新卒採用市場の現状と定着
企業の新卒採用の厳しさ
近年の新卒採用市場は、売り手市場の状態が続いている。人手不足による企業の高い採用意欲を背景に、採用競争は激化。2026年卒の採用充足率(内定者数/募集人数)は69.7%(前年比0.3pt減)で4年連続の減少となり、採用スケジュールが変更された2017年卒以降、同時期の調査と比較して過去最低の結果となった。【図1】
【図1】 「採用充足率」年次推移/2026年卒企業新卒内定状況調査
特に地域・業種によっては採用計画数を充たせない難しい状況が続いており、多くの企業が「採用したい学生を採用し切れない」課題を抱えている。2026年卒採用活動の印象を聞いた結果でも、約9割の企業が厳しかったと回答しており、その理由としては「母集団の確保(81.1%)」が最多だった。【図2・3】
【図2】今年の採用活動の印象/2026年卒企業新卒内定状況調査
【図3】今年の採用活動の印象「厳しかった」理由/2026年卒企業新卒内定状況調査
早期離職の実態(厚労省3年離職率)
この厳しい採用競争を勝ち抜き、ようやく入社に至った新入社員であっても、企業には次の課題が待ち受けている。それが早期離職だ。厚生労働省の発表する大卒の就職後3年以内の離職率は3割前後で推移し、長期的にも大きな改善は見られない。2025年度調査結果によれば、2022年入社の新入社員の3年以内離職率は33.8%、2024年入社の新入社員の1年後離職率も10.1%と1割を超えた。【図4】
【図4】3年以内離職率/厚労省 新規学卒就職者の離職状況 より弊社作成
新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率を見ると、宿泊業、飲食サービス業(55.4%)、生活関連サービス業、娯楽業(54.7%)など、5割を超えるものもある。「せっかく採用した新入社員が辞めてしまう」問題は、多くの企業で共通して見られる課題といえる。
入社した新人に長く定着してもらうには
採用の難易度が増す一方で、入社後の離職リスクも決して低くない。つまり企業は、「採用できない」「定着しない」という二重の課題に直面していることになる。では、せっかく採用した新入社員に長く働き続けてもらうためには、企業はいったい何に向き合う必要があるのだろうか。
入社に至った学生は何らかの「期待」や「納得感」を持って企業を選んでいるはずである。それでもなお入社後に離職が生じる背景には、採用プロセスでは多くの企業が、インターンシップや面接、選考を伴わない面談などさまざまな相互理解の場をしているものの、それだけでは埋めきれないギャップや、入社後の環境・役割への適応の難しさ、働き方や価値観の違いなど、複数の要因が潜んでいる可能性がある。
すべての学生にとって“十分な職場理解”を入社前に提供することは現実的に難しく、また若手の価値観が細分化する中で、企業側が「これをしておけば安心」と言い切れる万能策も存在しない。しかし、今回は入社半年時点の新入社員の転職意向に着目し、転職意向の高いグループと低いグループで比較することで、離職の要因を探っていきたい。
新入社員の転職意向
入社半年時点での転職意向の実態
まずは2025年卒入社半年後調査 より、新入社員の転職意向をみてみたい。転職について今どのように考えているかを聞いた結果、転職意向がある割合は2025年卒入社の新社会人で59.7%となった。【図5】
【図5】転職について今どのように考えているか / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
3年以内の転職を考えている割合の合計としては18.8%と、厚労省の3年以内離職率の約3割と比べて低く、この時点ではそれほど転職意向が高くないことがわかる。またこの数字は、必ずしも直ちに転職活動を始めるという意味ではなく、「今後のキャリアの選択肢として転職を視野に入れている」という広いニュアンスを含んでいる。しかし、2024年卒の14.9%から3.9pt増加していることを踏まえれば、企業視点では不安な結果としても受け取れるだろう。
ここから先は、転職意向が高い人と低い人の間にどのような違いがあるのかをみていく。
転職意向の高い人・低い人の差
(1)インターンシップ・仕事体験
まずは勤務先のインターンシップ・仕事体験の参加有無で、転職意向を比較した。昨今ではインターンシップ・仕事体験のプログラムに工夫が見られる企業が増えており、プログラムの参加を通じて、企業・仕事への理解を深めることができる。
参加を経て入社した場合、ある程度入社後のイメージや覚悟を持って入社を決めているはずであり、転職意向に影響がみられるのではないだろうかと考えた。しかしながら、参加者の転職意向は59.7%、不参加者では59.6%とほとんど差がない結果であった。【図6】
【図6】インターンシップ・仕事体験の参加有無別・転職意向 / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
一方で参加日数別に見ると、1日参加の場合は63.8%、2~4日間参加では61.2%といずれも6割を超えたが、5日間以上参加している場合は46.3%と半数を下回った。【図7】
【図7】インターンシップ・仕事体験の参加日数別・転職意向 / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
5日間以上の参加は、タイプ3・4のインターンシップに該当する可能性がある。長期間にわたり実務体験を含めて企業理解を深めたことで、入社後の定着につながりやすいと考えられる。
(2)ロールモデルの存在
新入社員にとって、入社先での将来像を思い描けるかどうかは、働き続けるうえで大きな意味を持つ。中でも、その会社でキャリアを積んだ具体的な“ロールモデル”の存在は、将来のイメージを左右する重要な要素だ。
実際に、現在の勤務先に将来この人のようになりたいと思うロールモデルとなる人がいるかを聞くと、転職意向ありの場合はロールモデルがいる割合が34.8%であるのに対し、転職意向なしの場合では48.8%と、14.0ptの差が開いた。【図8】
【図8】勤務先にロールモデルとなる人がいるか / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
ロールモデルの有無が、定着意識やキャリアの展望に大きく関わっている可能性がうかがえる。
また、ロールモデルとしている社員はどのような人かを聞くと、「入社10年目以上の先輩社員(53.3%)」がもっとも多かった。【図9】
【図9】ロールモデルとしている社員はどのような人か(転職意向がない人のみ) / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
またその人をロールモデルとしている理由としては、「仕事ができ、尊敬できるから(84.8%)」という回答が特に多い結果だった。【図10】
【図10】その人をロールモデルとしているのはなぜか(転職意向がない人のみ) / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
先輩社員に対する仕事ぶりへの信頼や憧れが、新入社員の安心感や会社に対する期待を支えている様子がうかがえる。
新入社員にとって、「この会社で努力を積み重ねれば、この人のようなキャリアが描ける」という具体例があることが、大きな心理的支えとなり、離職の抑制にも寄与している可能性があると考えられる。
(3)仕事疲れと労働時間
現在置かれている仕事の状況にも目を向けてみたい。新入社員にとって入社後半年は、初めての社会人生活に慣れる時期であり、覚えることの多さや環境の変化から、精神的・身体的な負荷を感じやすいタイミングでもある。失敗や試行錯誤を繰り返す中で、「働くことの大変さ」を実感する人も少なくないだろう。
仕事に疲れた、つらいと感じる程度を聞いた結果では、転職意向なしの場合では61.3%だったが、転職意向ありの場合は78.7%と、17.4ptの差が見られた。【図11】
【図11】仕事に疲れた、つらいと感じる程度 / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
続いてその理由を確認すると、「仕事内容が難しい」「仕事量が多い」などの回答は、転職意向の有無に関わらず共通して上位にあがった。一方で、転職意向の有無で差が大きく開いた項目として、「職場の文化が合わない(14.7pt差)」「やりがいが感じられない(13.8pt差)」「働く時間が長い(12.9pt差)」などがあげられた。【図12】
【図12】仕事に疲れた、つらいと感じる理由 / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
また、入社して初めて分かった情報で、就職活動時に知っておけばよかったと思うものを聞いた結果を、転職意向の有無で比較した。転職意向ありの場合、「給与や賞与に関する情報(25.9%)」に次いで「どのくらい残業があるか(25.8%)」が高く、また転職意向なしの場合と比べて、6.7ptの差があった。【図13】
【図13】入社して初めてわかった情報で、就職活動時に知っておけばよかったと思うもの ※上位抜粋 / マイナビ 2025年卒 入社半年後調査
近年では、SNSを中心に「残業キャンセル界隈」と呼ばれる、突発的な残業への抵抗感やプライベート優先の価値観を持つ若年層の広がりも指摘されている。想定以上の残業時間や、その実態を十分にイメージできていないと、働くうえでの負担を感じやすいのではないだろうか。こうした要因が仕事疲れや、ひいては転職意向につながる可能性が示唆される。
まとめ
新入社員の転職意向には「仕事体験の深さ」「将来像の描きやすさ」「日々の疲労感」という、三つの要素が影響する可能性が考えられる。採用競争が厳しさを増し、3年3割という離職率にも改善が見られない今、企業としては“採用できさえすればよい”わけではない。
入社前~入社後にかけて、仕事の理解度を高める機会の設計、尊敬できる先輩との接点、無理のない業務量や働き方——こうした日々の体験の質が、新入社員の職場への愛着や、将来への期待を左右する重要な要素となりそうだ。
言い換えれば、若手が「ここでなら成長できる」「先が見通せる」と感じられる環境をどれだけ丁寧につくれるかが、定着の分岐点になるのではないだろうか。本コラムが、新入社員が“この会社で働き続けたい”と思える環境づくりを進めるための一助となれば幸いである。
マイナビキャリアリサーチLab 主任研究員 井出 翔子