精神障がい者雇用で企業が重視する「本人側の要素」とは。1,000社調査から見えた、自己管理・主体性・業務とのマッチングの重要性

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部
藏田清文(くらたきよふみ)氏・写真

藏田清文(くらたきよふみ)
合同会社藏田産業医事務所 日本医師会 認定産業医大阪大学理学部卒後、国家公務員を経て群馬大学医学部を卒業し、医師へ転身。現在は産業医として複数企業の産業保健活動を支援している。

佐々木 規夫(ささき のりお)氏・写真

佐々木 規夫(ささき のりお)
一般社団法人 日本うつ病センター 上席研究員
産業医科大学医学部・HOVA株式会社の専属産業医および健康指導G統括マネージャーとして健康管理に従事。現在は精神科医および産業医として医療機関や上場企業、主要官庁の産業医を務めている。
日本精神神経学会専門医、精神保健指定医、産業衛生専門委、医学博士、労働衛生コンサルタント、社会医学系指導医

はじめに

近年、障がい者雇用は着実に広がっています。民間企業の法定雇用率は2024年4月に2.5%となり、2026年7月以降は2.7%へ引き上げられる予定です。厚生労働省の令和7年「障害者雇用状況」の集計結果でも、民間企業で雇用されている障がい者数は70万4,610.0人、実雇用率は2.41%と、いずれも過去最高の水準でした。

一方で、法定雇用率を達成している企業は46.0%にとどまります。障がい者雇用は進んでいるものの、まだ十分に浸透したとは言い切れない状況です。なかでも企業が難しさを感じやすいのが、精神障がいのある方の雇用です。採用後にどう定着してもらうか、体調の変動にどう対応するか、職場でどう関わるか、合理的配慮をどう進めるか。現場では、さまざまな迷いが生まれます。

では企業は、精神障がいのある方に職場で活躍してもらうために、本人側のどんな要素を重視しているのでしょうか。本稿では、企業担当者へのヒアリングと、企業1,000社へのアンケート調査の結果から、精神障がい者雇用で重視される「本人側の要素」を見ていきます。

企業における障がい者雇用の実態

調査の対象

本研究では、従業員40人以上の企業1,000社を対象にアンケート調査を行いました。回答企業の規模は、40~99人が15.6%、100~299人が24.6%、300~999人が19.7%、1,000人以上が40.1%です。業種は製造業が24.7%ともっとも多く、続いて医療・福祉11.3%、卸売業・小売業10.0%、サービス業9.2%、情報通信業7.4%、建設業6.3%、金融業・保険業6.2%、運輸業・郵便業6.0%でした。

表1 調査対象企業の概要 

項目内容
有効回答率29.1%(3,432社中1,000社回答)
対象企業従業員40人以上の企業
企業規模40~99人 15.6%、100~299人 24.6%、300~999人 19.7%、1,000人以上 40.1%
主な業種製造業 24.7%、医療・福祉 11.3%、卸売業・小売業 10.0%、サービス業 9.2%など
研究の流れ混合研究法に準じた手法を用いて企業インタビューで要素を抽出し、1,000社調査で重要度や優先順位を確認
表1 調査対象企業の概要

精神障がい者雇用は、身体障がい者雇用に比べて経験の蓄積が少ない

まず、障がいの種別ごとに「過去に一度でも雇用した経験があるか」を尋ねました。すると、身体障がい者の雇用経験がある企業は69.4%。これに対して、知的障がい者は48.9%、精神障がい者は47.8%でした。

身体障がい者雇用に比べると、知的障がい者雇用と精神障がい者雇用は、企業に経験の蓄積が少ないことがうかがえます。単なる数字上の違いではなく、統計的に見ても、身体障がい者を雇用したことのある企業は知的障がい者、精神障がい者に比べて明らかに多いことが分かりました。

一方、知的障がい者雇用と精神障がい者雇用のあいだには、はっきりした差はありませんでした。雇用してきた年数を見ても、精神障がい者雇用は身体障がい者雇用より短い傾向です。

ここで気をつけたいのは、この結果が「精神障がい者を採用したくない企業が多い」ことを示すわけではない、という点です。あくまで雇用の経験や年数の差にすぎません。ただ、経験の蓄積が少ないと、受け入れ後のイメージがつかみにくかったり、どう支援すればよいか分からず不安につながったりすることはあります。

表2 障がい種別ごとの雇用経験

障がい種別雇用経験ありの割合
身体障がい69.4%
知的障がい48.9%
精神障がい47.8%
表2 障がい種別ごとの雇用経験
注:障がい種別ごとの雇用経験の差は、GEEロジスティック回帰分析により比較しました。

企業は「高い能力」だけを見ているわけではない

採用というと、スキルや経験、業務をこなす力が重視される。そんなイメージがあるかもしれません。もちろん、仕事を進めるうえで一定の業務能力は必要です。ただ、精神障がい者雇用の現場で企業が気にかけているのは、単に「仕事ができるかどうか」だけではありません。

企業が見ているのは、「安定して働き続けられるか」「困ったときに相談できるか」「自分の状態を理解し、職場と調整できるか」といった点です。どれほど高いスキルがあっても、体調を崩して長く働けない状態が続けば、職場としては仕事を任せにくくなります。逆に、特別に高いスキルはなくても、安定して出勤し、必要なときに相談し、少しずつ仕事を覚えていける人なら、企業は安心して一緒に働けます。

この点は、精神障がい者雇用の難しさを理解するうえで大切です。本人は「自分に何ができるか」「もっとスキルを磨く必要があるのでは」と考えがちです。一方で企業は、「続けて働けるか」「職場で無理なく関われるか」を確かめようとします。この視点のズレが、採用や定着の場面でミスマッチを生むことがあります。

精神障がい者雇用において重視される「本人要素」

ヒアリングから整理された8つの本人要素

今回はまず、精神障がい者雇用に携わっている企業の担当者に半構造化インタビューを行い、「活躍している事例」「課題が生じた事例」「活躍のために必要なこと」などをうかがいました。その内容を整理した結果、精神障がいのある方が職場で活躍するために重要と考えられる本人側の要素が、8つにまとまりました。

表3 精神障がい者雇用で重視される本人側の8要素

要素意味
障がいの自己理解・自己受容自分の特性、体調変化、苦手な場面、不調のサインを理解していること
自己管理ができる能力生活リズム、通院・服薬、体調変化への早めの対応ができること
主体性・仕事への前向きな姿勢任された仕事に誠実に取り組み、少しずつできることを広げようとすること
自己開示する能力働くうえで必要な配慮や困りごとを適切に伝えられること
周囲に相談する能力困ったときに一人で抱え込まず、早めに相談できること
業務への適応・マッチングさせる能力指本人の特性や得意不得意と業務内容をすり合わせられること
フィードバックを受け入れる能力指摘や助言を受け止め、改善につなげられること
コミュニケーション能力報告、連絡、相談、確認など、職場に必要なやり取りができること
表3 精神障がい者雇用で重視される本人側の8要素
注:企業担当者への半構造化インタビューから混合研究の手法に準じて抽出・整理した項目です。

基準項目と比べて選ばれやすい本人要素

次に、この8つの本人要素について、企業の人事担当者が何を重視しているのかを知るために、最初の質問項目である「障がいの自己理解・自己受容」を便宜的に基準として、各項目の選ばれやすさを比べてみました。結果は表4のとおりです。

今回の結果では、「自己管理ができる能力」「主体性・仕事への前向きな姿勢」「周囲に相談する能力」「業務への適応・マッチングさせる能力」「コミュニケーション能力」が、基準項目より高く評価されました。一方、「自己開示する能力」は基準項目よりやや低めでした。「フィードバックを受け入れる能力」は基準項目より高い方向でしたが、その差は比較的小さいものでした。

ここからは、企業が重視しているのが、障がいの理解そのものにとどまらず、日々の仕事を安定して進めるための実践的な力であることがうかがえます。

表4 本人側8要素の重視度(基準項目との比較)

本人側の要素基準項目との比較p値
自己管理ができる能力基準項目より高いp<0.001
主体性・仕事への前向きな姿勢基準項目より高いp=0.002
周囲に相談する能力基準項目より高いp<0.001
業務への適応・マッチングさせる能力基準項目より高いp<0.001
コミュニケーション能力基準項目より高いp<0.001
フィードバックを受け入れる能力基準項目より高い方向p=0.024
障がいの自己理解・自己受容基準項目
自己開示する能力基準項目より低い方向p=0.035
表4 本人側8要素の重視度(基準項目との比較)
注:混合効果順序ロジスティック回帰分析により、「障がいの自己理解・自己受容」を基準として各項目を比較しました。

上位に選ばれたのは「主体性」「自己管理」「業務とのマッチング」

続いて、実際に上位3つとして選ばれた割合を見てみます。もっとも多かったのは「主体性・仕事への前向きな姿勢」で52.6%、次いで「自己管理ができる能力」が51.4%、「業務への適応・マッチングさせる能力」が43.3%でした。

この結果は、企業が本人に求めるものとして、抽象的な理想像よりも、仕事に向かう姿勢や、安定して働き続けるための実践的な力を重視していることを物語っています。

表5 上位3項目として選ばれた本人側の要素

順位項目上位3つに選ばれた割合
1位主体性・仕事への前向きな姿勢52.6%
2位自己管理ができる能力51.4%
3位業務への適応・マッチングさせる能力43.3%
表5 上位3項目として選ばれた本人側の要素
注:各項目が「上位3つ」に選択された割合を示しています。項目間の相対的な選ばれやすさは、企業ごとの回答傾向を考慮したランク順序ロジットモデルにより検討しました。

「主体性」と聞くと、積極的に発言する、周囲を引っ張る、といったイメージを思い浮かべるかもしれません。けれど、ここでいう主体性はそれだけではありません。わからないことを学ぼうとする、任された仕事に誠実に取り組む、自分なりに工夫してみる、少しずつできることを増やそうとする。そうした姿勢も含みます。

「自己管理」は、精神障がい者雇用で安定して働くための土台です。生活リズムを整える、不調のサインに気づく、服薬や通院を続ける、疲れすぎる前に休む、必要なときに職場へ相談する。こうした実践的な力を指します。企業は、単に「能力がある人」ではなく、自分の状態とうまく付き合いながら働き続けられる人を重視しているといえそうです。

また、「業務への適応・マッチング」と「周囲に相談する能力」がほぼ同じくらい重視されたことも見逃せません。精神障がい者雇用では、本人が一方的に職場に合わせればよいわけではありません。本人の特性と仕事の内容が合っていること、困ったときに早めに相談できること、そして職場の側も調整できること。これらがそろって、安定して働ける条件になります。

自己開示で重要なのは、診断名ではなく「働くために必要な情報」

今回の結果で興味深いのは、「自己開示する能力」が最上位ではなかった点です。これは、自己開示が要らないという意味ではありません。ただ、企業が求めているのは、診断名や症状を詳しく説明することそのものではなく、仕事を続けるうえで必要な情報を共有できることだと考えられます。

たとえば、「うつ病で体調に波があります」とだけ伝えられても、職場はどう対応すればよいか分かりにくいものです。一方、「精神的な不調があり集中力が落ちやすいです。仕事が増える時期は、優先順位を確認できると安定します」と伝えられれば、職場は具体的な配慮や業務の調整を考えやすくなります。

つまり大切なのは、「病名を話すこと」ではなく、「どんな条件なら安定して働きやすいか」を職場と共有することです。これは、本人の自己理解と職場側の調整をつなぐ、大事な力といえます。

雇用経験のない企業ほど、本人側の能力要件を高く見積もる可能性

さらに、精神障がい者雇用の経験がある企業とない企業とで、本人側の要素に対する評価に違いがあるかを分析しました。すると、経験のある企業のほうが、いくつかの本人要素を「より重視する」と答える傾向が、経験のない企業より統計的に低い、という結果が出ました。言いかえれば、経験のない企業のほうが、本人に求めるハードルをやや高く見積もりがちだった、ということです。

具体的には、「障がいの自己理解・自己受容」「自己管理」「周囲に相談する能力」「業務への適応・マッチング」「フィードバックを受け入れる能力」「コミュニケーション能力」の6項目で、経験のあり・なしのあいだに統計的な差が見られました。これは、経験のある企業が本人要素を軽く見ているということではありません。むしろ、雇用を重ねるなかで、本人に求める力にはおのずと幅があり、職場側の工夫で補える部分もあると理解しているからではないか、と考えられます。

表6 精神障がい者雇用経験の有無による本人要素の違い

注:オッズ比は、精神障がい者雇用の経験がない企業を1としたとき、経験のある企業がその項目をより重視すると回答する相対的なしやすさを示しています。1未満は、経験のある企業のほうが「より重視する」と回答しにくい傾向を示します。

項目雇用経験あり企業のオッズ比(経験なし=1)
障がいの自己理解・自己受容0.73
自己管理ができる能力0.72
周囲に相談する能力0.70
業務への適応・マッチングさせる能力0.71
フィードバックを受け入れる能力0.65
コミュニケーション能力0.64
表6 精神障がい者雇用経験の有無による本人要素の違い

実際、雇用経験のある企業は、精神障がいのある方の就労継続が本人の能力だけで決まるわけではないことを、経験から知っているのかもしれません。たとえば相談する力は大切ですが、相談しやすい雰囲気がなければ発揮されません。

フィードバックを受け入れる力も、伝え方やタイミングを工夫すれば、本人の受け止めやすさは変わります。コミュニケーション能力も、本人だけの固定的な力と見るのではなく、指示を明確にしたり相談経路を整えたりすることで支えられます。

現場で見られた好事例(インタビューの結果から)
精神障がい者雇用に積極的な企業へのヒアリングから、以下のような好事例が得られました。
◎自分の体調が崩れやすい条件を理解し、主治医と相談しながら自己対処を続けたことで、職場との(相互)理解が深まった。
◎対人面で誤解されやすい特性について、自分から「そっけなく見えても、怒っているわけではない」と説明し、周囲との関係が安定した。

これらは、単なる自己開示ではなく、自分の特性を理解し、職場と調整する力として捉えることができます。

さいごに~本人の力と職場の仕組みを組み合わせて考えることが重要

今回の結果から、精神障がい者雇用では本人の自己管理や主体性が重要であることが分かりました。とはいえ、それを本人だけの責任にするのは適切ではありません。自己管理は、無理のない業務量や、早めに相談できる関係があってこそ働きます。相談する力も、相談して不利益を被らない職場であってはじめて発揮されます。

精神障がい者雇用を進めるうえで大切なのは、「とてもよくできる人」を探すことだけではありません。本人が自分の状態を理解し、必要なときに相談でき、職場の側も業務とのマッチングや支援体制を整えていくことです。企業が本当に見ているのは、高い能力そのものではなく、一緒に働き続けられる条件を整えられるかどうかなのです。

精神障がいのある方が職場で活躍するには、本人の努力と職場の工夫を切り離さずに考える必要があります。本人の自己管理や主体性、相談する力を支えながら、職場側が仕事の設計や相談体制を整えていく。それが、これからの精神障がい者雇用に求められる視点です。なお、本稿では本人側の要素に注目しましたが、同じ調査では職場側の要素についても尋ねています。職場側に求められる要素は、次のコラムであらためて取り上げます。


【参考資料】
厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」
本研究:企業1,000社を対象とした精神障がい者雇用における「活躍できる人材」に関する質問紙調査

栗田 卓也
登場人物
キャリアリサーチLab所長
TAKUYA KURITA
東郷 こずえ
担当者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

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