雇用の「その先」をどう支えるか-障がい者のキャリアデザインを広げる再設計【後編】

穂刈顕一
著者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

前編では、視覚障がい者のキャリア形成が個人の能力や努力の問題ではなく、制度設計や仕事の与え方によって選択肢が狭められてきた可能性を整理した。では、雇用後のキャリアを広げていくためには、どのような支援や仕組みが必要なのだろうか。

本コラムでは、著者の研究活動で実施した文献研究の内容から日本の研究知見に加え、海外の障害者雇用・職業リハビリテーション・キャリア形成に関する内容を参照しながら、マッチングとキャリア形成支援の「次の段階」を考える。

なお、各種文献での調査内容は、研究執筆時の内容であるため現在の状況とは一部異なる可能性があることに留意が必要である 。

著者の掲載された研究論文
Career Support for Persons with Visual Impairment:
A literature review on the issues related to the employment of persons with disabilities in Japan
https://ijhss.thebrpi.org/journals/Vol_13_No_5_October_2023/2.pdf

就職はゴールではなく、スタートである

国内外に共通する「雇用後支援の空白」

日本での障がい者雇用後のキャリア形成において、指田ら(2018)での調査によれば、視覚障がい者の就労支援について、支援が「どの仕事に就いたか」で止まり、就職後の業務適合やキャリア形成を十分に想定していない課題を報告されている。

しかし、この課題は日本特有のものではない。国際的にも、障がい者の雇用の「量」だけでなく「業務に対して特性を最大化させるマッチングの質」 や「持続性」への関心が高まっているのが現状である。

たとえば、国際労働機関(ILO,2024) は、障がい者が就業しても、「低賃金」「キャリア上の昇進機会の乏しさ」「非正規・自営業への偏在」が生じやすいことを報告しており、これらは個人属性でのキャリア形成だけでは説明しきれない。

仕事設計や職場環境、配慮の不足が主因であると今後の課題としている。就職はゴールではなく、キャリア形成の出発点であるという視点は、国内外の研究に共通した前提となりつつあるだろう。

スキルマッチング は「合理的配慮の前提条件」

日本の研究では、合理的配慮がうまく機能しない背景として、業務内容や期待役割が曖昧なまま雇用が進む構造が繰り返し指摘されている。

前編での記事でも述べているが、指田ら(2019)での視覚障がい者の就労状況の調査によれば、採用時に「配慮は不要」とされたケースの多くにおいて、実際の業務開始後に支援ニーズが顕在化していることが明らかにされた。

同様の課題は、米国でも検討されている。Schartz et al.(2006) やCrown et al.(2025)の調査では、合理的配慮の効果は高い一方で、配慮は「ジョブが定義されていること」が前提であり、役割が不明確な職場では効果を発揮しにくいことが示されている。

また、米国ADA(Americans with Disabilities Act)に基づく研究の蓄積からは、「多くの配慮は低コストまたは無償」「配慮がある場合、職業定着率が有意に高まる」ことも実証の報告としてされている。

これは、合理的配慮が「特別な対応」ではなく、効果的なジョブマッチング の一部として機能していることを示している。ただし、インクルージョンなどの米国と日本の文化での違いもここに影響しているため、単純な比較はできないので注意が必要であると文献研究を整理していく中で明らかにされた。

著者の文献研究の内容からの考察~キャリア自律を支えるという国際的潮流~

障がい者のキャリア形成に関する文献レビューを通じて、障がいの有無によってキャリア形成プロセスが大きく異なるわけではないことは、前編の内容からも整理されている。一方、キャリア自律を発揮できる環境条件の有無が決定的に重要であることも整理された。

この点は海外研究とも整合的である。Strauser(2014)は、障がい 者のキャリア形成において、職業的自己概念「ワークロールの明確化」「成長や移行を前提とした支援」が不可欠であるとし、「固定された適職」ではなく、発達プロセスとしてのキャリア支援が重要であると報告されている。

さらに、Brehmer et al.(2023)は、障 がいのある人のキャリア発達には、健康機能・環境・業務設計が相互に影響するため、単線的な職務設計ではなく、多次元的な支援が必要であると整理されている。

キャリア自律とは、個人への自己責任の押し付けや周囲からの支援を受けないということではなく、主体性を発揮できるような制度・対話・評価を設計することを意味する概念である。

この考え方は、障がい者のキャリア形成において特に重要な要因であり、国際的にも共通認識となりつつあるのではないだろうか。

働き方と仕事設計を再構築するという視点

日本においても、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響を受け、テレワークが急速に普及した。その結果、通勤に伴う負担が軽減され、働く場所や時間についての柔軟性は以前よりも高まっている。しかし重要なのは、場所の柔軟性そのものではなく、仕事の設計をどのように変えるかという点である。

単に「どこで働くか」を変えるだけでは、キャリアの幅が広がるとは限らない。障がい者雇用において鍵となるのは、「人を仕事に合わせる」のではなく、「仕事を人に合わせて設計する」という発想である。

これは、業務内容を一度分解した上で再編成し、個々の強みや専門性に応じて役割を柔軟に組み替えるアプローチである。具体的には、「ワークシェアリング」「業務の切り出し」「専門性ベースによる役割設計」といった考え方が、制度設計や実務のキーワードとなる。

こうした仕事設計の見直しは、障がい者の働きやすさを高めるだけでなく、組織全体にとっても、マネジメントの持続可能で多様な働き方を実現する基盤となり得る。

職業リハビリテーションに求められる目指す姿と役割

指田ら(2018)は、視覚障がい者のキャリア形成における阻害要因として「専門性スキルを高める機会の不足」「雇用後支援の断絶」「 医療・教育・企業・福祉の分断」を整理している。

これに対し、ドイツや北欧諸国の職業リハビリテーション研究では、「 就職前後を一体で支える継続的関与」が重視されている。今後、日本の職業リハビリテーションに求められるのは、「スキルマッチングの再設計への関与」「キャリアデザインを見据えた伴走」「当事者と企業の対話を促進する調整役」としての機能である。

障がい者のキャリアデザインを考えることは、特定の人のための特別な議論ではない。誰もが人生の中で役割を変えながら働き続けられる社会を、どう設計するのかその本質的な問いに向き合うことでもあるだろう。


【参考文献】
指田忠司,石黒秀仁,杉田史子(2018)
『視覚障害者の職業アクセスの改善に向けた諸課題に関する研究』
障害者職業総合センター調査研究報告書 No.138
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/p8ocur0000000ns5-att/houkoku138.pdf

指田忠司,伊藤丈人,野中由彦(2019)
『視覚障害者の雇用等の実状及びモデル事例の把握に関する調査研究』
障害者職業総合センター調査研究報告書 No.149
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/p8ocur0000000n4j-att/houkoku149.pdf

Ananian, S., & Dellaferrera, G. (2024).
A study on the employment and wage outcomes of people with disabilities*.
International Labour Organization (ILO).
https://www.ilo.org/publications/study-employment-and-wage-outcomes-people-disabilities

Schartz, H. A., Hendricks, D. J., & Blanck, P. (2006).
Workplace accommodations: Evidence based outcomes.
Work, 27*(4), 345–354.
https://worksupport.com/research/documents/pdf/WorkplaceaccommodationsEvidencebasedoutcomes.pdf

Crown, D. S., Dinelli, E. J., Kudla, A., et al. (2025).
Job accommodations for people with physical disabilities:
Findings of a United States national survey.
Journal of Occupational Rehabilitation*.
https://link.springer.com/article/10.1007/s10926-025-10314-2

Strauser, D. R. (Ed.). (2014).
Career development, employment, and disability in rehabilitation: From theory to practice*.
Springer Publishing Company.

Bredgaard, T. (2025).
Inclusive job design. In E. Breit et al. (Eds.),
Shaping inclusive workplaces for persons with disabilities* (pp. 85–95).
Palgrave Macmillan.
https://vbn.aau.dk/files/798859073/Chapter_7_Inclusive_Job_Design.pdf

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