マイナビ キャリアリサーチLab

地方移住で満足度の高い働き方をするためには、どうすれば良いのか

三輪希実
著者
キャリアリサーチLab研究員
NOZOMI MIWA

目次

はじめに

日本の総人口は2053年には1億人を割って9,924万人まで減少すると予測されている(※1)。 また、東京圏への転入超過は、2020年には前年比で大きく減少したものの、未だ継続しており、特に若年層における転入超過が大部分を占めている(※2)。【図1】少子高齢化による人口減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の一極集中を是正し、活力ある日本社会を維持することを目的として政府が注力している政策のひとつが地方創生である。さらに、新型コロナウイルス感染拡大により多くの企業でリモートワークの導入が進み、多様な働き方が可能になったことをきっかけに人々の地方移住に関する注目は高まっている。これまでより、地方移住が多様なライフスタイルを実現する手段として身近な存在になりつつあるのではないだろうか。本レポートでは、まず地方移住者と地方移住関心者の実態に関する調査結果を紹介していく。そのうえで、生活に欠かせない仕事に関する結果から、移住先で満足度の高い働き方をするためにはどうすれば良いのか、そのポイントを考察した。

東京圏の年齢階級別転入超過数の推移/総務省「住民基本台帳人口移動報告(日本人移動者) 」より作成/マイナビ調べ
【図1】東京圏の年齢階級別転入超過数の推移/総務省「住民基本台帳人口移動報告(日本人移動者) 」より作成

(出典)
※1:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」
※2:総務省「住民基本台帳人口移動報告(日本人移動者)」

地方移住者の実態

移住タイプは、「Uターン」が約5割

地方移住のタイプは「Uターン(48.4%)」が最も多く、次いで「Iターン(31.8%)」、
「Jターン(10.3%)」、「多拠点居住型(9.4%)」。若年層ほど多拠点居住型が高い傾向にある。地方移住の主流はUターンだが、若年層を中心に多拠点居住型という形が広まりつつあるようだ。【図2】

移住タイプ(単一回答)/マイナビ調べ
【図2】移住タイプ(単一回答)/マイナビ調べ

地方移住者が今後最も働きたい勤務地は「東京都」がトップ

現在の勤務地は「福岡県(6.7%)」が最も多く、次いで「静岡県(6.3%)」、一方で今後最も働きたい勤務地は「東京都(12.1%)」が突出して多かった。現在は、居住地と同様の都道府県もしくはその近くで働いている割合が高いが、今後の勤務先では、東京を希望する割合が高く、現状と希望にギャップがある。今後は、居住地は地方で勤務地は都心など、住む場所と働く場所を別にする移住者が増える可能性も考えられる。【図3】

現在働いている・今後最も働きたい・現在住んでいる都道府県(単一回答)/マイナビ調べ
【図3】現在働いている・今後最も働きたい・現在住んでいる都道府県(単一回答)/マイナビ調べ

移住後の収入が減少した割合は4割

地方移住後の勤務時間は「変わらない」が52.3%、「減少した」 が25.1% 、「増加した」が22.6% 。地方移住後の収入は「変わらない」が39.3%、「減少した」が38.8%、「増加した」が21.9% 。勤務時間の減少割合より収入の減少割合の方が高く、地方移住後に収入が減少した人が多い。【図4】

地方移住前と比べた勤務時間と収入(単一回答)/マイナビ調べ
【図4】地方移住前と比べた勤務時間と収入(単一回答)/マイナビ調べ

移住理由は「働き方を変えるため」「家族友人・知人との距離が近くなるため」がトップ

地方移住をした理由としてあてはまるものを聞いたところ、全体では「働き方を変えるため(28.3%)」「家族や友人・知人との距離が近くなるため(28.3%)」が最も多く、次いで「自然豊かな環境で暮らしたいと思ったため(22.9%)」、「広い住環境を得たいと思ったため(14.8%)」。回答数が少ないものは参考値とするが、移住タイプ別でみると、Uターンでは「家族や友人・知人との距離が近くなるため(38.9%)」、Jターンでは「自然豊かな環境で暮らしたいと思ったため(34.8%)」、Iターンでは「自然豊かな環境で暮らしたいと思ったため(25.4%)」、多拠点居住型では「働き方を変えるため(42.9%)」が多くなった。移住タイプにより理由は異なるが、仕事面の変化を目的とした地方移住は多拠点居住型が多い。【図5】

移住理由/マイナビ調べ
【図5】移住理由(複数回答)/マイナビ調べ

地方移住者は定住したい割合が5割

現在の居住地の定住意向を聞いたところ、定住したい割合は52.9%、定住したくない割合は18.4%で定住意向の方が高くなった。しかし、女性と20-30代では定住したくない割合が高く3割となった。【図6】全体では利便性の悪さや気候があわないというワードが多くみられたが、女性と20-30代ではほかの場所に住んでみたい、給料が低い、近所付き合いが大変などという意見があがり、定住したくない理由につながっているようだ。【図7】

現在の居住地への定住意向(単一回答)/マイナビ調べ
【図6】現在の居住地への定住意向(単一回答)/マイナビ調べ
現在の居住地への定住意向理由(自由回答)/マイナビ調べ
【図7】現在の居住地への定住意向理由(自由回答)/マイナビ調べ

地方移住者は日常生活・仕事ともに移住前よりストレスが減少

日常生活でストレスを感じている割合は、地方移住後では38.6%、地方移住前では43.0%となり、移住前より4.4pt減少した。一方で、仕事でストレスを感じている割合は、地方移住後では43.9%、地方移住前では49.3%となり、移住前より5.4pt減少した。【図8】

人間関係やコミュニティにストレスを感じたことがあるか(単一回答)/マイナビ調べ
【図8】人間関係やコミュニティにストレスを感じたことがあるか(単一回答)/マイナビ調べ

地方移住者の生活の満足度は移住前より増加

移住者の満足度は、「仕事」に関しては70.4%、「収入」に関しては51.6%、「住環境」に関しては81.2%、「社会・地域とのつながり」に関しては77.1%。収入に関しては満足を感じている割合が5割程度となったが、住環境と社会・地域とのつながりに関しては特に満足を感じている割合が高く約8割。また、満足度を地方移住前後の生活で比べると、地方移住後の総合的な生活では76.2%、地方移住前の総合的な生活では71.3%となり、移住前より4.9pt増加した。【図9】

満足度(単一回答)/マイナビ調べ
【図9】満足度(単一回答)/マイナビ調べ

地方移住者の実態のまとめ

勤務地が希望とは異なることや、仕事・収入面や利便性の悪さを理由に女性と20-30代の定住意向がやや低めであることは課題としてあるが、地方移住者の生活は、移住前より満足度が高まっており、 地方移住したことによりポジティブな影響があった人が多いことがわかった。

地方移住関心者の実態

移住関心者の6割は「実際に移住することは難しそう」

地方移住の意向について聞いたところ、「興味はあるが実際に移住することは難しそう」と移住を諦めている人(移住断念者)が60.4%と最も高く、次いで「具体的な時期は未定だが将来的に移住したい」が17.0%。希望時期に違いはあるが、将来的に移住したいと思っている人(移住希望者)は39.5%にとどまった。【図10】

地方移住意向(単一回答)/マイナビ調べ
【図10】地方移住意向(単一回答)/マイナビ調べ

移住関心者の移住後に希望する就業形態は「リモートワーク」がトップ

全体では「リモートワークをしたい(49.4%)」が最も多く、次いで「移住先で仕事をしたい(36.2%)」、「移住後も同様の職場に通勤したい(14.5%)」。若年層ほどリモートワークをしたい割合が高く、20-30代では61.7%となった。【図11】

地方移住を行う際のリモートワーク意向(単一回答)/マイナビ調べ
【図11】地方移住を行う際のリモートワーク意向(単一回答)/マイナビ調べ

移住関心者は移住時に「転職をしたい」がトップ

全体では「(独立起業以外で)転職をしたい(44.7%)」が最も多く、次いで「転職はしたくない(33.2%)」、「(転職し)独立起業したい【フリーランス・その他含む】(17.9%)」、「(転職し)独立起業したい【農林水産業】(4.3%)」。転職をしたい割合を年代別でみると、20-30代で53.1%と全体より高くなった。【図12】

地方移住を行う際の転職意向(単一回答)/マイナビ調べ
【図12】地方移住を行う際の転職意向(単一回答)/マイナビ調べ

移住関心者は日常生活・仕事ともにストレスを感じている人が多い

現在の日常生活でストレスを感じている割合は関心者では49.4%、無関心者では41.6%となり、関心者が高かった。現在の仕事でストレスを感じている割合は関心者では67.7%、無関心者では49.2%となり、日常生活同様に関心者が高かった。女性と20-30代では特に日常生活と仕事のいずれにおいてもストレスを感じている割合が高くなった。【図13】

人間関係やコミュニティにストレスを感じたことがあるか(単一回答)/マイナビ調べ
【図13】人間関係やコミュニティにストレスを感じたことがあるか(単一回答)/マイナビ調べ

移住関心者の満足度で最も低いのは収入

関心者の満足度は、「仕事」に関しては51.5%、「収入」に関しては40.4%、「住環境」に関しては62.1%、「社会・地域とのつながり」に関しては58.3%で、他の項目と比べて収入への満足度が低いのが目立つ。関心者は仕事、収入、住環境、社会・地域とのつながりといったすべての項目で無関心者より満足度が低く、特に住環境や社会・地域とのつながりで不満を感じている割合が高い。不満を抱えた現状を改善するための選択肢として地方移住を検討している可能性がある。【図14】

現在の満足度(単一回答)/マイナビ調べ
【図14】現在の満足度(単一回答)/マイナビ調べ

移住関心者の移住の懸念点では「仕事に就けるか」が最も多い

地方移住を行う場合に最も懸念することを聞いたところ、全体では「仕事に就けるか心配(21.3%)」が最も多く、次いで「生活の利便性が悪くなる(17.0%)」、「給与が下がる(14.0%)」となった。仕事に関する項目を合算すると4割を超え、多くの移住関心者が仕事に関することが最たる懸念点と考えているようだ。【図15】

地方移住を行う場合に最も懸念すること【回答数:235】(単一回答)/マイナビ調べ
【図15】地方移住を行う場合に最も懸念すること【回答数:235】(単一回答)/マイナビ調べ

地方移住関心者の実態のまとめ

地方移住関心者は不満を抱えた現状を改善するために、地方移住を検討しているようだ。
地方移住者の移住後の生活は満足度が高まっていることから、地方移住は現状を改善したい人にとって、ひとつの有効な選択となり得るかもしれない。
しかし、地方移住関心者では地方での就業に不安を抱えている人が多いのが現状だ。
次の章では、地方移住をする際に仕事も充実させるための仕事選びのポイントは何かを探っていく。

「仕事」の満足度の高い地方移住をしている人の特徴

仕事の満足度が高い人の移住理由は「働き方を変えるため」がトップ

地方移住した理由について仕事に満足している人と不満な人の結果を比較すると、満足している人は「働き方を変えるため(22.3%)」が最も多かった。一方、不満な人は「家族や友人との距離が近くなるため(30.3%)」が最も多く、次いで「家族の介護のため(15.2%)」となった。移住時点で仕事に関する目的を持って移住した人の方が移住後の仕事の満足度が高く、家族や友人など自分以外の理由で地方移住した人は満足度が低くなる傾向がみられた。【図16】

地方移住した理由(単一回答)/マイナビ調べ

【図16】地方移住した理由(単一回答)/マイナビ調べ

仕事の満足度が高い人は地方移住時に職場での良好な人間関係を重視していた

地方移住をした際に仕事を選ぶ上で最も重視したことは、全体では「希望する勤務地で働ける(23.3%)」が最も多く、満足している人と不満な人でも同様だった。
満足している人と不満な人を比較すると、満足している人は「社員の人間関係が良い」が不満な人より6.6pt高かった。一方で、不満な人は「給与や賞与が高い」が満足している人より7.0pt高く、「自分が成長できる環境がある」が5.3pt高かった。地方移住後の仕事では職場での良好な人間関係は実現できているが、収入や成長できる環境といった面では不満を持っている可能性もある。【図17】

地方移住の際に仕事選びで最も重視したこと(単一回答)/マイナビ調べ
【図17】地方移住の際に仕事選びで最も重視したこと(単一回答)/マイナビ調べ

仕事の満足度が高い人は仕事内容が全く同じ割合が高い

地方移住後の仕事内容について全体では「全く変わらない」は39.0%、「一部変わった」は33.2%、「大きく変わった」は27.8% 。満足している人と不満な人の結果を比較すると、「全く変わらない」で満足している人の割合が高く(+8.1pt)、「大きく変わった」で満足している人の割合が低くなった(-5.7pt)。地方移住後に仕事内容に変化がなかった人の方が仕事の満足度が高い傾向がみられた。【図18】

地方移住後の仕事内容(単一回答)/マイナビ調べ
【図18】地方移住後の仕事内容(単一回答)/マイナビ調べ

仕事の満足度が高い人は自分の能力を活かして仕事をできていると考えている

現在自分の能力を活かして仕事ができているかについて、仕事に満足している人と不満な人の結果を比較すると、満足している人は活かせていると思う割合が59.9%に対して、不満な人は19.7%となった。仕事の満足度が高い人ほど仕事で能力を活かせていると思っていることがわかった。仕事に変化がなかった人の満足度が高いことから、地方移住前後で仕事が変わる場合、これまでの仕事と共通点があったり、能力を活かせると思えたりする仕事に就くことが、仕事の満足度を高める上で重要となりそうだ。【図19】

仕事で能力を活かせているか(単一回答)/マイナビ調べ
【図19】仕事で能力を活かせているか(単一回答)/マイナビ調べ

仕事の満足度が高い人の方が転職をした割合が低い

地方移住後の働き方について全体では「転職はしていない」は49.3%、「(独立起業以外で)転職をした」は38.6%、「独立起業した(計)」は12.1% 。満足している人と不満な人の結果を比較すると、「転職はしていない」で満足している人の割合が高く(+16.2pt)、「(独立起業以外で)転職をした」で満足している人の割合が低くなった(-14.1pt)。転職せずに地方移住した人の方が仕事の満足度が高い傾向がみられた。地方移住をする際、転職をするよりも、リモートワークや通勤圏内で転職をせずに地方移住した人の方が、移住後の満足度が高くなった。そういった柔軟な働き方ができる職場環境が仕事の満足度に影響していると考えられる。【図20】

地方移住後の転職状況(単一回答)/マイナビ調べ
【図20】地方移住後の転職状況(単一回答)/マイナビ調べ

地方移住をする際の仕事選びのポイント

1.仕事に関する目的や希望の働き方を明らかにした上で、地方移住を行う
2.安易に転職をせずに、まずはリモートワークや遠隔地居住などで地方移住できるような柔軟な働き方ができないかを検討する
3.検討の結果、地方移住前後で仕事が変わる場合、これまでの仕事と共通点があることや、自分の能力を活かせそうな仕事に就く
4.仕事上で重視することが実現できる職場なのかを事前に検討し、入社後のギャップを少なくする

おわりに

今回の調査結果から、地方移住先で満足度の高い働き方をするためには、地方移住の目的や仕事に関する希望を明確にした上で、それが実現できる移住先なのかを事前に検討することが重要であると考えた。また、同調査では、地方移住者のうち仕事の満足度が高い人のほうが、定住意向も高いことがわかった。【図21】

現在の居住地に定住したいか/マイナビ調べ
【図21】現在の居住地に定住したいか(単一回答)/マイナビ調べ

仕事は生活の支えであり、社会との接点であり、また自己実現を図るためのものでもあることから暮らしの充実感に大きく影響している。
そのため、地方移住者の仕事の満足度を高めることは、移住後の生活の満足度も高め、定住意向に繋がる可能性も高く、移住者だけでなく移住先の企業や自治体にもメリットとなり得るのではないだろうか。今後さらに個人のニーズに合わせた多様な働き方や暮らしの実現が期待される中で、地方移住に関心を持っている人がより納得感のある選択を行うための参考として本レポートを活用していただきたい。

キャリアリサーチLab研究員 三輪希実

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