企業は「静かな退職」とどう向き合うべきか -シリーズ「静かな退職」を考える2-

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

「静かな退職」とはキャリアアップや昇進などを目指さずに、必要最低限の仕事をこなす働き方のこと。前回のコラムでは、マイナビが実施した調査をもとに個人が「静かな退職」をしている理由に着目し、その特徴を分析した。

第2回となる本コラムでは、同じくマイナビが実施した調査をもとに、企業は「静かな退職」をどう捉えているのかを分析し、どのように向き合っていくべきか考察していく。

静かな退職とは

静かな退職とは、実際に退職をするわけではなく、退職が決まった従業員のような余裕を持った精神状態で、キャリアアップや昇進などを目指さずに、必要最低限の仕事をこなす働き方のことを指す。静かな退職が注目されている背景については以下のコラムで詳しく解説している。

企業の実態

企業は「静かな退職」に賛成か反対か

マイナビが企業の中途採用担当者を対象に行った「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」では、企業の中途採用担当者として「静かな退職」に賛成か反対か聞いている※。

※設問文は『あなたは企業の採用担当者として、「静かな退職(実際に退職はしないが、退職をしているかのようにやりがいやキャリアアップは求めず、決められた仕事を淡々とこなすこと)に賛成ですか、反対ですか。』とした

結果は、「賛成」が14.1%、「どちらかといえば賛成」が24.8%で、静かな退職に賛成している割合は38.9%となった。5段階の選択肢では、「どちらともいえない」が29.0%ともっとも高かったものの、賛成計が多数派となり、反対計は約3割にとどまる結果となっている。【図1】

【図1】静かな退職に賛成か反対か/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
【図1】静かな退職に賛成か反対か/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

業種別にみると、賛成より反対が多かった業種は「不動産・建設・設備・住宅関連」で反対計が42.6%となっており、「流通・小売」は反対計が33.8%となった。

一方で反対より賛成が多かった業種は「IT・通信・インターネット」で賛成計が44.8%となり、賛成が反対と比べて約20pt高い結果となっていた。次いで「金融・保険・コンサルティング」「運輸・交通・物流・倉庫」も反対より賛成が多い傾向にある。【図2】

【図2】業種別静かな退職に賛成か反対か/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
【図2】業種別静かな退職に賛成か反対か/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

「静かな退職」に反対・どちらともいえない理由

反対が多かった「不動産・建設・設備」の意見をピックアップすると、「組織にとってプラスでない、他の従業員に伝播する」となっており、このような意見は他の業種でも多数見られた。他には、「決められた仕事だけでは満足してもらえないと思う」などが挙げられた。

また「どちらともいえない」の意見に関しては、「無理強いはしないがその分評価は低くなる」といった意見や、「キャリアアップを求める人が必ずしも優秀な人材ではない」といったような意見もみられた。【図3】

反対どちらともいえない
組織にとってプラスではない、かつ、そういった行動は他の従業員に伝播するため。
【不動産・建設・設備・住宅関連】
本人がそれで満足なら無理強いはしないが、昇給や昇格の評価は低くなるだけ。【サービス】
お客様がいるため、そのお客様に寄り添ってもらうには、決められた仕事だけでは、満足してもらえないと思うため。
【医療・福祉・介護】
キャリアアップを求める人=優秀な人材では決してない。 その反対で、キャリアアップを求めず、その時間内の業務を淡々と行う人は、場を乱すことも少なく、いろんな意味で優秀と言える。
【医療・福祉・介護】
決められた仕事をしてくれれば良いが、スキルアップ面で問題があり、会社としては有益ではない。【医療・福祉・介護】今の時代は人それぞれ考え方があるから
【メーカー】
【図3】静かな退職に反対・どちらともいえない理由/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

反対が多い業種について

その業種すべての企業について言えるわけではないが、反対意見の自由回答の結果を見ると、「会社や組織にとって静かな退職をしている人が有益であるか」という企業の経営的な目線で意見を述べているものが多く見られた。

また、対人サービスを実施するなど業務内容が定型的でない仕事や、高いホスピタリティが求められるなど状況に応じて臨機応変に対応することが求められるような職場の場合に反対意見が多い傾向にある。

反対が多かった業種については、経営的な目線で意見を述べていたり、属人的になりやすい業務を想定したりして、回答を行った人が多かったのではないかと考えられる。

「静かな退職」に賛成である理由

賛成意見に関しては、静かな退職に「賛成」または「どちらかといえば賛成」と回答した317名すべての回答を確認し、大きく6つに分類した。

「特になし、理由はない」などの回答をグループ6として、そちらを除外すると、回答としてもっとも多かったのは、「①尊重すべき・時代に合っている(55件)」だった。回答例としては、「時代に合っている感じがする」「働き方の一つとしてアリだと思う」などが挙げられる。

次いで、「②やるべき仕事をしていればよい(51件)」「③静かな退職のような人も必要(45件)」「④手の打ちようがない・仕方がない(28件)」「⑤辞めるよりはよい・面倒ではない(23件)」と続いた。

このような分析から、回答のニュアンスをまとめると「賛成」というのが、静かな退職を積極的に「推奨」するものではなく「受け入れている」といった、受容的なニュアンスであるということが分かった。【図4】

【図4】静かな退職に賛成である理由/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
【図4】静かな退職に賛成である理由/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

賛成が多い業種について

賛成が多かった業種に関しても、すべての企業について言えるわけではないが、個人の価値観を尊重する意見が多く見られた。

また、人材が不足していることを背景に、やるべき仕事をしていればよい、辞めるよりはよいといった意見もあり、人手不足感を強く抱いている人の回答が多かった可能性がある。

また、職務内容を明文化できる業務を想定しているなど、業務内容が定型である仕事ついては、賛成意見が多い傾向にあった。

賛成が多かった業種については、時代の流れも踏まえて価値観を尊重する風土があったり、人手不足感が強いと感じていたり、職務内容を明文化できる業務を想定して回答を行った人が多かったのではないかと考えられる。

静かな退職者の詳細

仕事・私生活の満足度の影響

静かな退職実施有無別にみた仕事と私生活の満足度

今回の調査では、仕事と私生活の満足度についてそれぞれ5段階で聞いており、その結果を組み合わせて結果を4グループに分類している。そして、「仕事・私生活ともに満足度が高かったグループ」は仕事のモチベーションや自主性において特徴がみられた。

静かな退職者の仕事・私生活の満足度合いについて、全体平均と静かな退職をしていない人を比較すると、「私生活のみ満足」が高い傾向にあることが分かる。また、「どちらも満足でない」割合も高い傾向にあった。
そして、静かな退職者は「仕事・私生活がともに満足」である割合が低い傾向にあり、この点はそもそもの課題であると考えられる。【図5】

【図5】静かな退職実施有無別にみた仕事と私生活の満足度/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
【図5】静かな退職実施有無別にみた仕事と私生活の満足度/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

静かな退職者の働くモチベーション

静かな退職者は「仕事・私生活がともに満足」である割合が低い傾向にあったが、静かな退職者をしていても「仕事・私生活がともに満足」であれば働くモチベーションは高いのかみていきたい。
全体と、静かな退職をしていない人、そして静かな退職を実施している人を仕事私生活満足で4区分にしたもので比較をしていくと、静かな退職をしている人でも「仕事・私生活ともに満足」であれば、全体・静かな退職をしていない人よりも働くモチベーションは高いことが分かる。【図6】

【図6】働くモチベーション/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
【図6】働くモチベーション/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

静かな退職者の仕事に対する自主性

仕事に対する自主性についてもみていく。モチベーションと同じように、静かな退職をしていても「仕事・私生活ともに満足」であれば、全体や静かな退職をしていない人よりも、仕事に対する自主性が高い傾向にあった。【図7】

【図7】働く自主性/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
【図7】働く自主性/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

仕事と私生活の満足度の重要性

改めて静かな退職とは、「実際に退職はせず、やりがいやキャリアアップを求めずに決められた仕事を淡々とこなすこと」を指すが、仕事・私生活ともに満足であれば決められた仕事を実施するうえでの、働くモチベーション、自主性はあるということが分かった。

具体的には、決められた業務内(ジョブディスクリプションの範囲内)において、モチベーションを高く自主的に働いている、という解釈で分析をしている。

  • 営業職の場合
    求められた目標(ノルマ)は自主的に達成を目指す、といったようなイメージ
  • 製造職の場合
    ライン製造職で決められた量・範囲の業務の中で主体的に仕事をする、事務職として与えられた役割の中で忠実に仕事をする、といったようなイメージ
  • 職種を問わない
    ジョブディスクリプションで業務やタスクが明確化・定量的に測りやすいものに関して、自主的に完遂はさせる働き方のようなイメージ

まとめると、「仕事と私生活に満足している」人であれば一定のモチベーションや自主性を持って働いていると考えられる。「静かな退職」をしているからといって一概に否定するのではなく、「仕事や私生活の満足度」などの指標も重要視すべきではないだろうか。

企業はどうすべきか

「静かな退職」のきっかけ4タイプ

前回のコラムでは、静かな退職のきっかけについての自由回答結果を4タイプに分類した。その4つのタイプを改めて紹介する。【図8】

A:不一致タイプB:評価不満タイプC:損得重視タイプD:無関心タイプ
特徴:仕事・環境の不適合による意欲低下が起因しているタイプ特徴:処遇・評価に対する不平不満が起因しているタイプ特徴:報酬や昇進の損得を考え現状維持を求めるタイプ特徴:そもそもの価値観として変化・上昇を求めないタイプ
傾向:仕事満足度が低い傾向:仕事満足度が低い傾向:仕事・私生活の両方に満足している割合が高い傾向:仕事満足度が高い
【図8】静かな退職きっかけタイプ/正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)

Aの「不一致タイプ」、Bの「評価不満タイプ」は、ともに仕事満足度が低い傾向にあり、また何らかのきっかけがあって静かな退職をしているため、企業側の対策によって防げる可能性がある。

Cの「損得重視タイプ」、Dの「無関心タイプ」は、仕事や私生活満足度が比較的高い傾向にあるため、モチベーションや自主性が高い可能性があり、共生にデメリットが少ないことが考えられる。

仕事と私生活の満足度を向上させるには

「仕事の満足度」や「私生活の満足度」をどのように向上させればよいか考えていくにあたり、「ワークライフ・インテグレーション」という考え方にも触れていきたい。

ワークライフ・インテグレーションとは

ワークライフ・インテグレーションとは仕事と私生活の双方を相乗的に充実させることができるという考え方で、ワーク・ライフ・バランスの発展形といわれている。詳しくは以下のコラムで解説している。

ワークライフ・インテグレーションは柔軟に働けることを前提に、仕事と私生活が互いによい影響を与えあって相乗的に人生を豊かにしていくことができる、というもので、仕事と私生活が「互いに影響を与えあっている」ことがポイントだ。【図9】

【図9】ワークライフ・インテグレーションイメージ図/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年
【図9】ワークライフ・インテグレーションイメージ図/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年

仕事と私生活の充実感のつながり

個人向けに実施した調査で、仕事と私生活の充実の関係性について実感に近いものを4択で聞いた。その結果、約7割がつながっている、と回答している。内訳をみると、「相互に影響しあっている」が35.9%、「私生活から仕事につながっている」が21.8%、「仕事から私生活につながっている」が11.5%、「別物だと感じている」が30.8%だった。

一般的に公私混同は避けるべきといわれるが、充実度合いについては実感として仕事と私生活がつながっているという人が多数派であることが分かる。【図10】

【図10】私生活と仕事の充実の関係性/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年
【図10】私生活と仕事の充実の関係性/正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年

私生活を充実させる支援の重要性

これらのことから、私生活の充実の支援は、仕事の充実にもつながる可能性があるということが分かった。つまり、企業にとっては、仕事満足度の向上支援だけでなく、私生活満足度の向上のための支援も有益である可能性がある。

企業は、まずは、私生活が充実できるような柔軟な働き方ができる環境を整備することが、大前提大切なことであると考えられる。

仕事の満足度を向上させる支援

次に、仕事の満足度向上についても考えていきたい。ここから先ほどの静かな退職きっかけタイプについての話題に戻る。

静かな退職のきっかけタイプの中でも仕事満足度が低い傾向にあったA、Bタイプそれぞれについて、仕事の満足度が下がっている要因と、対策について考察していく。要因は各企業によって異なると考えられるが、大きな時代の流れなど外部環境が関わっていると考えられるものを挙げていく。

静かな退職の外的要因と具体施策例

日本型雇用における「強い人事権」の影響

まずAの 「不一致タイプ」は、仕事や環境の不適合が静かな退職につながっているタイプであったが、この不適合には「日本型雇用」において運用されていた、人事権の強さが影響している可能性がある。

日本型雇用では、生涯の雇用を終身雇用制度として保証し、年功序列での昇進昇給をすることを前提に、企業側が強い人事権を持ち、人員配置を行っていた。現在、政府によって日本型雇用の慣行を見直す動きが強まっている。

特に終身雇用制度や年功序列制度については、人口構造や経済状況の変化を背景に特に見直されている制度となっている中で、日本型雇用の制度が残っていたり、人事権の強さのみが残っていたりする企業も存在している。そのため会社指示での異動や転勤によって、不本意な環境で働くことになり、静かな転職をしている人もいると考えられる。

企業によって効果は異なるが、

  • 勤務地限定正社員制度
  • 社内公募制度
  • ジョブ型雇用制度

など社員の希望する部署や勤務地で働くことができる施策の導入が有効である可能性がある。

日本型雇用における「年功序列制度」の影響

またBの「評価不満」タイプは、処遇や評価に対する不満が静かな退職につながる傾向にあった。
これも日本型雇用の年功序列制度や、勤続年数によって賃金が上がる仕組みなどによって、「頑張っても評価に反映されない」と思う人が「静かな退職」をしている可能性がある。

マイナビが実施している別調査(「ボーナスと転職に関する調査」)によると、評価の納得感とフィードバック有無には正の相関がみられた。

【図11】強化の納得感とフィードバック有無/2024年冬ボーナスと転職に関する調査
【図11】評価の納得感とフィードバック有無/2024年冬ボーナスと転職に関する調査

つまり、評価に納得感がある人はフィードバックを受けている傾向にあるということだ。すぐに評価制度が変えられない場合でも、まずはフィードバックを実施するだけでも、自身の仕事や評価に対する本人の認知が変わるきっかけとなる可能性があり、不本意的な静かな退職への対策の一つになると考える。

少子高齢化・経済成長鈍化の影響

またBの「評価不満タイプ」は、少子高齢化・経済成長の鈍化によって、管理職のポストが不足している環境も静かな退職につながっている可能性がある。

厚労省の賃金構造基本統計調査によると、各役職の平均年齢が上がっている。かつ経済成長が鈍化している影響で管理職のポスト自体も少なくなっているため、特に若年層は昇進ができないと感じる可能性が高まっている。

従来の昇進のみがキャリアアップ、というキャリアパスが少ない状態だと、構造的に今後も不本意な静かな退職者は増加していくと考えられる。限りある人材が 仕事に対して前向きでいられるようにするためにも、キャリアパスの多様化、つまりスペシャリストの道を作ることなどは今後重要視されるのではないかと考えられる。

物価高騰の影響

また、「評価不満タイプ」は処遇の不満についても静かな退職につながっている可能性があったため、仕事量に対する適切な賃金設定も、不本意な静かな退職者を生まないためにも重要になる可能性がある。またこちらはCの損得重視タイプにも好影響の可能性がある。

もちろん賃金を上げたからといって、必ずしも不本意な静かな退職者が減るわけではないものの、物価の上昇に応じた適切な賃金設定は働くモチベーションに直結するのではないだろうか。

アメリカ・英国・ドイツ・フランスと比較しても日本の実質賃金の上昇率は少ない傾向にある。限りある人材を最大限活かすためには、物価高騰なども考慮した適切な賃金設定が必要であると言えるだろう。

【図12】1人当たり実質賃金の推移/OECD Data Explorer
【図12】1人当たり実質賃金の推移/OECD Data Explorer

まとめ

企業は、すでに「静かな退職」という価値観に一定の理解を示している。そして、「静かな退職」をしていても、仕事・私生活ともに満足している人は働くことに前向きな人材であることも分かった。このことから、仕事だけでなく私生活の充実のための支援も重要である可能性がうかがえる。

今後も少子高齢化が進行することを鑑みれば、「静かな退職」という価値観を「否定」するだけでは、「限りある人材」を活かすことは難しくなるだろう。また静かな退職者は、必ずしも怠けているわけではなく、何かきっかけがあったり、人生設計の中で仕事の比重を選択していたりする人たちだ。

企業は、仕事と私生活に満足な静かな退職とは「共生」を、そして不本意な静かな退職には防止の「対策」を実施すべきではないかと考えられる。こういった取り組みは、今後の人材活用において大きなポイントの一つとなるだろう。

マイナビキャリアリサーチLab研究員 朝比奈 あかり

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