研究背景
就職活動において学生は、企業の採用サイトやナビサイト、会社説明会など、企業自身が発信する「公式情報」だけを見ているわけではない。口コミサイトやSNSなど、第三者が発信する「非公式情報」も参照しながら企業を理解している。
マイナビ「2026年卒 大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>」では、就職活動で公式情報以外に口コミやSNS投稿などの非公式情報・匿名情報を確認したことがある学生が70.6%となった。
【図1】就職活動において、HPやナビサイト等の公式情報以外に、口コミやSNS投稿などの非公式情報や匿名情報をチェックしたことはあるか/2026年卒 大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>
また、同調査において非公式情報や匿名情報を確認した理由では、「ネガティブな情報も含めて判断材料にしたいから」が58.7%で最も多くなりました。次いで「企業の実態や裏側を知りたいから」(45.8%)、「ミスマッチを防ぎたいから」(40.0%)が続いている。学生は企業の良い面だけでなく、厳しさや課題も含めた実態を把握し、そのうえで自分に合う企業かどうかを見極めようとしていることがうかがえる。
【図2】非公式情報や匿名情報を確認した理由に当てはまるもの/2026年卒 大学生キャリア意向調査7月<就職活動・進路決定>
このように学生は、発信元の異なる複数の情報を比べながら、企業への信頼や魅力を感じるか、応募するかを判断していると考えられる。
一方で、ネガティブな情報は一般的に企業評価を下げると考えられている。しかし実際には、不都合な情報も含めて伝えることが「むしろ企業への信頼につながる場合がある」とも言われており、ネガティブ情報の影響については相反する見方がある。さらに、どの程度のネガティブ情報なら学生に受け入れられるのか、どのように情報を伝えれば信頼につながるのかは、十分に明らかになっていない。
そこで本研究では、企業が発信する公式情報の伝え方と口コミ情報の内容に着目し、それらが学生の企業評価にどのような影響を与えるのかを検証した。
先行研究について
本研究では、企業が発信する「公式情報」と、第三者が発信する「口コミ情報」の2つに着目している。公式情報については、企業の厳しい面も含めて伝えるRJP研究を、口コミ情報については、否定的な口コミが応募者に与える影響を扱ったNegative WOM研究を参考にした。ここでは、それぞれの研究の概要と、本研究との関係を紹介する。
先行研究1:RJP研究とは
RJP(Realistic Job Preview:現実的職務予告)とは、採用の場面で企業や仕事の良い面だけを強調するのではなく、実際に働くうえでの厳しさや不都合な面も含めて、できるだけ現実に即した情報を応募者に伝える考え方である。
良い情報だけを伝えると、応募者の入社前の期待が高まりすぎてしまい、その結果、入社後に現実とのギャップを感じ、幻滅につながる可能性がある。RJPは、応募者が入社前に仕事の実態を理解し、自分に合う職場かどうかを判断できるようにすることを重視している。つまりRJPの目的は、応募者の数を増やすことではなく、応募者自身が納得して選択できる状態をつくることにある。
RJPには、主に次の3つの働きがあると考えられている。
- 自己選択:現実的な情報を確認したうえで、自分に合う仕事や企業かどうかを応募者自身が判断する
- 期待の現実化:仕事の厳しさを事前に理解することで、入社後の期待とのギャップを抑える
- 誠実さの知覚:不都合な情報も隠さず説明する企業の姿勢が、正直さや誠実さの認識につながる
金井(1994)は、国内外のRJP研究を整理したうえで、イメージを優先して良い点だけを並べるのではなく、現実に即した企業像を伝えることが、企業と個人の双方にとって望ましい可能性を論じている。ただし、RJPは「悪い情報だけを並べること」ではなく、良い面と厳しい面の両方を、現実に即して伝える点が重要である。本研究では、RJPの考え方をもとに、企業が発信する公式情報の伝え方を次の3条件に分けて比較した。
- 通常の求人:良い面を中心に伝える
- ネガティブ表現の求人:厳しい面を中心に伝える
- トレードオフ情報を含む求人:厳しさと、それに見合うメリットをあわせて伝える
【図3】RJP理論と本研究の接続について/金井壽宏(1994)「エントリー・マネジメントと日本企業のRJP指向性:先行研究のレビューと予備的実証研究」『研究年報. 經營學・會計學・商學』40, 1-66.
先行研究2:Negative WOM研究とは
Negative WOM(ネガティブな口コミ)とは、企業自身ではなく、他者から伝えられる企業についての否定的な情報を指す。Stockman, Van Hoye, & da Motta Veiga(2020)は、ネガティブな口コミが、応募者が感じる企業の魅力にどのような影響を与えるのかを検討した。
この研究で特に注目されているのが、Employer Brand Equity(雇用主ブランド価値)です。これは、応募者が企業について事前に持っている知識やイメージを指す。同じ口コミを見ても、その企業をよく知っている場合と知らない場合とでは、受ける影響が異なる可能性があるという視点である。
この研究は、次の2つの調査から構成されている。
- Study 1(実験研究):ネガティブな口コミの有無と、企業に対する事前知識やイメージの条件を組み合わせ、企業の魅力がどのように変化するかを検証
- Study 2(求職者への面接調査):ネガティブな口コミが実際の応募や職業選択でどのように使われるか、また求職者がどのような条件で口コミを信じるのかを探索
その結果、ネガティブな口コミを求職者がどの程度受け入れるか、ひいては応募意欲にどの程度影響するかは、企業に関する事前知識によって変わることが示された。事前知識の少ない企業ほど、ネガティブな口コミの悪影響が強く表れやすいとされている。
また、口コミの内容が他の情報と一貫しているかどうかも、口コミの受け止め方に影響する可能性が指摘されている。企業について十分な事前知識がない場合、求職者はネガティブな口コミをすぐに判断材料にするのではなく、まず他の人も同じことを言っているか、内容は本当かを確かめ、できれば自分で直接体験したいと考える傾向があることも示されている。
先行研究では、ネガティブな口コミの影響は企業に関する事前知識によって変わるとされている。そこで本研究では、架空の企業を用いることで、すべての回答者が「事前知識のない状態」で情報を評価するよう条件を揃えた。そのうえで、口コミ情報を次の3条件に分けて比較した。
- 口コミなし:比較の基準となる条件
- ポジティブな口コミ:好意的な第三者の情報
- ネガティブな口コミ:否定的な第三者の情報
【図4】Negative WOM研究と本研究の接続について/Stockman, S., Van Hoye, G., & da Motta Veiga, S. (2020). Negative word-of-mouth and applicant attraction: The role of employer brand equity. Journal of Vocational Behavior, 118, 103368.
研究目的とリサーチクエスチョン
先行研究から、応募者の企業評価は、公式情報でネガティブな面をどう伝えるかによって変わる可能性がある。また、ネガティブな口コミの影響は、企業に関する事前知識によって変わることも示されている。一方で、事前知識のない企業について、公式情報の伝え方と口コミの内容の組み合わせが学生の企業評価にどう影響するかは、十分に検討されていない。
そこで本研究では、以下を研究目的とした。
事前知識のない企業について、公式情報の提示方法と口コミ情報の内容の組み合わせは、学生の企業評価にどのような違いをもたらすか
この目的のもと、3つのリサーチクエスチョン(RQ)と、それぞれに対応する仮説を設定した。
| リサーチクエスチョン | 仮説 |
| RQ1:公式情報の提示方法で企業評価は異なるか | 仮説1:ネガティブ表現の求人は、通常の求人やトレードオフ情報を加えた求人より企業評価が高い |
| RQ2:口コミの有無・内容で企業評価は異なるか | 仮説2:ネガティブな口コミのある求人は、口コミのない求人やポジティブな口コミのある求人より企業評価が高い |
| RQ3:学生の個人差で受け止め方は異なるか | 仮説3:認知的熟慮性が高い学生ほど、トレードオフ情報を加えた求人を信頼する |
【図5】リサーチクエスチョンとそれに繋がる仮説について
研究設計
本研究では、公式情報3条件と口コミ情報3条件を組み合わせ、計9種類の求人を作成した。回答者の事前知識の影響を除くため、求人はすべて架空のIT・情報サービス企業のものとした。
公式情報は、RJP研究を参考に次の3条件とした。
- 通常の求人:働きやすさや成長環境など、良い面を中心に伝える
- ネガティブ表現の求人:業務量の多さや残業、部署による差など、厳しい面を中心に伝える
- トレードオフ情報を含む求人:厳しい面を伝えたうえで、若手から責任ある仕事を任される、早期に専門性が身につくといった、厳しさに見合うメリットもあわせて伝える
口コミ情報は、Negative WOM研究を参考に「口コミなし」「ポジティブな口コミ」「ネガティブな口コミ」の3条件とした。9種類の求人の組み合わせは次のとおりである。
【図6】求人の内容と口コミタイプの組み合わせ
調査概要
| 調査名 |
新卒求人の口コミに関する調査 |
| 調査期間 |
2026年7月6日(月)〜7月12日(日) |
| 調査対象 |
2027年3月卒業予定の全国の大学生、大学院生
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| 調査方法 |
マイナビ2027会員(退会者含む)にWEB DMを配信し、インターネットアンケートにより回収 |
| 有効回答数 |
783名(不正回答は除外)
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| 回答者内訳 |
文系男子137名、文系女子279名、理系男子183名、理系女子184名 |
| 集計方法 |
クロス集計
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活用した尺度について
回答者の個人特性について(認知的熟慮性-衝動性尺度)
本研究では、回答者の個人特性を把握するため、認知的熟慮性-衝動性尺度を用いた。認知的熟慮性とは、物事を判断する際に十分な情報収集や検討を行い、慎重に意思決定する傾向を指す。一方、衝動性とは、熟慮せずにすぐ判断・行動する傾向を指す。
測定には以下の9項目を用い、各項目について「1:全くそう思わない」から「5:強くそう思う」の5件法で回答を求めた。なお、項目8と項目9は逆転項目として扱った。
| No. | 設問文 |
| 1 | 何でもよく考えてみないと気が済まないほうだ |
| 2 | 何事も時間をじっくりかけて考えたいほうだ |
| 3 | 深く物事を考えるほうだ |
| 4 | 何かを決めるとき、時間をかけて慎重に考えるほうだ |
| 5 | 全ての選択肢をよく検討しないと気が済まないほうだ |
| 6 | 用心深いほうだ |
| 7 | 実行する前に考え直してみることが多いほうだ |
| 8 | 計画を立てるよりも早く実行したいほうだ(逆転項目) |
| 9 | よく考えずに行動してしまうことが多いほうだ(逆転項目) |
【図7】認知的熟慮性-衝動性尺度について/心理測定尺度集Ⅰ 人間の内面を図る〈自己・個人内過程〉,2014年2月10日,p195
求人の評価指標について(応募意向)
本研究では、企業に対する行動意図を測る指標として応募意向(Job Pursuit Intentions)を用いた。応募意向とは、求職者がその企業を就職先として検討し、応募や情報収集などの行動をとろうとする意思を表す概念である。Rynes & Barber(1990)は、応募者を獲得できたかどうかを測る重要な指標として、応募意向を位置づけている。
本研究では、企業情報と口コミ情報を見た後の応募意向を測るため、以下の3項目を用いた。各項目について「1:全くそう思わない」から「5:強くそう思う」の5件法で回答を求めた。
| No. | 設問文 |
| 1 | この企業の仕事に応募したい |
| 2 | この企業を就職先として検討したい |
| 3 | この企業についてもっと知りたい |
【図8】応募意向の尺度について/Rynes, S. L., & Barber, A. E. (1990). Applicant attraction strategies: An organizational perspective. Academy of Management Review, 15(2), 286–310.
求人の評価指標について(組織魅力度)
本研究では、企業に対する評価の指標として組織魅力度(Organizational Attractiveness)を用いた。組織魅力度とは、求職者が特定の企業に対して抱く好意的な評価や、就職先としての魅力の認識を指す概念である。Bretz, Ash, & Dreher(1989)は、Attraction-Selection-Attrition(ASA)理論の検証を通じて、個人は自分の価値観や欲求に合うと感じた組織に魅力を感じることを示している。
本研究では、以下の3項目を用い、各項目について「1:全くそう思わない」から「5:強くそう思う」の5件法で回答を求めた。
| No. | 設問文 |
| 1 | この組織で働いてみたい |
| 2 | この組織に魅力を感じる |
| 3 | この組織は、自分にとって望ましい職場だ |
【図9】組織魅力度の尺度について/Bretz, R. D., Jr., Ash, R. A., & Dreher, G. F. (1989). Do people make the place? An examination of the attraction-selection-attrition hypothesis. Personnel Psychology, 42(3), 561–581.
求人の評価指標について(情報の信頼性)
本研究では、企業情報をどの程度信頼できると感じたかを測る指標として、情報の信頼性(Information Credibility)を用いた。情報の信頼性とは、提示された情報が信頼でき、正確で、現実を適切に反映していると受け止められる程度を示す概念である。Flanagin & Metzger(2000)は、インターネット上の情報に対する信頼性の認識を、情報の正確性や信頼性などの観点から測定している。
本研究では、以下の4項目を用い、各項目について「1:全くそう思わない」から「5:強くそう思う」の5件法で回答を求めた。
| No. | 設問文 |
| 1 | この企業についての情報は信頼できる |
| 2 | この企業についての情報は正確である |
| 3 | この企業についての情報は誠実に伝えられている |
| 4 | この企業についての評判は現実をよく反映している |
【図10】情報の信頼性について/Flanagin, A. J., & Metzger, M. J. (2000). Perceptions of Internet information credibility. Journalism & Mass Communication Quarterly, 77(3), 515–540.
RQ1:公式情報の提示方法で企業評価は異なるか
口コミのない3つの求人(求人①・④・⑦)を比べ、公式情報の伝え方によって企業評価が変わるかを確認した。各尺度の中央値を基準に回答者を高群・低群に分け、高群に分類された回答者の割合を示している。
応募意向は、トレードオフ情報を加えた求人が59.9%で最も高く、通常の求人とネガティブ表現の求人(いずれも52.1%)を7.8ポイント上回った。一方、組織魅力度と情報の信頼性は、通常の求人が最も高かった(組織魅力度56.4%、情報の信頼性55.4%)。ただし、この2指標では3条件の差は最大でも3.9ポイントにとどまり、応募意向ほど大きな違いはみられなかった。ネガティブ表現の求人は、3指標のいずれでも最も高い評価にはならなかった。応募意向は通常の求人と同じ水準で、組織魅力度は3条件の中で最も低かった。
【図11】各求人における企業評価の違い
仮説1について
本研究の結果から、学生はネガティブな内容そのものを高く評価しているわけではないことが示された。完全ネガティブ条件では、情報の信頼性が一定程度評価されたものの、それだけで応募意欲や組織魅力度を高めることはできなかった。一方、トレードオフ条件では応募意欲が最も高くなったことから、学生は企業の厳しさだけではなく、その厳しさの代わりに得られる経験や成長機会などの文脈を含めて評価している可能性がある。
この結果は、RJP研究で論じられる「現実的情報の提示」と「自己選択」の考え方と整合的であり、学生はネガティブ情報そのものではなく、現実的かつ意味づけられた情報開示を求めていると考えられる。
RQ2:口コミの有無・内容で企業評価は異なるか
公式情報の3条件それぞれについて、「口コミなし」「ポジティブな口コミ」「ネガティブな口コミ」の3つを比べ、口コミによって企業評価が変わるかを確認した。
通常の求人の場合
通常の求人では、ネガティブな口コミのある求人が3指標すべてで最も高かった。ただし、口コミなしとの差は、応募意向が3.6ポイント、組織魅力度が0.6ポイント、情報の信頼性が4.4ポイントで、いずれも小さかった。ポジティブな口コミを加えても評価は上がらず、組織魅力度は口コミなしより3.7ポイント低かった。
【図12】通常求人における口コミ有無の変化について
ネガティブ表現の求人の場合
ネガティブ表現の求人でも、ネガティブな口コミのある求人が3指標すべてで最も高かった。口コミなしと比べると、応募意向は17.5ポイント、組織魅力度は14.4ポイント高く、通常の求人よりもはっきりした差がみられた。応募意向69.6%は、9種類の求人の中で最も高い値である。ポジティブな口コミを加えた場合も、応募意向は口コミなしより9.6ポイント高かった。一方、情報の信頼性は口コミなしより2.3ポイント低かった。
【図13】ネガティブ表見の求人における口コミ有無の変化について
トレードオフ情報を含む求人の場合
トレードオフ情報を加えた求人では、ネガティブな口コミの影響が指標によって分かれた。ポジティブな口コミとトレードオフ情報を含む求人の組織魅力度は74.1%で、口コミなしより19.9ポイント高く、9種類の求人の中で最も高い値となった。一方、ネガティブな口コミとトレードオフ情報を含む求人応募意向は51.1%で、口コミなしより8.8ポイント低く、3条件の中で最も低かった。情報の信頼性は、3条件の間で大きな差はみられなかった。
ポジティブな口コミを加えた場合は、3指標とも口コミなしより2.8〜4.7ポイント高く、全体的に評価が少し上がった。
【図14】ネガティブ求人+トレードオフ情報ありの口コミの有無について
仮説2について
一般的にはネガティブ口コミは企業評価を低下させると考えられるが、本研究では必ずしもそのような結果にはならなかった。特にネガティブ表現の条件では、ネガティブ口コミが加わることで企業評価が高まる傾向が確認された。
このことから、学生はネガティブ口コミを企業を避けるための情報ではなく、企業を理解するための追加情報として利用している可能性がある。また、企業発信情報と口コミ情報が一致している場合には、情報全体の整合性や誠実性が高く知覚されることで評価が高まった可能性も考えられる。
一方、トレードオフ条件ではネガティブ口コミによって応募意欲が低下したため、ネガティブ口コミの効果は一律ではなく、公式情報との組み合わせによって変化することが示された。
RQ3:学生の個人差で受け止め方は異なるか
RQ3では、学生の個人特性によって同じ求人の受け止め方が変わるかを確認した。認知的熟慮性-衝動性尺度の得点で回答者を熟慮性の高群(392名)と低群(391名)に分け、9種類の求人それぞれについて、応募意向・組織魅力度・情報の信頼性の高群割合を比べた。
なお、ここでの割合は、熟慮性の各群のうち、各評価指標で高群に分類された回答者の割合である。たとえば、通常の求人の応募意向で熟慮性高群が53.8%というのは、熟慮性高群の学生のうち53.8%が、応募意向の高群に分類されたことを示す。
通常の求人の場合
口コミのない通常の求人では、熟慮性の高群と低群の差は3指標とも3.4ポイント以内で、大きな違いはみられなかった。
【図15】通常求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
ポジティブな口コミを加えると、3指標すべてで高群が低群を上回った。特に応募意向は11.4ポイントの差があった。
【図16】通常求人+ポジティブ口コミの求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
一方、ネガティブな口コミを加えると、応募意向と組織魅力度は低群の方が高くなり、組織魅力度では12.9ポイントの差があった。情報の信頼性は高群の方がやや高かった(2.9ポイント差)。
【図17】通常求人+ネガティブ口コミの求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
ネガティブ表現の求人の場合
ネガティブ表現の求人では、口コミの有無や内容に関係なく、3つの求人すべてで情報の信頼性は高群の方が高かった。差は8.0〜16.7ポイントで、ポジティブな口コミを加えた求人で最も大きかった。
一方、応募意向と組織魅力度は、ほとんどの条件で低群の方が高いか、同じ水準だった。ポジティブな口コミを加えた求人の応募意向は、高群61.7%、低群61.6%で差はみられなかった。ネガティブな口コミを加えた求人では、低群の応募意向が75.4%、組織魅力度が74.7%となり、高群をそれぞれ11.6ポイント、14.0ポイント上回った。
【図18】ネガティブ求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
【図19】ネガティブ表現の求人+ポジティブ口コミの求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
【図20】ネガティブ表現の求人+ネガティブ口コミの求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
トレードオフ情報を含む求人の場合
トレードオフ情報を含む求人でも、3つの求人すべてで情報の信頼性は高群の方が高かった(差は9.8〜16.5ポイント)。特に、ポジティブな口コミを加えた求人では、高群62.5%、低群46.0%で16.5ポイントの差があった。
一方、口コミなしとポジティブな口コミの求人では、応募意向と組織魅力度の差は2.2ポイント以内で、ほとんど違いはなかった。ネガティブな口コミを加えた求人では、低群の方が応募意向で14.0ポイント、組織魅力度で10.9ポイント高かった。
【図21】ネガティブ表現の求人+トレードオフ情報の求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
【図22】ネガティブ表現の求人+トレードオフ情報+ポジティブ口コミの求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
【図23】ネガティブ表現の求人+トレードオフ情報+ネガティブ口コミの求人における認知的熟慮性-衝動性尺度の高群低群の違いについて
仮説3について
認知的熟慮性の高い学生は、企業情報に含まれるネガティブな側面を単なるマイナス要素として捉えるのではなく、情報の信頼性を判断する材料として利用している可能性がある。特にトレードオフ情報は、企業の厳しさとメリットを同時に提示する情報であるため、熟慮性の高い学生にとっては現実的で信頼できる説明として受け止められたと考えられる。
一方で、情報の信頼性は高くなっても応募意向や組織魅力度が必ずしも高くなったわけではなかった。特にネガティブ口コミ条件では信頼性が高い一方で応募意向は低い数値となった。この結果は、「信頼できる企業」と「応募したい企業」は必ずしも一致しないことを示している。
また、認知的熟慮性低群ではネガティブ口コミ条件で応募意向や組織魅力度が高まる傾向がみられたことから、ネガティブ情報の受け止め方そのものが学生の認知特性によって異なる可能性が示唆された。
総括
本研究では、事前知識のない企業を対象に、企業が発信する公式情報の提示方法と口コミ情報の内容の組み合わせが、大学生の企業評価にどのような影響を与えるかを検討した。
その結果、ネガティブ情報は必ずしも企業評価を低下させるものではなく、提示方法や口コミとの組み合わせによっては、情報の信頼性や組織魅力度を高める場合があることが確認された。特に、通常の求人条件およびネガティブ表現の条件ではネガティブ口コミが高い企業評価につながる傾向がみられた一方、トレードオフ条件では組織魅力度が上昇する一方で応募意向は低下するなど、評価指標によって異なる反応が生じていた。
また、学生の認知的熟慮性によって情報の受け止め方に違いがみられた。認知的熟慮性の高い学生は、ネガティブ情報やトレードオフ情報を含む企業情報について情報の信頼性を高く評価する傾向がみられたものの、その評価は必ずしも応募意向や組織魅力度の向上には結び付かなかった。一方、認知的熟慮性の低い学生では、ネガティブ口コミ条件において応募意向や組織魅力度が高くなる傾向が確認された。
これらの結果から、学生はネガティブ情報を単なるマイナス情報として捉えているのではなく、企業理解のための重要な判断材料として活用している可能性が示唆された。また、企業評価を左右するのはネガティブ情報の有無そのものではなく、公式情報と口コミの整合性や、情報を受け取る学生側の認知特性である可能性が示された。
さらに、本研究では「信頼できる企業」と「応募したい企業」が必ずしも一致しない傾向が見られた。認知的熟慮性の高い学生ほど情報の信頼性を高く評価していた一方で、応募意向や組織魅力度が高くなるとは限らなかった。
この結果は、企業評価が単一の概念ではなく、「情報への信頼」と「企業への魅力・応募判断」が異なる心理的プロセスによって形成されている可能性を示している。
以上より、本研究は採用広報においてネガティブ情報を一律に排除することが必ずしも望ましいわけではなく、企業の実態を伝える現実的な情報開示や、企業発信情報と実際の口コミとの整合性が、学生の信頼形成や企業理解において重要である可能性を示した。特に、単なるネガティブ情報ではなく、厳しさとその対価をあわせて伝えるトレードオフ型の情報提示は、学生の企業理解を促進する手法として有効であることが示唆された。
これらの結果を踏まえると、企業には、厳しい面を隠さずに伝えつつ、それに見合うメリットもあわせて示すことが求められる。また、学生は口コミでも企業の実態を確認するため、口コミと食い違わない、実態に即した情報を発信することが重要である。現実的な情報開示によって応募者が絞られる場合もあるが、応募者の数だけでなく、学生が納得したうえで応募できる情報提供を目指す視点が求められる。
キャリアリサーチLab研究員 服部 幸佑
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