人的資本経営における管理職の重要性
近年、女性やシニア、外国人など多様な人材の活躍を促進する DE&I推進は、人材不足が深刻化する日本において重要な経営課題となっている。また、採用した人材一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織の成長につなげる「人的資本経営」への注目も高まっている。その実現において、現場で部下の育成や組織運営を担う管理職の役割は極めて重要である。
多くはない“出世したい若手社員”
管理職は日々のマネジメントを担うだけでなく、組織の将来を見据えた人材育成や組織形成を推進する重要な存在であるといえる。しかし、正社員のワークライフ・インテグレーション調査 (2026年版)によると、20~30代の役職についていない正社員のうち、「出世したい」と回答した割合は42.1%であった一方、「これ以上出世は望まない」と回答した割合は57.9%となった。【図1】
【図1】(20~30代かつ非役職者である正社員)今後の出世意向/マイナビ 正社員のワークライフ・インテグレーション調査2026年版(2025年実績)
20~30代の若手社員は中高年の社員と比較して昇進意欲が高い傾向にあるものの、その割合は決して高いとはいえない。
昇進意欲とワークエンゲージメントの関係
さらに、昇進意欲のある人の方が、仕事に対する活力や熱意、没頭の度合いが高いという結果も得られている。
20~30代の役職についていない正社員の昇進意欲の有無によるワークエンゲージメントを比較するにあたり、ライフキャリア実態調査(2026年版)を利用した。その結果、昇進意欲のある若手社員は、昇進意欲のない若手社員と比較してワークエンゲージメントが有意に高いことが示された(平均差=0.377, t(1486.50)=8.49, p<.001, Hedges’g=0.436)。【図2】
【図2】若手社員の昇進意欲の有無によるワークエンゲージメント平均/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
昇進意欲の有無は、仕事への活力や熱意、没頭といった前向きな状態と関連している可能性が示された。このように、若手社員の昇進意欲を高めることは、将来の組織運営を担う人材の育成という観点だけではなく、現在の組織における活力や生産性の向上※1という点からも重要であると考えられる。
では、若手社員はなぜ昇進を望まないのだろうか。
※1 厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」
若手社員の昇進を望まない理由/望む理由
昇進を望まない理由
ライフキャリア実態調査(2026年版)の結果、昇進したくない理由としてもっとも多かったのは「責任が重くなるため(57.2%)」であり、次いで「メリットが感じられないため(41.1%)」であった。【図3】
【図3】昇進したくない理由/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
昇進したくない若手社員にとって管理職とは、「責任が重くなる一方で、それに見合うメリットが感じられない役割」として認識されているようだ。
昇進を望む理由
一方で、昇進したい理由を確認すると、「給与を上げるため(68.8%)」がもっとも多く、次いで「自己成長のため(27.6%)」が続いた。【図4】
【図4】昇進したい理由/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
他の理由を大きく上回っていることから、若手社員にとって昇進は主に収入向上の手段として認識されていることがうかがえる。
給与以外の魅力の重要性
さらに、「給与を上げるため」のみを選択した人と、「給与を上げるため」に加えて他の理由も選択した人を比較したところ、ワークエンゲージメントに差がみられた。
給与のみを選択した群(M=2.15)よりも、給与に加えて自己成長や能力発揮など複数の理由を選択した群(M=2.53)の方が、ワークエンゲージメントは有意に高かった(平均差=-0.378, p<.001)。【図5】
【図5】昇進したい理由によるワークエンゲージメント平均の差/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
この結果から、昇進を給与向上の手段としてのみ捉えるのではなく、昇進することに自己成長や能力発揮といった複数の価値を見いだしている人ほど、仕事に対して前向きに取り組んでいる傾向があることが示された。
つまり、若手社員の昇進意欲を考える上では、「昇進したいかどうか」だけでなく、「なぜ昇進したいのか」という動機の質も重要であると考えられる。
問題提起
以上より、若手社員の昇進意欲に関する課題は次の2点に整理できる。
- 若手社員の昇進意欲そのものをどのように高めるか
- 昇進を「収入向上」のためだけではなく、「自己成長」や「能力発揮」の機会として認識してもらうにはどうすればよいか
本調査では、この2つの課題に着目し、若手社員の昇進意欲を高める要因について分析を行う。
昇進意欲と関連するのは「評価実感」よりも「成果の手応え」と「職場支援実感」
では、若手社員の昇進意欲にはどのような要因が関連しているのだろうか。
そこで本調査では探索的な分析として、若手社員のキャリア形成と関連があると考えられる個人属性(年齢、子ども人数)に加え、仕事における能力発揮の実感(主観的生産性)、職場環境(職場支援実感)、評価に対する認識(妥当な評価実感)を説明変数として重回帰分析を行った。
分析の結果、年齢(β=-.184, p<.001)、主観的生産性(β=.179, p<.001)、職場支援実感(β=.142, p<.001)、子ども人数(β=.073, p<.01)が昇進意欲と有意な関連を示した。一方で、妥当な評価実感については有意な関連はみられなかった(β=.000, n.s.)。全体の説明率は Adjusted R² = .104であり、説明力は限定的であるものの、有意な関連要因を抽出し、その方向性を示すことができたと考えられる。【図6】
【図6】若手社員のキャリア形成と関連があると考えられる変数と昇進意欲の重回帰分析/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
なかでも影響が大きかったのは年齢と主観的生産性であり、若手社員ほど、また自らの仕事の量や質、正確さ、付加価値について高く評価している人ほど昇進意欲が高い傾向がみられた。自身の能力や成果に対する手応えが、上位の役職を目指す意欲につながっている可能性がある。
また、職場支援実感も昇進意欲と関連していた。職場支援実感は、「良い仕事をした際に認められる」「上司や同僚に気にかけてもらえている」「成長を後押ししてくれる人がいる」「自分の意見が職場に取り入れられている」といった内容から構成されている。
こうした結果から、若手社員は単に昇進機会を与えられることを望んでいるのではなく、日常的に周囲から承認や支援を受けながら働ける環境のなかで、昇進への意欲を形成していると考えられる。
興味深いのは、「自分は妥当な評価を得ている」という認識は昇進意欲との関連がみられなかった点である。単純相関では妥当な評価実感と昇進意欲には弱い正の関連がみられたものの(r=.139)、他の変数を統制するとその影響は消失した。
これらの結果から、若手社員の昇進意欲は、単に「評価されること」によって高まるというよりも、日々の仕事のなかで成果を生み出し、その成果が職場のなかで認められながら成長している実感によって支えられている可能性がある。
では、そのような昇進意欲の高い若手社員は、どのような価値観を持っているのだろうか。
「挑戦できる」「努力が報われる」という認識が昇進意欲につながる
先ほどの分析では、自らの能力発揮に対する実感や、周囲からの承認・成長支援を含む職場支援実感が、若手社員の昇進意欲と関連していた。では、昇進意欲が高い若手社員は、仕事や将来に対してどのような価値観を持っているのだろうか。
そこで、若手社員を昇進意欲の高低と転職意向の高低によって4つのグループに分け【図7】、価値観との関係についてコレスポンデンス分析※2を行った。【図8~10】
※2 コレスポンデンス分析とは、アンケートなどのクロス集計表をもとに、項目同士の関係性を2次元の図に可視化する手法。近くに配置された項目ほど関連が強く、全体の傾向や特徴を直感的に把握できる。
【図7】昇進意欲と転職意向によるグループ分け/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
【図8】他者との関わりに関する価値観についてのコレスポンデンス分析/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
【図9】家族・友人ややりがいに関する価値観についてのコレスポンデンス分析/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
【図10】将来や社会に関する価値観についてのコレスポンデンス分析/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
組織内成長意向の傾向
分析の結果、「組織内成長意向(昇進意欲が高く、転職意向が低い層)」の近くには、「努力は報われると思う」「失敗が許される社会だと思う」「気力・活力にあふれていると思う」「他人から頼られたい」「周囲より抜きん出たい」といった回答が位置していた。なかでも、「努力は報われると思う」はこの層に近く、現在の組織にとどまりながら昇進を目指す若手社員には、自らの働きかけが将来の成果につながるという肯定的な認識があることがうかがえる。
昇進は、新たな役割や責任を引き受けることであり、その過程では失敗や試行錯誤も避けられない。その負担に対する努力が成果につながると考え、挑戦した結果の失敗が許容される環境であると認識している人ほど、管理職や上位職を目指す心理的ハードルが低くなると考えられる。
キャリア拡大意向の傾向
一方、「キャリア拡大意向(昇進意欲が高く、転職意向も高い層)」には、「将来の見通しは明るい」「生きる目的や意味を持っている」「競争が好き」「他人との関わりが多い方が良い」といった回答が近接していた。
同じ昇進意欲の高い人であっても、現在の組織にとどまる層では「努力や挑戦に対する肯定感」が、転職も視野に入れる層では「将来展望や目的意識、競争志向」が特徴として表れている。こうした結果から、この層は自身のキャリアに対する方向性や目標を比較的明確に持っており、その実現に向けて新たな環境や人間関係、競争環境への適応に対する心理的ハードルが低い可能性がうかがえる。
環境転換意向の傾向
また、「環境転換意向(昇進意欲が低く、転職意向が高い層)」の近くには、「努力しても報われないと思う」「失敗が許されない社会だと思う」「何事にも無気力だと思う」といった回答が位置していた。
現在の状況において努力と成果のつながりを感じにくく、失敗に対する不安が強い状況では、現在の組織で責任のある立場に挑戦するよりも、別の環境を求める意識と結びつきやすい可能性がある。
現状維持意向の傾向
最後の「現状維持意向(昇進意欲が低く、転職意向も低い層)」は他の3群と比べて価値観上の特徴が明確ではなかった。ただし、「競争は好きではない」「他人との関わりは少ない方が良い」といった項目が比較的近くに位置していた。
こうしたことから、この層が昇進や転職といったキャリア上の変化を求めない背景には、他者との競争や比較を通じた成長よりも、自身の現在の状況や生活とのバランス、心理的な安定を重視する傾向がある可能性がうかがえる。
昇進意欲を高めるためには?
企業としては、従業員に自社で活躍しながら昇進を目指してほしいと考えるだろう。本調査の結果からは、そうした昇進意欲が高く、転職意向が低い「組織内成長意向」層ほど、「努力は報われると思う」「失敗が許される社会だと思う」といった意識を持つ傾向がみられた。これは社会全体に対する認識を問うたものだが、その基盤には日々の職場での経験があると考えられる。
これは、前述の「職場支援実感」が昇進意欲と関連していた結果とも重なる。昇進したくない理由としては「責任が重くなるため」がもっとも多かったが、その背景には責任そのものへの懸念だけでなく、挑戦した際に十分な支援を受けられるのか、失敗した際に受け止めてもらえるのかといった不安も存在している可能性がある。
若手社員の昇進意欲を高めるためには、本人の努力や成長を認めることに加え、挑戦を後押しし、失敗から学ぶことを許容する職場環境を整備することが、今後の管理職候補層の育成において有効なのではないだろうか。
給与以外のメリットは?
ここまで、若手社員の昇進意欲を高める要因について検討してきた。しかし、昇進意欲は単に高ければよいというものではなく、昇進を自己成長や能力発揮の機会として捉えられていることも重要であると考えられる。実際、昇進を収入向上の手段としてだけではなく、複数の価値を持つものとして認識している人ほど、仕事への前向きさが高い傾向がみられた。
しかし、若手社員にとって管理職の魅力は、必ずしも十分に伝わっているとはいえない。本調査でも、昇進したくない理由として「メリットが感じられないため」が上位にあがっていた。では、実際に管理職にある人は、管理職であることにどのような価値を感じているのだろうか。
そこで次に、実際に管理職※3として働く人々がどのようなメリットを感じているのかに着目し、若手社員がまだ十分に認識できていない「給与以外の管理職の価値」について検討する。
※3 本調査では、課長職以上および代表取締役・役員・顧問を含む管理監督的立場の者を「管理職」と定義。
管理職が思う「その役職であるメリット」
現在、管理職に就いている人に対して、そのメリットを尋ね、分析を行った。分析については、役職ごとに感じるメリットについてコレスポンデンス分析を行い、寄与率上位10項目をプロットした。【図11】
【図11】 管理職が感じている役職のメリット(寄与率上位10項目を抜粋)/マイナビ ライフキャリア実態調査(2026年版)
結果から、第1次元(横軸で比較)では、代表取締役においては、「ビジョンへの影響」「市場価値向上」「意思決定」および「代表取締役」などが位置した。一方で、負の方向には「報酬面」「ネットワーク拡大」および「課長」などが位置している。このことから、第1次元は「組織への影響や意思決定への関与」と、「個人が得る価値」を分ける軸であると解釈できる。
また、第2次元(縦軸で比較)では、正の方向に「仕事の幅」「ビジョンへの影響」「報酬面」などが位置し、負の方向には「キャリア明確化」「大規模な仕事」「リーダーシップ向上」「新スキル習得」などが位置していた。よって、第2次元は正の方向には、「昇進することによって得られる価値」が位置し、負の方向には「昇進後の経験によって得られた成長」が位置している軸であると考えられる。
さらに役職ごとの配置に着目すると、第1次元上では課長、部長、代表取締役の順に並んでいる。これは、役職が上がることで管理職として感じるメリットが「個人が得る価値」から「組織への影響力」に変化していく可能性を示している。
また、個別にみると、課長は「報酬面」、部長は「新スキル習得」、代表取締役は「組織への影響」と、それぞれ比較的近い位置に布置された。図4で示したとおり若手社員の昇進したい理由では「給与」が多くあげられていたが、課長層においては実際にそのメリットを強く感じていることがうかがえる。一方で、部長層では新たなスキルの獲得、代表取締役では組織のビジョンや方向性への影響といった価値が近接しており、役職が上がるにつれて管理職の魅力も変化していくことが示唆された。
若手社員にとってもっとも身近な管理職は課長であり、昇進のメリットを「給与が上がること」として捉えやすいのかもしれない。加えて、昇進したくない理由は、身近な課長の姿から受ける印象が影響している可能性がある。
しかし、より上位の管理職に目を向けると、組織の方向性に影響を与えることや、新たな能力を獲得することなど、管理職には給与以外にも多様な価値が存在していることが結果からわかるだろう。
管理職のメリットへの気付き
現在、管理職にある人に対して管理職であるメリットを聞いたところ、「給与」以外にも、「新スキル習得」や「組織への影響」といったメリットが浮かび上がってきた。さらに、役職によってメリットが変化することも結果から示唆された。若手社員の昇進意欲を高めるためには、昇進による給与の上昇だけでなく、こうした管理職ならではの経験や影響力についても具体的に伝えていくことが重要だと考えられる。
まとめ―昇進意欲を高める職場環境とは―
本調査より、昇進意欲を高めるためには「『努力は報われる』と思える環境づくり」「失敗が許される会社だと思える組織風土」「管理職メリットの認知」という点が重要であるということが示された。企業においては、たとえば以下のような取り組みを持って、昇進意欲が高まりやすい環境を整えることが重要なのではないかと考えられる。
1.「努力は報われる」と思える環境づくり
・定期的な上司との1on1
・評価基準の透明化
・成長実感の言語化
2.失敗が許される会社だと思える組織風土
・手挙げによるプロジェクト参加制度
・メンター制度
・心理的安全性を高めるコミュニケーション機会
・失敗事例の共有会を開催する
3.管理職メリットの認知
・自社の管理職のメリットの棚卸し
・非管理職向けのマネジメント研修
・管理職の疑似体験
・社内報による管理職インタビュー
さいごに
本調査では、若手社員の昇進意欲に着目し、その実態や関連要因、価値観との関係について検討した。その結果、昇進意欲の高い若手社員ほどワークエンゲージメントが高く、仕事に対して活力や熱意を持って取り組んでいることが明らかとなった。
また、昇進意欲には「妥当な評価を受けている」という認識よりも、「自分の能力や成果を発揮できているという実感」や「周囲からの承認・支援を受けているという実感」が強く関連していた。さらに、昇進意欲が高く現在の組織での成長を志向する若手社員は、「努力は報われる」「失敗は許される」といった前向きな認識を持つ傾向がみられた。
一方で、「努力しても報われない」「失敗が許されない」と感じている層では、昇進意欲が低く、転職意向と結びつきやすい可能性が確認された。これらの結果は、若手社員が昇進を目指すかどうかが、単なる待遇や評価の問題だけでなく、自身の成長可能性や組織への信頼感とも深く関係していることを示唆している。
企業が将来の管理職候補を育成していくためには、評価制度の整備だけでは十分とはいえない。若手社員が能力を発揮し、その成果や成長を認められる経験を積めること、さらに挑戦や失敗を前向きに受け止める職場環境を整えることが重要である。昇進を「責任の増加」として捉えさせるのではなく、「成長や貢献の機会」として実感できる環境づくりこそが、今後の人的資本経営における重要な課題となることに期待したい。
マイナビキャリアリサーチLab研究員 中島 英里香 ・ 嘉嶋 麻友美