「仕事ができない」と評価される理由は?職場環境のミスマッチという観点から考える-早稲田大学商学部 准教授 村瀬俊朗氏

キャリアリサーチLab編集部
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周囲から「仕事ができない」と評価されてしまう人は、本当に“できない人”なのだろうか。本人の能力や努力の問題と片付けられがちなこの現象の背景には、職場環境や人間関係、業務とのミスマッチといった構造的な要因が潜んでいるかもしれない。

環境の変化やチームメンバーとの関わり方次第で、その人の力が生かされ、“できない人”ではなくなる可能性もあるのではないか――。本企画では、「“仕事ができない”は本当か?その本質を大解剖」をテーマに、早稲田大学の村瀬教授にお話を伺った。組織行動論の観点から、“できない人”が生まれる背景と、チームや管理職がどう関われば人が力を発揮できるのかを考える。

早稲田大学商学部准教授 村瀬俊朗氏

村瀬俊朗(早稲田大学商学部准教授)

1997年の高校卒業後、渡米。2011年にUniversity of Central Floridaから産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)として就労後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職であり、専門はリーダーシップとチームワーク研究。『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、2021年、英治出版)や『失敗できる組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、土方奈美訳、2025年、早川書房)の解説者。大学の仕事以外では、数々の共同研究やアドバイザリィ活動を通じて、リーダーシップ、チームワーク、組織開発に関する組織の課題に対して助言や伴走を行っている。

自発的に動けない人の共通点は環境をつくる力の欠如

質問:世の中には「仕事ができない」と周囲から思われてしまう人がいます。こういった人に特にみられる言動や行動として挙げられるものはありますか

村瀬:「仕事ができない」と思われてしまう人の多くは、与えられた仕事や職場環境にうまくフィットできていないことが多いように思います。構造的な特徴として、自発的に動くことが少ない傾向がありますね。

仕事というのは、単に与えられたことをこなすだけではなく、自分にとってやりやすい環境を自分でつくっていくことが大切なんです。たとえば、何が求められているのかを理解したり、足りない知識や情報を他の人から得られる関係を築いたり、自分の得意なことを周囲に伝えて、それに合う仕事を引き寄せるような関係性をつくる。こうした動きがないと、結果的に「苦手な仕事を一人で抱える」状態になってしまうわけです。

また、他者に頼らずに一人で進めてしまうのも特徴ですね。自信がありすぎる人ほど「相談しなくても大丈夫」と思い込みがちで、上司や先輩と十分にすり合わせをしないまま動いてしまう。それで「違うよ」といわれると不満を抱く、ということが起こります。つまり過度な自信が、かえって学習の妨げになってしまうわけです。本来は「自分に足りない部分は何か」「誰に頼れば良いか」と考えて、他者に助けを求めることが重要なのです。

仕事は人間関係の中で成り立っています。素直にアドバイスを聞き、改善しようとする人には、周囲も「この人に成功してもらいたい」と思うものです。逆に自信過剰だったり、人にアドバイスを求めない態度だったりすると、支援を得にくくなります。

実は研究でも、人間は経験が浅いうちは自信が低いのですが、経験を積んで成長するプロセスのなかで、ある時点で経験値よりも自信感のほうが急激に高まってしまう人が一定数いることがわかっています。 しかし、本当に能力が高い人ほど、過度な自信を持たない傾向があるようです。

IQと性格特性の関係から見える“できない人”の構造

質問:「仕事ができない」と思われる行動をしてしまうのには、どのような背景があると考えられるでしょうか。

インタビュー中の様子

村瀬:それはケースバイケースですね。私が研究している組織行動の分野では、仕事のパフォーマンスに強く関係しているのは、IQと勤勉性の2つだと認識しています。

IQが高いというのは、単純に記憶力が良いということだけでなく、処理速度の速さや語彙力の豊富さ、空間認識能力の高さなどの総合的な能力が関係します。情報を処理する速さや量、深さなどがIQによってある程度影響されてしまうので、新入社員や転職者が新しい仕事を覚える際には、IQが関係するようです。

一方で、IQが高くても成果につながらない人もいます。それは勤勉性が低いケースです。心理学で広く認められているビッグファイブ理論では、性格を構成する主要な特性を、外向性、協調性、勤勉性、経験への開放性、感情の安定性の5つに分類しています。このうち、勤勉性がIQと同じくらい仕事のパフォーマンスに影響することがわかっています。

勤勉性とは、やりたくないことでも自分を律してやり切る力、集中力を持続できる特性のことです。仕事は短距離走ではなくマラソンのようなもので、長期的に努力を続けられる人こそ成果を出しやすいわけです。このIQと勤勉性が欠けていると、個人の問題として、”仕事ができない”状態になってしまいます。

また、人との関わりが多い職場では、外向性や感情の安定性といった性格特性も重要になってきます。嫌なことがあったら過剰に反応してしまう人や何にでも文句をいってしまう人は、他者とのやりとりがうまくいかず、結果的に仕事の成果が上がらない状態になってしまいます。

とはいえ、個人の特性がすべてではありません。研究では、IQや性格特性が仕事の成果に与える影響は全体の2割程度に過ぎず、管理者や上司、先輩たちの影響が非常に大きいことがわかっています(Nye, C. D., Ma, J., & Wee, S. ,2022; Judge, T. A., & Ilies, R. ,2002; Dudley, N. M., Orvis, K. A., Lebiecki, J. E., & Cortina, J. M. ,2006)。

だからこそリーダーシップ研修は非常に重要で、従業員全員に研修を実施するより、各職場のリーダーへの研修を実施して、働きやすい職場環境を整備できる知識とスキルを養うことが重要だと思います。

“できない人”を一人にしない管理職の介入力

質問:「仕事ができない」と思われる人に対して、管理職やチームメンバーはどのように関わっていけば良いでしょうか

村瀬:まず管理職の役割というのは、部下が良い環境で働けるようにすることだと思うんです。人というのは、業務やプロジェクトを進めていく上で非常に大事な資産であり資源ですから、仕事ができない人をどう伸ばしていくか、チームの中でどう貢献してもらう状態をつくるかというのが、個人レベルで大事なことだと思います。そして同時に、個々人がお互いに協力し合って、みんなが連携しやすいようなチーム環境を整えていく、この両方が管理職の大事な役割だと思います。

“仕事ができない”と見える状態は、能力とか動機の問題に見えるかもしれませんが、実際にはどこで苦労しているのかをきちんと見極めて、管理職が積極的に介入し、サポートしていくことが大切です。「この人は動機が低い」といって片付けるのではなくて、なぜ動機が高くならないのか。もしかしたら職場環境が整っていないのかもしれないし、上司がうまくゴールや意味を伝えきれていないのかもしれない。

実際、個人の動機やエンゲージメントといった心理現象は、個人だけの問題ではなくて、チームメンバーや管理職と相互に影響し合って表出する結果です。だからこそ、リーダーがそこにきちんと介入していくことが重要だと思います。

仮にスキルが足りていない人がいたとして、みんなが忙しくて相談しにくい職場では、経験の浅い人が一人で悩み、残業ばかりして、「あの人、なんでそんなに残ってるんだろう?」と他のメンバーにいぶかしく思われる状況になることがあります。

そういうときに個々人の問題として認識するのか、それとも管理職として足りない部分を振り返って、自分の問題として考えるのか。管理職は、個人の問題として対応するだけではなくて、もしかしたら職場や自分自身に問題があるかもしれないという意識を持って問題を探していくことが重要だと思います。

お互いさまの文化が職場をしなやかにする

質問:チームの中である特定の人をサポートする際に、それ以外のメンバーに対する配慮やケアも必要になってくるのではないでしょうか?

村瀬:誰かをサポートしようとすれば、その分、他の仕事に使える時間やエネルギーは相対的に減ります。でも大事なのは、それをどう捉えるかだと思うんです。

一時的には時間を取られるかもしれませんが、その人が成長してチームに貢献し始めたら、結果的にチーム全体の仕事が楽になることもある。だから、短期的にはコストに見えても、長期的には投資になる。そういう視点を持って、管理職がどうチームをもり立てていくかを考えることが大切だと思います。

これはある企業から聞いた話ですが、一般社員が気持ちよく仕事をするためには、部長や課長だけじゃなく、その間にいる係長クラスの人たちがきちんと機能していることが大事なんだそうです。一般社員にとって、一番身近な相談相手は係長クラスの人たちです。でもその係長たちも自分の仕事で手いっぱいで、相談に乗る余裕がない状態でいることが多い。そうすると、一般社員は相談もできずに苦労することになります。

さらに、係長の上席にあたる課長や部長が一般社員の育成に関して、「がんばれ、あとはお前に任せた」と言ってしまうような組織だと、係長もつらい。そうなると、結局係長も一般社員もつらくなってしまうというわけです。

逆に、上位のリーダーが係長クラスの支援をしっかりしてやっていると、係長クラスの人も「自分も助けてもらっているし、今度は自分が支える番だ」と思えるようになる。そうやって、上から下へ、支援の流れが連鎖していくんだと思います。

時間は有限なので、誰かを助けるには何かを削らなければならない。でも、そのときに「お互いさまなんだ」という感覚があると、人はしなやかになれる。そういう支援の輪ができていないと、結局どこかにしわ寄せがいって、「もう嫌だな」で終わってしまうんです。

「あの人、仕事できないよね」と陰でいうのではなく、「どうしたらチームとしてうまく回るか」を考える必要があります。みんなでサポートし合った方が、チーム全体が機能するし、結果的に自分の負担も減る。長い目で見れば、その方がずっと健康的で理にかなっているんです。もちろん現実的には人間関係の難しさもありますし、どうしても介入できないケースもあるとは思いますが。

教える人を評価する仕組みが企業を強くする

質問:「仕事ができない」と思われている人がそこから脱するために、企業としてできることはありますか。

インタビュー中の様子

村瀬:基本的には、人間が力を発揮するために一番大事なのは教育です。教育制度がしっかりしているかどうかが、重要なポイントだと思います。人間は、トレーニングされることで新しいことができるようになるし、逆に、これまで身についてしまったやり方を洗い落として新しい環境に適応する――そういう意味でも、トレーニングとアントレーニング(トレーニングをリセットすること)の両方が必要なんです。

多くの職場では、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて、先輩社員が後輩を教える形での教育を取り入れていると思います。ただ、近年は人手不足や企業のスリム化、効率性の追求といった傾向が強まっていて、OJTの実施がだんだん難しくなってきています。OJTは大きな負担になるので、職場がスリム化して人員配置の最小化を進め始めると、OJTのためだけに人員を配置することができない状況になりやすいです。

ここで重要となるのが評価制度です。たとえば「他者を育成することに貢献している」「職場のために時間を使っている」といった行動を、評価軸の中にきちんと入れておかないと、教える側は「やってもやり損」になってしまう。組織全体の成果を上げるために時間を使っても、自分の評価が下がってしまうなら、誰もやらなくなってしまいます。

これは人事制度全体の話にも関わるところで、ある金融機関のケースでは、顧客満足度を高めるために「新しいサービスを提案してください」と社員に呼びかけたそうです。ところが、実際の評価軸には提案や改善への取り組みが入っていなかった。結局、通常業務をひたすらこなした方が評価が高くなる。だから、誰も提案しなくなってしまった。

これは教育も同じです。誰かに時間を使って教えることに対して、評価の仕組みの中でそれにきちんと報いることが重要で、そのことを考慮してパフォーマンス評価を調整する必要があるのではないかと思います。

チームの人間関係は仕事のモチベーションに影響も

質問:仕事のパフォーマンスでいうと、マイナビの調査で「上司や環境の人間関係に対しネガティブな感情を持っている人は仕事のモチベーションが低い傾向」という結果が出ました。こちらに対してご意見を聞かせてください。

村瀬:上司や職場の人間関係と、仕事に対するモチベーションは密接に関係していると思います。どちらがどちらに起因しているかという因果関係を明らかにするのは難しいですが、モチベーションが高い人には仕事を依頼しやすく、人間関係も円滑に進みやすいといえます。また、人間関係の良い職場にいると仕事がしやすく、モチベーションが高まりやすいです。その逆も然りですね。

仕事のタスクがすべて自身の興味関心に合致することは難しいので、業務内容によってモチベーションが高まるケースは稀かと思います。すると働く上で多くの人にとっては人間関係が大切になります。冒頭に述べた内容とも関連しますが、人間関係の良くない職場だと一人で仕事を抱えがちになり、「この仕事楽しくないな」とモチベーションが低下しやすいです。

アメリカの調査では離職意図と離職行動の影響が強いのは上司がフィットするかどうかである、という結果も出ています。職場の人間関係の中でも、特に上司との関係性が重要といえるでしょう。 繰り返しになりますが、自分のチームに”仕事ができない”と評価されてしまう人がいた場合、管理職の立場にいる人は職場や自分自身に問題がないか振り返り、改善策を探していくことが必要だと思います。


<参考文献>
・Nye, C. D., Ma, J., & Wee, S. (2022). Cognitive ability and job performance: Meta-analytic evidence for the validity of narrow cognitive abilities. Journal of Business and Psychology37(6), 1119-1139.
・Judge, T. A., & Ilies, R. (2002). Relationship of personality to performance motivation: a meta-analytic review. Journal of applied psychology87(4), 797.
・Dudley, N. M., Orvis, K. A., Lebiecki, J. E., & Cortina, J. M. (2006). A meta-analytic investigation of conscientiousness in the prediction of job performance: examining the intercorrelations and the incremental validity of narrow traits. Journal of applied psychology91(1), 40.

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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