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コロナ禍で注目される「従業員シェア(雇用シェア)」の新たな可能性

コロナ禍以降、「従業員シェア(雇用シェア)」「在籍型出向」といった言葉が、各種メディア等でも取り上げられ認知度が増している。政府においても2020年4月より開始された雇用調整助成金の特例措置や、2021年2月新規創設の「産業雇用安定助成金」など、労働者の雇用維持に関する公的支援が続いている。そうした中、コロナ禍で中途採用を行っていた企業では、「従業員シェア(雇用シェア)」に対して、どのような印象を持ち、どのような活用意向を持っているのか、政府統計や、2021年1月にマイナビが実施した「中途採用状況調査2021年版(2020年実績)」「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」から見ていきたい。

■雇用調整助成金の申請件数は、2021年3月に累計300万件を超え、4月には336万件となった

2020年4月に始まった「雇用調整助成金の特例措置」に対する累計の申請件数は2021年3月時点で300万件を超え、2021年4月には336万件となった。新規の申請件数を月次で見ると、2020年8月の46万件をピークに一服したが、2回目の緊急事態宣言のあった2021年1月には32万件(2020年12月比の約1.7倍)となり、4月についても、25日に4都府県にて発令された緊急事態宣言の影響か、28万件と2月、3月と比べて増加傾向にある【図1】。新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置終了の6月30日が迫る中、変異株の流行など、まだ感染拡大が止まったとはいえず、雇用安定措置の新たな公的支援として、在籍型出向(従業員シェア)に対する「産業雇用安定助成金」に衆目が集まるだろう。

【図1】雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)申請件数」

雇用調整助成金申込件数推移
※出典:厚生労働省Webサイト 「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」をもとにマイナビが作成

■コロナ禍を契機に、在籍型出向の認知度が高まり、利用件数も増加

まず「在籍型出向」とは何か?について簡単に触れる。
いわゆる「出向」とは、労働者が「出向元企業」との労働契約を解消し、何らかの関係は保ちながら、「出向先企業」と新たな雇用契約関係を結び、「出向先企業」において一定期間継続して勤務することをいう(転籍出向)。これに対して在籍型出向は、「出向元企業」と「出向先企業」との間の出向契約によって、労働者が「出向元企業」と「出向先企業」の両方と雇用契約を結ぶものをいう【図2】。
航空業界の客室乗務員をコールセンターに在籍出向させるものなどが、メディアに取り上げられていたが、航空業界の従業員を「出向(送出)」させ、コールセンターで「受入」を行うというケースは在籍型出向の一例となる。
在籍型出向の支援を行っている「産業雇用安定センター」によると、「受入(企業の求人情報)」と、「送出(求職者の情報)」の推移は、ともに増加傾向にあり、2020年度の送出は、2016年度の1.5倍、受入は1.4倍となっている【図3】。雇用調整助成金の特例措置が6月に終了することで、出向元・出向先の双方に支給される「産業雇用安定助成金」を利用した在籍型出向、いわゆる「従業員シェア(雇用シェア)」は、この先の雇用安定措置として増えていくと思われる。

【図2】在籍型出向とは

在籍出向と転籍出向の違い

【図3】在籍型出向の利用推移

在籍出向の受入人数と送出人数の推移
※出典:「産業雇用安定センター 出向・移籍等支援事業の活動実績」をもとにマイナビが作成

■コロナ禍で中途採用を実施した企業の正社員過不足感は「充足」が増すが、6割以上の企業が不足感を持っている

ここで、コロナ禍の2020年に中途採用を実施した企業の、現在(調査時点2021年1月)の正社員人材の過不足感を見てみる。すると、2019年と比較し「ちょうどよく充足している(23.8%)」が増加し、「余剰感の合計(14.4%)」は減少していることが分かる。経年で見ても、徐々に余剰感は減少してきている。一方、人出不足感については、未だ6割を超えており、コロナ禍においても、依然として人出不足感は継続しているとも言える【図4】。

【図4】正社員人材の過不足感

マイナビ「中途採用状況調査2021年版(2020年実績)」正社員人材の過不足感
※出典:マイナビ「中途採用状況調査2021年版(2020年実績)」より

■従業員シェア(雇用シェア)の活用意向は全体で7割超、正社員人材に余剰感を持つ企業も「受入」に肯定的

2020年に中途採用を実施した企業のうち、従業員シェア(雇用シェア)を活用したいとした企業は計70.4%、活用方法では「社内への受け入れを活用したい(計62.0%)」、「社外への出向を活用したい(計48.6%)」となった【図5】。 また、正社員人材に余剰感を感じている企業において、「受入を活用したい計」が約7割となっており、その理由を自由回答から得たところ「能力の高い人材であれば、多様な形で受け入れたい」などがあり、多様な人材登用・活用のスタイルを取り入れ、さらなる事業拡大と優秀人材獲得に繋げたい意図がうかがえた。 反対に、正社員人材に不足感を感じながらも、自社の従業員の「出向」に肯定的な企業もおよそ5割ある。その理由からは「出向により社員にキャリアを積ませたい」など、自社の従業員の成長を図り、従業員一人一人に対して多様なキャリアを積む機会に繋げたい意図がうかがえた【図5、図6】。

【図5】従業員シェア(雇用シェア)の活用意向

マイナビ「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」従業員シェア(雇用シェア)の利用意向
出典:マイナビ「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」より

【図6】従業員シェア(雇用シェア)活用意向の理由

マイナビ「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」雇用シェアの受入を利用したい理由
出典:マイナビ「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」より

マイナビ「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」雇用シェアの出向を利用したい理由
出典:マイナビ「企業の雇用施策に関するレポート(2021年版)」より

■雇用安定措置から転換した、従業員シェア(雇用シェア)活用の可能性

雇用安定措置以後の従業員シェア(雇用シェア)の今後は、異業種間留学を通した企業や人材の成長戦略の一環へと変貌していくのではないか。
コロナの影響により、雇用維持という側面から認知度が高まった従業員シェア(雇用シェア)は、短期的には産業雇用安定助成金により、雇用安定措置として注目が集まると思われるが、中長期的には公的支援が縮減されることも考えられる。しかし、コロナ禍で中途採用を行った企業では人材の過不足感に関わらず、認知度の高まった従業員シェア(雇用シェア)の活用に積極的なことも分かった。
以上のことから、従業員シェア(雇用シェア)の今後は、雇用維持という目的以外での「異業種間の連携や人材の交流」「従業員の能力開発・人材育成」「従業員本人のキャリア自立促進」などを目的とした、新たな人材活用のスタイルへの変貌、転職や副業・兼業とも一味違う、新たな学び・スキルアップのための選択肢としての活用など、企業と従業員双方の成長戦略に繋がっていく可能性があるのではないだろうか。

研究員 関根 貴広

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