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障がい者が活躍する環境づくりと事例を紹介!障がい者雇用の現状と問題点を読み解く

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

障がい者雇用の現状

障がい者雇用はこれからの2年で大きく変動しようとしている。定期的に見直しがある法定雇用率をみると、約10年で0.5%上昇したが、2024年4月には民間企業は現在の2.3%から2.5%となる。さらに2026年7月には2.7%へ引き上げられることが決まっている。

また、2018年に障害者雇用促進法が改正され、精神障がい者も障がい者雇用の義務の対象になった。これにより障がい者雇用は加速しているが、障がい者の受け入れにいまだ難色を示す企業もあると聞いている。

本コラムでは障がい者が活躍する環境づくりについて、マイナビパートナーズの取り組みを通じて紹介する。マイナビパートナーズではグループ会社のマイナビからの請負業務として、事務・軽作業やデータ入力、データ集計、デザイン、ライティング、RPA構築などのさまざまな業務を幅広く受けており、その他にも、障がい者に特化した人材紹介事業も手掛けている。

その中で、筆者は主にライティング業務を中心に請け負っており、チームの責任者として、メンバーの定着・育成、ライティング業務の獲得・拡大をミッションとして携わっている。

障がい者雇用で直面する問題点と障壁

障がい者雇用で直面する問題は、企業側・障がい者側、双方に「知らない」「理解が及んでいない」ということが原因であることが多い。

企業側は「どんな仕事を任せて良いかわからない」「短期間で離職してしまうかもしれない」「配属する現場の理解が得られない」「どこまで環境整備をしたら良いかわからない」という意見がある一方、障がい者側は「サポートがあれば何ができるのか」「どんな配慮が必要なのか」を説明するために必要な「自身の障がい理解」と「自己対処力」を身につけ、さらに伝える力が不足しているのだ。

この問題はお互いを知ることから始める以外に解決策は見当たらない。まずは双方のバリアを取り除いていかないとインクルーシブな社会など程遠い。

障がい者雇用で直面する問題点と障壁

マイナビパートナーズの事例紹介

ここでマイナビパートナーズの取り組みについて紹介したい。マイナビパートナーズに在籍している障がい者の約7割が精神・発達障がいであるため、見た目ではわかりづらく、特性も個人差があり、得手不得手や必要なサポートもさまざまである。

障がい者同士の相互理解を深める「自己紹介会」

そこで我々は環境面の取り組みとして、障がい者同士の相互理解をする場の定例化や障がいの自己対処を促す機会を習慣化している。

具体的にはチームに新入社員が入社した際には、「自己紹介会」を開催する。そこでは、新入社員はもちろん、既存社員も自身の障がいについて、「〇○という特性があり、●●が苦手だから、こういう配慮をしてもらっている」ということをチーム内で共有をしあっている。

自己紹介会の本質は、相手と自分では違う特性があるということを理解しあい、相互サポートする意識を高めることにある。そして、それぞれの特性に関係なく、チームの成果を上げるためにベクトルを合わせることである。

自己対処を促す「リカバリータイム」

また、自己対処を促す機会の一つである「リカバリータイム」という制度を導入している。リカバリータイムとは、どんな人間でも集中力の持続というのは難しいため、就業時間の中でもメリハリをつけることで、業務効率を上げようとする取り組みである。

勤務時間内に計30分(各10分×3回)の時間(この時間のことをリカバリータイムと呼んでいる)を集中力や体力などの回復対処に充てている。これは休憩時間ではなく、過集中になりやすい社員にとっては一区切りの時間として取り入れたり、PCばかり見ていると眼精疲労等が出やすい社員もいるため、PCやスマートフォンの画面から離れて、体操をしたり、軽いウォーキングをしたりして、リフレッシュし次の業務への「充電」を行っている。

インプットの機会をつくる「セルフケア講座」

さらに社員が本来の力を発揮し、良い状態を保ち、自分の状態を適切に把握するためのインプットの機会を「セルフケア講座」と呼んでいる。これは、入社後、全社員に対し11講座の受講を義務づけており、社員のパフォーマンス向上やセルフケア講座内で使っている言葉を共通言語化できるなど、指導育成時にも役立っている。

「自己紹介会」も「リカバリータイム」も「セルフケア講座」も、障がいのある社員が安定して勤務できるための取り組みであり、個人のパフォーマンスを維持するための時間だと位置づけている。実際にリカバリータイムに取り組んでいるメンバーに話を聞くと、「過集中にならずに一旦リセットできるので、1日の疲れ方が変わった」という声も上がっている。

成果を出せる環境整備

マイナビパートナーズでは、グループ会社であるマイナビから各種業務を依頼されており、健常者社員と同等の成果を出せていると思っている。その業績を出すために、いくつかの施策を行っている。

マニュアルの整備と拡充

一つ目は、マニュアルの整備と拡充である。作業手順がしっかりしていれば、業務を行っている中で、作業のどこで躓いているのかを自身で気がつくことができるのだ。副産物としてマニュアルの整備は業務の棚卸しにもなり、不要な作業工程や追加で必要な項目の洗い出しにも役立っており生産性向上にも寄与している。

業務のアサインとレクチャーの方法

もう一つは、業務のアサインとレクチャーの方法である。健常者でも同じことが言えるのだが、業務の全体を事細かに伝えた方が理解の早い人もいれば、業務の中で都度相談しながら進める方が良い人もいる。障がい者社員であれば尚更、特性に合った仕事のアサインが必要であり、方法を誤ると逆に業務の生産性が向上しないこともあるのだ。

現在、マイナビグループからの依頼は1年間で延べ10,000案件を超えた。多種多様な業務を請け負い、特性に合わせてアサインをする。障がい者雇用の中で、どのような業務を切り出させるか悩んでいる企業にとっては、まずはマニュアル化できる業務があるかをしっかりと見つめなおしてみるのも一つの手段である。

周囲のスタッフの重要性と育成方法

マイナビパートナーズは障がい者社員(メンバー)の他にマネジメントスタッフという組織の運営管理を担うスタッフがいる。ミッションは業務拡大をし、売り上げ拡大をしていくこと。そのためにメンバーが安定勤務できる環境を整え、業務拡大や生産性を向上させていくのだ。

会社への貢献

マネジメントスタッフはメンバーと目標設定を行い、3ヶ月ごとに進捗確認を行う。中には、なかなかパフォーマンスが上がらない者もいるのも事実だが、マイナビパートナーズでは『配慮はするが遠慮はしない』という方針のもとに、『できなくても大丈夫』ではなく、『できるようになるにはどうすればいいのか』を一緒にしっかりと考える。

マネジメントスタッフはメンバーと伴走する役割を担っていると言える。会社員として所属している以上、会社への貢献をしてもらわなければいけないのは、障がい者、健常者に差はない。面接などを行っていると、この方針に共感して入社を希望している障がい者の方も少なくない。だからこそ障がいの特性に関することは配慮するが、それ以外は一般の社員と同じように接する。

健常者と同じマネジメントを心がける

たとえばADHDの社員で、口頭での指示が苦手という特性があるとすると、その社員への指示はなるべくテキストを用い、チャットなどで行う以外は、指示の内容の難易度や業務の締め切りなどは健常者と一緒で特別扱いはしないという対応をする。

しかしながら私自身もメンバーを部下に持つ一管理職として、「配慮はするが遠慮はしない」が体現できているかと言うと、特に私がマイナビパートナーズに赴任したばかりの頃は、心のどこかで「遠慮」をしていた。

「この業務をやらせたら、パンクするのではないか」「指摘したら、萎縮するのではないか」と考え、メンバーへの対応で尻込みをしていたのだ。結果として本人たちの業務レベルはなかなか上がらず、さらにはメンバーからも仕事を任されないことへのフラストレーションが溜まっているのを感じていた。

フラストレーションを耳にしたときに、彼らに遠慮していて、私が彼らに頼りきっていないと痛感し、それ以降は特性以外の部分は健常者と同じようなマネジメントを心掛けた。特に現在はマイナビの求人媒体の原稿作成業務に携わることが多く、その業務量や業務スピードがマイナビ本体の制作担当と比べると差があるのが課題となっている。

「メンバーがやっているから仕方ない」ではなく、「その差を埋めるにはどうすればいいか」を1人ひとりが向き合っている。あるメンバーには原稿制作の各工程を棚卸しさせ、どの工程にどれだけ時間がかかっているかを可視化させて、「君の課題はこの工程だね?」という確認作業を行い、その工程を徹底して短縮する対策を考え、結果として業務全体の短縮化に成功した。

安心して働き続けることができる職場づくり

障がい者雇用で一番重要なのは、障がい者自身が安心して働き続けられるかどうかである。それは障がい者がやりがいを持てる仕事を任せ、その仕事の本質や意義を伝えられることだと思う。

私はよく石切職人の話をすることがある。「あなたは何の仕事をしているのか?」と問われたら、「ただ石を切っている仕事」と捉えるのか?「大聖堂をつくっている」と理解して仕事をするのか?捉え方次第で、仕事のやりがいも変わってくる。仕事の本質や意義を伝えることでやりがいを持ち、長く安心して働けるのではないかと思う。

また、心理的安全性を担保した環境づくりにも気をつけている。誰でも仕事でミスや失敗をすることもある。怒られたり、落ち込んだりすることもあるが、必ず次の機会(チャンス)を用意している。萎縮した組織では期待以上の成長は望めない。『またチャレンジしたい』という意欲を喚起できるかが重要であると思う。

さらに相談などの窓口を充実させることも大切だ。仕事のことをいろいろと相談したいのに、誰に相談したらいいかで悩んでいること自体でストレスを抱える人もいるだろう。そのような状況をつくらないように相談窓口を明確にして、上司などが相談しやすい環境づくりをすることで、安心して働ける職場につながるのではないかと思う。

まとめ

本コラムでは、障がい者が活躍する環境づくりや雇用する際の重要なポイントをマイナビパートナーズの実例を用いて紹介した。基本的には企業側の視点でお伝えしているが、企業側視点だけでなく、求職者側の就労準備や業務習得へのチャレンジ精神も必要であることを理解してほしい。

その中でも私が重要だと考えるのは、『障がいがある人が働きやすい環境は、誰にとっても働きやすい環境である』ということである。マイナビパートナーズで取り組んでいる『自己紹介会による相互理解』や作業効率を高める『リカバリータイム』も障がいの有無にかかわらず、働きやすい環境を作り出していると私自身が実感している。

『マニュアルの拡充』も『相談窓口の明確化』も、障がい者だから必要なのではなく、誰にとっても助かるものとなっているのだ。とは言え、我々もまだ道半ば。自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気づき、『誰もが働きやすい職場』とはどういうことだろうというのを探求し続けた先にインクルーシブな組織ができると確信している。


著者紹介
高坂 裕輔(こうさか ゆうすけ)
株式会社マイナビパートナーズ パートナー雇用統括部 東京クリエイティブ2課

2007年に株式会社マイナビに新卒で入社。就職情報事業本部に営業として配属。2011年4月にアルバイト情報事業本部に異動。営業、制作などを経験。2015年岩手支社、2016年には青森支社の立ち上げにも携わった。2017年以降、関東エリアでの制作マネージャーも経験し、両親が特別支援学校の教員ということもあり、障がい者のサポートに携わりたいと思い、2022年4月にマイナビパートナーズに出向。以降、現在障がい者の社員のマネジメント業務、特にライティングに特化したチームの責任者として業務を行っている。

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