フレックスタイム制は、柔軟な働き方を実現するための制度であるが、日本国内の企業全体で見ればまだ一般的ではない。しかし、特にIT系の大企業を中心に導入が進んでおり、今後も増加が予想される。今回はこのフレックスタイム制の意味や現状の制度・課題についてわかりやすく解説していく。
フレックスタイム制について
そもそもフレックスタイム制とは?
フレックスタイム制(Flexible Work)とは、厚生労働省の定義によると、「3か月以内の一定期間における総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者はその枠内で各日の始業及び終業の時刻を自律的に決定し働く制度で、労働者がその生活と業務の調和を図りながら、効率的に働くことができ、労働時間を短縮しようとするもの」と定義されている。
関連資料:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/flextime01.html
具体的によくある運用例としては、1カ月内で求められる総労働時間を満たすことを前提に、ある日は早めに始業 早めに終業、別の日は家庭の用事に合わせて遅めに始業、といった調整があげられる。固定の始業時刻を前提にした働き方よりも、働く時間に裁量が生まれるため、生活と仕事の両立や、働く人それぞれが集中しやすい時間帯を有効活用することに向いている制度だと言える。
ただし、「いつ働いてもいい」という完全に自由な制度ではなく、会社が定めた枠(たとえば一定期間で働くべき総時間や、全員が働く時間帯など)の中で働く時間を労働者自身が決定できる点は注意が必要だ。
コアタイムとは?
フレックスタイム制を理解するときに、必ず理解しておいてほしいことは「コアタイム」である。コアタイムとは、「この時間帯は必ず勤務していること」が求められる時間を指す。チームで会議を設定したり、対外的な対応をしたり、全員が重なる時間帯を確保する目的で置かれることが多い。
一方で、コアタイム以外の時間帯は、勤務の始業・終業を動かしやすい「フレキシブルタイム」として運用される。つまり、コアタイムは職場における連携を成立させるための中心的な仕組みであり、フレキシブルタイムは個人のライフスタイルやリズムに合わせて仕事をするための仕組みであると整理することができる。
フレックスタイム制ではこれらを組み合わせることで、柔軟かつ生産性の高い働き方を実現するための制度である。なお、フレックスタイム制はコアタイムの有無やその内容によって、次のように分類することができる。
- コアタイムが定められ、1日の労働時間の長さがあらかじめ決められている
- コアタイムも定められておらず、労働時間を完全に労働者の裁量で決められる「可変的労働時間制」
そして、コアタイムが長すぎると自由度が下がり、短すぎると会議調整や情報共有が難しくなるため、制度の使い勝手は施策次第で大きく変化する。
一方で厚生労働省の定義からは、フレキシブルタイムの時間が極端に少ない場合は、自律的に勤務の始業や終了ができないため制度として成り立たないことも注意が必要だ。したがって、それぞれの職場に合わせた運用が必要である。
(コアタイムとフレキシブルタイムのイメージ図)
フレックスタイム制と時差勤務の違い
フレックスタイム制と混同されやすいのが時差勤務である。時差勤務は、会社が用意した複数の勤務パターン(たとえば8時始業、9時始業、10時始業など)から選ぶ仕組みで、選択後は原則として固定運用になりやすい。
また、勤務パターンは会社が用意したパターンであり、労働者の裁量に合わせた制度ではない。一方、フレックスタイム制は一定のルールの中で日々の始業・終業を調整できるため、「運用の自由度が高い」代わりに、調整・管理・連携の意識がより重要になる制度である。
仕事についての柔軟性が高いほど、仕事への満足度が高まるという知見も報告されている(戸田,2016)。つまり、施策の目的検討の場面では、自由度と管理負担のバランスをどう取るかが重要であると言える。
フレックスタイム制の現状
制度の現状
フレックスタイム制は日本では1980年代後半に労働基準法の改正により正式に導入された。現時点では日本よりも欧米の方が一般的な制度となっている。内閣府の2011年に実施された男女共同参画会議専門調査の報告によると、欧米では97%の企業が、フレックスタイム制を導入している。
一方で日本において導入している企業の割合は2024年度には7.2%と1割に満たない。ただし、1,000人以上の企業になると約35%、300~999人の企業でも約20%と、企業規模が大きくなるにつれて導入率が高まる傾向にある(厚生労働省, 2024)。
さらに、15~79歳の男女の個人を対象にしたマイナビの「ライフキャリア実態調査 2025年版」によれば、「働きやすさにつながる点」としてフレックスタイム制度の導入をあげた人は14.5%であった。しかし、実際に職場に導入されていた制度の中で利用した制度としてフレックスタイム制度をあげた者は8.5%のみであり、先述の厚生労働省の報告と比較しても社会にフレックスタイム制が人事制度として浸透しているとは言えない現状も見えてくる。
近年のフレックスタイム制の動向
近年のフレックスタイム制に関する学術的な研究では、戸田(2016)の研究によると正社員・フルタイム勤務の対象者を前提に「適用されやすさ」の要因として以下のようなことが報告されている。これらの要因を踏まえて、業種や職場に合わせた制度運用が必要になると言える(戸田,2016)。
- 部下や同僚に対する責任の重い仕事
- 他部署・他社との調整を要する仕事
- 「年収800万円以上」の層で適用確率が高い傾向
- フレックス制の適用者は非適用者に比べて週当たり労働時間が約4〜5%短い傾向
フレックスタイム制のメリットとデメリットはなにか?
フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制の大きなメリットは、労働者にとって「時間の裁量」が生まれることにある。通院や育児・介護などの予定に合わせて勤務を組み立てやすくなり、通勤ラッシュを避けることで体力的・心理的負担も下げられる場合がある。
また、朝型・夜型といったライフスタイルに合わせて集中しやすい時間帯にコア業務を寄せられる点も大きい。こうした裁量は、単に便利というだけでなく、「自分で調整できる」という感覚が働きやすさの実感につながりやすい。この点はフレックスタイム制では重要なメリットである。
他方で、企業側から見ても、柔軟な制度は採用・定着の観点で魅力になりやすく、離職抑制やモチベーション維持に寄与する。また、出社が重なる時間帯を平準化できれば、オフィスの混雑や座席・会議室の圧迫を緩和できるなど、企業側の運用面においても効果的であるとされている。
フレックスタイム制のデメリット
フレックスタイム制にはデメリットもある。まず起きやすいのは、チームの稼働がそろいにくくなり、連絡や会議の調整コストが上がることである。全員が同じ時間帯にいる前提で対応していた仕事ほど、ルールを置かないと「いつ会議するか」「いつ返事が来る想定か」が曖昧になり、無用なすれ違いが増えてしまうことにもなりやすい。
さらに、顧客対応や現場対応のように時間が固定されがちな仕事では、フレックスタイムの裁量が持ちにくく、制度があるのに使えないという不公平感が生まれやすい。また、自由度があるがゆえに「いつでも働ける」状態が続き、仕事とプライベートの境界線が曖昧になり、長時間化するリスクもある。
制度が柔軟であるほど、勤怠管理や残業管理、成果・評価の設計を弱くすると、現場が混乱しやすいことは理解しておく必要がある。
フレックスタイム制の課題とは?
先述の通り、フレックスタイム制は「制度を導入した瞬間に働きやすくなる」という人事施策ではない。制度の効果が出るかどうかは、現場運用をどうするかで決まりやすい。定期的な会議の置き方、連絡の返し方、稼働が重なる時間帯の作り方といったコミュニケーションの施策が不足すると、問題が起きやすくなってしまう。
また、仕事の可視化をうまくできていない場合には、結局「何をしているか」が評価に大きく影響を及ぼすことになり、フレックスタイム制導入前と同じ管理に戻りやすい点も注意が必要な点である。さらに、勤怠や残業の管理が自律的にできないと、自己調整がうまくできない者にとっては長時間労働やサービス残業が増えてしまう恐れがある。
不公平感の問題も含め、制度を使いにくい職種に対しては、時差勤務や代休運用、繁忙平準化、人員配置などの代替策を用意しなければ効果がみられない。働きやすさの改善がそのまま業績などの組織成果に直結するとは限らないため、フレックスタイム制を「万能の働きやすい制度の施策」として誤解せず、職種・評価制度・マネジメント条件によって制度の効果は変わるものであると理解しておくことが必要である。
多様な人材の活躍に有効なフレックスタイム制
先述の通り、フレックスタイム制ではライフスタイルに合わせた多様な働き方を実現しやすい。Diversity Equity Inclusion(DE&I)や多様な人材が活躍することで生まれるイノベーションの創出や人材の活躍定着という視点でもより重要になると考える。
性別にかかわらず、子供の保育園への送迎やショートステイなどのデイサービスの送迎などの付き添いをしてから、勤務を始業・終業するといった仕事とライフスタイルに合わせて働くニーズは今後も高まる傾向であり、多様な人材が活躍しやすい施策として、フレックスタイム制の活用は期待できる。
そして、多様な人材が活躍する効果の一つとして、障害者雇用の採用後の職場定着にもフレックスタイム制の施策を提案したい。特に精神障がい者や内部障がい者においては、体調の波に合わせて柔軟に働けること、また車いすユーザーにおいては通勤しやすい時間帯に始業や終了を調整したり、障がい者が定期的に必要な通院や職業的な訓練を受けながら就労するという合理的配慮による職場環境が実現しやすい。
参考資料:障害種別と障害等級
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h25kokusai/shiryo_06_03.html
障がい者当事者視点においても安心感を持って自律的に活躍することにもつながることへ非常に期待できる。今後、障害者雇用がより社会的に促進されていく中で、さまざまな障がい者の人材が活躍するために障害者雇用と定着の観点でも非常に有効な働き方の施策の一つとして、フレックスタイム制の施策に期待できると厚生労働省の令和5年度 障碍者雇用実態調査では示唆されている。
このように今後の社会課題の一つとして「労働人口の減少」や「多様なライフスタイル、価値観」などの中で、ワークライフバランスをいかに柔軟にしながら誰でも働きやすい社会にするのか?という課題に対して、フレックスタイム制が今後、日本国内でも浸透が加速し、誰もが働きやすい職場環境の施策につながることを期待したい。
【参考文献】
・Kelliher, C., & De Menezes, L. M.,(2019),Flexible Working in Organisations: A Research Overview,Routledge.
・厚生労働省,(2024),令和6年就労条件総合調査 結果の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/24/index.html#contents
・厚生労働省,(2024),令和5年度障害者雇用実態調査
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39062.html
・戸田 淳仁,(2016), 『正社員の労働時間制度と働き方-RIETI「平成26年度正社員・非正社員の多様な働き方と意識に関するWeb調査」の分析結果より』,RIETI Discussion Paper Series,16-J-008.
・内閣府,(2013), 障害種別と障害等級
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h25kokusai/shiryo_06_03.html
・内閣府,(2011), 欧米諸国における ワーク・ライフ・バランスへの取組み,男女共同参画会議専門資料
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/wlb/siryo/pdf/wlb11-3-1.pdf
・マイナビ,(2025),ライフ・キャリア実態調査2025年版
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250724_98393/