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チームの心理的安全性を高めるには?言葉の意味やぬるま湯組織との違いとともに解説!

キャリアリサーチLab編集部
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心理的安全性とは

心理的安全性(psychological safety)」とは、組織において自分の意見が他のメンバーから拒絶されることや、非難されることはないと確信できる状態を指す。この状態下では、メンバーは率直に意見を述べることはもちろん、新しい意見や失敗を受け入れることができる。これは生産性の高いチームに見られる特徴であり、1999年にハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱された。

たとえば、会議で発言した後に「どのように思われただろうか?」と同僚の反応を気にした経験はないだろうか?中には上司の顔色を窺って、反論をぐっと飲み込んだ人も少なくはないだろう。そのような“沈黙”は組織にとってプラスではなく、むしろ、マイナスになる場合が多い。特に、医療業界や航空業界など人の命を預かる現場では、情報共有ができていないことで事故を引き起こす可能性もある。

心理的安全性の高い職場ほど高いパフォーマンスを発揮

「心理的安全性」が高い職場では、発言によって人間関係が悪化することがなく、ネガティブな報告や否定的な意見も拒絶されることはない。実際、優秀なチームほどミスの報告が多いとされている。これは、チーム内で失敗を共有できる信頼関係が築かれているため、スピーディーに改善活動が行われ、結果的に高いパフォーマンスを発揮していたと考えられる。

ダニエル・キム教授が提唱する「成功循環モデル」

「心理的安全性」を考える上で欠かせない理論がある。それがマサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した「成功循環モデル(Theory of Success)」だ。この理論では、組織開発における人間関係の重要性を説いている。

たとえば、「利益を上げろ」「契約数を増やせ」など、仕事の成果を高めることから組織開発を行うと、メンバーのモチベーションが低下し、パフォーマンスも落ちてしまう。一方で、人間関係の質を高めることから始めれば、組織全体の思考や行動、結果に好影響をもたらし、パフォーマンスが向上することを示している。

Google社が行った「プロジェクトアリストテレス」

社内調査から人間関係の重要性を発見された例もある。それが、2012年にGoogle社が実施した「プロジェクトアリストテレス(Project Aristotle)」だ。このプロジェクトでは、Google社に勤務する約180チームを分析し、どのようなチームが高い成果を挙げているのかを4年にわたり調査した。その結果、優秀なチームほど「心理的安全性」が高いことがわかった。

心理的安全性が高いことのメリット

このGoogle社の調査により「心理的安全性」という概念は、世界中のビジネスパーソンの間で一躍話題になった。それでは、チームの生産性を高めるとされる「心理的安全性が高い職場」のメリットについて更に詳しく見ていこう。

新しいアイデアの創出や学習サイクルの促進

「心理的安全性」が高い職場では、発言により人間関係が損なわれる心配がないため、メンバーの意見や新しいアイデアも共有されやすく、失敗に対する対応策も講じられやすい。また、このような学びのサイクルが繰り返されることで、環境の変化にも強くなる。加えて、ディスカッションを繰り返すことで、組織のビジョンがチームに浸透し、目標達成に向けて一致団結しやすいという利点も挙げられる。

多様な人材が活躍できる

既存のやり方にとらわれない新しいアプローチやイノベーションを起こすためには、自分とは異なる視点を持った人材が欠かせない。そのため、昨今は組織における多様性が重要視されている。

そんな中、「心理的安全性」がうまく機能している職場では、メンバー同士に価値観の違いがあっても、率直に意見を交わすことができる。その結果、多様な人材が活躍しやすくなり、職場のダイバーシティが進みやすいという特徴がある。

エンゲージメントが高い

「心理的安全性」が高い職場では、失敗した際に咎められたり、中傷を受けたりする恐れがない。これにより、新しいことにチャレンジする心理的ハードルが低くなり、トライアンドエラーの文化が育まれる。さらに、主体的に仕事に取り組むことができれば、「やりがい」を感じることができるため、社員一人ひとりのエンゲージメントも高まる。

「心理的安全性」のこのようなポジティブな側面は、チームの生産性やイノベーションに結びつき、よりよい成果につながる。さらに、「ダメなものはダメ」と指摘できる環境が整うことで、不正やハラスメントなどが発生するリスクが低くなる点も、パフォーマンス向上に貢献する要素の一つといえるだろう。

「ぬるま湯組織」ではない

ここで注意して欲しいのが、「心理的安全性」の高い組織とは単に安心して発言でき、衝突も起こらない快適な環境というだけではないという点である。メンバーにとって居心地がよい・和やかというイメージだけを持つと「ぬるま湯組織」と混同されそうだが、これらは大きく異なる概念である。

「ぬるま湯組織」とは

「ぬるま湯組織」とは、業務に対する意欲やモチベーション、成長意欲が低い状態の組織を指す。仕事の成果よりも職場の快適さを求め、変化やリスクを恐れるため、新しい考えを受け入れることができず、外部変化に対応できない場合が多い。さらに、話し合いや批判的な意見を避ける傾向があるため、失敗に対する改善策が講じられにくいこともある。

また、新しい考えや挑戦を評価しないことも多い。そのため、リスクを取って成果を出したいと考える成長意欲の高い社員ほど「何もしていない人と同じ評価を受ける」と落胆しやすく、離職しがちである。特に、年功序列型で慣習・慣例の踏襲が重視されやすい日本企業では、このような「ぬるま湯組織」ができやすい傾向が見られる。

「心理的安全性」と「ぬるま湯組織」の違いとは

一方で、「心理的安全性」が高い職場では、メンバー一人ひとりに職務に対する責任感や目標意識が根付いている。求められた成果に応えようとする健全な組織風土が醸成されており、チャレンジ精神もある。だからこそ、新しいアイデアが生まれ、それらが受け入れられるのだ。

「心理的安全性」の高い職場には、成果を求めて変化を受け入れる姿勢や業務に対するモチベーションの高さなど大きな違いが存在している。したがって、メンバーが自由に発言できる居心地がよい環境を目指したからと言って、それだけでは「ぬるま湯組織」のような状態にはならないだろう。

心理的安全性が低い職場の特徴

「心理的安全性」が低い職場にはさまざまなタイプがある。たとえば、「上下関係が厳しいため、上司のミスを指摘しにくい職場」「ノルマに対するプレッシャーが強いため、不正を見て見ぬふりをしてしまう職場」なども当てはまる。

そのような職場では、自分の意見や感情を抑える必要があり、このストレスから離職に至るケースも珍しくない。エドモンドソン教授はTEDスピーチで、「心理的安全性」が低い職場に見られる4つの不安と、それにより生じる行動特徴について説明している。

  • 無知だと思われる不安 
    →例)「こんなことも知らないのか」と思われる不安から質問をためらう
  • 無能だと思われる不安
    →例)「こんなこともできないのか」と思われる不安から自分のミスや間違いを隠す
  • 邪魔をしていると思われる不安
    →例)「議論の邪魔ばかりする人だ」と思われる不安から会議などで発言や提案をためらう
  • ネガティブだと思われる不安
    →例)「否定ばかりする人だ」と思われる不安から批判的な発言を控える

心理的安全性を測る「7つの質問」

エドモンドソン教授によると、「心理的安全性」を確認する方法として、以下の7つの質問に「非常にあてはまる〜まったくあてはまらない」の5段階評価を行ってもらう方法を挙げている。

  1. このチームの中でミスをすると、非難されることが多い
  2. このチームのメンバーは、トラブルや難しい課題を提起できる
  3. このチームのメンバーは、自分と異なることを理由に排除する場合がある
  4. このチームならリスクのある行動をしても安全である
  5. このチームの他のメンバーに助けを求めることは難しい
  6. このチームには自分の努力を故意に損なうような行動をする人は誰もいない
  7. このチームのメンバーと仕事をする時、自分のスキルや才能は尊重され、活かされている

質問1・3・5はスコアが低い(当てはまらない)方が、質問2・4・6・7はスコアが高い(より当てはまる)方が、「心理的安全性」が高い組織と判断できる。

心理的安全性の高め方         

では、実際に職場で「心理的安全性」を高めるには、どのようなことをすれば良いのだろうか?

コミュニケーションの場の創出

気兼ねなくコミュニケーションを取れるようにするには、まずは、上司と部下、同僚の信頼関係がとても大切だ。1on1や定期面談など「話し合いの場」を設けることはもちろん、飲み会や食事会で親睦を深めることも良い。雑談であれば、普段は話さないメンバーともコミュニケーションが取りやすいという利点もある。

価値観の共有

意見が言いやすい環境を整えるためには、「お客様の課題解決のため」「よりよい商品づくりのため」など、何のために意見を出し合っているのか、発言するのかという目的意識の共有も重要だ。組織としてのこの価値観の共有により、ネガティブな意見でも受け入れやすくなるほか、チームに一体感が生まれ、発言もしやすくなる。また、その際には、新しく入ったメンバーや立場の弱いメンバーも発言できるように配慮することも必要だ。

アサーティブコミュニケーション

上司や取引先といった“関係性“を前に、発言をためらうシーンもある。メンバーがそのような不安を抱えている場合には、「アサーティブコミュニケーション」を導入すると良い。「アサーティブコミュニケーション」とは、相手を尊重しつつ、自分の意見を率直に伝えるコミュニケーションスキルの一つである。

もっと簡単なところでは、「あなたの話を聞いている」という態度を取ることだ。たとえば、相手と目を合わせる、相づちを打つ、作業をしながら話さないなど、基本的なマナーの範囲内ではあるが、これらを心がけるだけで話しやすさは増すだろう。

心理的安全性の注意点

「心理的安全性」を高めることは良いことばかりのように思えるが、すべての組織で状況が好転するわけではない。たとえば、個人主義の職場でチームへの関心が低い職場や、人的・時間的リソースが足りず、新しいアイデアを実行する余裕がない職場は、「心理的安全性」が高まったとしても成果にはつながりにくい。

また、管理職自身の「心理的安全性」は確保されにくく、メンバーのサポートでかえって仕事が増えてしまうという場合もある。そのため、「心理的安全性」を導入する際には、組織の性格や状況なども考慮すべきだ。

詳しくは以下のコラムを参照してほしい。

まとめ

Google社の調査によって知名度が増した「心理的安全性」は、チームのパフォーマンスを高める要素の一つとして注目を集めている。具体的には、「心理的安全性」を高めることで、メンバーは人間関係のリスクを恐れずに発言でき、新しいアイデアの提案や業務改善に関する情報共有がスムーズに行われる。結果として、イノベーションの創出や生産性の向上につながっているのだ。

「心理的安全性」を高めるためには、管理職はメンバーと話し合う機会を増やし、率直に意見を言える環境を作ることや、価値観・ビジョンを共有することが重要だ。また、メンバーも意見の多様性を認め、お互いを尊重し合うことで、安心して発言できる環境が形成される。

「心理的安全性」は明文化されたルールではない。そのため、「心理的安全性」によって組織の力を高めるには、「なんのために議論するのか」「どのようなことを成し遂げたいのか」という目的意識を、チームでしっかりと共有することが重要なのだ。

マイナビキャリアリサーチLabでは、「心理的安全性」に関する記事も他にも掲載している。併せて確認してほしい。

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