あすか製薬ホールディングス株式会社は、経済産業省の令和6年度「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」 に選出されました。女性の健康を事業の柱とする同社では、従業員の育児・介護と仕事の両立を支援する独自の制度を整え、「ワークサポート応援金」制度の導入、女性管理職比率の向上など、さまざまな成果を上げています。
本稿では、あすか製薬株式会社 人事部の幡野様と久保田様に、制度の背景や導入時の工夫、職場に生まれた変化や今後の展望について伺いました。
■幡野 隆志(写真 右)
あすか製薬株式会社 管理本部 人事部
ヒューマン・リソース課 課長
2005年に前身である帝国臓器製薬株式会社に入社。13年間MR職に従事し、2018年に人事部へ異動。各種制度設計や労務・労政業務を担当し、現在は人事企画、研修、採用などの業務に携わっている。
■久保田 麻耶(写真 左)
あすか製薬株式会社 管理本部 人事部
ヒューマン・リソース課 係長
2004年に前身である帝国臓器製薬株式会社にMR職として入社。その後、本社での産婦人科製品の戦略立案や市民向けの啓発活動を経験し、2024年より人事部に異動。現在は人事企画、研修、採用などの業務に携わっている。
「ワークサポート応援金」が男性の育児休業取得を促進
質問:貴社は経済産業省の令和6年度「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」に選出されています。具体的な取り組みの内容とその背景を教えてください。
久保田:当社が「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」に選出されたのは、「多様な働き方の推進」、特徴的な取り組みである「ワークサポート応援金」、「コーポレートアイデンティティ企画」、そして「自律的な学びの促進」といった社員のキャリアとライフの両立を支援する取り組みが評価された結果だと考えています。
当社は、フルフレックス制をはじめとするライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能な制度を整えています。女性の健康や産婦人科製品を扱う製薬企業として、次世代を担う子どもたちが健やかに生まれ育つ環境を整備することも私たちが取り組むべき課題の一つと捉え、仕事と子育ての両立に向けた取り組みを進めています。すべての社員が相互に理解し、共育てをしながらいきいきと働くことができる社会の実現を目指しており、その一環として男性育児休業の取得を推進しています。
男性社員の育児休業取得率については、2020年末の時点では45.5%でしたが、取得率100%を目標に掲げて職場全体でさまざまな取り組みを進めた結果、2023年に100%を達成。2024年も引き続き100%を維持しています。
一方で、取得日数については2023年度で9日程度と課題が残っている状況のため、2030年時点で30日の取得を目標としてさらなる取り組みを進めています。
こうした背景を踏まえ、2024年より導入したのが「ワークサポート応援金」です。これは、育児休業や介護休業、不妊治療、私傷病による30日以上の休業を取得した社員の業務を支えた職場のメンバーに対して、半年ごとに貢献度に応じて応援金を支給する制度です。
幡野:「ワークサポート応援金」は半期で10万円、年間で20万円と支給額の上限を設定しています。実際にどの程度メンバーの業務をサポートしたか、業務負荷は職場ごとに異なるので、上長に判断を委ねて、それぞれの職場の状況に応じて支給額を決定しています。
男性社員の育児休業取得に関しては、これまでも休業日を有給扱いにしたり、その日数を増やしたりと、さまざまな取り組みを行ってきましたが、思うように取得日数が増えませんでした。あらためてヒアリングをしてみると、「職場のメンバーに『1カ月休みます』とは心理的に言いづらい」という声が挙がってきました。自分の仕事に責任感を持って取り組んでいるからこそ、周囲から「育休を取ってください」と背中を押される環境でないと、取得に踏み切りづらいという現実があったようです。
育児休業を取得する当人には育児休業給付金が支給されますが、その一方で職場に残るメンバーには大きな業務負担が生じることも少なくありません。当社としては、育児休業を「チームで支え合うもの」と捉え、“支える人”の貢献にも何かしらの形で感謝を還元したいという思いから、「ワークサポート応援金」の導入が決まりました。
制度の出発点は育児休業でしたが、病気や不妊治療、介護で休業を余儀なくされる方の業務を支えたメンバーも、同じように「ワークサポート応援金」でカバーしていこうという考えに至りました。この制度が浸透することで、ライフイベントにより一時的に職場を離れる社員に代わり、業務をサポートした社員がポジティブに業務へ取り組める風土醸成を目指しました。
公平性を考慮して「ワークサポート応援金」の制度を設計
質問:「ワークサポート応援金」の取り組みを進めるにあたり課題や障壁となったことがあればお聞かせください。
幡野:一番の課題となったのは、金額の設定です。応援金の支給により、場合によってはサポートをした社員の給与が他の社員より高くなるケースも考えられます。そのため、サポートに対する適切な感謝と報酬であることは前提としつつも、制度の趣旨やバランスを損なわないよう、社員が納得できる水準について慎重に検討を進めました。
また、支給対象についても慎重に議論を重ねました。本来の趣旨は、休業を終えて職務に復帰してもらうことを前提としているので、たとえば、病気で休職されていた方が休職期間満了をもって退職された場合などは、制度の対象外としています。
従業員の声が経営層に直接届く組織風土
質問:取り組み前後で社内の雰囲気や社員のモチベーションなどにどのような変化がありましたか。具体的なエピソードがございましたら、あわせてお聞かせください。
久保田:「ワークサポート応援金」は社内で徐々に浸透しつつあると感じています。男性育児休業の取得期間も徐々に延びており、1カ月以上取得することを勧める雰囲気も定着し始めています。
さらに、社長自身が育児休業を取得し、その経験をインタビューとして社内に発信しています。こうしたトップの姿勢は、育児というライフイベントへの理解を示すとともに、制度活用に対する安心感を生み、社員にもポジティブな影響を与えていると感じています。
また、当社では経営層と社員が直接対話をする機会として「ラウンドテーブルミーティング」を設けています。その場でも制度の充実度について、さまざまな部門からポジティブな意見が寄せられました。こうした声を通じて、会社の取り組みが社員に届いていることを実感しています。
幡野:当社の経営層は、フラットな目線で社員の意見を受け止めようとする姿勢を大切にしています。「ラウンドテーブルミーティング」では、社員からの要望に対して社長がその場で意見を交わし、必要に応じて関連部門に検討を指示することもあります。過去の慣習にとらわれず、新しい考えを柔軟に取り入れようとする風土が根付き始めており、経営層と社員との対話の機会も着実に増えています。
久保田:「ラウンドテーブルミーティング」で提案された意見が迅速に施策へ繋がることも、社員の信頼感を高めている要因だと感じます。「ワークサポート応援金」についても、現場の課題提起が導入のきっかけでした。
ほかにも、工場のユニフォームの色を社員が自由に選べるように変更した例もあります。社長の「多様性の時代に合った、誰もが着やすいスタイルにしていこう」といった一言がきっかけで、迅速に実現しました。このような実行スピードの速さも、経営層と現場との距離が近い当社ならではの強みだと感じています。
仕事と子育てを両立する意識が職場に浸透
質問:取り組み後、社員の方々の声としてどのようなものが挙がっていますか。特に「ワークサポート応援金」に関する社員の方々の反応を伺いたいです。
幡野:「ワークサポート応援金」については、社内ではポジティブな意見が多く、育児休業の取得に関しても、「子どもが生まれた」と聞くと、周りの社員が「育休はいつ取るの?」「30日以上取れるといいね」といった声掛けが自然と出るようになっています。
同じ職場のメンバーが「支える」姿勢を持つことで良い雰囲気が生まれており、これからも好事例がさらに増えていくことを期待しています。今後、育児休業の取得期間がさらに延びていくようなら、制度自体もアップデートしていく必要がありそうです。
実際に、今まさに人事部で男性育休中のメンバーがいますが、1年で2回(各1カ月間程度)に分けて取得をしています。職場から完全に離脱するのはなかなか難しいという現実もある中で、それぞれの職場の状況に合わせて柔軟に対応しているところです。
当社は、女性の健康をめぐる社会課題に取り組む製薬企業として、女性社員の活躍推進も積極的に進めています。社長自身も「女性が活躍するという多様性ある環境がイノベーションを生み出していく」という考えを持ち、折に触れて発信もしています。また、育児を担う男性社員の支援にも注力しており、「共働き・共育て」への意識が社員にも浸透してきていると思います。
こうした制度や風土づくりに加えて、健康の視点からも社員を支える体制を整えています。
「コーポレートアイデンティティ企画」として、女性特有の健康課題にアプローチする取り組みを展開し、定期健診の検査項目追加、がん保険の導入、健康課題に配慮した食堂メニューの展開など、社員の健康を組織としてサポートする仕組みづくりを進めています。
これらの施策は、社員が自身の心身と向き合うきっかけとなるだけでなく、「社員の健康を守ることは企業の使命である」という姿勢を、日常の中で自然と発信するものにもなっています。
女性管理職比率が倍増し、従業員エンゲージメントも高い水準に
質問:事例集には、「女性管理職比率も2018年度と比べて5年間で2倍に向上、従業員のエンゲージメントも向上」といった成果が記載されておりましたが、このあたりの取り組みの利用状況や成果を詳しくお聞かせください。
久保田:女性管理職比率については、2018年時点の6.2%から、直近では13.5%まで上昇しました。当社は女性の健康を扱う企業として、女性活躍推進が重要なテーマであると捉え、経営トップも明確な目標を掲げて取り組みを継続してきた成果だと考えています。
具体的には、女性社員が自分の希望やキャリア志向に応じて能力を発揮できる職場環境の整備と教育研修の充実を図ってきました。若手女性社員の中には、将来のライフイベントを見据えて「管理職としてのキャリアを歩むことは難しいのではないか」と考える方も少なくないように思います。そうした不安に寄り添い、女性向けキャリアデザイン研修やeラーニングを通じて、自律的にキャリアを考え、必要な能力を身につけられるよう支援しています。
次世代の管理職候補である係長クラスについても女性比率30%を目標に定め、女性活躍を支える環境づくりに注力しています。
あわせて、社員のエンゲージメント向上にも注力しています。当社では、ESGの観点から取り組むべきテーマとして11の項目を定め、その一つとして社員のエンゲージメント強化を掲げています。社員一人ひとりが会社の考えに共感して前向きに働けるよう、社員の健康や多様性に配慮し、ワークライフバランスを大切にした働き方の実現を目指しています。
外部委託による調査結果では、エンゲージメントスコアが2021年度の53.7から2024年度は54.7へと上昇しており、委託先のデータにおける業界平均の50.1を上回る高い水準を維持しています。特に「会社への適合性」「経営層との信頼関係」「キャリアへの配慮」「ダイバーシティ」といった項目で数値が上昇しており、施策が社員に届いていることを実感しています。
制度を活用できる風土とキャリア自律意識を醸成
質問:今後、従業員の仕事と育児の両立や多様な働き方の推進において取り組みたいことや、さらに注力したいことがあればお聞かせください。
久保田:さまざまな取り組みを進める中で、共働きや共育ての制度、個人のキャリアアップに必要な学びを支援する体制は整ってきたと感じています。今後は、これらの制度を必要なときにしっかり活用できるような風土の醸成に注力していきたいと考えています。
また、社員が自分はどう働いていきたいのかを主体的に考え、キャリアを自律的に築いていけるように意識を育むことも重要です。働き方やキャリアのあり方も変化し続ける時代において、それぞれの社員が自分なりの軸を定め、納得感を持って成長していける環境づくりが私たちのミッションだと考えています。
幡野:今回「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」に選出していただいたことに加え、「健康経営優良法人のホワイト500」は7年連続で認定をいただいています。外部からの評価は人事企画担当者の励みになる一方で、社員一人ひとりの理解や納得感については今後さらに深めていく必要があると感じています。
現在の制度のもとで、子育てしながら働きやすい職場環境は整ってきましたが、それが本当に社員のエンゲージメントにつながっているのか、あるべき姿に近づいているのかどうかは、引き続き冷静に見極めていきたいと思います。
また、キャリア自律に関しても、現時点では社員の理解が十分に広がっているとは言い切れないため、自分の人生の長期的なビジョンを持ちながら、自律的に学び、選択できるような考え方を着実に根付かせていく必要があると考えています。
社員の声に耳を傾けながら、よりよい職場を社員と一緒に育てていくことが、私たちのこれからの課題だと捉えています。