仕事や学びを組み合わせた新しい働き方・休暇スタイル
近年、働き方改革や学びの多様化が進む中で、新しい休暇のスタイルとして注目されているのが「ワーケーション」や「ラーケーション」だ。これらは、単なる休暇ではなく、仕事や学びといった活動を組み合わせることで、より充実した時間の使い方を実現する概念だ。
令和4年(2022年)3月の国土交通省 観光庁より発表された「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書によると、ワーケーションを「よく知っている」は21.8%、「なんとなく知っている」は44.2%となっている。あわせると66.0%の人がワーケーションを認知しているとの結果がでており、近年ではワーケーションという言葉は浸透してきているようだ。
出典:「「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書 令和4年3月」(国土交通省 観光庁)
より引用し作成
一方、ラーケーションは2023年に愛知県がラーケーションの日を全国に先駆けて導入したが、ワーケーションとラーケーションの違いやそれぞれの制度の目的、導入の背景については、まだ十分に理解されていないケースも多い。
本記事では、これらの言葉の意味や違いを解説する。新しい休み方が私たちの働き方や学び方にどのような影響を与えるのか、ぜひ参考にしてほしい。
ワーケーションとは何か?意味や目的を解説
ワーケーションとは
ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語であり、普段の職場や自宅とは異なる場所(旅行先や観光地、リゾート地など)で仕事と休暇を両立させる新しい働き方だ。この概念は、テレワークの普及とともに広まり、柔軟な働き方・働き方改革の一環として注目されている。
また、厚生労働省も下記のようにワーケーションをテレワークの一形態として位置づけている。
テレワークなどを活用し、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができる。
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
つまりワーケーションとは、単なる「休暇中の仕事」という位置づけではなく、仕事と休暇のバランスを取りながら成果を出すことを目的とした働き方となる。
ワーケーションの種類
国土交通省 観光庁のHPによるとワーケーションは大きく2つの種類に分けられる。
国土交通省 観光庁HPより図を引用
休暇型ワーケーション
まず1つ目が、有給休暇と組み合わせてリゾート地や観光地に長期滞在しながら、合間にリモートワークを行う「休暇型ワーケーション」だ。これは福利厚生の一環として導入されることも多く、従業員のリフレッシュやワークライフバランスの向上に寄与する。
業務型ワーケーション
2つ目が、仕事を主目的とし、地方のサテライトオフィスやコワーキングスペースを活用して通常業務を行う「業務型ワーケーション」だ。この業務型ワーケーションはさらに、地域課題の解決に取り組む「地域連携型」や、場所を変えて職場メンバーと議論を合宿形式で行う「合宿型」、サテライトオフィスやシェアオフィスで勤務する「サテライトオフィス型」に分かれる。
ブレジャ―
ワーケーションの種類とは別に、観光庁ではビジネス(Business)とレジャー(Leisure)を組み合わせた造語「ブレジャー」の推進も進めており、出張の機会の活用や出張先での滞在を延長するなどして、余暇を楽しむことも推奨している。
企業がワーケーションを導入するメリット
ワーケーションを導入するメリットとして、従業員にとっては中長期の休暇取得が容易になり、家族と過ごす時間が増えることで満足度の向上などが挙げられる。また、自然豊かな環境で働くことで新しいアイデアが生まれやすくなり、企業にとっても生産性や創造性の向上が期待できる。
さらに、地方での滞在を通じて地域経済の活性化にもつながるため、企業の社会的責任(CSR)やSDGsへの貢献という観点からも注目されている。こうした背景から、国や自治体もワーケーションの推進に積極的であり、制度整備や補助金の提供などの支援が進められているのだ。
ワーケーション・休み方に関する記事
マイナビキャリアリサーチLabでは、ワーケーションに関していくつか記事を公開している。ワーケーションの理解や事例として参考にしてほしい。
ラーケーションとは何か?意味や制度を解説
ラーケーションとは
ラーケーションとは、「ラーニング(学び)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語のことで、子供が学校を休んで家族とともに旅行などに出かけ、現地での体験を通じて学びを深める新しい休暇のスタイルである。2023年に愛知県が全国で初めて制度化したことで注目を集めた。
ラーケーションの広がりの背景には、子どもたちの「生きる力」や「非認知能力」を育む教育が求められていることが挙げられ、教室の中だけでは得られない体験を通じて、主体性や協調性、探究心などを育てることを目的としている。
また、子供だけでなく保護者にとっても、子供との時間を共有し、一緒に学びを深める機会となる。保護者が教育への関心を高めるきっかけにもつながり、家庭と学校が連携し、子供の学びを社会全体で支えるという理念に基づいている。
キャリア教育に関する記事
マイナビキャリアリサーチLabでは、小学生からキャリア教育に関していくつか記事を公開している。ラーケーションの理解や事例として参考にしてほしい。
ワーケーションとラーケーションの違いとは?
次にそれぞれを比較しながら違いをみていく。
目的の違い
「ワーケーション」と「ラーケーション」は、どちらも「休暇」と別の言葉を組み合わせた新しいライフスタイルだが、目的と対象者が大きく異なる。
- ワーケーション
「ワーク(仕事)」+「バケーション(休暇)」であり、働く大人が対象。主に企業のテレワーク制度や福利厚生の一環として導入されている。
- ラーケーション
「ラーニング(学び)」+「バケーション(休暇)」であり、子供とその保護者が対象。教育的な体験を目的とし、学校の出席扱いにも配慮された制度である。
制度の主体と仕組みの違い
ワーケーションは企業や自治体が主導して導入するケースが多く、働く場所や時間の柔軟性を高めることが目的である。一方で、ラーケーションは教育委員会や自治体が制度設計を行い、家庭と学校が連携して子供の学びを支える仕組みとなっている。
また、ワーケーションは「仕事の延長線上」にあるのに対し、ラーケーションは「学校教育の補完」として位置づけられている。
実施タイミングと頻度の違い
ワーケーションは、企業ごとで対応が異なっているが、一般的に社員が自由に日程を選んで実施できることが多く、頻度にも制限がない。一方、ラーケーションも自治体によって対応が異なっており、制度として年に数回(例えば、愛知県の場合、最大3日)と定められているなど、事前の届け出や学習計画の提出が必要な場合もある。
社会的な意義の違い
ワーケーションは、働き方改革や地方創生、企業の生産性向上といった経済的・社会的課題の解決を目的としている。一方で、ラーケーションは、子供の非認知能力の育成や家族の時間の確保といった教育的・家庭的価値の向上を目指している。
このように、両者は「休み方改革」という共通の文脈にありながら、目的や対象、制度設計、社会的意義などに違いがある。しかし、どちらも現代社会のニーズに応える新しい制度として、今後の広がりが期待されている。
導入のメリットと課題
ここからは、ワーケーションとラーケーションそれぞれのメリットと課題についてみていく。
家族・個人にとってのメリット:時間と体験の質が向上
ワーケーションやラーケーションの最大の利点は、家族や一人で過ごす時間の質を高められることである。特に共働き家庭では、長期休暇を取得することが難しいケースも多く、平日に休暇を取れる制度は貴重な選択肢となる。
特にラーケーションでは、子供が学校を休んで家族旅行に出かけることで、普段の学校生活では得られない体験を共有できる。自然体験や地域文化とのふれあいを通じて、子供の主体性や協調性、探究心などを育むことができる点は大きな魅力だ。また、ラーケーションとワーケーションを組み合わせて行うことも可能だ。
企業にとってのメリット:柔軟な働き方と人材の定着
ワーケーションは、企業にとっても人材の定着率向上や生産性の向上といったメリットがある。従業員が自分に合った働き方を選べることで、エンゲージメントが高まり、離職率の低下にもつながる可能性もある。
また、普段とは違った地域のワーケーションを通じて、地域課題の解決や新規事業の創出に貢献する「地域連携型ワーケーション」も注目されており、企業の社会的責任(CSR)やSDGsへの取り組みとしても評価されている。
地域社会へのメリット:観光振興と関係人口の創出
地方自治体にとっては、ワーケーションやラーケーションを通じて関係人口の創出が期待できる。特に平日の旅行需要が増えることで、観光業の閑散期対策にもつながる。
また、地域の教育資源や自然環境を活用した体験プログラムを提供することで、地域の魅力を再発見してもらう機会にもなる。これにより、将来的な移住や多拠点生活への関心を高める効果もある。
制度導入の課題:公平性と運用の難しさ
一方で、制度の導入にはいくつかの課題も存在する。ワーケーションでは、企業規模や職種によっては導入できない場合もあり、ラーケーションも保護者の仕事や自治体の状況によっては、取得できる家庭とできない家庭の格差がある。経済的・職業的な背景によって制度の活用に差が出る可能性があるのだ。
また、学校や企業側の理解が不十分な場合、制度が形骸化してしまう恐れもある。制度を有効に機能させるためには、家庭・学校・企業・自治体の連携が不可欠であり、制度設計や運用ルールの明確化が求められる。
「休み方」から社会を変える
ワーケーションとラーケーションは、単なる新しい言葉ではなく、私たちの働き方・学び方・生き方に深く関わる「休み方改革」の象徴である。これらの制度は、時間の使い方に柔軟性をもたらし、家族や地域とのつながりを再構築する可能性を秘めている。
ワーケーションは、働く場所や時間にとらわれない自由な働き方を実現し、企業と地域の双方にメリットをもたらし、ラーケーションは、子供の学びを家庭や地域と連携して支える新しい教育の形として、今後の広がりが期待されている。
制度の普及には課題もあるが、家庭・学校・企業・自治体が連携し、柔軟で多様な選択肢を認め合う社会を目指すことが重要だ。私たち一人ひとりが「どのように休み、どのように学び、どのように働くか」を考えることが、私たちの働き方を見直す第一歩となるのではないだろうか。
最後に、関連する記事を紹介するので、参考にしてほしい。