近年、さまざまな企業が社会活動や地域活動への取り組みを行っていたり、そういった取り組みに個人で参加したりする人も増えています。そのような中で、「社会活動や地域活動に参加することで参加した個人にどのような効果があるのか」「参加した人の仕事に与える影響とは?」といった視点から事例を紹介する本企画。
第1回では、地域活動を越境学習の視点から大正大学の中島先生にお話を伺いました。第2回の今回は、ネイチャーポジティブの実現と人材育成を組み合わせた取り組みを行うみずほリース株式会社にお話を伺います。
「ネイチャーポジティブ(自然再興)」とは、人間活動による生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる概念です。2021年のG7サミットやCOP15を経て、気候変動と並び、重要性が急速に高まっているテーマとなっています。企業にもTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示などの具体的な対応が求められる中、みずほリース株式会社は、「森づくり×金融」という新たなソリューションでこの課題に挑んでいます。
同社は2025年2月28日、株式会社グリーンエルムとネイチャーポジティブの実現に向けた協業の基本合意を締結し、千葉県市原市で本格的な森づくりを開始しました。同年10月、その取り組みのひとつとして新規事業開発を担うイノベーション共創部と、人材育成を担う人事部が連携し、研修という形で植樹を通した学びの機会が設けられました。今回は同プロジェクトを主導する鈴木さんと人事部の坂根さん、実際に参加した新入社員のお二人にお話を伺いました。
■人事部 副部長 坂根隆(写真左)
1998年にみずほリースに入社し、営業(大企業法人他)、営業推進、グループ会社(オートリース)、人事などを経験。2024年には、2度目の人事部配属となり、副部長として、人事企画(制度関連)、人財開発、人財採用を担当。「挑戦・変革・成長」をキーワードに人事プラットフォーム(制度)改革、次世代人財の育成を実施。社員が主体的に動き出す仕組み作りによる、経営基盤強化とカルチャー変革を推進中。
■イノベーション共創部 次長 鈴木辰弥(写真右)
2006年にみずほリース入社し、営業、経営企画・広報IRなどを経験。2021年にはみずほ銀行アジア・オセアニア統括部門(シンガポール)に出向し、同地域における銀行とリースの連携推進業務に従事。2023年に帰国後、発足2年目の新規事業開発部署のチームリーダーとして赴任し、事業開発や企業風土改革を主導している。さまざまな課題を、リース会社ならではの視点で解決に導くビジネスの構築を目指す。
■環境エネルギー営業部※1 新人 大田太朗(写真中央左)
※1:再生可能エネルギー由来の電力/エネルギーを供給するためのインフラを構築し、循環型社会や低炭素社会といった環境課題へのソリューションを提供しています。
■コーポレート営業第二部※2 新人 前田凜々子(写真中央右)
※2:電気機械・自動車系の大企業及びそのグループ企業のお客様をメインに、あらゆる社会的課題・事業課題に対し、「お客様の事業戦略パートナー」として、多様なソリューションを提供しています。
林業の課題解決へ。自ら挑む「本物の森づくり」
質問:貴社が森づくりや植樹(ネイチャーポジティブ)の取り組みを始めたきっかけや課題感について教えてください。
鈴木:私が所属するイノベーション共創部は新規事業開発に取り組む部署です。これまでに、廃棄を出さずに資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」というテーマの中で、たとえばパソコンのリユース・リサイクル事業など、製品を貸し出すだけでなく、役目を終えたものを適正に処分・再利用するところまで手がけるビジネスなどを創出してきました。
今回の取り組みは、チームのメンバーが「日本の林業には、まだ再生のポテンシャルがあるのではないか」と発案したのがきっかけです。深掘りしていくと、林業の衰退によって森林が放置され、災害などの問題を引き起こしている現状が見えてきました。この現状を変える流れの中で、「ネイチャーポジティブ」というキーワードに出会い、今後、日本企業にとっても、この経営視点が非常に重要になってくるのではないかと感じました。
そこで、我々リース会社の機能を生かして、お客様のネイチャーポジティブ経営にお役に立てないかと考え、「自然資本」をワンストップで提供するサービスを構想しました。世の中には森づくりをうたう団体はたくさんありますが、我々が出会った株式会社グリーンエルムは、20年以上にわたって日本の森林再生を手がけてきた企業で、現代表の西野代表は、「これまでのような数値の取引ではなく、真に自然環境に貢献する取り組みが重要であり、そのためには本物の天然林づくりが必要」という考えをお持ちでした。
ただ、自分たちでやったことがないものをお客様に提供するわけにはいきません。そこで机上の空論ではなく、まずは自分たちで実際に森林を借りてやってみようと決めたわけです。その実践の過程で、せっかくなら従業員にも体験してもらおうと人事に相談して、研修のプログラムとして展開することになりました。
「環境・育成・広報」現地現物で学ぶビジネスの種
質問:今回の取り組みを通して実現したかったことについて教えてください。
鈴木:今回の取り組みには、大きく三つの狙いがありました。一つ目は「環境」。ネイチャーポジティブという概念を机上で知るだけでなく、実際に現地に行って肌で感じること。二つ目は「人材育成」。チームビルディングなどの観点ですね。そして三つ目が「ブランディング」です。当社のこの取り組みが社外に発信されることで、企業イメージの向上につながればいいなと考えていました。
坂根:実は当初、研修として取り組む予定にはありませんでした。鈴木から、「新入社員の育成やブランディングの観点も踏まえて、研修として実現できないか?」と相談を受けたのがきっかけで、急遽カリキュラムに入れ込みました。
当社の企業文化でもあるのですが、決まりきったことだけでなく、良いと思ったことは柔軟に取り入れる。「まずやってみる」というトライ&エラーの行動様式を大切にしているので、鈴木の提案を受け入れて実施しました。「ネイチャーポジティブ」はこれからの時代、非常に重要なテーマですし、何より新人のうちに知見を広めておいてほしいという狙いがありました。
当社のビジネスは国内リース事業と不動産事業をコア分野とし、その他環境エネルギー事業やグローバル事業など様々な分野への事業展開をしておりますが、鈴木が所属するイノベーション共創部は、既存の枠組みにとらわれず「無」からビジネスを生み出す、まさに最先端の部署です。新入社員には、鈴木たちがやっている仕事を「特別な人の特別な仕事」だと思わずに、発想の柔軟性や情報収集力など、自分たちの普段の仕事に通じる要素として捉えてほしかったのです。
何よりモノを扱う当社の社員においては「現場現物現実」を見ることが、かなり重要な要素だと思っています。みんな頭の回転も速いし、教えられたことをすぐに吸収して実践に生かす力もある。しかし、情報を分析してパソコン上で案件を仕上げていくような仕事が多くなると、どうしても「現場感」や「体験」が希薄になっていきます。だからこそ、実際に土を触るところからビジネスが生まれる可能性があるということを、実体験として知ってほしかったのです。
また、チームビルディングの面でも意義があります。個々の能力も大事ですが、組織力・チーム力を上げないと大きなビジネスは実現できません。今回、新入社員全員が同じ作業を、同じ目的を持ってやることで、一体感や協力し合うことの大切さを改めて感じてもらいたかったのです。
“ビジネス”に変える視点と、キャリアの多様性に触れる機会の創出
坂根:もう一つ、環境への取り組みをボランティアで終わらせるのではなく、ビジネスとしてどうつなげていくかという視点を持ってほしいと考えていました。ビジネスとして取り組むことで、持続可能な事業として発展していくとともにネイチャーポジティブも広がっていく。そういった「持続可能性」の観点にも触れてほしいと思っていました。
そして個人的には、グリーンエルムの西野代表という「本物」と触れ合う機会を大事にしたかった。彼はグローバルに数多くの現場を見てこられた方です。単なる森林保護だけでなく、歴史的背景や日本の現状も踏まえてきめ細かく指導してくださいます。そういった経験に裏打ちされた「本物」の人に接することは貴重な経験ですから。
加えて、私が昔からよく知っている鈴木の仕事ぶりやキャリアプランも感じてほしいと思っていました。鈴木は、フロント営業から経営企画、海外駐在、新規ビジネス開発など多岐にわたる部署で活躍している。全く違う畑の仕事に見えても、会社に関連する仕事として様々な部署があって、どんな人が何をやっているのか。普段は接触する機会があまりないので、そういったキャリアの多様性を見せる機会にもしたかったです。
泥だらけで得た団結と、未来への当事者意識
質問:大田さんや前田さんは実際に森づくり(植樹)に参加されたと思いますが、実際に参加してみて、どのように感じましたか?
大田:「同期の団結」を強く感じました。今でも同期と集まると「あのときのネイポジ(ネイチャーポジティブ研修)、良かったよね」と必ず話題に出ますし、共通言語になっている感覚があります。
西野代表の講義の中で、「戦後、後世のためにと植えたスギやヒノキが、管理が行き届かずに放置され、今の荒廃林の増加や、ひいては災害につながっている」というお話を伺いました。この話は、私が担当している太陽光発電事業にも通じるところがあるなと気付かされました。太陽光も国の後押しで普及しましたが、制度が終わった後に大量の設備をどう廃棄・リサイクルするかという社会課題が懸念されています。
まだ入社したばかりですぐに大きなことはできませんが、良かれと思って始めたことが、後々の人たちの負担にならないように考える必要があると感じました。アセットを管理する人間として、リサイクル費用や将来の連携を見据えた仕事をしなくてはいけないと、強く意識するようになりました。
前田:私は研修を通じて、「自然を作ることがビジネスになる」という発想に一番驚きました。これまでは漠然と「木がたくさんあれば環境にいい」くらいの認識でしたが、管理されないネガティブな森林は災害の原因にもなると知り、専門的な知見の重要性を痛感しました。企業がここに取り組むには、当社のような事業者のニーズが確実にあるんだなと実感できました。
また、これまで言葉としては知っていた「サステナブルな社会のクリエイター」という当社の理念を、具体的な取り組みとして実感できました。就活時や入社後も言葉としては理解していましたが、正直なところ、実感が湧いていませんでした。今回の研修で、会社が具体的な行動として取り組んでいることを肌で感じられ、「自分もこういう新しい事業を作って理念に沿った行動がしたい」と、仕事へのモチベーションが明確に上がりました。
運営側の予想を超えた「探究心」。自ら問い、決める経験
質問:鈴木さんは現地でお二人の姿を見ていたかと思いますが、鈴木さんからみてどのように感じましたか?
鈴木:正直なところ、僕が新入社員の立場だったら「泥だらけになって面倒だな」と思ったかもしれないですね。でも、当日の彼らを見ていると、すごく楽しそうで、こちらの予想を超える手応えがありました。特に印象的だったのが、彼らの「探究心」です。
西野代表に、「この木は何ですか?」「将来どうなるんですか?」と自分からどんどん質問しているんです。「これは将来、割り箸になる木だよ」と言われて、「えっ、割り箸になっちゃうんですか……」と複雑な顔をしている社員もいましたが…。
僕らの世代とは違って、彼らは「自分が手に取ったこの苗木が、将来どうなっていくのか」というストーリーに関心を持っている。この世代ならではの未来に対する考え方の違いを感じましたし、うれしいポジティブなサプライズでした。
また、植樹って「どの木を、どこに、どう植えるか」という小さな意思決定の連続なのです。誰に指示されるわけでもなく、自分の責任で決めて、未来に物を残していく。普段の業務では味わえない「意思決定」のプロセスを体験できたことは、彼らにとって新鮮だったのではないかと思います。
社会とつながり、全社へ広げるイノベーションの種
質問:今回の研修を通して、今後貴社ではどのような取り組みを行う予定ですか?
鈴木:今回の取り組みを通じて、ビジネスとしての手応え、可能性を感じることができました。サービスの設計に当たり、これまでさまざまな企業様にお話をしてきましたが、現時点で否定的な反応はありませんでした。
たとえば、事業活動で大量の水を使われる企業様であれば、その流域で森づくりをすることで、水を蓄え、浄化する力が高まる。そういったストーリーを一緒に作りませんか、とご提案すると、非常に共感していただけます。単なる環境保護活動ではなく、企業活動とリンクした「実利のある貢献」として、確かなニーズがあると感じています。
坂根:当社は今、人事変革や働き方改革を推し進めています。基本的にはありとあらゆる層の人材が活躍できるプラットフォームを作っていこうと、従来型の制度や運用を少しずつ変えている最中です。
また、研修も今までのやり方だけではなく、今回の植樹のような実体験をもとにしたものや、多様な企業の方と触れ合える機会を増やしていきたいと考えています。マネジメント層になれば他業種の方との交流機会も増えますが、若い世代の社員にも他業種や異文化の方と交流する機会を増やしていきたいと思っています。
実は2024年度から、新人研修にサーキュラーエコノミー関連の工場見学を取り入れており、今年度はそれに加えてネイチャーポジティブに取り組みました。当社がファイナンス以外でどう社会とつながっているのか。そして、社内にはさまざまな部門があり、多種多様な人材が活躍していることについて、こうした研修を通じて理解を深めていければいいなと考えています。
鈴木が所属する部署は、社内でも先進的な取り組みを行っているため、名前は知っていても「実際に何をやっているのか」までは知られていなかったりします。こうした機会をもとに、「うちの会社はイノベーションを起こすべく、さまざまなチャレンジをしている」という事実をもっと浸透させていきたい。そして、特定の部署だけでなく、誰もがそれぞれの場所でイノベーションを起こしていくきっかけになればいいですね。教育・研修のプログラムを通じて、そんな仕掛けを今後も考えていきたいと思っています。