はじめに
マイナビが20代~50代の正社員を対象に行った「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」では、静かな退職をしている正社員の割合が4割を超えた。また「静かな退職」をしている理由をテキスト分析すると、静かな退職には、仕事・職場・評価のミスマッチをきっかけとした外発型のタイプと、個人の価値観が強く影響している内発型のタイプに大きく分かれ、その違いによって仕事に対する考え方も異なることがわかった。
さらに分析を進めると、静かな退職の捉え方には「年齢」によって差がある実態が見えてきた。本コラムでは静かな退職者の世代間ギャップについて考える。
静かな退職4タイプ
調査では、静かな退職をしている人に「静かな退職をするに至ったきっかけを含め、現在している理由」を自由回答形式で答えてもらった。データから分析可能な回答を抽出してテキスト分析した結果、以下の4タイプに分類することができた。【図1】
【図1】静かな退職4タイプの分類/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
※A~Dタイプそれぞれの特徴・傾向は以下のコラムで詳しく紹介中
抽出したA~Dタイプの特徴をさらに細かく分析するため、自由回答のテキストデータを定量化し、4タイプの回答割合を集計した。結果をみると、A~Dの特定のタイプに大きな偏りがあるわけではなく、満遍なく分布していることがわかる。【図2】
【図2】静かな退職4タイプの割合/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
この定量データをベースとして、静かな退職者のA~Dタイプを性別・従業員規模・現在の役職など様々な属性カテゴリで分析したところ、特徴が際立ったのが『年代』であった。
静かな退職4タイプの世代的特徴
【図3】は、年代別にA~Dの静かな退職者の割合を集計した結果である。
【図3】年代別・静かな退職4タイプの割合/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
20代・30代は「C:損得重視タイプ」「D:無関心タイプ」の『内発型』の割合が高い一方、40代・50代は「A:不一致タイプ」「B:評価不満タイプ」の『外発型』の割合が高い傾向となった。
さらに、20代は「C:損得重視タイプ」の割合が、50代は「B:評価不満タイプ」の割合が他の世代のそれと比較した時に高かった。B・C両タイプは仕事の貢献に対するリターンの期待が小さい(もしくは期待できない)という点で近い性質であるが、「B:評価不満タイプ」は不満から起因するため不本意性が高く、「C:損得重視タイプ」は損得勘定を考えて仕事量を自己調整する点で本位性が高いと考える。
20代×静かな退職者
ここでは、特徴があった20代 ×「C:損得重視タイプ」に着目したい。Cタイプは「報酬や昇進の損得を考え現状維持を求める」という特徴があったが、その背後にある若手ならではの価値観を深堀するため、20代の「静かな退職をしている理由」のテキストデータを細かく分析していく。
20代×C:損得重視タイプの回答
- 仕事よりプライベートが大事で、仕事はお金を稼ぐための手段だと思っているから(20代/女性/従業員50名以下/医療・福祉・介護)
- キャリアアップすると、仕事量が増えてプライベートの時間が確保できなくなるから(20代/女性/従業員規模301名以上/流通・小売・フードサービス)
- キャリアアップは求めずに決められた仕事を淡々とこなして、お金をもらえればいいと思うから(20代/女性/従業員51~300名/IT・通信・インターネット)
- 仕事はあくまでもお金のため。仕事のやりがいは感じられないので、キャリアアップも望まない。それなりの給料が貰えれば良い。どちらかと言えば、プライベートの方を充実させたい(20代/男性/従業員51~300名/公的機関・その他)
- 上に上がった際の責任と給料のバランスが悪い(20代/男性/従業員301名以上/メーカー)
回答にあらわれている特色の一つが、プライベートを重視する考え方だ。仕事と私生活のバランスを保つことや私生活の充実を優先させたいというニーズが透ける。
さらに、高望みや無理をすることなくより現実的に仕事を捉え、キャリアアップした先や仕事量を増やした先にある『未来』の自身の姿をイメージしながら仕事を調整する様子もうかがえる。それなりの給与、それなりの地位、それなりの仕事レベルといった「それなり感」が、回答全体の分析を通じて垣間見えた。
50代×静かな退職者
もう一つ特徴があらわれた50代×「B:評価不満タイプ」の静かな退職をしている理由についても細かく見ていく。Bタイプは「処遇・評価に対する不平不満が起因している」という特徴があったが、こちらも個々の回答に目を向けることで背後にある価値観が浮かび上がってきた。
50代×B:評価不満タイプの回答
- キャリアアップする人は、予め決められていることがありありの組織の中にいるため、何をやってもムダ。ならばノンビリ指示されたことだけを最低限こなしていけば良い(50代/男性/従業員301名以上/メーカー/課長クラス)
- 何をやっても評価が同じで昇給・昇格も望めないから(50代/男性/従業員301名以上/サービス・レジャー/係長・主任・職長クラス)
- 女性だし今の会社で大きな出世は難しそうだから(50代/女性/従業員51~300名/公的機関・その他/係長・主任・職長クラス)
- どうせ頑張っても褒められないし給料も上がらない。なら体を壊さないように休みたい(50代/女性/従業員51~300名/医療・福祉・介護/非役職者)
- 昇給がほとんどないのでモチベーションが上がらない。周囲の雑務など名のない仕事ばかりが回ってくるので成果が実感できない(50代/女性/従業員50名以下/サービス・レジャー/非役職者)
これらの回答の文脈で見逃せないのが、これまで組織において「努力した形跡」があるということだ。「○○しても~」のような言葉の前段に、キャリアアップを目指したり成果を高めようと行動したりした『過去』が見え隠れしている。そこには、時間的経過の中でこれ以上の昇進・昇給が多く望めないことへの「あきらめ感」のようなものが漂う。
同じ静かな退職をしている状態でも、20代の「それなり感」とは対照的な様相だ。この2者の比較からも、仕事に対するスタンスには世代間のギャップがあると考えられる。
「それなり感」の背後にあるもの
では、20代の「それなり感」の前提には、どのような若者の志向があるのか。様々な観点から考察する。調査では、仕事に関する項目として6つ、職場・処遇などの環境に関する項目として6つの計12項目を設定した。【図4】
【図4】静かな退職をしている20代・他世代(30代・40代・50代)「職場の現状」の比較/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版
※そう思う=5点、まあそう思う=4点、どちらとも言えない=3点、あまりそう思わない=2点、そう思わない=1点、と点数をつけ、項目ごとの平均値を算出
【図4】の結果をみると、「あたえられている責任の重さがちょうどよい」「休日や勤務時間などの労働条件に満足している」を除く全ての項目で、20代と他世代に有意な差があった。仕事・環境に対するポジティブな評価項目に関して、20代の方が、満足度や納得度の「実感値」が高いという結果であり、不満要素が小さいと捉えることもできる。
実際、静かな退職をしている20代に限定して仕事・私生活の満足度を分析してみても、他世代の静かな退職者に比べて仕事・私生活の満足度が高い傾向がみられた。【図5】
【図5】静かな退職をしている20代・他世代(30代・40代・50代)「仕事の価値観」の比較/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
※そう思う=5点、まあそう思う=4点、どちらとも言えない=3点、あまりそう思わない=2点、そう思わない=1点、と点数をつけ、項目ごとの平均値を算出
また、働く価値観や働く目的があらわれる5項目を「仕事の価値観」として聴取した、【図5】の結果も見ていく。
5つの項目間で比較してみると、「お金のために働いている」の項目が世代を問わずスコアが高く、「仕事のやりがい」「社会貢献」に比べても特に高いことがわかる。さらに、20代と他世代の2グループの差に着目すると、「趣味のために働いている」の差が特に大きい。ポイントは、仕事に求めるものが『仕事そのものの充実』というよりも、『お金を得ること』、それによって『自身の生活を豊かにすること』に向いている点だ。
さらに「マイナビ ライフキャリア実態調査2024年版」の結果では、正規雇用就業者のうち「仕事以外に生きがいがある」とした割合は、年代が若いほど高い傾向にあり、20代は過半数の51.1%に上った。自己実現の場を会社に限定していない姿がうかがえる。【図6】
【図6】仕事以外に生きがいがある/ライフキャリア実態調査2024年 ※回答ベース:20代~50代の正規就業者
これら3つの調査結果からうかがえることは、仕事を生活のための手段として割り切って捉えるような志向だ。
組織に対する大きな不満やあきらめの感情があるというよりも、仕事は仕事、私生活は私生活と割り切って考え、仕事ばかり自分の資源(時間・エネルギー)を消費しすぎることがないよう自己調整をする。会社の外にある自分自身の役割も意識しながら仕事を捉える。そんなキャリアへの姿勢が感じられた。
まとめ
変化が激しく先が読みにくい時代にある今、働く人にとっては、同じ組織に居続けることで待遇があがり安定したキャリアを築けるようになる保証はなく、今従事している仕事や所属する会社が10年後に同様の社会的価値があるかも分からない。だとしたら、「それなり感」というスタンスはある種、時代を映した合理的で現実的な働き方でもあると捉えることもできる。
生産年齢層が減少し若手人材の獲得と定着が困難な現状も踏まえると、今後企業は、若者の価値観を継続的に把握・理解する仕組みづくりが一層求められる。個々の価値観が多様化しているだけではなく、個人を取り巻く環境の違いによっても、働く人が仕事への姿勢や会社に求めるものは異なる。手法は様々あり、1on1ミーティングのようにチーム単位で実施できるものもあれば、エンゲージメント等のサーベイのように全社的に行うものも策だろう。
画一的な人事管理には限界があり、絶対的な人事権を持ち配慮なく行使する組織は、高い報酬やブランドなどの強力なインセンティブがなければ働く人に選ばれにくい時代になっている。従業員が”置いてけぼり”の環境にあっては、前に突き進もうとする組織に働く人がついてないし、ついてこられない。
仕事に対する見方は人ぞれぞれであることを念頭におき、組織と従業員の接点を増やすことをベースとして、多様な人材が共存し活躍する「共生の組織づくり」を進めることが、限られた人材で最大限の効果を上げるヒントなのかもしれない。=続く=
マイナビキャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太