多様性を尊重する職場で気をつけたい「アンコンシャス・バイアス」  ―起こりうる問題と解消法とは

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

現代の職場では、多様性とインクルージョンがますます重要視されている。しかし、無意識のうちに持ってしまう「アンコンシャス・バイアス」という偏見は、これらの取り組みを妨げる大きな障害となり、採用や評価、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。

本記事では、アンコンシャス・バイアスとは何か、その影響と克服方法について解説し、誰もがよりよく働ける職場づくりのために気を付けるべきポイントを考察する。

目次

アンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)とは、無意識の思い込みや先入観のことを指す。
内閣府男女共同参画局のアンコンシャス・バイアス解消に向けたパンフレットでは、以下のように説明されている。

無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)とは
自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り」をいいます。自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、「無意識の偏見」と呼ばれます。

内閣府男女共同参画局 パンフレット「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消に向けて」p.1

この 「アンコンシャス・バイアス」 は、脳の情報処理を助けるメカニズムの一つで、誰もが持っているものだが、自分自身では気づかないため、他者との認識に齟齬を生みやすい。

バイアス(bias)とは何か?

バイアス(bias)とは、偏見や思い込みなどを指し、認識に偏りがある状態を意味する。アンコンシャス・バイアスの場合は、そこに「無意識の(unconscious)」が付くことで、自分が意識していない(無意識の)偏見や思い込みを指している。

アンコンシャス・バイアスの重要度が増している理由

近年、女性や高齢者の活躍促進や、グローバル化による社員の多国籍化、障がい者の雇用促進など職場の多様性が進められている。社員一人ひとりの違いを受け入れ、尊重し、平等に活用できる場をつくる考え方をダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンと呼ぶが、この現代社会において、アンコンシャス・バイアスが他者を傷つける発言や不平等な評価につながる可能性がある。そのため、私たちはアンコンシャス・バイアスに注意する必要があるのだ。

たとえば、「普通は女性が育児をするもの」「男性なら家計を支えるべき」といった、性別による偏見もアンコンシャス・バイアスの一つである。このような偏見に基づく発言は、他者に不快感を与え、職場ではハラスメントと見なされることもある。

そのような職場では、社員のモチベーションは低下し、人間関係は悪化する。そして、組織のパフォーマンスは落ちることにもつながる可能性があるため、アンコンシャス・バイアスに適切に対処することがより求められるようになっているのだ。

ダイバーシティについては、下記のコラムでまとめられているため、こちらを参照してほしい。

アンコンシャス・バイアスの代表例

アンコンシャス・バイアスは職場だけではなく、日常のさまざまな事柄に発生し、私たちの行動に影響を与えている。本稿では、代表的なアンコンシャス・バイアスを取り上げていく。

ステレオタイプ

世間的に広く知られている固定観念のこと。対象の性別や年齢、職業、国籍など、一部分だけの情報で決めつけてしまう心理状態を指す。

  • 例)血液型がB型の人は自己中心的であると考える

正常性バイアス

差し迫った問題を「きっと大丈夫だろう」と過小評価してしまうこと。自分に都合が良いように解釈してしまうため、迅速な対応ができず、問題を大きくしてしまう恐れがある。

  • 例)火災で煙が出ても「すぐに消える」と考えて、避難が遅れてしまう

確証バイアス

自分にとって都合の良い情報だけを集めて、都合の悪い情報は無視してしまうこと。自身の考えを肯定したい時に行われる。特徴として、反対意見を受け入れることができず、自分の意見に固執してしまう傾向が見られる。

  • 例)新商品のリサーチで良いフィードバックしか取り上げない

集団同調性バイアス

集団の中では、周りの人間と同じ行動を取りたがること。自分の意思よりも、周りに合わせることを優先させてしまうため、合理的ではない判断を行ったり、善悪の判断が曖昧になったりする恐れがある。

  • 例)会議で多数派の意見に賛成してしまう

ハロー効果

対象の目立った特徴によって、全体の評価が歪んでしまうこと。良い特徴であれば実際よりも過大評価をしてしまい、悪い特徴であれば過小評価をしてしまうことが多い。

  • 例)有名タレントが宣伝している商品だから、優れた性能に違いないと思い込む

ダニング・クルーガー効果/インポスター症候群

どちらも自分自身の能力を正しく評価することができない状態を指す。自身の能力を実際よりも過大評価してしまうことを「ダニング・クルーガー効果」と呼び、実際よりも過小評価してしまうことを「インポスター症候群」と呼ぶ。

  • 例)能力以上のプロジェクトを引き受けて失敗する
  • 例)マネージャーに相応しくないと悩み、過度のストレスを抱える

アンコンシャス・バイアスがあることで生まれる問題

採用時に適切な評価ができず、優秀な人材を見逃しやすい

アンコンシャス・バイアスは、企業の採用担当者が候補者の能力を正しく評価することを妨げる可能性がある。特に、年齢や性別など、わかりやすい特徴から生じるアンコンシャス・バイアスがあると、その候補者が本当に持っている能力や適性を見落としやすくなり、優秀な人材を逃してしまうことや、入社後のミスマッチにつながりかねない。

人事評価や配置に悪影響を与え、パフォーマンスが低下する

上司が部下を人事評価する際、個人の偏見や思い込みなどが評価に影響を与えてしまうことも考えられる。たとえば、接点が多く良い印象を持つ部下には評価が甘くなるが、接点が少なく印象が薄い部下には厳しい評価をしてしまうなど、評価項目とは異なる人柄や印象などが評価に影響を及ぼすといったことである。

適切な評価がなされないことによって社員本人のエンゲージメントを低下させるほか、それによって社員それぞれの能力に応じた育成や配置が行われないことは、組織全体のパフォーマンスの低下にもつながるだろう。

成長の機会が与えられず、社員のモチベーションが下がる

アンコンシャス・バイアスによって個々の能力ではなく、性別や年齢などによる偏見で仕事を振り分けたり、キャリア目標を設定してしまうことがある。特に、性別によって仕事を決めてしまうことを「固定的性別役割分担意識」と呼ぶ。政府広報オンラインでは、職場における固定的な性別役割分担意識について以下の例が挙げられている。

  • 育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない
  • 組織のリーダーは男性の方が向いている
  • 受付、接客・応対(お茶だしなど)は女性の仕事だ
政府広報オンライン「アンコンシャス・バイアスを減らす3つのポイント!誰もが活躍できる社会に」

仕事に必要なスキルや仕事と家庭とのバランスなどの事柄は、個人の特性やプライベートの事情によるもので、性別・年齢などから決めつけることではない。このような偏見や思い込みをもとに業務の采配を行ったり、目標設定をしたりすることは、社員がキャリアアップする機会を奪うことになり、働くモチベーションを低下させてしまうことにもつながるだろう。

コンプライアンス違反に気づかず、 社会的な信頼が失われる

アンコンシャス・バイアスが解消されないままになっていると、社会通念に反していることに気づきにくくなる可能性もある。場合によっては、取引先や一般消費者などのステークホルダーから嫌厭され、ビジネスで不利益をもたらすことがある。

たとえば、アンコンシャス・バイアスによって社員が偏った評価や配置などがされていた場合は、コンプライアンス違反とみなされることもある。また、事業やその宣伝においてアンコンシャス・バイアスにより消費者に意図せず差別的な発信をしてしまうことなどもコンプライアンス違反として、企業が社会的な信頼を失うことにつながる可能性もある。

また、創業年やメディア報道などに関するアンコンシャス・バイアスによって、取引先企業との商談を見誤るなどのケースも考えられる。

アンコンシャス・バイアスを解消することのメリット

職場の多様化が進み、イノベーションが起こりやすくなる

アンコンシャス・バイアスを解消することで、職場の多様化が進む。性別や年齢、国籍など、さまざまな背景 を持つ人々がお互いを尊重し、働きやすい環境が整うことで、多様な視点や価値観が業務に反映される。結果的に、イノベーションが起こりやすくなる。

公平な評価により、社員のモチベーションが向上する

アンコンシャス・バイアスが解消されることで、個々の能力を正当に評価することができる。そのため、上司は部下のスキルや能力を発揮できる仕事を与えやすくなり、より業務がスムーズに進行する。また、部下も仕事にやりがいを感じることでモチベーションが向上する。

加えて、ハラスメントにつながる言動や行動も抑制されるため、職場の雰囲気が改善され、コミュニケーションが活発化する。これにより、問題解決に向けて社員が団結しやすい環境を作ることができる。

コンプライアンスが強化されて、社会的な信頼を得られる

アンコンシャス・バイアスを解消することで、職場の多様性が促進されるだけではなく、コンプライアンスをきちんと守っている企業として、社会的な信頼を得ることができる。結果的に、企業イメージが向上し、ステークホルダーや求職者からの支持が集まりやすくなり、事業の成長や人手不足の解消が期待できる。

アンコンシャス・バイアスを解消するための方法

アンコンシャス・バイアスを解消することは、職場のコミュニケーションやパフォーマンスに好影響を与えることが明らかになった。それでは、どのように自分が自覚していない偏見や思い込みを解消すれば良いのだろうか?個人と企業それぞれができる、アンコンシャス・バイアスの解消法を詳しく見ていく。

アンコンシャス・バイアスについて知る

まず、アンコンシャス・バイアスとはどのようなものであるか、種類や特徴、起こりうるトラブル、企業に与えるデメリットなどについて学ぶ必要がある。

アンコンシャス・バイアスを持っていることは自覚しにくく、人によっては「自分は偏見を持っていない」と考えて、取り組みの必要性を感じにくいため、初めに自分の中の偏見や思い込みを自覚することが重要なのだ。

他者と自分自身の考え方を照らし合わせる

加えて、ケーススタディを実施し、メンバーでアンコンシャス・バイアスのさまざまな事例を見て、話し合いをすることが望ましい。無意識の思い込みや先入観を客観的に見ることで、自身の中にある価値観の相違に気づきメンバーの価値観とすり合わせを行うことができる。その他、効果的な方法は下記のとおりである。

  • 職場アンケートによる意識調査
  • アンコンシャス・バイアスチェックシートの活用
  • 自身の発言や行動の振り返り(「~べきだ」「普通は~」といった決めつけの発言が無いか、相手の反応に違和感を覚えたことはないか)など

ロールプレイングなどで対処法を考える

アンコンシャス・バイアスを一人で自覚し、振り返ることは難しいため、外部の専門家による研修プログラムに参加することも有効だ。アンコンシャス・バイアス研修では、ロールプレイングが行われることが多く、アンコンシャス・バイアスが起こり得る職場シーンをシミュレーションすることで、原因や対処法などをメンバーで共有することができる。

さらに、その後の取り組みについても専門家からフォローを受けることで、アンコンシャス・バイアスの意識を職場に根付かせることができる。

関連コラム

働く女性から見た「アンコンシャス・バイアス」の変遷

性別に関わるアンコンシャス・バイアスについて、働く女性の立場からみた 「社会の変化」や「まだ変わらないもの」 を考察したコラムも公開している。こちらもあわせて参考にしてほしい。

ハラスメント防止の観点でのジェンダーの理解の重要性

以下のコラムでは、職場のハラスメントが生まれる構造について、リーダーやマジョリティのジェンダーなどへの無自覚や無知が影響していると指摘されている。こちらもあわせて参考にしてほしい。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進する企業事例

「社員の個性を大切にするカルチャー」をベースに、多様な個性や背景をもつあらゆる方が、1人1人の得意や強みを活かして安心して働ける会社づくりを行うトレンダーズ株式会社のインタビュー。アンコンシャスバイアス研修など、D&I推進の取り組みについてや、意識していることなどを伺っている。

まとめ

今回は、無意識のうちに発生する思い込みや偏見である「アンコンシャス・バイアス」について見てきた。アンコンシャス・バイアスが解消されると、組織の多様性が促進され、イノベーションが生まれやすくなる。また、人事評価の公平性も担保されるため、社員のモチベーションも高まり、結果として、組織のパフォーマンスが向上する。

しかし、アンコンシャス・バイアスは自分で自覚することは難しく、完全に解消することはほぼ不可能な心理現象だ。そのため、企業は社員にその必要性の理解を促進していくとともに、社内研修やトレーニングなど、アンコンシャス・バイアスの解消に向けた取り組みを継続的に行っていくことが重要だ。

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