因子の特徴とロールモデル形成との関連性について検討する。
親和的行動が、ロールモデルの存在確率を高める理由
親和的行動が「憧れや理想とするロールモデル」「反面から学びを得たロールモデル」の両者がいる確率を高める理由として、親和的行動による心理的距離の縮小効果と自己開示の連鎖的効果が考えられる。
親和的行動とは、業務とは直接関係のないプライベートなやり取りやふざけ合い、ねぎらいの言葉などを通じて、相手との親密さを高めることを目的とした行動である。このような行動は、形式的な関係性を超えて、相手を「ひと」として認識するきっかけとなり得る。
また、親和的行動によって相手に働きかけることで、「返報性の原理」が作用することが考えられる。チャルディーニ(2001)が示す返報性の4パターンのうち、親和的行動は「自己開示の返報性」を促す。すなわち、相手が自分の情報を開示することで、こちらも自然と自己開示を行い、相互理解が深まる心理的な連鎖が生まれる。(チャルディー二,2014)
【図11】返報性の原理/チャルディーニ(2001)影響力の武器
この相互開示によって、互いに業務以外の側面を開示し合うことが可能となり、業務の中では見えなかった相手の新たな側面に気づくことができる。相手の価値観や志向に触れることで、自分自身の「やりたいこと」や「目指したい姿」に気づく契機となり、結果として、相手をロールモデルとして認識する可能性が高まると考えられる。
儀式的行動が、ロールモデルの存在確率を高める理由
儀式的行動が「憧れや理想とするロールモデル」「反面から学びを得たロールモデル」の両者がいる確率を高める理由として、儀式的行動による関係性の拡張効果と、多様な価値観との接触機会が関係していると考えられる。
儀式的行動とは、忘年会や歓送迎会、飲み会などの職場イベントに参加し、業務外の場で食事や会話を通じて時間を共有する行動である。こうした行動は、業務時間外のリラックスした雰囲気の中で、普段業務上の接点が少ない他者とも交流する機会を生み出す。結果として、形式的な職場関係を超えた全人格的な関わりが生まれやすくなる。
このような場では、周囲の人々の言動や価値観に自然と触れる機会が増え、相手の人間性や考え方をより深く理解することが可能となる。その過程で、「この人のようになりたい」といった憧れの感情や、「この人のようにはなりたくない」といった認識が芽生える可能性が高まると考えられる。
調和的行動が、反面から学びを得たロールモデルの存在確率を低下させる理由
調和的行動が「反面から学びを得たロールモデル」のいる確率を低下させる理由として、調和的行動自体が他者との摩擦回避の行動であることが関係していると考えられる。
調和的行動とは、年賀状や暑中見舞いなどの季節の挨拶、モノの貸し借りといった行為を通じて、相手への配慮を重視し、職場内での軋轢を避けて円滑な関係を築こうとする行動である。こうした行動は、対人関係において衝突を避けることを目的としており、他者の否定的な側面に注目するよりも、関係性の維持を優先する傾向がある。
そのため、他者の否定的な言動から学ぶ反面教師的なロールモデルの存在を認識しにくい傾向があると考えられる。
親和的行動と儀式的行動の実践に向けて
本調査により、ロールモデル形成に向けて、インフォーマルコミュニケーションの中でも「親和的行動」と「儀式的行動」が有効であることが明らかとなった。
中でも注目すべきは、「儀式的行動」よりも「親和的行動」の方が、ロールモデル形成に強く影響することである。飲み会などの職場外イベントは、個人の嗜好や家庭状況によって参加が制限される場合があるが、「親和的行動」は日常の業務内でも自然に取り入れやすく、実践可能性が高い。したがって、親和的行動は、ロールモデル形成を促す上で、より有効かつ持続可能なコミュニケーション手段であると考えられる。
では儀式的行動をより実践しやすくするにはどうしたらいいのか。そのヒントを得るために、ロールモデルを意識するようになったきっかけについて自由記述で回答を収集し、その中から『儀式的行動』に関連する内容に注目した。
その結果、「話」という語が頻出していた。これは、ロールモデルとなる契機として、他者から自分に対して何らかのアクションがあったこと、特に言葉を介した働きかけが重要であることを示している。
【憧れや理想とするロールモデルとなったきっかけ 自由回答 一部抜粋】
・飲んで話して仲良くなった(女性、24歳)
・困ったときに親身になって相談に乗ってくれたり、仕事終わりに飲みに誘ってくれて話を聞いてくれたりと親身になってくれた(女性、29歳)
・仕事で悩んでいたときに時間を使って飲みに誘ってもらい話を聞いてもらった(男性、33歳)
・よく飲みに連れて行ってくれること(男性、34歳)
・一緒に飲みに行ったりするうちにその人の本心がとてもかっこいいと感じるようになった(男性、37歳)
・飲み会(忘年会)のとき一緒にいろいろ話をしているとき感じた(男性、38歳)
こうしたやり取りは、必ずしも飲み会に限定せずとも、リラックスした環境が準備できれば自然に生まれる可能性が高い。言葉を交わす機会を意図的に設けることで、儀式的行動が持つ効果に近い影響を得られることが期待される。
たとえば、1on1の面談をカフェなどでコーヒーを片手にリラックスしやすい場所で行うことや、異なる視点や価値観を持つメンバー同士がランチを共にする場を設けることは、飲食を伴いつつ、形式にとらわれない「話す場」として機能し、ロールモデル形成の契機となり得るのではないだろうか。
インフォーマルな関わりを増やすための課題と解決の糸口
本調査では、職場でのインフォーマルコミュニケーションがロールモデル形成において有効であることが明らかとなったが、ハラスメントに対する意識が高まる今日、部下とのコミュニケーションにおいてインフォーマルな話題を含めることに、戸惑いや不安を感じる役職者の方も少なくない。【図12】
【図12】(20-30代の役職者)部下とのインフォーマルコミュニケーション/インフォーマルコミュニケーション調査
こうした悩みは、実際に役職に就く20〜30代でも約4人に1人見られており、その理由としては、「話題選択の難しさ」「プライベートの話題にふれることへのためらい」などが挙げられている。【図13】
【図13】(20-30代の役職者)部下とのインフォーマルコミュニケーションが取りづらい理由/インフォーマルコミュニケーション調査
若年層の意識
役職者にインフォーマルコミュニケーションに対する悩みがある一方で、若年層ではインフォーマルコミュニケーションに肯定的な層が半数を超えている。【図14】
【図14】(若年層)職場でインフォーマルコミュニケーションを取りたいか/インフォーマルコミュニケーション調査
取りたい理由は、「組織内の雰囲気を良くしたいから(49.5%)」「相談や助け合いがしやすくなるから(48.1%)」「雑談があると安心感があるから(40.0%)」が上位に挙がる。若年層は、職場での人間関係や心理的安全性の向上を目的として、インフォーマルコミュニケーションを積極的に活用したいと考えている様子がうかがえる。【図15】
【図15】(若年層)職場でインフォーマルコミュニケーションを取りたい理由/インフォーマルコミュニケーション調査
話題選択の工夫
では、実際にどのような話題を選べば、若年層とのインフォーマルなやり取りがスムーズになるのだろうか。
本調査では、20〜30代の若年層に対して「職場や仕事上で話すときに抵抗感が少ない話題」について尋ねたところ、「天候や季節の話題」が64.4%でもっとも高く、「食事・飲み物に関する話題(62.8%)」「趣味や娯楽に関する話題(56.0%)」が続いた。【図16】
【図16】(若年層)職場や仕事上で話すときに抵抗感が少ない話題/インフォーマルコミュニケーション調査
上位に挙がった話題は、プライベートに深く踏み込まず、共通点を見つけやすいものが中心であり、若年層にとっても安心して話せる内容となっている。
話題選択に悩んでいる役職者の方であれば、まずはこうした「抵抗感の少ない話題」から始めてみることで、インフォーマルコミュニケーションのハードルを下げ、自然な関係構築につなげることができるのではないだろうか。
本調査の限界点と今後の課題
本研究は、ロールモデル形成にインフォーマルコミュニケーションが有効であることを示し、理論的貢献を果たした。その一方で、いくつかの限界も存在する。
まず、本調査は横断的なデータに基づいており、インフォーマルコミュニケーションとロールモデル形成の因果関係を直接示すものではない。また、ロールモデルの存在がインフォーマルな関わりを促す可能性も考えられ、因果の方向性には注意が必要である。
こうした相互作用を踏まえ、今後はロールモデルの認識が行動変化につながる過程や時間的な流れを捉える縦断的・実験的な研究をしていく必要がある。
キャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美
<参考文献>
厚生労働省 令和5年若年者雇用実態調査の概況
厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について- 」
坂井(2021)「「ロールモデル」概念の広さと発達的意義ー溝口・溝上論文へのコメント」,青年心理学研究,2021,33,65-68
加藤春恵子(1986) 「広場のコミュニケーションへ」 勁草書房
仲谷美江・原島博・西田正吾(1994) 「インフォーマル コミュニケーション評価に関する考察 情報処理 学会研究報告グループウェアとネットワークサー ビス」,1994(60), 45-52.
二瓶哲 & 田中堅一郎 (2021) 「職場交流活動尺度の作成―日本における調査結果に基づく試みとして―」,経営行動科学, 32(3), 91-107.
溝口侑 & 溝上慎一(2020)「大学生のキャリア発達とロールモデルタイプの関係―ロールモデル尺度(RMS)の開発の試みー」,青年心理学研究,32,17-36
ロバート・B・チャルディーニ(2001)「影響力の武器 第三版」誠信書房