マイナビ キャリアリサーチLab

ディーセント・ワークとは? SDGs週間に向けて考える

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

はじめに

2024年9月20日から29日まで、国連が主催するSDGs週間が開催される。SDGs とは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略で、2015年に国連サミットで採択された2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットからなる国際的な共通目標であり、貧困や飢餓、気候変動など、人類が直面するさまざまな課題に対処するために、すべての国が協力して取り組むべきものとされている。

SDGs週間は、SDGsの普及と実践を促進するための世界的なキャンペーンで、国や地域、市民団体、企業、学校など、さまざまな主体が参加して、SDGsに関するイベントや活動を行う。

本コラムではSDGs週間にちなんで、特に働く人々にとって身近な目標8「働きがいも経済成長も」 に焦点を当てる。具体的には「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」と説明されるが、この目標を達成するために重要な「ディーセント・ワーク」についてその意義や現状を確認していく。

ディーセント・ワークとは

ディーセント・ワークとは、国際労働機関(ILO) が提唱した理念で、日本では「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されている。もとは1999年に開催された第87回ILO総会においてソマビア事務局長によって提唱され、「1.雇用の促進」「2.社会的保護の方策の展開及び強化」「3.社会対話の促進」「4.労働における基本的原則及び権利の尊重、促進及び実現」の4つの戦略的目標を実現することで達成されると位置付けられている。

さらに、ディーセント・ワークは、SDGsの目標8に直接結びついているだけでなく、他の多様な目標にも関連している。それは、ディーセント・ワークが、貧困や格差の削減、教育や健康の向上、ジェンダー平等の実現、気候変動対策などを含めた、持続可能な社会の実現に貢献するからである。このように、経済、社会、環境という三つの側面を総合的に考慮することで、バランスの取れた発展が可能になるといえる。

日本におけるディーセント・ワークの現状と課題

厚生労働省が2012年に発表した報告書によると、日本においては、ディーセント・ワークを4つの内容に整理している。

<4つの整理>
(1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

「ディーセント・ワーク」については、やや定義が曖昧であるため、上記の「4つの整理」の項目を参考にしながら、マイナビが実施した「マイナビライフキャリア実態調査2024年版(働き方・キャリア編)」の結果に基づき、ディーセント・ワークの現状について確認していきたい。

なお、本コラムでは企業が従業員に対して実施している状況に焦点を当てるため、調査結果のうち、正社員として組織で働く人々に限定して利用した。

ワークライフバランス(職業生活と家庭生活の両立)

「ワークライフバランスは取れているか」について聞いたところ、属性に関わらず、全体的に「あてはまる」が最多となっていた。ワークライフバランスについては、具体的な仕事時間と家事時間の比率で示したものではなく、あくまで、回答者個人の感覚で回答しているものであることに注意は必要だが、半数近くが実現できていると感じられているといえる。

男女別にみると、女性のほうが男性よりもワークライフバランスが取れていると感じている。また、年代別にみると、20代、60代ではワークライフバランスが取れていると感じている人が半数以上である一方で、40代、50代は他の年代に比べて、その割合が低くなっている。【図1】

【図1】[正社員]ワークライフバランスはとれて取れているか/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)
※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる。
【図1】[正社員]ワークライフバランスはとれて取れているか/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)
※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる。

同調査によると、40代、50代は他の年代に比べてなんらかの役職についている割合が高いが、60代と比べると役員などの上級管理職である割合は低い。プレイングマネージャーとして忙しい日々を送っている人が多いことから、こうした結果につながったと推察される。

しかしながら、2024年2月に厚生労働省から発表された報告書によると、時間外労働を包括的に規制した働き方改革法の成立なども手伝って、全体的には労働時間は減少傾向にあり、ワークライフバランスの実現は推進されつつあるといえる。

職場における公正な扱い

次に、「職場における公正な扱い」について確認する。ディーセント・ワークが目指す公正・平等の軸はさまざまあるが、ここでは「性別」による不平等がないかについて注目する。

性別による「所得など経済的な不平等」を感じるか聞いたところ、男女ともに不平等を「感じる」との回答が過半数となった。特に女性でその割合が高く81.2%となった。年代別では、60代で特に不平等を感じるという割合が高かった。【図2】

【図2】[正社員] 性別による「所得など経済的な不平等」を感じるか/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる。
【図2】[正社員] 性別による「所得など経済的な不平等」を感じるか/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる。

本調査では、男女のどちらにとっての不平等感であるかについては聞いていないため、この結果だけで明言はできないが、以前、ジェンダーギャップ指数に関するコラム で述べたように、一般的に経済分野においては、女性のほうが不利な立場であることが多い。そのため、こうしたジェンダーギャップが存在する現状に対して、男女ともに「不平等がある」と感じている人が多いと推察される。

性別による不平等感については、社会全体の価値観を変化させていく必要があり、企業の取り組みだけで解決するのは難しい側面はあるが、ディーセント・ワークの実現に向けて、今後もさらにジェンダーギャップの解消に向けて、力を入れていく必要があるといえるだろう。

「働きやすさ」と「働きがい」

先ほど述べた「ディーセント・ワーク」に関する4つの整理の中にはワークライフバランスの実現といった「働きやすさ」を示す項目が目立つが、そもそもの定義には「働きがい」とある。

厚生労働省職業安定局が2014年に発表した報告書 によると、

  • 「働きがい」とは「自分の意見や希望が受け入れられる」「自分の仕事の意義や重要性に対して説明がなされる」といった「自己効力感」が充足されるような雇用管理がなされた場合に高まる傾向がある。
  • 「働きやすさ」は「相談できる体制」や「福利厚生」に関する雇用管理がなされた場合に高まる傾向がみられる。

と解説されており、簡単にいうと、「働きがい」は仕事に対して内発的に生まれる満足感や意義を感じることであり、「働きやすさ」は労働環境や福利厚生など外的な要因が整っている状態といえる。

このどちらも重要であり、両方が揃うことで従業員のモチベーションが向上すると考えられる。つまり、ディーセント・ワークの実現のためには、「働きやすい」職場と「働きがい」のある仕事の両方が重要な要素になるだろう。

まず、「働きやすさ」について聞いたところ、性別、年代に関わらず7割以上の人が「働きやすい」と回答していた。【図3】

【図3】[正社員] 職場での働きやすさ/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)
※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる
【図3】[正社員] 職場での働きやすさ/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)
※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる

さらにその理由について確認すると、全体的に女性のほうが、回答割合が高い傾向がみられたが、割合の多い項目順に並べると概ね同じような傾向がみられた。最多は「人間関係が良いこと」、次いで「休暇が取りやすいこと」となった。

特に、男女の違いに注目すると、男性が女性よりも高くなったのは「自分に裁量権があること」で男性のほうが5.4pt高かった。また、男女で項目の順番が変わったものについては「子育てや介護など家庭の事情への理解があること」で女性のほうが9.4pt高かった。【図4】

【図4】[正社員] 職場での働きやすさにつながる点(上位抜粋)/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編) ※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる
【図4】[正社員] 職場での働きやすさにつながる点(上位抜粋)/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編) ※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる

次に、年代別にみたところ、年代が高くなるほど「通勤がしやすい場所であること」が高くなる傾向がみられた。年齢が上がるにつれ、体力的な事情からこうしたニーズが高まると推察される。

子育て世代であり、また子どもが小さい家庭が多いと思われる30代では「子育てや介護など家庭の事情への理解があること」が他の年代に比べて高くなっていた。その他、60代では「自分に裁量権があること」が他の世代よりも高くなっていた。【図5】

【図5】[正社員] 職場での働きやすさにつながる点(上位抜粋)/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)
【図5】[正社員] 職場での働きやすさにつながる点(上位抜粋)/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)

次に「働きがい」について確認していく。同調査では特に「働きがい」という言葉を使った質問は行っていないため、先ほど述べた「働きがいとは、仕事に対して内発的に生まれる満足感や意義を感じること」に基づき、現在の職場や仕事に対して感じていることを確認していく。

職業生活について感じていることを聞いたところ、全体的には「職場では、自分の仕事に多くの注意を払っている」といったややストレスを感じさせる項目が上位に集まる結果となった。しかしながら、特に女性においては「良い仕事をするためにベストを尽くしている*」といった内発的な動機づけに基づく項目についても5割を超える回答が得られた。【図6】

【図6】[正社員] 職業生活について感じていること(上位抜粋)/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編) ※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる
【図6】[正社員] 職業生活について感じていること(上位抜粋)/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編) ※「正社員・計」「男性」「女性」には10代、70代の人が含まれる

次に年代別でみたところ、概ね全体と同様の傾向がみられたが、特に60代では他の年代と比べて、各項目の割合が高い傾向にあった。60代は役職定年を迎えたり、定年退職を目前に控えていたり等、職業生活が大きく変化するタイミングでもある。そのため、他の年代以上に、職場や仕事とより強く向き合い、働きがいを感じていると推察される。【図7】

【図7】[正社員] 職業生活について感じていること(上位抜粋)/マイナビマイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)
【図7】[正社員] 職業生活について感じていること(上位抜粋)/マイナビ ライフキャリア実態調査 2024年版(働き方・キャリア編)

まとめ

日本は少子高齢化社会、人口減少のフェーズに入り、労働力不足が懸念されている。今後は今まで以上に、性別や年齢に関係なく、現役として働き続ける社会が求められている。こうした背景から働き方改革などの効果もあり、「働きやすさ」については実現されつつあると感じる。

その一方で、見直されているのが「働きがい」の価値である 。単に、働きやすい、働き続けることができるというだけでは不十分で、働くことに意義や喜びを感じること、自分の能力や才能を発揮し、成長し、貢献することができることが求められており、それが「ディーセント・ワーク」が注目されるゆえんだろう。

また、先述したように、ジェンダーギャップの解消など「公正・平等」という意味で課題も残っている。個人の尊厳や幸福を守り、かつ、経済的な安定や社会的な包摂を促進し、持続可能な発展に寄与することを目指す「ディーセント・ワーク」の実現は、今後、より一層重要となるだろう。

日本も賃金は上昇しているが、直近5年間の上昇率を他国と比較すると、上昇幅が小さいことがわかる。なお、アメリカの最低賃金は、連邦政府と各州政府によって定められており、連邦最低賃金は全国一律で、各州はそれを下回ることはできないが、上回ることは可能というルールのもと、各州の最低賃金は地域の経済状況や労働市場の状況により異なる。

【表1】を見ると2020年から2024年まで金額が一定になっているが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の報告 によると、2024年1月には全米50州のうち、22州で最低賃金が引き上げられており、その金額もまた、最低賃金の7.25ドルを上回る金額で設定されている。

マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷こずえ

※なお、本コラムで紹介した「ライフキャリア実態調査」は、全国15歳以上の男女14,000名を対象に、就業・非就業や雇用形態に関わらず、個人の現在の労働の実態・意識変化、生活の実態・意識変化などを調査したものである。今回はほんの一部しかご紹介できていないが、ご関心のある方はこちらをご覧いただきたい。

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