歩みのすべてを正面から。挑戦と失敗を刻んだ「生きる社史」-セブン‐イレブン・ジャパン50年の歩み 1973-2023

キャリアリサーチLab編集部
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社史をテーマに取り上げてきた本連載。第3回となる今回は、実際に社史を編纂した企業の担当者に話を聞く。1973年の設立から50年を迎えたセブン-イレブン・ジャパンは、「セブン‐イレブン・ジャパン50年の歩み 1973-2023」を発行した。前作の20年史・30年史から20年以上の空白を経て生まれたこの社史は、コンビニエンスストアのあり方が問い直された時代の経緯も含め、これまでの歴史を正面から取り上げることを方針に掲げた。

編纂を担当したのは社長室の赤尾綾野さん。社史制作の経験も社内ネットワークも豊富とは言えない中で、同僚と2人の専任体制で挑み、取材・編集・寄贈までゼロから構築していった。

今回は実務担当者である赤尾さんと、社史が生きた資料になるまでの3年半の意思決定を支えたセブン&アイ・ホールディングスの小田由紀執行役員とともに振り返る。

小田 由紀(コーポレートコミュニケーション本部 広報部 執行役員シニアオフィサー)・赤尾 綾野(社長室 担当)

■小田 由紀(画像右)
コーポレートコミュニケーション本部 広報部 執行役員シニアオフィサー
早稲田大学社会科学部卒業。1996年にイトーヨーカ堂へ入社し、店舗勤務、資金証券部を担当。2005年にセブン&アイ・ホールディングスIR部へ異動し、株主・機関投資家とのコミュニケーションに携わる。2016年に広報センターへ着任、グループ報制作の責任者としてグループ内コミュニケーションの活性化や企業理念の浸透を推進、セブン‐イレブン・ジャパン50周年の社史編纂においても責任者を務めた。2023年より現職。企業広報の責任者に就任し、広報戦略の立案・推進および社内外への情報発信を統括している。

■赤尾 綾野(画像左)
社長室 担当
日本女子大学理学部卒業。2006年にセブン‐イレブン・ジャパンへ入社し、直営店店長を経て、2008年から品質管理部、2013年からオペレーション・フィールド・カウンセラーとしてフランチャイズ加盟店の経営相談に従事。2020年にセブン&アイ・ホールディングスへ出向し、広報センターにて企業広報を担当。2021年10月、セブン‐イレブン・ジャパン設立50周年を機に社史編纂担当に着任し、50年の歴史をまとめた社史を2024年2月に発行。2025年から現職。社長室にて、経営戦略の立案・意思決定に向けた情報収集・分析を担当している。

経営の判断を後世に残すために、社史を作ることを提案

経営の判断を後世に残すために、社史を作ることを提案

質問:これまで20年史・30年史と社史を発行されていますが、今回の50年史は、どのような経緯・背景で編纂されることになったのでしょうか。

小田:セブン-イレブン・ジャパンの設立は1973年。2023年は50周年のアニバーサリーイヤーでした。社内では「みらいセブンプロジェクト」という取り組みが、50周年に先立って2021年から動いていました。

これは幅広い世代・役職から120名の社員が参加し、セブン-イレブンの目指す姿を策定するプロジェクトです。そこで定まったのが、現在掲げている「明日の笑顔を 共に創る」という、セブン-イレブンが目指す姿でした。

広報部門としては、もちろん50周年を非常に意識していました。「何ができるのか」を考えた時、50周年を広く知らせることはもちろんですが、今取り組んでいることをきちんと残していくことも広報の使命だと考え、社史を作ることを提案しました。

また、前社史発行以降の約20年間で、コンビニエンスストアのあり方を問い直さなければならない出来事がいくつもありました。そういった局面での判断も含め、この時代に何を考えて経営してきたのかを後世に残したい。そう考えて、経営史に残るような社史を目指すことにしました。

あわせて現在、英語版も制作しているのですが、これは世界19の国と地域で同じセブン-イレブンのブランドを掲げる仲間たちにも、私たちの歴史を知ってほしいという思いがあったからです。会社としてグローバル企業を目指すという意志を示す意味でも、海外事業の責任者から「英語版にチャレンジして欲しい」と言われたのも後押しになりました。

「感じる社史」を合言葉に、ネガティブな歴史も正面から

「感じる社史」を合言葉に、ネガティブな歴史も正面から

質問:編纂方針はどのような議論やプロセスを経て決まったのでしょうか。社内での検討の進め方も含めて教えてください。

赤尾:編纂方針は大きく2つありました。1つは、直近20年間のネガティブな歴史を正面から取り上げるということです。24時間営業の是非や、2009年に公正取引委員会から命令を受けたことなど、社会問題化した出来事がいくつかありました。それを乗り越えた加盟店や社員の姿を伝えること、そのことを知らなかった世代にも知ってもらいたいという思いから、開示性を持った社史にしようという方針を立てました。

もう1つは「感じる社史」というコンセプトです。社史の主語はどうしても企業や組織になりがちで、社員が読んだ時に他人事のように感じてしまう場合も多いかと思います。そこで、「当社」という主語は維持しながら、取材した方々の生の声を、そのままセリフとして入れることにしました。自分のこととして読んでもらいたいという思いからです。このコンセプトを、制作チーム内では「エモい社史」と呼んでいました。

質問:50年史の編纂にあたり、特に重視された方針があれば教えてください。

赤尾:まず方針を固めるにあたっては、社外からも積極的に情報を集めました。ある団体が実施していた優秀会社史賞の選考理由を読むと、マイナスの出来事も正面から振り返る姿勢を持った社史が評価されていることがわかりました。

また、神奈川県立川崎図書館で参考になりそうな社史をご紹介いただき、その企業に直接連絡して相談をさせていただきました。どの企業も快くご協力くださり、経営陣への説明でも、こういう事例がありますよという裏付けができ、説得力の向上につながりました。

ネガティブな歴史を明かしていくという方針については、経営層を含めてリスクになるんじゃないかという懸念が出てもおかしくなかったと思います。でも、反対意見は全くありませんでした。社会にすでに知られていることを社史で触れないという選択肢はない、という感覚が共通してありました。ネガティブな歴史を語ってほしいという依頼に応えてくれた取材対象の方々にも、本当に感謝しています。

小田:「エモい社史」のコンセプトを決めるまでに、半年をかけました。読まれなければ意味がないという感覚があって、エモーショナルに見てほしいという思いが強くありました。長いプロジェクトの中で迷いが生じる場面は必ずあります。そういう時のよりどころになるよう、「エモいか、エモくないか」を判断基準にするというコンセプトを制作チームの中で共有しておきたかったのです。

赤尾:コンセプトが精神的な支柱になったことで、その後の判断がしやすくなりました。当社に関する書籍を何冊も書いてくださっているライターさんに執筆を担当いただき、当社の仕事を長く一緒にやってきたデザイナーさんにデザインをお願いしました。

みなさん、私たちが何をしたいのか、何がセブン-イレブンらしいのかをプロとして理解してくださっていたので、文章もデザインも「こっちの方がエモい」という感覚を共有しながら作ることができました。装丁も、過去の社史はモノクロが中心でしたが、今回はソフトカバーで全ページフルカラーにして、手に取ってパラパラ見てもらいやすくしました。

東日本大震災で証明された、社会インフラとしての存在

東日本大震災で証明された、社会インフラとしての存在

質問:50年史の構成方針と50年史の中から特に重要だと考える貴社のターニングポイントがあれば教えてください。

赤尾:これまでの社史は、商品開発の歴史や店舗出店の歴史というように、部門別に取り組んできたことを紹介していく構成でした。今回はそれを取り払って、会社にとっての転機になった出来事を抜き出して章立てをする、カテゴリー別編纂からテーマ別編纂へという変更をしました。

対象は2003年以降の20年間です。2005年にセブン&アイ・ホールディングスが設立されたこと、2009年に公正取引委員会から命令を受けたこと、2016年に創業者の一人だった鈴木敏文が辞任したことなど、それぞれが転機となっています。

なかでも私が最大のターニングポイントと感じているのは、東日本大震災の章です。阪神淡路大震災など以前の震災でも、食品を扱う企業として救援活動はしてきました。しかし東日本大震災では、社会インフラとして国に認めていただけたという象徴的なエピソードがあります。

高速道路は一般車両が通行止めでしたが、自衛隊や消防など復興のための車両は通行できました。セブン-イレブンも暮らしを支えるインフラだから緊急車両と同じ扱いにしてもらえないかという依頼を宮城県庁にし、震災から2日後には490台分の通行証明書を発行していただきました。人命救助にあたっていた緊急車両と同じ扱いをしていただけたのです。自分たちの事業が社会インフラとして認めていただけたという実感がある出来事でした。

この章は社史の中で一番ページ数を割いています。工場の視点、現場のオーナーさんの視点など、さまざまな切り口で構成し、最後にお客様からの感謝の言葉を載せています。これは何回読んでも泣いてしまいます。当時のエピソードは、加盟店向け情報誌「セブン-イレブンファミリー」の号外として2011年4月に発行したものが資料として残っており、そこから抜粋しました。東北だけでなく山梨県や東京都内のお客様からの声もあり、全国のセブン-イレブンへの感謝の言葉が詰まっています。

ちょうどこの震災が発生したのは、「近くて便利」というコンセプトを打ち出して2年目のタイミングでした。品揃えを充実させていた時期でもあり、それがお役に立てたこと、そして改めて知っていただくきっかけにもなったという意味でも、大きな転機でした。

小田:2011年は本当に大きな転機でした。お客様からありがとうと言われることは、本当に気持ちが新たになるもので、私たち小売りの原点です。当時のことを思い出しながら話してくださった方々にも、改めて感謝を申し上げたいと思っています。

成功の歴史の裏にあった、失敗と試行錯誤の連続

成功の歴史の裏にあった、失敗と試行錯誤の連続

質問:実際に編纂を通じて、編纂メンバーが印象的だった出来事や、見方が変わった点、変化はありますか。

赤尾:編纂を通じて、会社の見方が大きく変わりました。セブン-イレブンがメディアで取り上げられる時は、家でつくるのが当たり前だったおにぎりを店舗で販売し始めたことや、公共料金の支払いができるようになったこと、セブン銀行を設立したことなど、イノベーションを起こし続けてきた成功の歴史として紹介されることが多く、私自身もそういう会社だと思っていました。

しかし、社史をつくる過程で振り返ってみると、失敗と試行錯誤の連続だったということが実感できました。役員への確認過程でも「失敗事例も載せた方がいい」「撤退したことも載せるべき」という声が出てきて、当初入れるつもりがなかった事業の撤退事例も盛り込みました。海外事業でも挫折と学びを繰り返してきた歴史があり、「失敗が次につながっていく、それがこの会社のフロンティア精神なんだ」と気づかされました。

また、社史完成後に社員や加盟店のオーナーに読後のアンケートを行いました。アンケートは過去の20年史・30年史でも実施していましたが、記名式だったため率直な意見が集まりにくかったのが課題でした。そこで今回は無記名可にして実施しました。

社員からの「社内に情報をクローズする文化が一定あると感じていましたが、今回の社史を通じてオープンなコミュニケーションを感じることができました」というコメントが印象的でした。開示性を持った社史にしようという方針が伝わったと感じられて、うれしかったです。

加盟店オーナーの方からは「単なる成功事例の紹介ではなく、苦しかった、会社がなくなるかもしれないと思ったといった当事者の言葉がそのまま記されていて、誠実な記録だと感じた」という声もいただきました。無記名だからこそ、本音の言葉だと受け止めました。私たちの方針が届いたと実感できました。

小田:アンケートではネガティブな声も寄せられ、経営陣にも報告しましたが、「社史だけの問題ではない」として、加盟店とのコミュニケーション改善へとつなげていただきました。社史をきちんと読んだうえで、無記名で本音の感想をいただけたことは、私たちにとってもよかったと思っています。

また、社史を仕上げていく最終段階になればなるほど、さまざまな方面から意見が出てくるものです。期限が迫れば迫るほどそれは続きます。そんな中でも制作チームは一切妥協することなく最後まで取り組んでくれました。当初の期限よりだいぶ時間はかかりましたが、最後まで妥協せずにやり遂げることができたと思っています。

赤尾:社史を読んだ後にある部署が社史活用の研修を2回、自主的に実施してくださったことも忘れられません。社史にはほとんど登場しない部署なのに、歴史を理解して価値観を再確認するとか、成功事例・失敗から学んでどう活かすかを考えるということを、部内でグループをつくって発表し合うという研修です。まさに「感じる社史」だったと思います。

小田:社内がさまざまな問題で揺れ動いていた時期でもありました。その中で社史から歴史を学んで未来につなげていこうという取り組みを自主的にやっていただけた。言葉をきちんと拾って読み込んでくれているのです。

まさにそういうために作りたかったという思いに応えていただけたと感じて、すごく感動しました。読まれて生きる社史になっていることを実感しました。

読まれて生きる社史を次の世代へつなぐ

読まれて生きる社史を次の世代へつなぐ

質問:今回の50年史は社員や加盟店だけでなく、図書館にも寄贈されたとのことですが、読者にどのような点を感じ取ってほしいとお考えでしょうか。

赤尾:社史の配布先は社員、加盟店オーナー、お取引先の方々に感謝を込めてお配りしたほか、全国の図書館にも寄贈させていただきました。全体で3万6,000部を製造し、うち社員・加盟店オーナーへの配布が2万3,000部、図書館への寄贈が9,000部です。

今あるセブン-イレブンの店舗は、社史に記されたような挑戦や試行錯誤の積み重ねがあって存在しています。それを少しでも身近に感じていただけたらうれしいです。学校図書館では就職先を検討する際の参考にされることもあると聞いていたので、将来の社員や加盟をご検討いただく方の判断材料の1つになればとも考えました。

寄贈先の選定には、川崎図書館の方に教えていただいた日本図書館協会の仕組みを活用し、公共図書館や大学、高校、専門学校などに寄贈しました。以前の社史では、手集計でリストを作成して社員の出身校に配っていたそうですが、出身校以外の学校にこそ届けることに意味があると考えました。お客様や加盟店様、地域のみなさまに、私たちの思いをつなぐ社史であってほしいです。

質問:50年史を通じて伝えたいメッセージがありましたら教えてください。

小田:制作の実務は赤尾さんを中心に社内メンバー2人が担ってくれました。社史を制作する場合、通常は20〜30名のメンバーが本業と並行して担当するケースが多いそうですが、私たちは専任体制にしました。

社歴が長いわけでも、社内のネットワークが広いわけでもない2人でしたが、だからこそいろいろなチャレンジをして、自分たちなりのやり方を開拓して制作した社史です。川崎図書館の方からも全面的にサポートしていただきました。

社史は、読んでもらって、使ってもらって初めて価値が出るものですから、自分たちが「知りたい・読みたい」という内容を作ることができる、会社の将来を支える世代のメンバーに作ってほしいと思い2人に任せました。そういう思いの詰まった社史として、今の社員やこれから入社してくれる仲間たちにメッセージが届くといいなと思っています。

50年史を通じて伝えたいメッセージ
片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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