世界中のどこにいても活躍できる職場環境を実現。成功の秘訣は「コミュニケーションの頻度」(ベルトラ株式会社)
「VELTRA.com」をはじめ、現地体験型のアクティビティ予約サイトを運営しているベルトラ株式会社。世界の旅行会社と国内の交通機関・観光施設を結ぶ新規事業なども展開し、「心ゆさぶる体験」を実現する総合ソリューション企業だ。
職場環境の充実を目指し、2016年には在宅勤務制度を導入。「働き方改革関連法」が公布された2018年よりも早い段階で、柔軟な取り組みをスタートさせている。
その後、コロナ禍を経て、2021年に「Work From Anywhere」制度を実施。日本国内に限らず、世界のどこにいても働ける職場環境を実現させた背景には、どのような想いがあったのか──人事部 東京オフィスマネージャーの木下さんに話を聞いた。
ベルトラ株式会社
設立:2004年
事業内容:OTA事業(現地体験型アクティビティ専門予約サイト運営)、観光IT事業
人事部 東京オフィスマネージャー 木下 聖希 さん
大学卒業後に航空会社に入社し、グランドスタッフ(地上職)を経て、人事を経験。その後はホテルへ転職し、労務を担当。プライベートで訪れたハワイ旅行でベルトラが提供していたサービスを利用したことがきっかけで興味を持ち、2017年にベルトラ株式会社に入社した。現在はマネージャーとしてチームをまとめ、採用、人事制度の策定なども含めた幅広い業務を担当している。
目次
「Work From Anywhere」誕生の背景
100%出社からフルリモート勤務、そしてハイブリッド勤務へ
ベルトラでは2021年11月より「Work From Anywhere」を導入されています。「日本はもちろん、世界中どの国からでも働ける」というユニークな取り組みですが、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?
木下:2016年より在宅勤務制度はありましたが、利用していたのは主に遠方に住んでいる社員。多くの社員は100%出社していました。そこからコロナ禍になり、全社員が一斉にフルリモート勤務に切り替えたんです。それが「Work From Anywhere」を始めるきっかけとなりました。
今までは人事として、出社した社員の顔を見て声をかけ、様子を見守ってきました。「あの人は体調が悪そう」「入社したばかりのあの人をランチに誘おう」と考えてフォローしていたのですが、出社ができなくなり、物理的に不可能になったわけです。そうなると、社員の置かれている状況がまったく見えなくなってしまいました。
そこで、従業員満足度を調べるパルスサーベイを導入し、まずは社員1人ひとりの声を聞くことにしました。健康状態や上司とのコミュニケーション、同僚とのコミュニケーション、さらには現在の就業環境についての満足度も調査しましたね。2021年の春から隔週で調査していくと、さまざまなコメントが寄せられました。
「家族がいるので仕事に集中しづらい」「専用デスクがなくベッドに腰掛けて対応している」など、本当にリアルな声ばかりでした。在宅勤務は予想以上にストレスがかかっているのではないか。そんな現状が改めて可視化されたと思いました。そこで、近所のカフェや図書館など、自宅以外の環境での勤務ができるように経営陣に働きかけることにしたんです。
異なるニーズが表面化し、制度内容を見直すことに
最初は「在宅勤務の限界」に直面したところから、制度設計が始まったのですね。以前から潜在的にあったニーズが、はっきりと見えてきたのでしょうか?
木下:そうですね。ですから最初から“海外”を意識していたわけではありません。「コロナ禍」で見えてきた課題を改善しようとしたところ、また別のニーズも発生しました。
たとえば「両親の介護で実家に戻らないといけない」「家族の入院に付き添いたいが、空き時間に病院から仕事ができないか」といった相談が寄せられるようになりました。さらに、配偶者の海外勤務に同行することになった社員が2名、同じ時期に現れて。偶然ですが、どちらも女性マネージャーとして活躍しており、キャリアを諦めずに仕事を続けたいと言ってくれたんです。
多様化する働き方に対応するためにも、「世界のどこからでも勤務できる環境を整える時期なのではないか」と判断。まずは国内で始めていた取り組みを、海外でもできるように変えて「Work From Anywhere」と名付けました。
最初は在宅勤務、さらに国内の自宅以外の場所、海外へと少しずつ対象を広げて発展していった結果、非常にスムーズに導入が進みました。現在はワーケーションとして利用している社員も多くなり、活用が進んでいます。「1ヶ月間、海外で過ごしながら働き、休暇も取ってリフレッシュする」などの使い方も大歓迎です。
もちろん会社としては誰がどこで働いているのかをきちんと把握するために「Work From Anywhere」は申請制ではありますが、健康状態もパルスサーベイを通じてチェックしています。
コロナによるリモートワーク体制でも生産性向上を意識
採用時の魅力づけにもつながった「Work From Anywhere」
「Work From Anywhere」を本格的に導入してみて、社員の方々の反応はいかがでしたか?
木下:非常に好評です。入社したばかりで有給休暇の付与がされていない新入社員も利用できるため、「ワークライフバランスが取りやすく、リフレッシュできている」との反応もありました。最近では「Work From Anywhereに惹かれて、入社しました」と語る方も増えています。
基本的には入社年次は関係ありませんし、1人で仕事が完結できるのであればいつからでも活用いただいてかまいません。
自ら問題解決の糸口を探していた社員たち
かつては100%出社が当たり前だったところから、働き方が大きく変わり、戸惑いなどはなかったのでしょうか?
木下:まったくなかったわけではないと思います。ただ、世の中全体が「フルリモートにシフトしよう」というタイミングでしたので、必然的に変わらざるをえなかったとも言えますね。もしかしたら上司の立場だった社員たちは「部下の状況がつかみにくい」と悩んでいたかもしれません。
印象的だったのは、そうした悩みを解決しようと、社員たちの間から自然に「コミュニケーションを取っていこう」という意見が出てきたことです。出社していた時と同じように、週1回は必ずミーティングを行っていましたし、オンラインで顔を見ながらコーヒーブレイクを取り、雑談タイムを設けたりもしました。「日々のモヤモヤを持ち寄って、言い合おう!」と盛り上がっているチームもありましたね。
ですから想像以上に、スムーズに変わることができました。子育て中の社員も多いので「子どもと過ごす時間が増えて嬉しい」「往復の通勤時間が削減できるだけで、体力的にラクになった」との意見も、たくさん寄せられました。
働き方を変えても、生産性向上を意識
働き方の変化によって、組織全体への影響はありましたか?
木下:現在は出社とリモートワークが組み合わさった「週2日出社のハイブリッド型」が中心となり、コミュニケーションの仕方にも大きな変化があったと感じています。特に「効率良く仕事を進めよう」という意識が芽生えるようになりましたね。
生産性を高めるためにコミュニケーションを取る機会が以前より増えましたし、チャットツールを活用することにより、情報共有のスピードも上がりました。雑談もできるような“憩いのチャンネル”も作り、小さなことでも遠慮なく話し合える関係を築くように心がけています。
働きがいを実感してもらえる仕組み作り
「人が好き」という気持ちが根底にある社員たち
現状に合わせて、社員1人ひとりが試行錯誤し、アイデアを出して乗り越えてきた様子が伝わってきます。そうしたカルチャーは、以前から根付いていたのでしょうか?
木下:そのとおりです。ほとんどが人事側の仕掛けではなく、現場の社員からのアイデアです。おそらく、みんな「人が好き」で、積極的にコミュニケーションを取りたいと思っているのでしょう。
私自身も以前、現場の社員の企画したオンラインイベントに参加しましたが、何を話しても大丈夫という雰囲気があって心地良かったです。社員の誰かを毎回ゲストで呼び、その人に自由にトークしてもらっていました。トークの最中はオフィスに一緒にいるように会話しても良いですし、画面オフで仕事をしていてもOK。トークのテーマも仕事だけでなく、子育てや趣味など、本当に自由でした。
また年2回はキックオフイベントを開催し、全社員が集まってコミュニケーションを取る機会も設けています。地方に住んでいる方も東京に集まり、顔を合わせて話すことを大切にしています。
社員の働きやすさを支えるには
他にも社員の「働きやすさ」を支えるさまざまな施策をされていますね。代表的な取り組みについて、教えてください。
木下:たとえば「オンライン産業医&健康相談サービス」は、オンラインによる24時間対応で産業医に健康相談ができる取り組みです。海外にいてももちろん相談できますし、家族の怪我や病気に関する相談サポートにものってもらえます。チャットで気軽に質問できるので、病院に行くべきかどうかを判断するのに役立っていますね。
またスマホアプリと連動して自分の健康状態をチェックし、ウォーキングイベントに参加するとポイントがもらえる仕組みも導入しています。健康と「ポイ活」の両方のメリットが享受できるため、とても人気です。
副業も可能で、全社員の20〜30%が携わっています。エンジニアやデザイナーが個人で案件を受託していることが多いですが、中には「気分転換のために身体を動かすアルバイトをしている」というアクティブな方もいます。デスクワークが多いので、あえて身体を動かす仕事を選んでいるそうです。
組織への一体感を生むための「コミュニケーション施策」
リモートワークが増えると「会社への帰属意識が薄くなる」という意見もあります。そうした課題については、どのように考えていますか?
木下:当社にとっては「帰属意識」よりも、「組織への一体感」をどのように持ってもらうかが課題になっています。そのため、最近ではコミュニケーション促進に向けた施策によりアクセルを踏み始めました。
まず始めたのが「部活動」です。リアルでもオンラインでもつながれるよう、現場の社員主導で自由に集まり、楽しんでもらえるようにしています。そして「ベルトラカレッジ」もスタートしました。
定期的に勉強会を開催し、社員が持っているナレッジをシェアしています。第1回目は「AI自慢」と題して、AIツールをどのように使いこなしているのかを学び合う時間になりました。「こうやって使えば良いのか」「あの人が詳しいとは知らなかった!」とさまざまな感想が飛び交い、有意義な時間になったと思います。
第2回目は私が「人事としてのスタンス」について語りました。社員のみなさまに、自律したキャリアを築いていただきたい旨を伝えましたね。今後も場所に関係なくいつでも参加でき、自分の意見を言い合えるコミュニティを形成していきたいです。
ベルトラらしさは「コミュニケーション頻度」にある
職場環境のさらなる充実と自律型人材の育成
「働きがい」と「働きやすさ」を両立させるために、意識されていることはありますか?
木下:「働きやすさ」については、以前より力を入れていましたが「働きやすい=怠ける」にはならないように、枠組みを変えようとしています。
「働きがい」については従来の組織のあり方を見直し、組織改編を行っていこうとしています。具体的には「自律型人材」を増やし、自分がチャレンジしたいことを意識しながら働くマインドを持てるようにしてもらいたいと考えています。
やはり「言われるがままに働く」のでは、働きがいにはつながりません。社員自身が自ら何かを生み出すことができる組織作りを目指し、少しずつ形にしている最中です。少しずつマネージャーを通して話してもらうのはもちろん、研修やワークショップも取り入れながら「自分の考えを相手に伝えること」を重視して進めています。
コミュニケーション頻度が多いことをポジティブに捉えられるか
ベルトラでは、社員同士のコミュニケーションを大切にするカルチャーが根付いていると感じます。採用の時点で「この人はベルトラの雰囲気に合いそう」と感じる判断軸があるのでしょうか?
木下:もちろん、社員1人ひとりに個性はありますが、「カルチャーにフィットしそう」と思うポイントに共通点があると感じますね。2023年には採用のためのガイドラインを策定し、求める人材についての言語化も進めています。
ベルトラでは、日頃からコミュニケーションを取る回数が非常に多いんです。上司と部下の1on1面談も頻繁に行いますし、ミーティングもよく開かれています。その結果、自然と信頼関係が築けているのではないでしょうか。
1on1で何を話すのかは、社員の裁量に任せています。ですからプライベートなことでも、業務についてでも、自由にテーマを決めていただく対話の時間として活用いただいています。入社後の1ヶ月は、オンラインで毎朝朝礼を行い、顔を見て必ず声を掛け合っている部署もありますよ。
「毎日のようにコミュニケーションを取り、対話する時間が多い」という点を、ポジティブに捉えられるかどうか。それが「ベルトラでやりがいを持って働けるかどうか」の判断軸にもなりそうです。
どこにいても活躍できる人材育成を目指して
活躍できる環境とキャリアを、全力で応援したい
今後の目標についても、お聞かせください。
木下:人事としては「どうすれば社員が活躍できるか」を常に考え、働くモチベーションを高めてもらおうと努力している最中です。
これからは、ベルトラの中だけで活躍できる人材ではなく、どんな組織においても活躍できる人材になっていって欲しいと考えています。もちろん、当社で長く活躍して欲しい気持ちはあります。ただ、外へ出て視野を広げ、また戻ってくる選択肢もあるのではないかと思うんです。実際に再雇用に至り、活躍している方もいます。
ベルトラのビジョンとミッションに共感してくれる方は、しっかりコミットして欲しい。一方でベルトラを「キャリアアップのための場所」と位置付ける方は、成長のステップにして欲しい。そして、他に活躍できる場所が見つかればそちらに移り、再び戻ってきてノウハウを共有してくれれば、さらに嬉しい。そうした想いは常に持っています。
また再雇用した社員からは「ベルトラ以外の企業に勤めて、よく分かった。こんなに働く環境が良い場所は、他にはないと思う」と、よく言われます。働きやすい制度の充実はもちろん、一緒に働く社員の人柄やコミュニケーションの取りやすさが、圧倒的に良かったと実感するそうです。
これからも「働きやすさと働きがい」を両立するベルトラのカルチャーを守り、会社とともに成長していきたいです。
編集後記
ベルトラは女性管理職の割合が45%と高く、「えるぼし認定」最高位の3つ星を獲得している企業です。しかし性別に関係なく、「働きたい気持ち」に応える制度を整え、すべての社員のキャリアデザインをサポートしているのではないかと感じました。
またリアルで会うことの喜びに縛られず、どうすれば「より働きやすい環境にできるのか」を考え、試行錯誤できる風土も根付いているように思います。今後は社員のキャリア自律を促進していこうとされていますが、すでに「自律の芽生え」は起きているのかもしれません。トップダウンではなく、現場の社員から自然と声が上がるボトムアップ型が上手く機能している事例だと思います。
執筆:林 美夢