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自己肯定感を高めるには?メリットをもとに解説

キャリアリサーチLab編集部
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日本の若者は諸外国の若者と比べて自己肯定感が低い傾向にある。内閣府の調査によると「私は自分自身に満足している」という設問に対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた若者が45.1%と、他の調査対象の国と比べて一番少なく、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と答えた若者は54.9%と一番多かった。

自分自身に満足していると思っている若者は、一番多いアメリカで87%、日本を抜いて一番少ない韓国でも73.5%とある。日本において自己肯定感の高い若者は圧倒的に少ないことがわかる。【図1】

日本の学校教育や謙遜・謙虚を美徳とする国民性、文化の影響も自己肯定感が低い要因の1つと考えられるため、すべてを鵜呑みにはできないが、自己肯定感が低いことはさまざまな悪影響を引き起こすことがある。

【図1】私は、自分自身に満足している/我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(内閣府)
【図1】私は、自分自身に満足している/我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度 内閣府)

自己肯定感が低いと人生における幸福度も低くなり、周囲に悪影響を与える可能性がある。

逆に自己肯定感が高いと、人生に対する充実感が高まり幸福度も高くなる。自己肯定感が高い人ほど学校の成績が良く、収入が高い傾向にあるというデータもある。自己肯定感の高さは人生に大きな影響を与えるのだ。

自己肯定感とは

自己肯定感とは、自分の良い面も悪い面も含めありのままの自分を受け入れ認めることである。他人と比較せず自分の基準で自分を受容することを指す。

心理学者のFordyce, M. W.はアメリカ合衆国の一般成人を調査した結果、幸福度が高い人は14の特徴があり、そのうちの1つに「ありのままの自分を受け入れること」とある。ありのままの自分を受け入れ自己肯定感を高めることは幸福度を高めることにつながると指摘している。(Fordyce (1974))【図2】

【図2】幸福度が高い人の14の特徴/ Fordyce, M. W. 1974 The psychology of happiness: A brief version of the fourteen fundamentals. Edition Community College.
【図2】幸福度が高い人の14の特徴/ Fordyce, M. W. 1974 The psychology of happiness: A brief version of the fourteen fundamentals. Edition Community College.

自己効力感との違い

自己効力感と混同されやすいが、自己効力感は「自分ならその目標を達成できる」という自分に対する期待感を指す。

対して、自己肯定感は何らかの目標を達成できるかどうかにかかわらず、ありのままの自分を受け入れることである。

自己効力感は「自分の能力」に対する期待、自己肯定感は「自分の存在そのもの」を肯定する感覚、という違いがある。

自己肯定感が高いことによるメリット

良好な人間関係を築くことができる

自己肯定感が高いと、他人と良い関わりを築くことができるといわれている。

久芳・竹村(2004)によれば、自己肯定感の高い生徒ほど他人との関係が良好だという。精神状態が安定するため余裕が生まれ、他人のことも受け止めることができる。他人を受容することは周囲の人間の精神的な安定につながり、結果、良好な人間関係を築くことができる。

また、他人との親密な関係を「実感」することも自己肯定感を高めることができるといわれている。「自己肯定感が高まる」ことと「良好な人間関係を築く」ことは密接に関係しあっている。自己肯定感の向上と良好な人間関係の構築は正のスパイラルが生まれるのだ。

逆に自己肯定感が低いと、人と意見がぶつかったり、他人に対してイライラしたりしてしまう。たとえ褒められたとしても、相手の真意を探ってしまい素直に褒め言葉を受け止められなくなる。

すると褒めた相手を不快な気持ちにする可能性がある。自己肯定感が低いと、自分だけではなく周囲に悪影響を与える場合もある。

学習成績があがる

文部科学省が行った令和3年度全国学力・学習状況調査によると「自分には良いところがあると思いますか?」という質問に「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と答えた生徒の方が「当てはまらない」「どちらかといえば当てはまらない」と答えた生徒より成績が高くなっている。

このことから自己肯定感の高さは成績の上昇につながっていることがわかる。【図3】

【図3】自分には良いところがあると思いますか?/令和3年度全国学力・学習状況調査
【図3】自分には良いところがあると思いますか?/令和3年度全国学力・学習状況調査

失敗を恐れにくくなる

自己肯定感が高い人物はありのままの自分を受け入れることができる。

失敗が自分自身の価値の低下につながらないことを理解しているので、失敗した自分ごと受け入れることができる。「失敗の経験」という価値としてとらえることができるので、新しいことへの挑戦に抵抗がなくなるのだ。

逆に自己肯定感が低いと「どうせ自分なんか」と卑屈になり、周りの目や失敗したときに恥をかくことを恐れて行動や発言ができなくなってしまう。

自己肯定感を高めるには

自己肯定感の高さは幼少期の経験や周囲の環境によって形作られる。特に身近な家族との関わりに大きく左右されるといわれているが、成人後もトレーニングにより後天的に高めることが可能である。以下では、自己肯定感を高める方法を紹介する。

書き出す

うれしかったできごと、不快なできごと、思っていることをひたすら書き出す。書き出すことで今自分が何を考えているか、どんな状況にあるかを知ることができる。経験したことを書き出すと、そのときの気持ちが増大するといわれているため、うれしかったできごとや楽しかったできごとは積極的に書き出すことが望ましい。

では、不快なできごとは書かない方が良いかというと、そういうわけではない。心理学者のC.S. Carver,によると、不快な経験を書き出したとしても、行動の問題点や指標が明確になれば、その指標に向けて行動することができるという。

つまり、うれしかったできごとを書き出せばうれしかったときの気持ちが増大し、不快なできごとを書き出せば不快な状態を避けるために行動を起こそうとする。そのため、自己肯定感を高めることができるのだ。

認知の歪みを修正する

自己肯定感が低下する原因の1つに認知の歪みがある。認知の歪みとは、1976年に心理学者のアーロン・ベックにより提唱され、その後、弟子のデビッド・バーンズが広めた概念で、個人の考え方の癖に従って、ものごとをとらえたり解釈したりすることを指す。

判断軸が自分基準なため、客観視がしにくい状態になっている。認知の歪みが強いと、ものごとを必要以上にネガティブにとらえたり、不安になったり、イライラしやすくなってしまう。認知の歪みは大きく10種類ある。

白黒思考(全か無か思考)

ものごとをはっきりさせないと気が済まないこと。完璧主義的な思考が強いため、他人のちょっとした言動で相手を判断するようになる。逆に、自分の行動の1つでも気に入らない部分があると、自己評価が低くなり、自己肯定感の低下の要因になる。

過度な一般化

一度や二度起こったことに対して、それがすべてに当てはまるかのように認識してしまうこと。「一度できなかったから、何度やっても失敗する」「自分はいつもこうだ」というような、極端な否定的な予測をすること。

ポジティブ要素の否定(マイナス化思考)

褒められたとしても裏があると考えたり、何か良いことがあっても「運が良かっただけ」「こんなこと誰でもできる」と、悪い方へとらえたりしてしまい、逆に嫌なことがあった際には「やっぱり自分がダメだから嫌なことが起きるのだ」と考えること。

良いことを遮断して悪いことにすり替えて考えてしまうため、自らの行動に悪影響を起こす可能性がある。

結論への飛躍

他人のたった一度の言動や断片的な行動を見てその人の考えや性格をすべて決めつけること。「彼女は今日遅刻したから常にだらしない性格のはずだ」というように根拠もなく決めつけたり、病気にかかった本人が「この病気は治療しても無意味だ。治らない」と悲観的になったりすることもあげられる。

心のフィルタリング

良いことを見ずに悪い部分ばかり見て、自分や他人に対して「こう」だと決めつけること。ものごとには良い面と悪い面両方あるが、精神的なフィルターがかかっていると悪い面しか見えず、「すべてダメだった」と評価してしまう。

過大評価と過小評価

悪いことが起こった際には必要以上に過大にとらえ、良いことが起こった際には実際より過小に評価すること。

悪いことが起きたらすべてがダメになったと思い込み「自分は何もかもダメだ」と、過度にものごとをとらえてしまう。逆に、良いことが起きたら「こんなこと誰でもできる」と成果を必要以上に矮小化してしまうこと。

感情的決めつけ

そのときの気分や感情を根拠にものごとを判断し、自分の感情によって結論付けること。たとえば友人から挨拶が返ってこない際に「考え事をしているのだろう」「たまたま余裕がなかったのだろう」と考えずに「挨拶されなかったので悲しい。彼女は私のことが嫌いなのだ。彼女を好きな人はおかしい」と決めつけてしまう。

ネガティブなときにはネガティブにものごとをとらえ、逆にポジティブなときはポジティブにものごとをとらえてしまうので、事実にもとづいた判断ができなくなる。

べき思考

「自分より年下なのだから荷物を持つべき」「こんなにしてあげたのだからもっと私に感謝すべき」といったふうに、自分の中の基準やルールがすべて正しいと思い込むこと。

自分の中の理想が強く、これらが守られなかったときに過度に自分を追い詰めてしまう。逆に、自分の中の基準を他人に押し付けてしまうと、相手がその通りに行動しなかった際に、イライラして相手を責めたり、ショックを受けたりと、他人と衝突してしまうおそれがある。

個人化

何か良くないことが起きた際に、関係がないのに責任の所在が自分であると考えたり、過度に責任を感じたりしてしまうこと。

「こどもの成績が悪いのは親である自分の責任だ」「友人が落ち込んでいるのは自分が言葉をかけなかったからだ」と、自分に原因のないことを自責としてとらえてしまうと、必要以上に罪の意識を感じてしまい、自己肯定感が下がる可能性がある。

ラベリング

「失敗したからすべてダメだ」「自分はできそこないだ」「あの人は何をやらせてもダメ」といったように1つの側面だけ見てすべてを判断してしまうこと。上記であげた「一般化のしすぎ」を極端な形にしたもので、ラベリングをしてしまうと事実と異なった判断をしてしまう可能性がある。

これらを解消するには、自分の認知の歪みを把握することが必要となる。身の回りのできごとや感じたことを振り返り、10種類に当てはまるか照らし合わせてみたり、難しければカウンセラーや専門家に相談して客観的なアドバイスを受けたりすることもできる。

自分の思考の癖に気づき、それに伴い行動を変えていくことが認知の歪みの修正につながっていく。

ネガティブなことを考えそうになったら行動を切り替える

「どうせ失敗する」「自分なんか」「周りからこう思われるかも」といったネガティブな思考はさまざまな悪影響を引き起こし、自己肯定感が低下する要因の1つである。

しかし、気持ちというのは変えようと思って簡単に変えることのできるものではない。ネガティブなことを考えていると自覚したときに、ネガティブな気持ちを変えようとするのではなく、まず行動を変えることが重要だ。行動を変えると、その行動に沿った気持ちに切り替わる。気持ちを切り替えるために行動を切り替えることは有効なのだ。

さらに、ネガティブになった際にどのような行動を取るか、事前に決めておくと良いとされている。ネガティブな気持ちになったときに自覚ができたとしても、その状態でどのような行動を取るべきか一から考えるのは難しいだろう。

気持ちが落ち込んでいるときにそこまで考える余裕はないかもしれない。「散歩する」「コーヒーを飲む」「紙に書き出す」「人に話す」等どんなことでも良いので、ネガティブな感情を自覚した際の対処を事前に考えておくと行動に移しやすい。事前に対処法を決めておくだけでも心が楽になる。

ネガティブな感情を持つことは、必ずしも悪いというわけではない。ネガティブに感じたということは何か原因があり、その原因を突き止めたり、対策したりすることで、より過ごしやすくなったり、新しいアイデアが生まれたりする可能性もある。うまく活用して向き合っていくことも重要である。

おわりに

自己肯定感が高いということは、自分の能力を理解しているということだ。短所も冷静に受け止めカバーしたり、長所を活かしたりすることができる。不用意に悩むことは少ないため、前向きに仕事や勉強に集中することができ、メリットは多い。

ただし、自己肯定感の高さは、結果として自己実現や目標達成につながるが、自己肯定感を高める過程において成功体験を得ることは必ずしも重要ではない。成功体験を得ることにより、自己肯定感が高まる場合も多くあるが、成功するしないにかかわらず、自分を受け入れられることが重要なのだ。

成功体験はあくまで副産物であるということを念頭に置いて、少しずつでも自分を受け止めることができれば、次第に自己肯定感も高まっていくだろう。

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