
2025年以降の第二新卒採用ニーズは8割超-境目が曖昧になる新卒採用・中途採用
目次
多角化する採用ターゲット
企業の採用が多様化している。企業の2024年採用実績と2025年採用計画に関してマイナビが採用担当者を対象に行った「企業人材ニーズ調査2024年版」では、8割以上の企業が2025年以降に第二新卒人材を採用する予定があると回答した。【図1】

転職が当たり前でなく早期離職への風当たりが強い時代にはネガティブな見方もあった第二新卒だが、人手不足感が高まる現在は、早期の戦力化を見込める『労働力』として多くの企業に期待されている様相だ。
他にも調査からは、正社員の充足へ「通年採用」「コース別・職種別採用」「ジョブ型採用」「高専人材採用」など多岐にわたって展開する企業の姿が浮かんだ。大企業・中小企業、新卒・中途を問わず、多様なターゲットにアプローチする採用の今を見つめる。
募集しても集まりにくい現状
「終身雇用はもはや限界-」。そんな議論が経済界で起こってから数年が経ち、長期雇用を前提とした日本型雇用や、新卒一括採用を基本とする採用慣行が徐々に見直されている。個人の多様な働き方・キャリアを尊重する企業姿勢が強まったことも背景に、採用がこれまで以上に複雑になり企業の人手不足感は増している。
「企業人材ニーズ調査2024年版」では、正社員(新卒もしくは中途もしくは新卒・中途両方)の採用担当者に、2024年の採用計画における人材確保の状況を聞いた。結果は、新卒採用の【採用数】を「確保できた」が61.0%、中途採用の【採用数】を「確保できた」が57.0%。新卒・中途ともに4割ほどが未充足となっている。【図2】

充足を阻む企業の課題は何か。「企業人材ニーズ調査2024年版」の正社員採用における自社の採用課題(複数回答)では、「応募が集まらない」が40.6%で最も多く、「応募が集まっても採用に繋がらない」31.9%、「採用までに時間がかかる」29.9%で続いた。【図3】

また同調査で、2024年に自社で休職者・退職者が出たことにより業務運営が難しくなった経験はあるかを聞いたところ、57.9%が「経験した」と回答した。社会で推し進められる産休・育休取得の業務代替の難しさがみえる結果で、共働き世帯の増加や仕事・私生活の両立に対する考え方の変化が影響しているとみる。【図4】

これらのデータから、企業が自社に必要な人員数を確保することは容易でなく、加えて様々な課題感を抱えている様子が浮かぶ。
活発化する第二新卒層
近年は特に、若年層の転職意識が高まっている。厚生労働省の「令和5年 若年者雇用実態調査」では、15~34歳の若年正社員のうち「転職したい」と答えた人は31.2%。初めて30%を超え、転職を希望していない人の割合を上回った。
また、厚生労働省が2024年10月に発表した新規学卒就職者の離職状況に関する調査によると、就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(前年度比1.4pt増)、新規大学卒就職者が34.9%(前年度比2.6pt増)。新規大学卒就業者はここ15年間で最も高くなった。
以前に比べて就業経験が浅い若年層が動いている・動きやすい状況下で、新たな採用ターゲットとして注目されるのが第二新卒の人材だ。「企業人材ニーズ調査2024年版」では、第二新卒を「学校を卒業しておおむね3年以内の就労経験者で、既卒未就労者は含まない」と定義し、そのニーズを探った。結果は、企業の正社員採用担当者のうち第二新卒採用を現在取り入れている割合は52.6%だった。【図5】

第二新卒採用を行っている理由では「新卒人材が充足できない」が53.4%で最も多く、「中途即戦力人材が充足できない」が45.4%、「採用がしやすい」が37.0%で続いた。

若さ・意欲・経験への期待感
第二新卒への印象も多くが好意的だ。第二新卒人材についてどのようなイメージを持っているか聞いたところ、よいイメージ(よいイメージ16.2%+どちらかと言えばよいイメージ58.5%)としたのは74.7%にのぼった。【図7】

さらに、第二新卒人材のイメージの理由に関してテキスト分析(KHcoderを用いて自由記載回答で頻度の高い単語を抽出)したところ、第二新卒人材に期待するポイントがみえてきた。
よいイメージ
「よいイメージ」の理由として最も多く使われていた単語が『経験』。中でも『社会経験』の単語が多く、ビジネスパーソンとして社会や会社組織を経験していることへの期待がうかがえた。『即戦力』『適応』の単語も頻出した。
受け入れ側の企業にとっては、仕事への向き合い方や基礎的なビジネススキル・マナーといった教育をゼロから施さなくても良いメリットがあり、新卒人材に比べて早期の戦力化を期待できるところも魅力だろう。『若い』『やる気』の単語も目立ち、フレッシュさや仕事に関して色がついていないことへの期待感もにじむ。
【経験】
- 他社での経験やノウハウを活かしてくれる(どちらかと言えばよいイメージ)
- 新卒より経験が期待できる(どちらかと言えばよいイメージ)
- 社会人として一定の経験があるので、基本的なことが分かっている(どちらかと言えばよいイメージ)
- 前職での経験が他のメンバーにも良い影響を与える期待感がある(どちらかと言えばよいイメージ)
- 社会人経験がゼロではなく若手で吸収力が高い(どちらかと言えばよいイメージ)
- 社会経験がある分、マナーなどについての基本的なことができる(よいイメージ)
【即戦力】【適応】
- 即戦力として働いてもらえるためです(よいイメージ)
- 即戦力となり、長期で活躍してくれるイメージがある(よいイメージ)
- 早期の職場適応が期待できる(どちらかと言えばよいイメージ)
【若い】【フレッシュ】
- 年齢的にも若く、スキルを磨き、成長していける能力を秘めているため(どちらかと言えばよいイメージ)
- まだ若く、将来有望であるから(よいイメージ)
- 新たなフレッシュな観点で物事を見れるから(よいイメージ)
【やる気】【意欲】
- やる気をもって入社してくれると思うから(どちらかと言えばよいイメージ)
- やる気があってスキルもあるイメージ(どちらかと言えばよいイメージ)
- 本当に頑張ろうという意欲が感じられる(どちらかと言えばよいイメージ)
よくないイメージ
「よくないイメージ」の理由で特に多かった単語が『退職』『辞める』『離職』。『早期』『短期』の単語と絡めながら、自社への定着を懸念する意見が多数見受けられた。中途採用に『経験』を重視する声もある。『理由』という単語も多く、採用ターゲットとして視野に入れつつも転職の背景や素養を慎重に見極めようとする姿勢が感じられた。
【退職】【辞める】【離職】
- 短期で退職されるのは困る(よくないイメージ)
- 退職率が高い(どちらかと言えばよくないイメージ)
- 直ぐに退職してしまうのではないかと不安だから(どちらかと言えばよくないイメージ)
- すぐに新卒の会社を退職しているため、忍耐力やストレス耐性が無さそう(どちらかと言えばよくないイメージ)
- 嫌ならすぐに辞めるイメージ(どちらかと言えばよくないイメージ)
- 事情はあるにせよ、短期離職したこと(どちらかと言えばよくないイメージ)
【経験】
- 経験不足(どちらかと言えばよくないイメージ)
- 前職が経験となっていない(よくないイメージ)
【理由】
- 前職での退職理由によるが、長続きしない印象がある(どちらかと言えばよくないイメージ)
- 何が理由で辞めたかにもよるが、辞め癖がつかないか少し心配な面があるから(どちらかと言えばよくないイメージ)
以上のことから、第二新卒採用ニーズの背景には、基礎的な社会人スキルや一定の経験、仕事への適応力があり、かつ若さや将来性を秘めた「持続的な人的資源」として見込めることへの期待がうかがえた。
これまでの日本型雇用に根ざした採用では、新卒ではゼネラリスト育成を見据えて非認知能力・ポテンシャルを、中途採用では即戦力を前提として専門性・実践スキルを重視する傾向がみられた。今もその考え方は残るが、新卒採用・中途採用ともに計画通りの充足が難しい中で、多様なターゲットにアプローチする企業の様子がうかがえる。
「企業人材ニーズ調査2024年版」の現在取り入れている採用手法の結果をみても、「職種別・コース別採用」「高専人材」「博士人材」などが新卒採用で広がりつつあり、職種ごとの適性・素質や専門性に秀でた人材を取り込もうとする企業側の思惑も透ける。
多様化している職業観・就労観
当然ながら、新卒人材、第二新卒人材、経験豊富な中途人材では就業先や仕事に求めるものが違う。その異なるターゲットに対して同じ要領でアプローチをしても、人材獲得競争を勝ち抜くことは難しい。
例えば、2025年3月卒業見込みの大学3年生・大学院1年生を対象にした「マイナビ2025年卒大学生就職意識調査」で、就職観について最も近いものを選んでもらったところ、『楽しく働きたい』が38.9%で最も多かった。
また『個人の生活と仕事を両立させたい』が24.5%で、全8項目の中で前年からの上げ幅が最も大きい(前年比:1.7pt増)。“会社での自分”ばかりに軸を置いているというより、仕事と私生活を一体で捉え、遠い将来でなく現在の充実を重視する意識が感じられる。【図8】

転職者の場合は、就業先に求めるものは転職理由や前職で置かれていた環境によるところも大きい。2023年6月以降の1年間に転職した20~50代を対象にした「転職活動における行動特性調査2024年版」の結果を分析すると、年代・職種によって転職活動を始めた理由に違いがあった。
【転職理由】
全体トップの「仕事内容に不満があった」は20代・30代が全体のスコアより高く、全体2位の「職場の人間関係が悪かった」は40代・50代が特に高い。全体3位の「給与が低かった」は、「サービス職」「技能工・建築・土木」「クリエイター・エンジニア」の職種が特に高くなっている。【図9】

【人事施策】
魅力に感じる人事施策も属性によって違いがある。「転職活動における行動特性調査2024年版」の人事施策の印象では、手当・退職金の他に「週休3日制」「フレックスタイム制度」など柔軟な働き方を可能にする施策は上位の傾向があったが、職種によっても求める制度や働き方の趣向にばらつきがみられた。【図10】

【給与(相場)】
さらには、求職者の関心が高い「給与」についても属性ごとに差があり、転職者の前職年収・現在年収(転職後の年収)の平均はそれぞれ異なる。【図11】

企業がより市場価値の高い魅力的な人材を惹きつけようと思うと、求めるターゲットの相場賃金を踏まえながら募集条件を定めることも欠かせない。
ターゲットに沿った条件設定を
終身雇用が崩れ始め、必要人員の確保は難しくなった今の時代では、新卒一括採用を軸としてきた大企業も積極的に中途採用を行う姿が見受けられる。その中で、新卒採用・中途採用という線引きは曖昧になりつつあり、新卒・中途という枠に縛られることなく人材それぞれにある『個』の特性に目を向けながら、刻々と変化する現在~近い将来の組織にいち早くフィットしてくれる人材を求める動きは今後も強まると見込む。
厳しい採用市場を戦い抜くため企業に求められるのは、これまでターゲットとしていなかった層にも視野を広げながら採用慣行を柔軟に変化させようとする姿勢だ。例えば、直接の実務経験がない場合でも類似の業務経験や汎用できるスキルを持ち合わせた人材であれば候補に加えたり、一度自社を退職した人を雇うアルムナイ採用により自社の事業・社風をよく理解した人材を再び迎え入れたりも有効だろう。地方企業は特に、WEBを活用した選考を積極的に取り入れることで全国から広く応募者を集めることに繋がるかもしれない。採用ターゲットや手法の可能性を自ら狭めていてはもったいない。
求めるターゲット人材が、自社の基準だけでなく「採用市場」においてどれくらい価値があり、その人材が仕事や会社に何を求めているかを十分検討することも大切である。時代ごとに人材の価値観や労働価値は変わる。それに応じて、職種ごとに異なる相場賃金に即して自社の給与水準を見直したり、性別・世代ごとでも様々な就労ニーズを踏まえながら柔軟な働き方を可能にする人事制度を取り入れたりする工夫も求められる。
採用がまずます複雑で困難になっていることを考えれば、“1社1パターン”の一義的な採用では難しい。発掘したターゲットに沿って、個別的に自社の採用慣行(手法やアプローチ、処遇や採用基準など)をカスタムすることが重要だと考える。
マイナビキャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太