マイナビ キャリアリサーチLab

異次元の少子化対策で、男性の育児参加はどこまで進む!?
男性の育児休暇取得の現状と課題

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

日本では2022年の出生数が80万人を割り込み、1899年の統計開始以来、過去最少となった。進む少子化をくい止めるため、国は2022年4月に育児・介護休業法を改正し、10月には産後パパ育休制度を新設した。現内閣は、“異次元の少子化対策”と銘打って、子育て世帯の負担軽減、男性の子育て参加を促す働き方改革などに乗り出し、男性の育休取得率に関して2025年度に50%、2030年度に85%とする目標を打ち出した。今回は、男性の育休に着目し、現状と課題を探っていく。

出生数が80万人を割り込み、少子化対策が喫緊の課題に

厚生労働省が2023年3月に人口動態統計の速報値を公表した。2022年の出生数は過去最少の79万9,728人で、統計を取り始めた1899年以降、初めて80万人を割った。日本の出生数は、1966年の丙午(ひのえうま)年(※1)に約136万人に落ち込んだものの、その後は上昇を続け1973年に約209万人に達した。しかし、それ以降、徐々に減少し2016年に100万人を割り込み、2022年は80万人を下回った。一方で死者数は約158万人で、死者数から出生数を引くと2022年は約78万人、人口が減少した結果となった。【図1】
※1:60年周期の干支の1つ。江戸時代初期より「この年に生まれた女性は気性が激しく夫の命を縮める」という迷信が広まっていたことから出生率が減ったとされる。次回は2026年である。

【図1】出生数、合計特殊出生率の推移/※2019年までは厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「人口動態統計」(2019年は概数) 2040年の出生数は国立社会保障・人口問題研究所による推計値
【図1】出生数、合計特殊出生率の推移/※2019年までは厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「人口動態統計」(2019年は概数) 2040年の出生数は国立社会保障・人口問題研究所による推計値

政府は、“少子化反転のラストチャンス”として「異次元の少子化対策」に乗り出し、出産・育児の負担が女性に集中する現状を改善すべく、男性の育児参加を促す取り組みを進めている。男性の育休取得者は年々増加傾向にあるものの、依然として育休取得率は低迷していると言わざるを得ないのが実状だ。「令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)」では、女性の育休取得率は8割台で推移している一方、男性の育休取得率は令和3年(2021年)度が13.97%で、10年前と比べ約10%上昇しているものの、政府が掲げる目標はまだまだ遠い。【図2】

【図2】育児休業取得率の推移/※令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)より ※平成23年度の数値は、岩手県、宮城県及び福島県を除く
【図2】育児休業取得率の推移/※令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)より ※平成23年度の数値は、岩手県、宮城県及び福島県を除く

男性の家事・育児参加は増加傾向だが、育児休暇取得に関して消極的な現状も

日本の男性の1日の家事・育児への参加時間を欧米諸国と比較するとかなり少なく、内閣府が発表した「男女共同参画白書 令和2年版」では、家事・育児関連全体の時間がもっとも長いスウェーデンの3時間21分に対して、日本は1時間23分と2時間近い差がついている。育児にかける時間そのものは、20分ほどの差しかないので、日本の場合は家事の負担が女性にかたよっている傾向にあることがわかる。【図3】

【図3】6歳未満の子供を持つ「夫」の家事・育児関連時間(1日あたり)/※「男女共同参画白書 令和2年版」(内閣府) 
【図3】6歳未満の子供を持つ「夫」の家事・育児関連時間(1日あたり)/※「男女共同参画白書 令和2年版」(内閣府) 

ただし、過去10年をさかのぼってみると、日本の男性の家事・育児への参加時間は、着実に増えてはきている。1996年にはわずか38分だったが、2016年には83分にまで増加しているなかでも、育児時間の伸びが大きく、2016年は49分(1996年の18分から31分増)となっている。【図4】

【図4】6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間の推移/※「男女共同参画白書 令和2年版」(内閣府)
【図4】6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間の推移/※「男女共同参画白書 令和2年版」(内閣府)

一方で、育児への参加意識はまだまだ低いようで、「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)」では、20代、30代の既婚男性の育休取得希望は、「取得しない」が42.2%でトップ、次いで「1週間未満」が17.1%となっている。

男性の育休取得をはばむさまざま要因とは?

冒頭で、令和3年(2021年)度の男性の育休取得率を13.97%と紹介したが、実際の育休取得期間についても見てみよう。厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得状況は、「5日~2週間未満」が 26.5%ともっとも高く、次いで「5日未満」が 25.0%、「1カ月~3カ月未満」が 24.5%となっており、2週間未満が5割を超えている状況である。【図5】

【図5】男性の育児休業取得期間/※令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)より ※四捨五入の関係で合計は100にならない
【図5】男性の育児休業取得期間/※令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)より ※四捨五入の関係で合計は100にならない

男性の育休取得には、さまざまなハードルがあるようで、「令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業(厚生労働省委託事業/日本能率協会総合研究所)」の調査では、「育児休業中にもある程度柔軟に就労できる仕組みがあればよかった」「ニーズに応じて分割して取得できればよかった」、「育児休業取得の申請期間がより短ければよかった」などの声が上がっている。【図6】

【図6】どのような制度であれば育児休業を取得できたか(複数回答)/※令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書(日本能率協会総合研究所)
【図6】どのような制度であれば育児休業を取得できたか(複数回答)/※令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書(日本能率協会総合研究所)

同調査では、育児休業を取得しなかった理由についても調査しており、「収入を減らしたくなかった」41.4%に続き、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だった」27.3%、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった」21.7%などの声が上位に入っている。収入源を心配したり、代替がきかない業務についていたり、制度が未整備だったり、キャリアへの影響を懸念したりと、男性の育休取得をさまたげる要因は多種多様である状況が推察できる。【図7】

【図7】育児休業制度を利用しなかった理由:複数回答/※令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書(日本能率協会総合研究所)
【図7】育児休業制度を利用しなかった理由:複数回答/※令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書(日本能率協会総合研究所)

2022年10月に施行された産後パパ育休制度では、子の出生後8週間以内に4週間まで出生時育児休業の権利が保障されている。しかし、仮に育休を取得したとしても、前述の「令和3年度雇用均等基本調査」の結果を見ると、50%以上の男性の育休取得期間は2週間未満となっている。「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、1カ月以上の育児休暇には取得をはばむさまざまな要因があるようで、トップの「職場に迷惑をかけたくないため」42.3%、「収入が減少してしまうため」34.0%、「職場が、男性の育休取得を認めない雰囲気であるため」33.8%といった理由が続いている。【図8】

【図8】1か月以上の育児休暇を取得しない理由/※第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)
【図8】1か月以上の育児休暇を取得しない理由/※第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

職場の理解と会社からの働きかけで、男性の育休取得率の向上を

政府がどれだけ男性の育休取得を推進しても、取得することへの抵抗感が職場には根強く残っているようだ。「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、同僚の男性が育休を取得することに対して抵抗感がある男性は全体の4割近く(「抵抗感が大きい」と「抵抗感がある」の合計は37.7%)で、女性の場合でも約2割は抵抗感があると回答している(「抵抗感が大きい」と「抵抗感がある」の合計は21.9%)。世代別に見ると、30代、40代、50代と、まさに働き盛りの世代の抵抗感が大きいようで、特に40代では「抵抗感が大きい」と「抵抗感がある」の合計は35.0%となっており、男性の育休取得率が増えるためには、職場での理解が不可欠な状況となっている。【図9】【図10】

【図9】同僚の男性が育休取得することへの抵抗感(男女別)/※第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)
【図9】同僚の男性が育休取得することへの抵抗感(男女別)/※第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)
【図10】同僚の男性が育休取得することへの抵抗感(年代別)/※第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)
【図10】同僚の男性が育休取得することへの抵抗感(年代別)/※第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府)

男性の育休取得を推進するために、職場の理解や本人の意識改革に加えて、会社からの働きかけの重要性もよく指摘されるところである。しかしながら、「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書(厚生労働省委託事業/日本能率協会総合研究所)」を確認する限り、男性社員に対する会社からの働きかけの状況は、あまり芳しくない状況であることが理解できる。男性正社員が配偶者の妊娠・出産について会社に伝えた際に、会社からの働きかけが「特にない」が63.2%で、続いて「人事部署から対象者に個別に育児休業等に関して書面(メール含む)で周知」11.7%、「上司から個別に面談を実施」9.8%、「上司から対象者に個別に育児休業等に関して書面(メール含む)で周知」7.6%という結果となっている。【図11】

【図11】妊娠・出産を会社に伝えた際に会社から受けた説明や働きかけ(複数回答)/※「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(厚生労働省委託事業)
【図11】妊娠・出産を会社に伝えた際に会社から受けた説明や働きかけ(複数回答)/※「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(厚生労働省委託事業)

それでも、2022年4月の育児・介護休業法改正で、育児休業に関する相談窓口の設置や制度について個別の周知と意向確認が義務化されたことにより、男性社員に対する会社からの働きかけは、今後は改善が期待できるかもしれない。さらに、2023年4月からは、従業員1,000人超の企業に対して育休等取得状況の公表が義務化されたことにより、積極的に男性の育休取得を促進する企業が増えてくると考えられる。従業員500人以上の事業所の場合ではあるが、「令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)」によると、男性の育児休業・育児目的休暇の取得率を公表している事業所は全体の25.9%となっている。こうした状況も、従業員1,000人以上の企業が積極的に男性の育休取得状況を公表することで、男性の育休取得率上昇が期待できそうだ。【図12】

【図12】男性の育児休業・育児目的休暇の取得率の公表の有無別事業所割合(500人以上の事業所)/※令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)より
【図12】男性の育児休業・育児目的休暇の取得率の公表の有無別事業所割合(500人以上の事業所)/※令和3年度雇用均等基本調査(厚生労働省)より

ここで、若い世代の育休に対する考え方を見ていきたい。2024年春に卒業予定の大学生・大学院生を対象に行った「マイナビ 2024年卒 大学生のライフスタイル調査」で、子育てについての考えを聞いたところ、「育児休業を取って積極的に子育てしたい」と回答した男子学生は61.3%で、2015年卒の調査開始以来最も高い割合となった。男性の育児休業取得に対する世の中の理解が進み、若い世代の男性の育休取得に対する意識は大きく変化しつつある。企業は、男女共同参画社会の実現、働きやすい職場環境の整備に加えて、新卒採用力の強化のためにも男性の育児休暇制度の充実化が求められている。【図13】

【図13】子育てについて、あなたの考えに近いもの/※マイナビ 2024年卒 大学生のライフスタイル調査より
【図13】子育てについて、あなたの考えに近いもの/※マイナビ 2024年卒 大学生のライフスタイル調査より

2023年4月からは、従業員が1 ,000人を超える企業の男性の育児休業取得率の公表の義務化に加えて、出産育児一時金の引き上げなども実施される。予算規模の増大を懸念する声も大きいが、出生数が80万人を割り込んだ今、少子化対策、子育て支援の強化は日本経済の未来を左右する国民全体の課題といえよう。 “こどもまんなか社会”の実現に向けて、政府が新たに創設した“こども家庭庁”にも期待が集まっている。


著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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