「あの人は仕事ができない人だ」と周囲からレッテルを貼られる人がいる。なかには「もしかしたら自分って仕事ができないのかも」と不安に思う人もいるだろう。しかし、「仕事ができない」ことはその人の能力不足や努力不足といった個人的な要因だけなのだろうか。
本企画では、「仕事ができない」と周囲から思われてしまう事象に対して、職種とのミスマッチ・職場の周囲の人間とのミスマッチといった環境要因によるものではないかという仮説を立てた。職場環境以外に、私生活の変化による影響も受けることはあるだろうが、今回はあくまでも職場内に限定して検証していく。
そして、ミスマッチ解消の対策として本人の負担が大きい「転職」という選択肢だけではない環境の変化や、チームメンバーとの関わり方の変化によってその人のスキルを活かすことができる、つまり「仕事ができない人」ではなくなるのではないかと考えた。
そこで、「”仕事ができない”は本当か?その本質を大解剖」と題した連載企画をスタートする。有識者へのインタビューをもとに、仕事ができないと周囲に思われる人の裏にある本質を探る。
※本コラムは、連載の新たな記事を公開した際に随時更新予定
仕事ができない人の特徴とされるもの
「仕事ができない人 特徴」などのキーワードで調べると、たくさんの記事が出てくる。そのなかでは、以下のような特徴が挙げられている。
- 指示を理解できない
- 仕事が遅い
- 報連相ができない
- ミスが多い
- 自主性がない
しかし、これらは「職場がその人に期待すること」と「本人のスキル」が合っていない可能性が考えられる。
たとえば「指示が理解できない」と思われている人の場合、本人からすれば「指示が抽象的で分かりにくい」と感じているかもしれない。より具体的に指示をすることで改善する可能性がある。
「ミスが多い」に関しても、細かい作業が苦手な人が繊細で集中力が求められる業務に就いている場合はミスが起きやすい。このような人は、ある程度自由度のある業務であればスキルを活かせる可能性がある。
このように、周囲のメンバーによる関わり方の変化や業務内容の変化により、「仕事ができない人」ではなくなるのではないか。「あの人はできないから」と切り捨てるのではなく、チームや企業でできることがあるのではないか。その可能性を本シリーズで探っていきたい。
スキルと職種のミスマッチが生むもの
「仕事ができない」と評価される人のなかには、実はその人のスキルと現在の職種が合っていないだけ、というケースが多いのではないか。本人の能力が低いわけでも努力が足りないわけでもなく、配置や業務内容とのミスマッチによる影響が大きいのではないかと考える。
たとえば、分析力に優れた人が対人コミュニケーション能力を求められる営業職に配置された場合、苦手意識からパフォーマンスが低下することは容易に想像できる。ほかにも、クリエイティビティの高い人がルーティン業務中心の部署にいると、モチベーションが上がらず、成果が出にくくなることもあるだろう。
このような「スキルと職種のミスマッチ」は、個人の問題ではなく、職場の配置や人材活用の課題といえる。
厚生労働省の「令和4年版 労働経済の分析」のなかでは、個別の企業と労働者の間の相性の不一致があった場合、「転職などの際の情報の非対称性の緩和(企業情報の開示など)を通じて、~中略~より自らに合う企業で労働者が能力発揮できるよう支援すること等が労働市場政策として支持されることとなる」とミスマッチの解決策を提示している。
また同白書では、職種間の需給ギャップを労働市場におけるミスマッチの一因として指摘している。特に、職種ごとの人材需要と供給の不一致が、労働者の能力発揮を妨げているとしている。
スキルと職種のミスマッチを起こしている従業員がいた場合、企業としても個人としてもできることがありそうだ。
チームや職場環境とのミスマッチが生むもの
「仕事ができない」とされる人が、実は別のチームや職場では高い成果を出すことがある。これは、チームや職場の環境がパフォーマンスに大きく影響しているといえるだろう。
Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも示されたように、心理的安全性はチームの生産性に直結する。質問や相談がしにくい雰囲気の職場では、ミスを恐れて報告が遅れたり、改善提案が出てこなかったりといった弊害がある。
心理的安全性については、こちらの記事で詳しく解説している。
また、チーム内のコミュニケーション不足や上司の関わり方も、個人の成果に大きく影響するのではないかと考えられる。マイナビが行った「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版(2024年実績)」の結果を見てみよう。
本調査は正社員を対象に行ったものであるが、職場環境について「上司との関係がよい」「職場の人間関係がよい」という項目に対し「そう思う」人(「そう思う」と「まあそう思う」の合計)と「そう思わない」人(「そう思わない」と「あまりそう思わない」の合計)それぞれの結果の差を見る。
【図1】は仕事への取り組み方について、「働くモチベーションが高いことが多い」という項目にあてはまるかそうでないかを聞いたものだ。
【図1】「働くモチベーションが高いことが多い」×「上司との人間関係がよい」「職場の人間関係がよい」/マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版(2024年実績)」
上司との人間関係、職場の人間関係ともに「良いと思わない」と答えた人のなかで、6割以上の人が働くモチベーションが高いとはいえないと判断している。回答者全体の割合と比較しても、「あてはまる」27%「どちらともいえない」36%「あてはまらない」37%のためその傾向は顕著である。
ほかにも、「仕事をしている自分が好きだ」「職場において自分の意見を安心して発言できる」などの項目で、上司との人間関係、職場の人間関係が「良いと思わない」人の半数以上が「当てはまらない」を選ぶという結果が出た。
これらのことから、上司や職場とのミスマッチは働く人のモチベーションを下げ、いきいきと働くことができなくなる。それによりパフォーマンスが落ち、「仕事ができない」と思われてしまうことにつながるのではないだろうか。
「自分って仕事ができない?」と思ったときの対処法
一方で自分自身に視点を向けたとき、「自分は”仕事ができない人”なのか?」と不安に思うこともあるだろう。とくに周囲との比較や評価が気になる職場環境では、自信を失いやすくもなる。そんなときに個人でできる対処法も考えていきたい。
本シリーズの仮説通り、スキルと職種のミスマッチや職場環境とのミスマッチによるものなのであれば「転職」や「社内異動」も選択肢に入るが、これらは本人の負担も大きい。転職や異動も視野に入れつつ、まずは今いる職場でできることを考えていこう。
対処法としては、まずは自分の得意なことや苦手なことを棚卸しする、周囲からのフィードバックを積極的に受ける、などが考えられる。これらを有識者からのアドバイスで明らかにしていきたい。
「仕事ができない」の本質を探る
この記事では、周囲から「仕事ができない」と思われてしまう人は、スキルと職種のミスマッチや職場環境とのミスマッチが原因なのではないかという仮説を立ててきた。本シリーズでは、有識者へのインタビューや寄稿を通じて、これらの仮説に対して学術的に考えていく。
本シリーズを通して、「仕事ができない」というレッテルを貼られてしまった人も、自分の得意なことやスキルを理解して環境を変えたり、周囲との関わり方を変えたりしてそのレッテルから脱却できることを示せると幸いである。
※本コラムは、連載の新たな記事を公開した際に随時更新予定