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アンコンシャスバイアス-雇用機会均等法から35年、働く女性から見た変化

キャリアリサーチLab編集部
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アンコンシャスバイアスとは?

アンコンシャスバイアスは、「無意識の偏見」と訳されることが多いが、 さまざまな場面で無意識下で持っている偏った見方や意見のことをさす。

ジェンダー問題だけの用語ではないが、男性・女性といった役割や 意識についてもアンコンシャスバイアスが働くことは多い。折しも本年は 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」 (以降、雇用機会均等法)の施行から35年目となる。本コラムでは、働く女性の立場からみた 「社会の変化」や「まだ変わらないもの」 をアンコンシャスバイアスというキーワードから書いてみたいと思う。

少し前の話になるが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の元会長発言をきっかけにひとしきりジェンダーギャップが話題として盛り上がりを見せたことはまだ記憶に新しいところかもしれない。

おそらく現在社会で働く多くの人は、たずねられたら「あの発言は適切とはいえない」と答えるだろう。ただ、それは「自分にはそういう意識(偏見)はなく、(少なくとも社会に出て働くうえで)男女は平等だと教えられ、そうだと認識している」ゆえに、そう答えるのである。

社会の中での違和感

そういう意味では、教育や会社での研修などに一定の効果があったともいえるが、「あたりまえのことだ」と言いながら、少し頭の片隅にひっかかるものもあった。それは、管理職になった当初、部下を指導する、という行為がとても苦手だった時期があるからだ。

ニュアンスが難しいのだが、教育として叱り、諭す、という行為は一定の必要性がある。だが、これが女性の場合「怒る」に変換されて受け取られやすいと思っていたのだ。こちらは冷静に必要なことを指導しているつもりでも「ヒステリーを起こしている」という受け取られ方をするのではないか、と気をつかう、といった具合である。

管理職となった際、男性が同じことを考えるかといえば、その答えはNOが多いのではないかと感じる(管理職としての指導の難しさの悩みは男女共通のものがあると思うが、今回は管理職心得が本題ではないので、省略する)。

このように、社会のいろいろなところで、ちょっとしたときに「女性だから」を意識しながら生活しているのが私たちの日常であり、おそらく呼吸をするように自然にそうふるまってしまうのではないか。私たち自身の中にも多かれ少なかれアンコンシャスバイアスがあるが、日常的には気づいていない場合が大半なのではないか、と思う。

社会や職場での変化

ここからは、社会や職場の男性たちの変化について少しふれてみたい。まず基本となる「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以降、雇用機会均等法)の改変の変遷を見ても、社会の変化を感じることはできると思う。

雇用機会均等法の主な改変

1985「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」制定
1986施行
1999改正(多くの努力規定が禁止規定に変更)
2007改正(出産・育児などによる不利益取扱の禁止、男性差別・セクハラ禁止規定など)
2017改正(マタニティハラスメントに対する禁止規定)
2020改正(職場のパワーハラスメント防止措置)

1985年に制定され、1986年に施行されてから2007年まで「男性」に関する件は触れられていない点にお気づきいただけると思う。 「男女均等な」という点で男性側も補完するようになるまで、実に20年近くたっており、そういう意味では、ハード(法整備)面が本当にスタートラインに立ったのはわずか14年前である、ともいえる。

男性サイドのアンコンシャスバイアス

そういった中で、男性側のアンコンシャスバイアスという点で、弊社の学生向け調査において少し興味深い例があったので紹介したい。

2022卒マイナビライフスタイル調査より)「共働きが望ましい理由」設問への男子学生の回答として「結婚相手が仕事を続けたいならその意思を尊重したいので(26.3%)」が高く、一方女子の回答としては、この回答はあまり選択されていない(2.7%)。

2022卒マイナビライフスタイル調査/共働きが望ましい理由

つまり、男子学生には「一家の主たる働き手として女性を養う」という意識がすでにあり、その上で「相手が続けたいなら」と意思を尊重する回答になっている。

このように社会へ出る直前の段階である大学生において、働くことへの意識にすでにギャップが存在するのも興味深く、ある意味男性側のアンコンシャスバイアスの例といえるかと思う。

働き手の意識の変化と改正育児・介護休業法

その一方で前掲のライフスタイル調査では過去5年「共働きが望ましい」という回答は増加し続けており(2016年卒56.2%⇒2022年卒66.2%)、その理由として収入面だけでなくキャリアや生きがいといった内容を選択する学生も増えており、緩やかではあるが社会とともに働き手の意識も変化しているのではないかと感じられる。

また、直近の話でいえば、育児・介護休業法(1995年成立)について、政府が2020年12月に示した男性の育児休業の取得促進方針をさらに進め、男性の「産休」取得義務付けをもりこんだ「改正育児・介護休業法」が、この6月可決・成立した(2022年度中施行予定)。

このように男性側のハード(法整備)面も徐々にであるが整備されつつある。著名人や政治家の育休取得がニュースとなることもあり、筆者のまわりでも男性の育休取得という選択を耳にすることもある。ただ、実感としてはまだかなり少数派である。

誤解を恐れずに予想するならば、男性たちは女性たちが育休や産休を経て復帰することが普通のこととなったこの数十年の歴史をこれからたどっていくのかもしれない。先駆者には先駆者なりの苦労もあろうかと思うが、ぜひ多様な働き方として広がってほしいと思う。

さまざまな法律が変わり、それをきっかけに企業や社会が変わり、働く人たちの意識も少しずつ変わってきている。そういった中で女性たちはどうだろうか?次に女性側のアンコンシャスバイアスについて、見ていく。

女性とキャリア

さて、時をさかのぼること35年前「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下、雇用機会均等法)が施行され、現在、確かに法の上で働く男女の差はなくなり各企業においてもさまざまな働き方に対応するための制度の整備が進んでいる。

社会が変わってきていることは社会人生活25年を超えた筆者も決して否定するものではなく、実感もある。たとえば20年ほど前であれば、結婚したタイミングでは仕事を継続した人も、第1子の出産を機に正社員の職を辞する人が多かった印象がある。現在では、産休・育休を終えての復帰は特別なことではなくなった。

そんな中、国は女性活躍を促進する政策について「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%程度」と目標を掲げていた(その後、2030年までの可能な限り早期に、へ繰り延べ)。しかし、女性管理職になりたくない、と考える女性も一定数いるのも事実である。

初期キャリア意識とその後

そこで気になる調査が1つあったので引用したい。「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」(独立行政法人国立女性教育会館・令和2年5月発表)によると、キャリアの初期(1年目)には男性よりやや少ないものの、一定数の女性が管理職を目指し、決してその数字が最初から極端に低いわけではない。しかし年齢があがるにつれ「なりたくない」が増えるのである(1年目60%→5年目37.6%へ減少)。

男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査(独立行政法人国立女性教育会館)/管理職志向女性は男性より低い

(「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」独立行政法人国立女性教育会館より )

ロールモデルの不在と家庭との両立

それにはロールモデルとなる先輩がいないことなどさまざまな理由があるかと思うが、一番の理由として「仕事と家庭の両立の困難」があがっている(5年目の回答が最多:69.3%)。

男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査(独立行政法人国立女性教育会館)/管理職を志向しない理由

(「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」独立行政法人国立女性教育会館より )

この回答は裏返せば「仕事と家庭の両立」は女性のやるべきこと、という無意識の前提があることがうかがえる。

この無意識の醸成は長い時間をかけて行われているので要因は1つではないと考えられるが、たとえば子供のころに食事の準備をしてくれたのは母親が多く(仮に専業主婦でなく仕事を持っている母親であっても)、家の中の主たる作業は母親を中心に動き、自然と家庭のことは女性がしていることが多いという実際を目にしながら育った子供は当然ながらそれをなぞるのだと思われる。

今こそ「意識」することで次のステップへ

だとするならば、やはり私たちが無意識に「自分は女性だから○○は私が」と思っていることは、視点を変えてみる必要があるだろう。たとえば、少し前まで「家事代行」というのは一握りの富裕層向けだったように思う。しかし現在では働く女性にとってかなりのお助けツールになっている側面はいうまでもない。家事をアウトソースするという発想の転換は働く女性にとって一つのエポックメイキングなできごとといえる。

家事代行のような例だけでなく、自分の中にある既成概念やアンコンシャスバイアスに気づき「意識」するだけでも、そこから次のステップへつながると思う。自社の話で恐縮ではあるが、現在弊社の女性管理職比率は33%超であり、政府目標数値を先んじてクリアしている。その状態も一朝一夕で到達したわけではなく会社と従業員のさまざまな試行錯誤の結果であるが、数値目標や制度といったハード面がすべてではなく、周りのロールモデルが増えたことが結果として数字につながっていると実感することは多くある。

おわりに

曲がりなりにもハード(法や制度)が整った今、本当の意味でのギャップをなくすには、私たち女性が自身の中にあるアンコンシャスバイアスに気づくこと、それを意識すること、その中でソフト面を一人ひとりが作っていくことが大切で、それによって本当の意味での社会的な機会均等の実現が近づくのではないか、というのが女性管理職の増えた現場からあらためて感じることだ。

自分たちの可能性を阻害しているのは、もしかすると無意識の自分かもしれないと時に振返り、時には自身を外から俯瞰し、べき論をはずし、柔軟な考えを取り戻すことも、これからの女性活躍社会をしなやかに生きていくのに必要なことだと思う今日このごろである。

キャリアリサーチLab副所長 赤松 淳子
※所属は執筆時点のものです。

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