シニア社員が活躍する組織づくりとは? 世界のガイドラインから導く実践のヒント

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

本稿は連載企画「シニア社員が活躍する組織」の第4回となる。本連載の第1回では、人口構造の変化や人的資本経営の広がりを背景に、なぜ今シニア社員の活躍が求められるのかを探った。続く第2回では、職場に残る“見えない壁”―エイジズム―を考え、第3回ではシニア自身が抱えやすい葛藤、いわゆるエイジング・コンプレックスと組織が担うべきマネジメントの在り方に焦点を当てた。第4回となる本稿では、世界で設定されているガイドラインや制度に関する情報をもとに実践のヒントを探していきたい。

はじめに

日本では、すべての企業に対し65歳までの雇用確保が義務化されている。これは「高年齢者雇用安定法」に基づくもので、企業は①定年の引き上げ(65歳まで)、②定年制の廃止、③65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長)の導入のいずれかを実施する義務がある(同法第9条)。

さらに、70歳までの就業機会確保については、努力義務として課された。企業は、70歳までの定年引き上げ、継続雇用制度、業務委託契約制度、社会貢献事業従事制度などのいずれかの措置を講じるよう努めることが求められている。

制度の方向性が明確になった今、企業としては、職務の見直し、働き方の柔軟化、学び直し(リスキリング)、健康・安全の基盤づくりを一本の流れとして進める必要がある。そして、年齢に関わらず能力を発揮できる環境を整備することが求められる。

国際機関が示すシニアが活躍する組織のヒント

まずOECDが発行しているレポートから参考になる情報を確認していく。
<参考資料>
OECD Employment Outlook 2025
Promoting an Age‑Inclusive Workforce LIVING, LEARNING AND EARNING LONGER

生涯学習(リスキリング)を働く“当たり前”にする

OECDは、特にシニア層に対して「年齢を問わない継続的な学習機会」が不可欠だと強調している。実際、高齢層は若年層に比べて研修参加率が低く、そのことがスキルの陳腐化や就業継続の難しさにつながりやすいという。だからこそ、短時間で受講できる研修や、実務に直結した学び直しの設計が重要だ。

また、後述する中年期のキャリアレビュー や、若手と経験者が互いに学び合うメンタリングの仕組みも効果的とされている。

中年期キャリアレビュー(Mid‑life Career Review)

中年期のキャリアレビューは、働き手がミッドライフ期(年代でいうと40代半ば~50代)に差しかかる段階で、これまでのキャリアを振り返り、今後必要とされるスキルや働き方を再設計する取り組みである。

OECDは、ミッドライフ期は将来のキャリアや退職後の生活を見直したいというニーズが高まる重要な転換点であり、この時期に適切に支援することが就業継続への鍵になると指摘している。

イギリスでは45〜60歳を対象としたミッドライフ・セミナーが導入され、健康、金融リテラシー、スキルの棚卸しなどを行うことで、従業員の不安を軽減し、働き続ける意欲を高めた事例が報告されている。こうしたレビューは、必要なリスキリングの道筋を明確にし、将来のキャリア選択の幅を広げる役割を果たす。

そもそも中年期は、ミッドライフクライシスと呼ばれるキャリア上の揺らぎが生じやすい時期である。この時期を単なる「危機」として捉えるのではなく、次のステージをよりよく生きるための準備期間として位置づけることが重要といえるだろう。組織としても、従業員の経験や判断力が充実するこの時期の強みを活かし続けるために、キャリアレビューを戦略的に設計する必要がある。

若手と経験者が互いに学び合うメンタリングの仕組み

OECDは、若手と経験者が互いに学び合う仕組みこそが、生産性向上の鍵になると指摘している。経験豊富なシニア社員は、長年の業務で培われた暗黙知や判断力を若手に伝え、若手はデジタルスキルや新しい業務手法を提供する。こうした“相互補完的な学び”が組織全体のパフォーマンスを押し上げるのだ。

人材育成法のひとつであるメンタリング は、経験豊富な社員が若手を継続的に支援する発達的関係であり、キャリア形成とスキル習得を促す仕組みである。Kram(1985)が示したように、メンタリングには「キャリア機能」と「心理社会的機能」があり、双方が成長を支える役割を果たす

また、若手が経験者を支援するリバースメンタリングは、シニア社員が新しい知識を取り入れる機会を広げ、世代間の学びを双方向にする。

OECD は、メンタリングやリバースメンタリングが世代間で知識・スキルを補完し合う手段として効果的であり、生産性向上にも寄与すると指摘している。多世代で構成されたチームや共同プロジェクトに加えて、他の従業員の仕事に“影のように”ついて回って実際の業務を観察しながら学ぶ人材育成の手法であるジョブシャドーイング(Job Shadowing)などを組み合わせることで、世代を超えた学習文化がより強化されるということだ。

こうした「経験×新しい知識」の掛け合わせを支える環境こそが、シニア社員の自己効力感を大きく押し上げる。

柔軟な働き方と段階的リタイアで“続けられる形”をつくる

高齢期は、自分自身の健康だけでなく、家族に関する事情など、働き方に関わる制約が増えやすい時期でもある。OECDは、これを“個人の問題”として扱うのではなく、働く側に合わせた柔軟な制度の整備が企業の持続性にもつながると指摘する。

• 短時間勤務や週4日勤務(働く時間の柔軟性)
• 在宅勤務や出社と組み合わせるハイブリッド勤務(働く場所の柔軟性)
• 役割を段階的に移行させる制度(段階的リタイア)

これらのように、さまざまな選択肢が整備されるだけで、「無理なく働き続けられる」という安心感が生まれ、継続的に働きやすくなると考えられる。また、「役割を段階的に移行させる制度(段階的リタイア)」については、シニア社員の希望にこたえるだけでなく、後継者への知識継承や育成を支えるという利点もある。

EUに学ぶエイジマネジメントのヒント

次に、日本と同様に急速な高齢化に直面し、労働力確保の観点から50歳以上の就業促進が大きなテーマとなっているEU諸国の事例を確認していく。

EUではこの課題に対応するために、職場の年齢多様性を高める政策が国際的にも比較的早い段階で進んでいる。EUが1994年に設立した職場の安全衛生に関する専門機関であるEU-OSHA(欧州安全衛生機関)は、「すべての年齢にとって安全で健康な職場づくり」を掲げている。高齢労働者の安全配慮や作業環境改善の指針を示してきた。

また、EUにおける「生活と労働の質」を専門的に調査・分析し、政策づくりを支える基幹機関であるEurofound(欧州生活・労働条件改善財団)は、採用・育成・健康管理を一体で捉える「統合的エイジマネジメント」の枠組みを提示している。さらに、企業が実務で使いやすい知見を整備している。

高齢化のスピード、シニアの就業意欲、健康やケアを含むライフステージの多様化など、日本とEUは多くの点で共通課題を抱える。だからこそ、制度整備と実務支援の両面で先行するEUの取り組みは、日本企業にとって実践的に応用しやすいヒントとなるのではないだろうか。ここでは、その要点を手がかりに、シニア活躍を支える考え方を整理したい。

<参考資料>
EU-OSHA「OSH management in the context of an ageing workforce
Eurofound「A guide to good practice in age management

組織の“仕組み”として年齢バリアをなくす

Eurofoundは、企業が年齢を理由にした不利や見えないハードルを解消するために、「エイジマネジメントの8つの実践領域」を軸にした統合的アプローチを提示している。

その8領域とは次の通りである。
① 採用/② 学習・訓練・リスキリング/③ キャリア開発/④ 柔軟な働き方/⑤ 健康管理・職場改善/⑥ 再配置(Redeployment)/⑦ 退職支援・移行期サポート/⑧ 包括的アプローチ(Comprehensive approach)

① 採用/② 学習・訓練・リスキリング/③ キャリア開発/④ 柔軟な働き方/⑤ 健康管理・職場改善/⑥ 再配置(Redeployment)/⑦ 退職支援・移行期サポート/⑧ 包括的アプローチ(Comprehensive approach)

たとえば、具体的には下記のような内容だ。

①採用で年齢偏見をなくし、経験人材を戦略的に獲得する
②学習・訓練で年齢にかかわらず関わらず成長機会を提供する
③キャリア開発で“後半キャリア”を設計可能にする
④柔軟な働き方で家族介護や体力変化に対応する

これらが一体となることで、「年齢に中立な仕組み」ではなく「年齢の違いを前提とする仕組み」へと企業を転換させる。結果として、評価制度・報酬制度・配置方針など、組織の根幹にある制度設計にもポジティブな影響がおよび、シニア社員を含む多世代が活躍できる下地を整える。

さらに、これらの仕組みが機能するためには、「エイジ意識の醸成(Age Awareness)」「計画的導入」「現場との協働」「モニタリング」「継続的改善」といった「成功のための前提条件」を満たすことが不可欠である。組織文化もまた、制度と並んで年齢バリアを左右する要素となる。

ここでいう「エイジ意識の醸成」とは、年齢に関する思い込みや無自覚な偏見を取り除き、“年齢の違いを前提にしたマネジメント”を行えるよう組織全体の認識を変えていくプロセスを指す。

なかには、「年齢に中立」ではなく“年齢の違いを前提にしたマネジメント”を目指すということを理解しづらい方もいるかもしれない。私自身も少し整理が必要だったので、別節で説明を加えたい。

誤解されやすい論点――「年齢に中立こそが平等」というわけではない

一見すると、評価・報酬・配置方針など、組織の根幹にある制度設計において「年齢を一切考慮しない中立な制度であること」 こそが平等だと思われがちである。しかし実際には、加齢による変化(体力・回復速度・視力)や、年齢とともに伸びやすい強み(判断力・戦略思考・暗黙知)を無視することになり、結果として“見た目は平等、実態は不平等”を生みやすい。

Eurofoundは、年齢に中立な一律運用ではなく、「年齢の違いを前提とする仕組み」を先述した8つの実践領域(採用/学習・訓練・リスキリング/キャリア開発/柔軟な働き方/健康管理・職場改善/再配置/退職支援・移行期サポート/包括的アプローチ)として、構造的に整えることを推奨している。これにより、職業人生全体を通じて就業継続と能力発揮の“実質的な平等”が実現するということだ。

なぜ「前提とする仕組み」が差別を防ぐのか

合理的配慮の設計

柔軟な働き方やエルゴノミクス(人間工学)に基づく職場改善を通じて、負担を下げつつ強みを活かす配置・学習・再配置を可能にする。これは優遇ではなく、参加の前提条件づくりである。

制度の連動性

採用から退職支援までの8領域を連結させることで、単発施策では救えない“世代間の不均衡”を是正し、知識継承・生産性向上につなげる。

誤解を避けるための鍵――エイジ意識の醸成

年齢に応じた配慮は“逆差別”ではないとEurofoundは強調する。年齢の違い=ニーズの違いであり、組織はその違いを前提に設計・運用すべきである。そのための基盤がエイジ意識の醸成(Age Awareness)であり、管理職・HR・従業員が加齢変化と強みの双方を理解し、データに基づき対話・評価・改善を回すことが必須となる。

制度(8領域)と文化(エイジ意識)の両輪がそろって、初めて年齢バリアは解消されるということだ。

たとえば“全員同じ階段”が平等に見えても、段差は人によって障壁になる。スロープを設けるのは優遇ではなく、等しく到達できるための条件整備である――年齢への配慮も、同じ発想である。

(出典:Eurofound A guide to good practice in age management, 2006/マイナビ翻訳 )

ここまで説明してきた内容はいずれもOECD、EUといったグローバルに運用されているガイドラインであるが、本連載の第2回、第3回で解説していただいた日本の職場でも求められることと、同じような文言が並んでいる。

職場においてシニア社員と若手社員の双方で「エイジズム(年齢差別)」の意識を持たせない教育や、シニア社員が「エイジング・コンプレックス」を乗り越えて学び続けられる機会や環境の提供、そして、シニア社員に求められる役割の明確化が重要であることは、世界も日本も変わらないということがわかった。

日本の制度から見える企業の役割

最後にあらためて日本の制度を振り返る。

65歳までの雇用確保、70歳までの就業機会確保

日本の高年齢者雇用安定法は、

  • 60歳以上定年(60歳未満の定年について禁止と明示していないが、60歳以上とする必要がある。)
  • 65歳までの雇用確保(義務)
  • 70歳までの就業機会確保(努力義務)

という枠組みで、年齢だけを理由にした排除を防ぐ仕組みを整えている。

エイジフレンドリーガイドラインの5分野

厚生労働省は、以下の5分野を押さえることがシニアの働きやすさを高める鍵だと整理している。

  1. 安全衛生体制の整備
  2. 職場環境の改善
  3. 健康・体力の把握
  4. 状態に応じた配慮
  5. 安全衛生教育

どれも基本的だが、運用されていないケースが多い。
取り組むだけで労災リスクの低減や離職防止につながるため、優先度が高い分野といえる。

<参考資料>
厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン

継続雇用を“納得感のある制度”にする

継続雇用は希望者全員を対象とすることが原則である。加えて、他社での継続雇用や社会貢献事業への従事など、選択肢が広がりつつある。

制度を運用する際には、

  • 基準の明確化
  • 労使協議
  • 社内周知
  • 恣意(しい)的排除の回避

といった透明性が欠かせない。

<参考資料>
厚生労働省「高年齢者就業確保措置の実施および運用に関する指針

実務ガイド:シニア活躍を引き出す「5つの設計」

ここまで説明してきたOECDやEUのガイドライン、ならびに第2回、第3回で解説いただいた専門家の意見を踏まえ、企業が実務に落としやすい形で整理したい。

職務の明確化と再設計──“今の強み”が発揮しやすい形へ

職務内容が若い世代を前提に設計されていると、内容によっては年齢を重ねるほど負荷が増しやすいケースが生まれる。だからこそ、

・成果指標を経験が生きる「質・精度・安全性」へ重心移動
・身体負荷を下げる動線・補助具などの見直し
・組織から「これまでの経験を活かす役割」の明確化を行い、丁寧なマネジメントを行う

という視点が欠かせない。

柔軟な働き方と段階的リタイア──“無理なく続けられる”仕組みづくり

短時間勤務、在宅勤務、週4勤務などの選択肢があるだけで、働くハードルは大きく下がる。
さらに、役割を段階的に移行できる仕組みがあれば、経験を残しながら自然にキャリアを移すことができる。

エイジフレンドリーな職場環境──安心して働ける“土台”を整える

照度、動線、温熱環境といった日常的な環境改善は、想像以上に働きやすさに影響する。
健康状態や体力の違いに応じた業務配慮もあわせて運用すれば、事故や負担を未然に防ぎやすい。

法制度に沿った継続雇用──公平性と透明性が信頼につながる

継続雇用制度は、基準と手続きを明確にし、すべての社員が「将来も安心して働ける」と感じられるように整えることが重要である。こうした制度の透明性は、シニア社員だけでなく若手世代の心理的安全にもつながる。

さいごに

日本では65歳までの雇用確保はすでに従業員規模に関わらずすべての企業の義務であり、70歳までの就業機会確保は努力義務として運用されている。

今後、生産年齢人口の減少がさらに進み、労働力不足への対応が待ったなしの状況で、シニア社員の活躍が一層求められるようになるだろう。一方で、「シニア社員が活躍する組織」が実現できているかというと、まだ模索中の企業も少なくない。

本連載においても企業の事例を紹介したいと考えていたが、「これから推進しようと考えている」というお声をいただくことが多かった。法改正もあり、実際に働き続けるシニア社員は今後も増え続けると考えられ、おそらく、実際に運用に成功する企業も増えていくと思われる。

今回の企画にあたりお話をうかがった人事の責任者をされている方がおっしゃっていたが「シニアの活躍推進というのは、単にシニア社員が長く働いているというだけではないと思うんです。若手、中堅、シニアとさまざまな世代がともに働くなかでみんなが良い状態で働ける組織を作っていかないと、本当の意味でのシニア活躍推進ではないと思う。」という言葉が印象に残っている。またいずれ、そういった事例をご紹介できることを祈って、いったん、本稿でこの連載は最終回としたい。

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