企業の歴史から、自分のキャリアを考える。神奈川県立川崎図書館に学ぶ、キャリアに活きる社史の読み方

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

就職活動や転職といったキャリアの節目で「自分はどの業界で働きたいのか」「この会社の何に共感するのか」と問い直す機会は多い。インターネットで企業情報が手軽に得られる時代になった一方で、企業がたどってきた歴史や創業者の思い、苦境を乗り越えた経営判断といった「会社の根っこ」を知る手段は意外と限られている。そこで注目したいのが「社史」だ。

連載企画「社史から学ぶ個人のキャリア形成」の第2弾となる今回は、神奈川県立川崎図書館を訪ねた。京浜工業地帯の地域性を背景に開館以来、社史の収集に力を入れ続け、所蔵数はおよそ2万2千冊にのぼる。

なかでも1万4千冊が開架に並び、誰もが手に取って閲覧できる環境は全国でも珍しい。司書として社史コレクションに向き合う峯山さんに、社史が持つ魅力、業界を横断して読むことで見えてくるもの、そしてキャリアを考えるうえでの活かし方について話を聞いた。

神奈川県立川崎図書館事業部企画情報課・峯山智美氏

峯山 智美(みねやま ともみ)
2019年に神奈川県に入庁し、学校司書として配属後、2024年から神奈川県立川崎図書館事業部企画情報課で勤務。

神奈川県立川崎図書館が社史を集めてきた理由とは

質問:川崎図書館で長年にわたり社史を収集してきたのはなぜでしょうか。公共図書館が扱う資料としての位置づけについて教えてください。

峯山:当館は神奈川県立の図書館として2番目に設置された図書館です。京浜工業地帯に位置するという地域性から、設置当初から工業的な図書館としての性格を強く打ち出すこととし、工学や工業、それに関連する自然科学や産業の図書の収集に重点を置いていました。

最初の収書方針にも「郷土資料の収集は行わない。ただし、京浜工業地帯および県内商工業史、その関連産業資料の収集に努める」「京浜工業地帯および神奈川県の工業および商業関係特殊資料の収集に努める」とありまして、地域の産業史研究の基本的な資料となる会社史、工場史、組合史などを収集の範囲とすることが、定められていました。

創設当初は、京浜工業地帯や神奈川県内企業の社史を中心に収集していたのですが、それが次第に網羅的に揃ってきた段階で、収集範囲を全国に広げるようになりました。その結果、現在の社史のコレクションは2万2千冊になっています。

開館当初は、古書店なども回って社史の収集に努めていたそうですが、現在は寄贈いただくものが中心です。コロナ禍以前は毎年500冊ほどずつ蔵書が増えていましたが、ここ数年は1年間で300冊ほど増えている状態です。

「社史を制作したら川崎図書館に持っていこう」という機運が、社史を作っている方々のあいだである程度広がっているようです。しかし、自然に集まってくるものだけでは限りがありますので、こちらでも国立国会図書館や県外の都道府県立図書館、政令指定都市の図書館の蔵書を検索して、新しく出た社史で当館にないものをチェックし、直接電話を掛けて寄贈の依頼をしています。

1万4千冊が開架に並ぶ、全国でも珍しい社史の宝庫

質問:実際に社史を手に取る方には、どのような人が多いのでしょうか。また、どのような方に手に取ってほしいとお考えでしょうか。

峯山:当館で社史を利用されている人で一番多いと感じているのは、自社の社史編纂を担当する方です。当館は2万2千冊の社史を所蔵していますが、そのうち1万4千冊が開架と呼ばれる自由に手に取って閲覧できる書棚に並んでおり、ご来館いただければすぐに書棚から手に取って見ていただくことができます。

国立国会図書館をはじめとして社史をコレクションしている公共図書館や大学の図書館はもちろんありますが、これだけの冊数をすぐ手に取って見ることができるのは、全国的にも珍しいと思います。

そのため、社史を編纂する人にとっては見本市のような感じで使われているイメージがあります。たとえば編集方針やレイアウト、同業他社の社史がどのように作られているのか、そういったものを実際に見て参考にされることが多いように感じます。直接お声掛けいただくこともあり、「こういったものを探しているのですが、どのように探したらいいでしょうか」「この会社の社史、この業界の社史はどこにありますか」とご相談を受ける機会も少なくありません。

どのような人に活用していただきたいかという点については、今後も社史編纂に携わる方を主軸とすることに変わりはないのですが、その一方で、どのような仕事に就きたいかと悩んでいる就活生や転職を考えている方々など、会社や業界について学びたい、知りたいと思っている方々にも活用いただきたいと考えています。

社史は、実際に手に取っていただいて、自分の糧にしていただくことに意味があると思っています。どのように活用したらいいのかわからないという方もいらっしゃると思いますので、具体的な活用方法もお伝えしつつ、会社や業界について知りたいという方々に向けていろいろなアプローチができればよいと考えています。

具体的には、図書館ホームページ「社史コレクション」で「就活に使える社史」というコンテンツを公開して、就職活動中に会社について調べる際の社史の活用方法を紹介しています。また、社史の使い方や情報をお伝えする「社楽」という情報誌も発行しています。ほかにも、若者の就職支援を対象とする「かながわ若者就職支援センター」と連携して、社史の調べ方について情報提供を行っています。

社史の見本市として、全国から編纂担当者が集う場に

質問:先ほどのお話にもでた「就活に使える社史」「社楽」などの反響はいかがでしょうか。

峯山:ホームページの特集ページを見ての問い合わせかどうかまでは確認できないのですが、若い方からのお問い合わせを実際にいただくことはあります。情報発信はしているので、どこかで関心を持っていただけているのかなと感じています。まだ浸透しきれているとは言えませんが、効果はゼロではないというのが実感です。

社史を読まれた方の反響について、就活生に限らず広く見ますと、社史編纂をされる方の事例になりますが、「こういったものを探している」とお声掛けいただいた方々に何度かサポートさせていただき、最終的にできあがった社史を「できました」と当館にお持ちいただくこともあります。そういったところで、社史コレクションのつながりができているのかなと感じています。

当館では、「社史編纂サポートセミナー」や「社史フェア」といったイベントも行っているのですが、来場者のアンケートを拝見すると、北海道から九州まで、全国から来ていただいているようです。編纂を担当する方のあいだで、当館の存在が少しずつ広がってきているのではないかと感じています。

目次と編集後記から読み解く社史の楽しみ方

質問:図書館ならではの社史の読み方はあるのでしょうか。

峯山:当館には、1万4千冊が開架にありますので、実際に手に取って読んでいただくことができます。業界ごとに並んでいますので、自分が気になっている社史を見ていただくのもよいのですが、業界全体の棚を見ていただくのがおすすめです。

自分が働いている業界や気になっている業界の棚をご覧いただくと、それぞれの企業の強みや大切にしていること、その企業がどのように成長してきたのかが見比べられます。「こんなことをやっている会社があるのか」という新しい会社や業界との出会いもあります。

たとえば、ネジを扱う会社の社史を眺めてみますと、ネジを販売するだけの会社、製造販売をしている会社、ネジからスタートしたが今は主軸が別のものに移っている会社など、いろいろな会社があることに気づきます。さらに、ネジを製造している会社のなかでも、自動車部品向けの大きめのネジを作っている会社、歯科医療用のネジを作っている会社など、それぞれの強みも比較できます。

表紙のデザインに惹かれて手に取ったら、思いがけない業界の社史だった、ということもあります。意識していなかった業界に出会えるのも、棚を眺める楽しみのひとつです。こうして芋づる式に新しい企業や業界を知ることができるのが、図書館ならではの強みだと思います。

就活生であれば、自分が目指している業界の絞り込みに、社会人であれば転職活動をする時の情報源として、見比べていただくといいと思います。「なぜこの会社にしたのか」と志望動機を説明する際にも、説得力を持たせられるのではないでしょうか。

社史の見方としては、まずは目次を見ていただくのが個人的にはおすすめです。本を読む時と同じように、目次を見ればどういったことが書いてあるのかが分かりますので、自分が気になるところだけを拾い読みしていただくのが、最初の入り口としてはよいのかなと思っています。

そして、もう一つおすすめしたいのが編集後記です。編集後記には、社史を編纂された方の思いが込められています。どのような編集方針で作られたのか、どのようなことに苦労したのか、何を伝えたいと思っているのかが書かれています。これを読んだうえで中身を見てみると、「こういうことを考えながら作られているのだな」としみじみと感じることができます。

一口に社史といっても、しっかりした作りのものから簡素にまとめられたものまで、目的によってさまざまです。なかでも歴史ある企業の社史には、創業期の興味深いエピソードが紹介されているものも多く、読み物としても楽しめます。

経営者の思いや失敗談が、キャリアを考える糧になる

質問:峯山さんから見て、社史は読んだ人が「自分のキャリアや働き方を考えるための資料」として、見ることはできますでしょうか。

峯山:先ほど申し上げたように、業界ごとに並ぶ棚を見比べることで、それぞれの企業の特色がつかめます。このこと自体がキャリアに活かせると思います。

それから、社史のなかには社長さんや創業者の方が企業経営に対する思いを綴っているタイプのものがありまして、そういった社史を読んでいただくと、成功体験だけではなく、壁にぶつかった時のことや失敗談が詳しく書かれています。成功体験を読むことも勉強にはなりますが、失敗談や壁にぶつかった時にどのように乗り越えたのかというところに注目して読んでいただくのもおすすめです。

たとえば、ある乳業メーカーの社史には、自然災害で壊滅的な被害を受けながら、従業員の雇用を守り事業再開を果たすまでの物語や経営者の思いが描かれています。こういった社史を読むと、伝記や小説のような感じで読み物として社史を見ていただけるのではないでしょうか。

このように、いろいろなパターンの社史がありますので、そのなかで自分に合うもの、共感できるものを見つけていただくのをおすすめします。会社に勤めている方だけではなく、経営者の方にとっても参考になると思います。同じ業界であれば、同種の悩みや壁に直面することもありますので、どうやって乗り越えたのか、何があったから乗り越えられたのかが書かれているものを読むことは、これからのキャリアに悩まれている方にとっても、参考になるのではないでしょうか。

社史と出会う場を増やし、その魅力を広く伝えたい

質問:今後、社史をより多くの人に見てもらうために、川崎図書館として考えていることや今後の展望などがありましたら教えてください。

峯山:当館では現在、ホームページの広報と合わせて、セミナーやイベントを行っています。社史を編纂された担当の方を講師にお迎えする「社史編纂サポートセミナー」、そして当館が所蔵する前年刊行の社史を一堂に並べる「社史フェア」を実施しています。社史フェアでは、いろいろな業界の社史を一度にご覧いただけ、最近の社史の傾向もつかめます。

また、社史を知っていただく機会を増やしていきたいと考え、東京都内の新聞社とコラボして、社史フェアの出張版として「社史フェアin千代田※」も実施しています。さらに、就活中の学生さんや一般の方に向けては、ホームページ上で先ほどご紹介した「社楽」を発信していますし、特色のある社史をご紹介する「すごい社史」といったコンテンツなども発信しています。

こうした取り組みを続けているのは、社史は実際に手に取ってみないとわからないことも多いからです。手に取っていただける機会を増やすことができれば、多くの方に社史を知っていただいて、最終的には当館への来館につなげられるのではないかと思っています。

インターネットでさまざまなことが検索できる時代ですが、ネットには載っていない情報が社史に載っていることもあります。インターネット検索だけでは調べられない情報を知ることができたり、書棚を眺めていただければ、これまで知らなかった会社や業界に出会えたりするのが当館の社史コレクションの良さだと思います。

なお、貸し出しに関しては、神奈川県内にお住まいの方、県内にお勤めの方、県内の学校に通われている方であれば、カードを作っていただいてすぐに貸し出しが可能です。神奈川県外の方の場合も、お近くの公共図書館で「この社史を借りたい」と伝えていただければ、図書館同士の貸し出しで対応できる場合があります。図書館によって送料負担などの対応は異なりますが、「県外だから無理」と諦めていただかなくても大丈夫ですので、大いにご活用いただければと思います。

※今年度は、「社史フェアin千代田2026」を2026年7月23日(木)・24(金)の2日間、午前11時から午後5時30分まで、毎日ホールにて開催します。詳しくは下記URLよりご確認ください。
https://mainichi.jp/articles/20260525/org/00m/040/001000d

片山久也
担当者
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA

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