若手人材の早期離職の実態~調査結果から見えた早期離職検討者と企業に必要な考え方とは~
6月頃になって不調を感じる「6月病」。
4月の新年度で職場環境が変わり、2カ月間夢中で過ごしたことで、その反動で悩みを抱く人が増えると言われている。6月病が要因となり、職場環境を見直す人が増えているのではないだろうか。また、6月は夏季賞与の時期となり、賞与支給後に転職をする人、賞与が要因で転職を考えだす人が増える時期でもある。
今回はこの時期に増える可能性のある「早期離職」について、特に若年層に着目して、データを元に紐解いていきたい。
目次
大卒の3年未満の離職率は3割以上。企業では若手人材の不足感が強まる
新規学卒就職者離職状況を見てみると、2019年に入社し、その後3年未満で離職する割合は、中学卒でもっとも高く57.8%となった。最終学歴別でもっとも離職率の低い大学卒でも、1年未満に離職した割合は11.8%、3年未満だと31.5%となっている。【図1】
少子高齢化が進み働き手の確保はますます難しくなっていることに加え、DX推進などが進み、これまでとは異なるスキルの必要性が高まり、企業における人材不足感は高まっている。
マイナビで実施した調査によると、企業の年代別の正社員の過不足感では、若年層ほど不足感が高く、7割以上が「不足」と感じていることがわかった。【図2】
多くの企業では不足感の強い若手人材を採用したら、早期に離職させずにできるだけ長く働いて活躍してほしいと考えているだろう。
社会人1年目の「転職意向あり」は約7割。「大転職時代」が故の結果か
企業が重宝する若手人材だが、現在社会人1年目の新入社員は転職についてどう考えているのかを見てみる。5月に実施した調査によると、「転職は検討していない」がもっとも多いものの、「すでに本格的な転職活動を始めている」のが21.8%となった。
具体的な行動はしていないが転職を検討している層まで含むと、転職意向がある割合は68.2%となった。【図3】
日本においては4月の入社が大半を占めるため、この調査の回答者は入社1カ月程度の新入社員が多いと考えられるが、それをふまえると転職を検討するにはあまりにも早すぎる、という印象を持つこともできる。
もしくは、転職をすることが当たり前になり「大転職時代の到来」とも言われる昨今、若手人材は転職を前提に就職活動をし、企業に入社しているのだろうか。
早期の転職意向は、その多くが入社後に何らかのミスマッチを感じたことが要因
2024年卒の大学生の入社後の働き方に関する調査結果を見てみると、新卒で入社する会社で何年働きたいかを聞いたところ、「特に決めていない・わからない」が最多で31.7%、次いで「定年まで」が22.1%だった。
一方、もっとも少ないのは「1~3年くらい」で4.9%だった。男子学生の方が期間を長く想定する傾向にあり、特に理系男子では「定年まで」が27.7%となった。【図4】
また、ファーストキャリアで人生の何割が決まると思うかを聞いたところ、「6割」が最多で39.1%、次いで「8割」が34.9%。6割以上を合算すると約8割となった。【図5】
これらの結果を見てみると、就職活動時点で、入社する会社を早期で離職しようと考えている人は少なく、転職が活発になった時代であっても、新卒で入社する会社で得られるキャリアが人生において重要な位置を占めると考えている学生が多いことがわかる。
早期に転職を検討している若手人材の多くは、もとから計画していたのではなく、入社後に待遇面や人間関係、仕事内容等とのミスマッチを感じ、それを今の職場では改善できないと考え、早いタイミングで職場の変更を検討しているのが実態に近いようだ。
先ほど紹介した、社会人1年目で早期転職意向がある人のうち、特にすでに行動に出ている人や具体的な転職時期を決めている人が、この実態に該当すると考えている。
社会人2年目以降の早期離職経験率は27.8%
そのうち24.5%が早期離職に「後悔したことがある」と回答
社会人1年目の若手人材が、何らかの理由から転職を検討していることが一定数いることがわかったが、早期に転職をすることに不安を感じている人は少なくないだろう。
そこで、次に社会人2年目以上の先輩の早期離職経験に関する調査結果を見ていく。社会人2年目以降の正社員に早期離職の経験を聞いたところ、新卒入社の企業から3年未満で転職したことがある割合は17.8%。新卒入社以外の企業も合わせると、3年未満の早期離職経験があるのは27.8%となった。【図6】
3年未満の早期離職経験者に後悔したことがあるかを聞いたところ、79.7%は「後悔したことがない」と回答しており、早期離職経験者のうち多くがその経験を前向きに捉えているようだが、20.3%は「後悔している」と感じているようだ。
後悔したことがある割合は若年層ほど高く、キャリア初期に早期離職を経験した人ほど、何かしらの思い残しがあると考えている人が多いと考えられる。【図7】
後悔した理由を自由回答で聞いたところさまざまな理由があげられたが、多く見られた回答を分類すると、「転職活動が大変だった」「再就職に失敗した」等の会社選びに関する後悔、給与が下がった等の「待遇の悪化」に関する後悔、「スキル不足」に関する後悔、「キャリア形成」に関する後悔等が見られた。【図8】
【図8】早期離職で後悔した理由 自由回答抜粋
社会人経験が浅い若手人材が冷静にキャリアを考えられるサポートが必要である
2022年の正社員の転職率は7. 6%と、過去もっとも高い数値となっている。【図9】
転職が身近になるほど、職場に不安や不満を抱いた際に、離職を検討しやすくなるが、これは本人にとって良くない環境で無理に頑張りすぎる必要性もなくなるし、やり直しがきくという点では良いことであると考えている。
一方で、先輩の声を聞くと、早期の離職は会社選びにおける苦労や今後のキャリア形成等にも影響する可能性も秘めていることもわかった。早期離職を経験している社会人2年目以上の7割がその経験を前向きに捉えているという結果もあるため、筆者は早期離職を完全に否定する考えは持っていない。
しかし、後悔している人の話をふまえると、早期離職を検討している人は、まずは良い面・悪い面の双方を理解し、そのうえで一度立ち止まってじっくり考えてみることも必要なのではないだろうか。
企業側は、苦労して採用した若手人材にできる限り長く働いて活躍してもらうためにも、「最近の若者は転職が当たり前だから」という見方ではなく、何らかの理由があって転職という考えに至っていることを理解し、社会人経験が浅い若手人材が、早計な判断を下さずに冷静に自身のキャリアを考えられるようサポートすることが重要である。
加えて状況によっては、会社の制度や職場の在り方を再検討する必要があると考えている。
キャリアリサーチLab主任研究員 早川 朋