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25年卒から変更されたインターンシップー三省合意改正の影響を考える

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

昨今、新卒採用が売り手市場となっており、企業が学生との接点をつくるうえで重要度が増している「インターンシップ」。

企業の実施率も学生の参加率も上がってきており、双方の注目が集まっている中、今年実施される25年卒対象のインターンシップから、かつて経済産業省・文部科学省・厚生労働省によって制定された「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(=通称「三省合意」)が改正され、インターンシップの在り方が変化している。

今回は、「三省合意改正」とも言われるこの改正によって行われた変更と、現時点での企業・学生への影響を見ていく。

25年卒から再定義された「インターンシップ」―三省合意改正とは

初めに、25年卒からのインターンシップに関して、この三省合意改正によって変更された内容について見ていく。以前から変わったのは主に以下の2点だ。

(1)総じてインターンシップと呼ばれていたキャリア形成に関わる取り組みが4つの類型に整理され、 
  一定の要件を満たすもののみが「インターンシップ」と呼称できるようになった
(2)インターンシップではプログラムを通じて取得した学生情報を採用活動開始後に活用可能となった

まずはこの2つの変更点について詳しく整理していく。

改正ポイント⑴、「学生のキャリア形成活動」が4分類に

経団連や大学関係団体の代表者などからなる産学協議会は「学生のキャリア形成支援に係る産学協働の取り組み」を4つのタイプに整理した。

下記の図の通り、企業などによる説明会は「タイプ1:オープン・カンパニー」、大学や企業の教育プログラムは「タイプ2:キャリア教育」とされ、就業体験のある「タイプ3」と「タイプ4」が「インターンシップ」であると定められた。

この2タイプは就業体験のほかにも、開催期間やフィードバックの実施などの要件が定められている。タイプ1・2についてはキャリアについての知識を広げていく段階として大学1年次からの参加が可能となっており、タイプ3・タイプ4については大学3年次以上が対象とされた。

25年卒以降のインターンシップの在り方/『インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取り組みの推進に当たっての基本的考え方』を元にマイナビが作成
『インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取り組みの推進に当たっての基本的考え方』を元にマイナビが作成
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/intern/PDF/20220613002set.pdf

改正ポイント⑵、インターンシップ参加学生の情報が採用活動に利用できるように

また、新たに「インターンシップ」として定められたこの取り組み(=「タイプ3」「タイプ4」)を通じて得られた学生情報については、採用活動に利用できるようになったことも今回の改正による変化だ。

採用広報に使えるのは広報活動開始(3月1日)以降、採用選考に使えるのは6月1日以降と定められていたり、あらかじめ学生情報を活用する旨を示したうえで実施する必要があったりと規定はあるが、企業はインターンシップに参加した学生との接点を採用活動に繋げていきやすい形となった。

三省合意改正の認知とインターンシップの実施状況

では、この改正やその内容について、企業と学生にはどの程度浸透しているのか、そして現在のインターンシップの実施状況がどうなっているのかを見ていこう。

企業の認知:インターンシップの変更について、理解は徐々に浸透

企業の三省合意改正についての理解度を見ると、2022年9~10月時点でのアンケートでは「改正されたことを知らなかった」が32.3%と最多であったのに対し、2023年の6月の調査では4.9%と減少した。また、内容をおおむね理解しているという企業も27.9%から61.9%と増加し、認知度・理解度ともに上がったことがわかる。

三省合意改正の理解度について/2023年卒企業新卒内定状況調査(2022年9~10月)・2024年卒企業新卒採用予定調査(2023年2月)・
マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)
三省合意改正の理解度について/マイナビ2023年卒企業新卒内定状況調査(2022年9~10月)
マイナビ2024年卒企業新卒採用予定調査(2023年2月)マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

学生の認知:情報活用の可能性を認識する一方、改正内容を知らない学生も3割

一方で学生の理解度を見ると、25年卒学生のうち「学生情報が採用選考に利用される可能性がある」ことを知っている学生は47.9%で最多となっており、改正された事柄のうちでもっとも認知されているとわかった。

しかし、改正された内容について、いずれも知らなかったという学生も31.9%と一定数いる。改正内容について認知されているポイントもあるものの、インターンシップ参加などに向けて動き始める6月時点では、学生への浸透において一部課題が残っていたこともわかる。

25年卒から「インターンシップ」に関する定義等が改正されたことについて知っていること/
マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(6月)
25年卒から「インターンシップ」に関する定義等が改正されたことについて知っていること/
マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(6月)

企業の実施状況:6割はオープン・カンパニーで実施

次に、企業がどのタイプのキャリア形成活動を行っているのかを見ると、もっとも多かったのはタイプ1のオープン・カンパニーで61.6%だった。

学生が実際の職場を訪問したり業務を体験することは情報セキュリティ面・安全面での課題があったり、現場職員の協力を得るのが難しかったりする場合があり、学生との接点の機会をつくるという観点で取り組みを検討した場合にオープン・カンパニー型がもっとも開催しやすいことが考えられる。

25年卒に実施するキャリア形成活動のタイプ/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)
25年卒に実施するキャリア形成活動のタイプ/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

また、就業体験を伴うプログラムの中では、「タイプ3には当てはまらないが就業体験のあるプログラム」が30.3%で「タイプ3」をわずかに上回っている。

この背景について考えるため、「タイプ3」や「タイプ4」の「インターンシップ」として実施するための要件について聞くと、「日数が5日以上ある(専門活用型は2週間以上)」がもっとも実施率が低く、「実施したいが、難しいと思う」の割合が高い。

開催期間の要件を満たすのが難しく、”「タイプ3」に該当する形ではないが、就業体験のあるプログラムを実施している”という企業も一定数あると推察される。

「タイプ3」「タイプ4」で必須となっている項目についての実施状況/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)
「タイプ3」「タイプ4」で必須となっている項目についての実施状況
マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

学生の参加状況:夏休みにかけて仕事体験プログラムの参加者が増加

次に学生の参加希望や参加状況を見ていく。学生に対して夏休み前に休暇中のキャリア形成活動の参加方針を聞くと、「就業体験のあるプログラムを中心に参加したい」学生が合計で52.9%と半数以上だった。

企業の実施割合が高いのは「オープン・カンパニー型」だが、学生は夏休みを利用して就業体験に取り組みたいと考えていることが見てとれる。

<夏季休暇中に限定して>インターンシップ・仕事体験の活動方針/マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(6月)
<夏季休暇中に限定して>インターンシップ・仕事体験の活動方針/
マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(6月)

実際に参加状況を見ると、6月~9月を通して参加割合が高かったのは「オープン・カンパニー型」のプログラムだが、夏休み期間の8月・9月は就業体験のあるプログラムの参加割合が増加しており、中でも8月は半日・1日の就業体験のあるプログラムの参加割合がもっとも高くなっていた。

「オープン・カンパニー型」のプログラムは企業の実施率も高くて選択肢が多いことや、就業体験よりも気軽に参加できることによって一定して参加学生が多く、就業体験のあるプログラムは夏季休暇に合わせて実施されていることや「オープン・カンパニー型」のプログラムで業界や企業の知識を得た学生が時間に余裕のある休暇中に、次のステップとして参加していることなどが背景にあると推察される。

6月~9月に参加したキャリア形成活動のプログラムの種類/マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2023年6月~9月)
6月~9月に参加したキャリア形成活動のプログラムの種類/
マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2023年6月~9月)

インターンシップ参加学生の情報利用について

次に改正ポイントの2つ目、「一定の要件を満たしたインターンシップについて、参加した学生の情報を採用広報活動開始後に利用できる」という点について、企業と学生の受け止め方を見ていく。

企業:約半数がインターンシップ参加学生の情報を利用する予定と回答

タイプ3、タイプ4のインターンシップを実施する企業のうち、インターンシップで取得した情報の利用予定がある企業は47.5%だった。

また、検討中という企業は39.4%となっており、調査時点の2023年6月=25年卒のインターンシップの準備が進んでいるタイミングでは情報利用までは検討が済んでいない企業も少なくなかったことがわかった。


<タイプ3または4のインターンを実施する企業限定>インターンシップで取得した情報の利用予定/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)
<タイプ3または4のインターンを実施する企業限定>インターンシップで取得した情報の利用予定の有無
マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

企業:学生情報の利用内容は採用活動開始のアナウンスなど

情報利用の詳細については、「採用活動が始まる際に通知する」「会社説明会や社員懇談会への誘致」などの回答が多くみられた。

インターンシップへの参加姿勢に関する情報の利用を予定しているという回答もあるが、多くの場合は参加者情報を保存しておき、採用広報活動が始まる際に個別に連絡するという形での情報活用を検討しているとみられる。

<タイプ3または4のインターンを実施する企業限定>インターンシップで取得した情報の利用予定/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

<タイプ3または4のインターンを実施する企業限定>インターンシップで取得した情報の利用予定
マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

学生:情報利用の可能性があるプログラムは「自信がついてから参加したい」学生も

一方、学生が「採用活動に情報利用される可能性があるプログラム」についてどう考えているのかを見てみると、6月調査の時点では「自信がついてから参加したい」が最多だった。

9月調査では「すぐにでも参加したいが42.9%で最多となり、夏季休暇中のキャリア形成活動を通して自信がついた学生がいると推察されるが、「自信がついてから」と考える学生は9月時点でも36.6%とまだ一定数いる様子がわかる。

インターンシップに参加した学生の情報を採用選考に利用するプログラムに参加したいと思うか/マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2023年6月・9月)
インターンシップに参加した学生の情報を採用選考に利用するプログラムに参加したいと思うか/
マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2023年6月・9月)

改正されたインターンシップへの懸念

ここまで、25年卒からのインターンシップの改正による変化を見てきて、企業・学生ともに活動や考え方においてさまざまな影響を受けていることがわかった。最後に、この改正が周知されて実際に活動が開始したことにより実感している懸念について見ていこう。

企業:5日間の就業体験は業務上困難・マンパワーが足りない

企業に、キャリア形成活動における課題を聞いたところ、「予算とマンパワーが足りず、分類に当てはまる内容は現実的でない」「現場社員の負担から5日以上の実施は難しい」「直近年度の採用と併せ、採用担当の負担が増す」などのコメントがみられた。

特に昨今の売り手市場の状況においては採用の難易度が増しており、活動が長期化していることや内定出し後のつなぎ止めも必要とされている。そのため、次年度のインターンシップの準備をする時期に今年の採用活動の対応業務が多く残っている状況となり、採用担当の負担が大きく期間の長いプログラムは実施が難しいと感じていると考えられる。

インターンシップの必要性を実感している声はみられるものの、実施に課題があると感じているケースが多いようだ。

インターンシップなどキャリア形成活動について苦労している点・課題と感じている点/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)
インターンシップなどキャリア形成活動について苦労している点・課題と感じている点
マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査(2023年6月)

学生:情報利用されるプログラムは「やる気がでる」一方「気軽に参加しづらい」という意見も

対して学生は新しいインターンシップの在り方についてどのような懸念を抱いているかを見ていく。インターンシップ参加時の情報が採用活動に利用されることについての意見を聞くと、「やる気がでる」「参加する意味が大きくなるので意欲がわく」などの前向きなコメントがみられる一方で、「まだ対策できていない箇所が多いので不安も大きかった」「気軽に参加しづらい」など、参加時の情報が採用選考に影響するという考えから純粋な仕事体験の場としては気軽に参加できないというニュアンスのコメントがみられた。

インターンシップ(タイプ3,4)参加時の情報を広報活動開始後に採用選考に利用することについて知ったとき、どのように感じたか/マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2023年8月)
インターンシップ(タイプ3,4)参加時の情報を広報活動開始後に採用選考に利用することについて知ったとき、どのように感じたか/
マイナビ2025年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(2023年8月)

ただ、前述のように現時点で学生の情報利用の予定がある企業は、インターンシップの参加姿勢や評価の情報ではなく採用広報開始のアナウンスのために連絡先などの基本的な参加者情報を利用することを想定していることが多いとみられる。

インターンシップの募集要項に学生情報の利用内容を記載することは任意ではあるが、応募時に確認してみることも必要そうだ。また、企業については情報の利用内容を記載しないことで学生がインターンシップの評価が採用選考に影響すると誤認しないよう、参加者情報の利用のみを想定している場合はその旨を募集要項に明記することで学生が参加しやすくなると考えられる。

おわりに

ここまで、25年卒から変更となるインターンシップの在り方とその影響について見てきて、プログラムの分類や採用活動への情報利用などの変化によって、企業・学生ともに懸念や不安も多くあることが分かったわかった。

だた、キャリア形成活動の分類によってタイプごとの目的の違いが分かりやすくわかりやすくなったり、参加情報が採用選考に利用されることによって参加意欲が上がるケースもあったりと現時点での前向きな変化もあるはずだ。また、4類型の実践については段階的なロードマップが作成されており、来年以降は検証や改善の段階とされている。

双方ともまだ準備が万全でない部分も多くあることや、そもそも4類型の実践自体が発展途上であることも理解しつつ、わからない点や心配な点は、しっかりコミュニケーションを取りながら、キャリア形成活動という場を上手く活用して企業と学生のよりよい接点の場としてほしい 。

キャリアリサーチLab研究員  沖本 麻佑

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