マイナビ キャリアリサーチLab

分散化するワークプレイスにおける「再場所化」の機能
―創造的チームワークに向けて

分散を続ける職場

COVID-19による感染防止対策として在宅勤務が推奨されている。こんな時代に、リアル・オフィスについて語ることは時代錯誤と思われるかもしれない。

確かに在宅勤務の増加はオフィスの縮小、つまりコスト削減につながる。しかし、分散を続けるワークプレイスにおいて生産性そのものは高まるのかと問われると、簡単には結論は出せないのではないか。

分散して働くことは、家事や育児、そして介護などのワーク・ライフ・バランス課題に直面している従業員から見れば魅力的である。つまり、「働き方改革」としてのワークプレイスの分散化である。しかし、その一方で忘れてはいけないのは、分散化によって単に従業員がバラバラになり、従業員間の交流が生まれないならば、その職場に集団的創造性は生まれないという現実であろう。

なお、COVID-19の感染拡大以降の急激な分散化は、まず、会社のオフィスから離れる分散化であるが、COVID-19の前から進展していたのはノンテリトリアル・オフィスを導入し、オフィス内でも人を流動化させる分散化であった。後者は、一つのワークプレイスに集まって分散しているとも言える。一方、オフィス、在宅、サテライト、コワーキングスペースなど複数のワークプレイスに分散しながら、同時にWeb会議システムでは一体感が求められ、職場の仲間単位で長時間寝食を共にするワーケーションが企画されることもある。

どうやらワークプレイスの現在地はとても複雑らしい。分散に向けて一方向に進むのではなく、「分散しつつ、集中すること」又は「集中しつつ、分散すること」が求められるのである。知識労働者(Knowledge Worker)の場合、時間内に指示された作業をしていても成果は生まれない。自由な発想を活かした集団的創造性がゴールなのである。

場所(place)と空間(space)

この混乱したワークプレイスを整理するために、一つの対なる概念を補助線として導入したい。それは、都市社会学における場所(place)と空間(space)の概念である。これらの言葉は、異なる意味をもっている。

まず、「空間」は物理的な3次元空間(縦・横・高さ)を考えればよい。一方、この均質な透明な「空間」に対して「場所」は、人間によって意味づけられ、相互行為が生まれる交流の場でもある。エドワード・レルフ『場所の現象学―没場所性を越えて』(ちくま学芸文庫)によれば、人類は、物理的な「空間」に自らの直接経験による意味づけを行って「場所化」しているのである。

ただし、現代社会では、「没場所化」が急速に進んでいる。意味づけられた場所は、均質な空間に戻っているのである。上記の都市社会学的な議論は、寺や神社などの宗教的場所、商店街などの共同体の場所が均質的な空間に変わることと、それに対抗する「再場所化」について検討している。これらの議論をワークプレイスに重ね合わせると、オフィスの変化も整理できるのである。

まず、オフィスは、もともと均質な空間が理想とされていた。それが効率的だと考えられたのである。20世紀初頭にアメリカ中心に広がった、作業員を効率よく管理する「テイラリスト・オフィス(Taylorist Office)」はその典型である。しかし、この作業効率だけが重視される場所では、われわれは創造的にはならないのである。自分たちのオフィスに対する愛着や職場アイデンティティという意味づけを前提として、職能を越えたコミュニケーションの参加開放性、自由な発想を言い合える開示開放性が生まれることが「クリエイティビティ・オフィス」の達成と言えるのである。

ところが、「クリエイティビティ・オフィス」は一つの理想であって自由を確保したうえでのオフィスの「再場所化」は失敗するかもしれない。結果的にバラバラな空虚な空間が生まれる危険性もある。

流動的再場所化を目指して

私は、以前あるIT企業のノンテリトリアル・オフィスの観察・インタビュー調査を行ったことがある(詳しくは、松永伸太朗・梅崎修・藤本真・池田心豪・西村純・秋谷直矩(2020)「ノンテリトリアル・オフィスの空間設計と身体作法 : 流動的再場所化による創造的チームワークの達成 」『日本労働研究雑誌』62(7))。人事担当者や管理職へのインタビューに加えて、特に観察に関して1日の勤務時間中に徹底的に行った。2名の管理職への全会話の録音(トイレや機密情報は除く)、合計4台のビデオカメラ撮影、会社が保有する画像データの入手によって、ノンテリトリアル・オフィスの人の移動履歴を分析できた。

はじめに分析結果を述べよう。人事担当者に意図としては、部署横断的な自由な移動を生み、そこでの交流が集団的創造性につながるという流れが想定されていた。しかし実際は、ノンテリトリアル・オフィスであっても、その利用に関しては、全面的な流動化ではなく、利用に関して緩やかな合意、つまり実質上の固定席(空間の私有化)が存在した。また、確かに固定席の廃止は、それ以前と比べると従業員の流動化という「脱場所化」を部分的にもたらすが、仕事連携について問題を発生させていたのである。

人の流動化によってチームワークが難しくなるという問題に対しては、管理職が中心となり、フリースペースをチームで一時的に共同利用したり、分散している人たちがお互いの視野の範囲に移動したりする身体作法があった。たとえば優れた管理職は、仕事の終了時間が近づくと自分の身体を部下から発見されやすい場所に位置づける。1日の終わりに上司に報告しやすいようにするのである。われわれは、スポーツのように職場を眺めた。働く人々は、無意識の行動を含めて、まるでバスケットボールやフットボールのプレーヤーのようにお互いの視認可能性の範囲を身体化しているのである。

われわれがこの働き方の分散化で目指すところは、この調査を検討することで明らかになる。われわれの研究では、図1のような分類図を考えた。まず、固定席は、確かに同じ部署の仲間意識を高め、部署内のコミュニケーションを活性化するであろう。つまり、従来の職場は、固定的×場所化なのである。しかし、これでは部署ごとに閉じてしまい、集団的創造性にはつながらない。一方、従業員が働く場所を選べる流動化とともに職場の空間化が進むと、流動的脱場所化という「バラバラの危機」が生まれる。当然、集団の強みも失われるであろう。

【図1】 資料)松永・梅崎・藤本・池田・西村・秋谷(2020)

われわれの目標は「流動的再場所化」なのである。働く場所と場所を流動化しつつ、「場所の力」を取り戻さなければならないのである。調査では、管理職の優れたリーダーシップに依存している姿が明らかになったが、これだけでは不十分であろう。分散したオフィスにもっと意味づけを行い、相互行為を生み出す必要がある。どのような分散型オフィスが現れるのであろうか。

COVID-19の感染拡大は、不測の事態であるが、流動的再場所化への向けた実験的試行のチャンスであるべきであろう。

マイナビキャリアリサーチLab特任研究顧問 梅崎修

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