レジリエンスとは、困難やストレスに直面した際の耐性と回復力を指す。現代社会では、予測困難な変化に対応するために、個人や組織にとって重要な能力として注目が高まっている。本記事では、レジリエンスの意味やその重要性、そしてレジリエンスを高める方法について解説していく。
レジリエンスとは
レジリエンス(resilience) とは、困難やストレスに直面した際の耐性と回復する力を指す。 言葉自体は「跳ね返る」や「弾む」などの意味を持つラテン語の「resilire」に由来し、もともとは物理学で外部からの力で変形した物体が元に戻ろうとする力のことを指していた。
心理学においては1955年に発達心理学者のエミー・E・ウェルナーが行った、貧困や両親の不仲など、困難な家庭環境で育った子どもたちへの追跡調査で用いられたことがよく知られている。このような環境で育った多くの子どもたちに非行や学習障害などのネガティブな影響が見られた一方で、子どもたちの3割ほどは健全な成長をして社会適応していったというものだ。
ウェルナーはこの子どもたちの社会適応の差をそれぞれが持っている「レジリエンス」の差だと指摘し、近年では「精神的回復力」や「適応力」として、困難やストレスにも打たれ強く乗り越えていく力を示す概念として用いられている。
レジリエンスは生まれつきの特性だけでなく、後天的に育むことが可能とされる。教育や経験、周囲の支援によって高めることができるため、現代社会においては「鍛えるべき能力」として位置づけられている。
ビジネスにおいてレジリエンスが重要な理由
近年、ビジネスの現場でレジリエンスが注目されている背景についてはいくつかの要因がある。主なものについて見ていこう。
予測困難なビジネス環境
現代はVUCA と呼ばれ、気候変動、パンデミック、テクノロジーの急速な進化など、ビジネス環境が予測困難になっている。こうした状況下で、企業が持続的に成長したり、働く個人が環境に適応しながらキャリアを築いたりするには、変化に柔軟に対応できる「レジリエンス」が不可欠だ。
レジリエンスが高い状態であれば、変化や危機に直面しても迅速に対応し、ダメージやストレスを最小限に抑えながら、回復と再構築を図ることができる。
パフォーマンス向上の必要性
時代の変化や人手不足の状況から、今まで以上に組織としてのパフォーマンス向上が求められる時代になっているという点において、従業員一人ひとりのレジリエンスも重要になっている。
組織が課題や予期せぬトラブルに面しても、従業員それぞれが精神的に安定し、前向きに業務に取り組むことができれば、チームの生産性や創造性の向上にもつながるからである。
健康経営とメンタルヘルスの重要性
レジリエンスは昨今注目度が増している「健康経営」の観点からも注目されている。健康経営では、従業員の身体的な健康増進とともにメンタルヘルス対策も重視されているが、レジリエンスを高めることは、ストレスへの耐性や適応力などを高めることでもあり、メンタルヘルス不調を防ぐことにつながるのだ。
法政大学・梅崎修氏と武蔵大学・森永雄太氏による、健康経営に関する以下の対談の中でも、従業員の健康促進の方法として、業務負荷を軽減するだけではなく、疲れても回復できるレジリエンスが高い社員を育てることの重要性が語られている。
このように、レジリエンスは企業や組織、個人などさまざまな観点から重要度が増しているが、今回は組織のパフォーマンス向上につながる従業員一人ひとりのレジリエンスを高めるという視点から解説していく。
レジリエントな人(レジリエンスが高い人)の特徴
まずは、従業員のレジリエンスを高めるとどのような状態になるのか、「レジリエンスが高い人」が持つ特徴を見ていく。
柔軟性と適応力
レジリエンスが高い人の最大の特徴は、柔軟性と適応力である。予期せぬ事態やトラブルに直面した際にも、状況を受け入れ、冷静に対応する力を持っている。また、柔軟性が高く物事を多面的に捉えられるため、組織メンバーなどの多様な考え方を取り入れながら状況に応じた対処ができるのも強みである。
感情のコントロールと自己認識
レジリエンスが高い人は、自分の感情を適切に認識し、コントロールする能力にも長けている。壁にぶつかったときでも状況や自身の感情を正しく認識し、ネガティブになりすぎずに気持ちを切り替え、必要な対処をしていくことができるのが特徴だ。
楽観性と前向きな思考
困難な状況でも希望を持ち、前向きに考える「楽観性」もレジリエンスの重要な構成要素である。失敗を経験してもそれがトラウマとなり、挑戦しなくなってしまうのではなく、失敗の理由を考えて次に成功させる方法を考えて再び挑戦していくことができるのも特徴の一つだ。
信頼関係の構築と支援の活用
他者との良好な関係を築き、必要なときに支援を求めることができるのも、レジリエンスが高い人の特徴である。普段から周囲との信頼関係を築いており、自身では対処できない業務やトラブルが発生した場合には、周囲に意見を求めるなど適切にサポートを求めて一緒に対処していくことができる。
レジリエンスを高める6つの要素
レジリエンスが高い人の上記のような特徴は、具体的にどのような特性から生まれているのか。次にレジリエンスを構成する6つの要素について見ていこう。
自己認識
自己認識は、自分の感情、思考、行動、価値観、強みや弱みなどを客観的に理解する力である。困難な状況において冷静に自分を見つめ、状況の好転のために自身ができることと他者に頼るべきことなどを的確に選ぶために不可欠な要素である。
現実的楽観性
現実的楽観性とは、未来に対して前向きな見通しを持ち、目標に向けて行動できる能力である。根拠のない希望を持つような単なる楽観主義とは異なり、現状を正確に把握したうえで、困難やリスクを正しく認識しつつも、状況を好転させられるポイントにフォーカスして前向きな行動を選択する力である。これはストレス耐性を高め、精神的な回復を早める要因となる。
精神的柔軟性
トラブルや課題があっても、状況を多角的に捉えて柔軟に受け入れる能力である。ストレスのかかる場面でも視野が狭くならず、問題の本質を捉えて柔軟に対応していく姿勢は、変化の激しい現代社会において、心の安定と成長をもたらす。
自制心
自制心とは、自分の感情や思考、行動を適切にコントロールし、長期的な目標や価値に沿った行動を選択する力である。困難や課題に直面したときには、不安・怒り・焦りといった強い感情が生じやすいが、自制心があるとそれらの感情に流されず、冷静に状況を見極めることができる。
他者とのつながり
信頼できる人とのつながりを築く能力も、レジリエンスを構成する要素の一つだ。家族や友人、同僚などとの関係性を深めることで、課題に直面したときに手助けを求めることができ、課題を乗り越えやすくなる。
また、そのような存在は心理的な安心感をもたらし、孤立感の軽減やストレスの緩和にもつながる。
自己効力感
自己効力感とは、「自分にはできる」という感覚だ。これは行動の原動力となり、困難な状況でも前向きに挑戦する姿勢を支える。失敗やトラブルがあったときにも、自分には無理だと挑戦を諦めずに自分なら乗り越えられると思える後ろ盾になる。
自己効力感については以下のコラムでも解説されているため、参考にしてほしい。
従業員のレジリエンスを高めるには
では、そのような6つの特性を伸ばしてレジリエンスを高めるためにはどのような方法があるのか、主な方法について見ていく。
成功体験の機会をつくる
レジリエンスの基盤となるのが「自分にはできる」という感覚であり、困難に直面したときに前向きに行動する力を支える「自己効力感」である。これは小さな成功体験を積み重ねることで育まれるため、そのような機会をつくることが重要だ。
企業内で考えるならば、目標設定の際に、大きな目標のほかにも段階的な目標設定や達成可能なタスク設計も行うよう促すなどの方法があるだろう。より目標を達成しやすい状況をつくることで、小さくても成功体験を積み重ねられ、自己効力感をあげることにつながる。
心理的安全性の高い職場づくりを行う
心理的安全性とは、「この職場では自分らしくいても大丈夫」「失敗しても責められない」という安心感のことであり、レジリエンスを育てる環境的要因として極めて重要である。
心理的安全性が高い職場では、従業員は困難な状況でも助けを求めやすく、挑戦や改善提案を恐れずに行える。これにより、失敗を乗り越える経験が増え、自己効力感や現実的楽観性、精神的柔軟性を向上させてレジリエンスを高めることにつながるだろう。
心理的安全性については以下のコラムでも解説している。こちらも参考にしてほしい。
思考パターンを変える支援を行う
多くの人は、失敗や批判を受けたときに「自分はダメだ」「またうまくいかないに違いない」といったネガティブな思考に陥りがちである。こうした思考は、自己効力感を低下させ、行動の停滞やメンタル不調の原因となる。
このように実際の状況よりも過剰にネガティブな思考に陥ってしまうこのような認知のゆがみに気づき、より建設的な捉え方をするように思考パターンを変えることがレジリエンスを高めることにつながる。
ABC理論
思考パターンを変えるうえで知っておきたい考え方として「ABC理論」がある。これは、出来事(Adversity)から信念・認知(Belief)が生じ、結果(Consequence)としての感情・行動が引き起こされるとする論理療法だ。
最終的に生じる感情・行動は、出来事そのものではなく、それをどう捉えるかによって変化すると考える。この理論を理解して自身が物事を捉える際の癖を把握し、前向きに解釈するように意識していくことで、思考パターンを変えることができる。
企業としては、上司との定期的な1on1や振り返りの場を設定し、「最近の困難をどう乗り越えたか」を共有することなどで、ポジティブな思考習慣が根づきやすくなる。日常的にリフレーミング(視点の切り替え)を促す仕組みを取り入れることが重要だ。リフレーミングについては以下のコラムも参考にしてほしい。
レジリエンスに関連する用語
最後に、レジリエンスに関わる用語を紹介する。
ネガティブ・ケイパビリティ
ネガティブ・ケイパビリティとは、 答えの見つからない状況に直面した際に、焦りや不安に駆られて早急な判断をするのではなく、熟考を経て正しい判断を導く能力や、そのようなあいまいな状況への耐性を指す。
すぐに解決できないような困難や課題に直面した場合にも、その状況から逃げずに向き合い、解決策を探すことのできる能力は、レジリエンスと相性のよいものとされている。
ネガティブ・ケイパビリティについては、以下の記事でキャリアやZ世代の傾向との関係を考察している。そちらも参考にしてほしい。
まとめ
VUCA時代において、企業も個人も予測不能な変化に直面しており、こうした環境下で企業や働く個人が変化に対応して成長を続けるためには、レジリエンスという力が不可欠である。
レジリエンスは先天的な資質だけでなく、後天的に育むことが可能であり、個人の努力と組織の支援によって高めることができる。レジリエンスの重要性を再認識し、日々の細かな意識改革の実践を通じてその力を育てていくことが求められる。
企業においても、従業員のレジリエンスを高めるべく、心理的安全性の高い職場づくりや従業員が自己効力感などを持ちやすい仕組みづくりを考えていくことが重要だ。