近年、人手不足や働き方の多様化が進んでいる。同一労働同一賃金への対応など、企業の人事課題が複合化するなかで、ワークシェアリングは、雇用を守りながら生産性とDE&Iを高める実践的な選択肢として再注目されている。
本コラムではワークシェアリングの定義から制度設計や課題、DE&Iでの活用までわかりやすく解説する。
ワークシェアリングの定義
ワークシェアリング(Work Sharing)とは、雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うことを意味する。
厚生労働省の「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」では「雇用の維持・創出を図ることを目的として労働時間の短縮を行うものであり、雇用・賃金・労働時間の適切な配分を目指すもの」と定義されている。
従来1人が担当していた業務を複数人で分担することにより、1人あたりの労働時間を削減し、雇用機会を増やすことを基本的な考え方とする。単なる業務の分担ではなく、働き方改革や雇用政策としての側面を持つ点が特徴である。
ワークシェアリングの分類
厚生労働省(2001)では、ワークシェアリングの導入を検討するにあたり、目的や状況に応じて以下の4つに分類 している。
雇用維持型(緊急避難型)
これは、景気後退や業績悪化など一時的な経済の悪化や業務量の縮小に直面した際、従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮して雇用を維持するものである。解雇や早期退職制度に頼らずに企業が従業員を守るための雇用維持対策であり、業績回復後は元の労働 条件に戻すことを前提とする。
雇用維持型(シニア社員対策型)
これは、中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持するものである。国内では主に、定年の延長や60歳以降の再雇用などの取り組みが行われている。
雇用創出型
雇用創出型は、既 存の従業員の労働時間を短縮し、その分を新規雇用の創出に充てるものである。フルタイム労働者を雇用するよりも、短時間労働者を複数雇用することで業務を分担し、より多くの雇用機会を生み出すことを目的とする。
多様就業対応型
多様就業対応型 は、育児・介護・自己啓発などの理由で従来の働き方が難しい人に対し、短時間勤務や在宅勤務、隔日勤務などの選択肢を提供して働きやすい環境を整えるものである。
個々のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を実現するために用いられ、厚生労働省によれば、日本の労働市場において労働力の減少に対応する有効な方法の一つとされている。
混同しやすい制度との比較
それでは、混同しやすい制度などとの違いを解説していきたい。
ジョブシェアリングとの違い
ジョブシェアリング(Job Sharing)とは、フルタイム労働者1人で担当する職務を特定の2人以上が組になって分担し、職務の成果について共同で責任を負い、評価・処遇も2人セットで受ける働き方である。
ワークシェアリングとの違いとしては、主に目的と評価の単位にある。ワークシェアリングは社会や企業全体で労働時間を短縮し、雇用機会を創出することを目的とするのに対し、ジョブシェアリングは短時間勤務を組み合わせて雇用機会を増やし、多様な人材を確保することを目的とする。
また、ワークシェアリングでは各人が個別に評価されるのに対し、ジョブシェアリングではペアやチームとして評価される点が特徴的である。
短時間勤務制度との違い
短時間勤務制度は、育児や介護などの事情を抱える従業員に対して、個人の申請に基づき一時的に労働時間を短縮する制度である。育児・介護休業法により、事業主に対して一定の条件下での短時間勤務制度の整備が義務づけられている。
ワークシェアリングとの違いは、その目的と適用範囲にある。短時間勤務制度は個人の事情に対応するための福利厚生的な制度であり、特定の従業員に限定して適用される。一方、ワークシェアリングは雇用維持や雇用創出という組織全体の人事政策として位置づけられ、複数の従業員間で業務を分け合うことを前提とする点で異なる。
フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制は、労働者が始業・終業時刻を自ら決定できる制度である。一定期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ定めた上で、日々の始業・終業時刻や労働時間を労働者の裁量に委ねることにより、労働時間を柔軟に調整できる。
ワークシェアリングとの違いとしては、労働時間の決定方法と雇用への影響が挙げられる。フレックスタイム制は総労働時間を変えずに働く時間帯を柔軟化する制度であり、雇用の創出には直接つながらない。一方、ワークシェアリングは総労働時間そのものを短縮し、その分を新たな雇用に充てることで雇用機会を増やす点で目的が異なる。
ワークシェアリングの動向と課題
日本での動向
日本では、1990年代後半に高い失業率が問題となり、長時間労働に代表される労働環境の改善も社会的な課題となる中でワークライフバランスの改善を目指す声が高まった。こうした流れを受けて、2002年に政府、日本経営者団体連盟(現・日本経済団体連合会)、日本労働組合総連合会の三者による「ワークシェアリングに関する政労使合意」が発表された。
この合意では、ワークシェアリングの取り組みについて、当面の厳しい雇用情勢に対応する「緊急対応型」と、中長期的に多様な働き方を促進する「多様就業型」に分けて取り組むべき課題が示された。その後、2009年には景気悪化に伴い、改めて日本型ワークシェアリング推進に向けた合意文書が報告されている。
ワークシェアリングの課題
ワークシェアリングのもっとも大きな課題の一つは、労働時間の短縮に伴う賃金減少である。特に雇用維持型(緊急避難型)では、労働時間の短縮とともに賃金も減額されるため、従業員の生活に直接的な影響を及ぼすことになる。労働時間減少率より賃金減少率を低く設定する工夫も行われているが、収入減は避けられない。
また、多様 就業対応型においても、短時間勤務を選択することで年収が減少し、結果として生涯賃金やキャリア形成に影響を与える可能性がある。特に日本では、パートタイム労働者とフルタイム労働者の賃金格差が大きいため、ワークシェアリング導入による経済的不安が導入の障壁となっている。
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によれば、正社員の賃金は「348.6万円」に対し、非正規社員は「233.1万円」で、賃金差は「66.9万円」となっていると報告されている。
令和6年賃金構造基本統計調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
生産性低下のリスク
ワークシェアリングの導入により、個々の従業員の負担は減少するものの、多くの従業員が業務に関わることで業務の引き継ぎやそれに伴う時間的なロスが発生し、生産性の低下につながるおそれがある。従業員の人数が増える分、引き継ぎ業務や研修、交代・打ち合わせ時間などのロスが増え、全体としての効率が低下しやすい。
また、一つの業務を複数の人が担当するため、責任の所在があいまいになりやすく、ミスが起きやすいというデメリットも存在している。業務内容や流れが明確でないと手間が増えるリスクもあり、導入前の業務の整理や見直し、マニュアル化など、導入までに時間がかかる。
企業側のコスト増加
ワークシェアリング導入により、短時間労働などの新たな働き方が増えるため、給与計算のコストが増大する。単に給与計算の方法が変わるということだけではなく、当然従業員数が増えるため給与計算をする対象も増える。給与計算は従業員の生活に直結する重要な作業であり、新たな働き方を導入する際は丁寧に見直すことが必要である。
また、従業員数が増加することで、企業が負担する金額が単純に増える。たとえば、社会保険料は従業員の数の増加によって増えるし、従業員規模が大きくなることで福利厚生や衛生管理、社員教育を手厚く行う必要性も出てくるためコストが増える可能性がある。
なお、労働時間が減少することで、経験できる業務の範囲やスキル習得の機会が減少する可能性がある。
業務を複数人でシェアするため、一人ひとりの専門性が低下したり、キャリアパスが限定されたりするリスクがある。特に、短時間勤務を選択した従業員は、重要なプロジェクトへのアサインや管理職への昇進機会が制限される可能性がある。また、ワークシェアリングができる職種とできない職種の間で格差が生まれ、職種間の公平性の問題も生じる。
業務連携と情報共有の負担
複数の従業員で業務を分担するため、業務連携や情報共有の必要性が生じ、一部の従業員の負担増加や生産性低下を招く場合がある。従業員間の人間関係などのトラブルが生じやすく、企業の負担が増加することもある。
効果的な業務連携のためには、情報共有システムの整備やコミュニケーションツールの導入、定期的なミーティングの設定など、インフラ面での投資と運用面での工夫が必要となる。
ただし、ワークシェアリングの考え方が導入されはじめた2000年代初頭に比較すると、ICT技術の発達に伴い、豊富なツールがコストのかからない形で用意されているため、こうしたサービスを利用することによって、新たなワークシェアリングのベストプラクティスを形作ることができる可能性があるだろう。
制度設計の難しさ
ワークシェアリングを導入する際には、対象範囲、期間、賃金や手当、評価や育成方法、情報共有ルール、試行から本格導入への移行条件を明文化することが必要である。特に、36協定や労使委員会での決議など法制度を踏まえた合意形成が求められる。
また、新たな就業形態を取り入れる状況になるため、社内制度の再整備が必要になる。単に労働時間を短縮し、新規雇用を増やせばいいわけではなく、制度を全従業員にとって公平なものに整える必要がある。賃金といった待遇面で格差が生じれば従業員からの不満はもちろん、生産性にも影響してしまう。
ビジネス現場での実践での取り組みや特徴
日本企業における導入事例
厚生労働省が公表した「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/06/h0630-2a.html)では、複数の企業における導入事例が紹介されている。たとえば、ある製造業では、工場の稼働日を増やし生産性と売上を上げることを目指し、土日に勤務する60歳以上の高齢者を新たに雇い入れ、従来休日であった年間110日の工場稼働を実現した。
この事例では高齢パート社員の活用によって、人件費の圧縮を図りながら工場の稼働率を上げ、低コスト化を実現している。また、小売業のある企業では、パートタイマーと正社員の垣根を取り払い、「できる人・やりたい人」にやらせることを基本方針に、やる気と実力次第では店舗の幹部になる道を開くといったパートタイマーを重用する人事制度改革を行っている。
ほかにも 、緊急対応型ワークシェアリングの実施例として、業界における急速な業績悪化への対応策として期間限定で週3休制を導入し、この間、余剰となった時間を活用して若手従業員の多能工化を目的とした研修等、従業員の能力開発を通じた生産性向上策を実施した企業も存在している。
助成金制度の活用
ワークシェアリングは雇用創出や維持、生産性向上を実現できることから、厚生労働省でも積極的に推進されており、導入企業は以下の助成金を申請できる。
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者の雇用維持を図るために休業、教育訓練または出向を行った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成する制度である。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、時間外労働の削減やテレワークの推進など、働き方改革に取り組む中小企業事業主に支払われる助成金である。
人材開発支援助成金は、労働者のキャリア形成を効果的に進めるために必要な職業訓練を実施した場合、その実施した企業に対して訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度である。
多様性が武器になる時代へ。DE&I×ワークシェアリングの可能性
ワークシェアリングは、多様な人材を活用できる仕組みの一つとして再注目されている。たとえば、一つの業務を視覚障がい者と短時間勤務を希望する人でジョブシェアリングする取り組みがある。視覚障がい者は企画立案やアイデア創出といった専門性を発揮でき、かつ単独で完結できる業務を担当し、一方で短時間勤務者は事務作業や視覚的な作業を中心に担う。
こうした形で互いの強みを生かしながら生産性を高め、必要な配慮を受けつつ働くことができる点において、ワークシェアリングは改めて注目されつつあると(穂刈,2024) の研究では報告されている。
また、2026年より障がい者雇用率が2.7%へ引き上げられる中、10時間以上20時間以下の超短時間勤務も雇用率に算入されるようになり、新たな働き方として注目されている。体調を見ながらも高いITスキルを活用したプログラミングによる開発やデータ分析、データベースの構築といった「IT ×障がい特性」を活かした発達障がい・精神障がい者の可能性を広げる取り組みでも、こうした柔軟な働き方は重要なキャリア選択肢となっている。
しかしながら、ワークシェアリングという考え方は社会全体には十分に広がっておらず、現在では下火になっていると言わざるを得ない。その一方で、大企業の約3割がジョブ型雇用を導入済みであり、生成AIを含むテクノロジーの進化も著しい今、ワークシェアリングの導入可能性 が高まってきた。
多様な人材の活用で強みを発揮する手法であることから、日本における労働力不足への対策としても有効であり、ワークシェアリングが再評価の機運に向かっていくことに期待したい。
【参考文献】
厚生労働省「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」2001年4月26日
https://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0426-4.html
厚生労働省「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」2004年6月
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/06/h0630-2a.html
厚生労働省「『人口減少社会』に対応できる企業を目指して~多様就業型ワークシェアリングの取組方法~」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudouseisaku/worksharing02/
厚生労働省「多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意」2002年12月
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/12/h1226-9.html
穂刈顕一,(2024),障害者におけるキャリアデザインの検討 ~視覚障害者のキャリア支援の視点から~,日本職業リハビリテーション学会,第38巻