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データをもとにしたプログラムで次世代のリーダーを育成
【コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社】

矢部栞
著者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

厚生労働省は、従業員の自律的なキャリア形成支援について模範的な取り組みを行っている企業等を表彰する「グッドキャリア企業アワード」を実施しています。
シリーズ第4回は、「グッドキャリア企業アワード2022」でイノベーション賞を受賞したコカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社を取材。部門責任者、上司、キャリアコンサルタントが三位一体となって連携し、組織の変革を牽引する変革型リーダーの育成に取り組んだ「次世代リーダー育成プログラム」の内容と成果についてお話を聞きました。 

会社紹介

まずは、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社についてご紹介させていただきます。

会社名:コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社
設立:2019年
事業内容: 清涼飲料水、嗜好飲料、酒類および乳飲料類ならびに食品等の販売に関する事務処理、情報処理、電話対応の受託業務、飲料販売機材の管理

コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社 統合プログラムオーケストレーションサービス部 ケイパビリティ開発課 課長の石井裕美子さん

今回取材を受けてくださったのは、統合プログラムオーケストレーションサービス部 ケイパビリティ開発課 課長の石井裕美子さんです。

「次世代リーダー育成プログラム」で組織変革を実現するリーダー人財を育成 

——はじめにこれまでのご経歴と現在のお仕事内容についてお聞かせください。

いくつかの企業で、採用、人財開発、組織開発、HRBP(Human Resource Business Partner)のマネージャーを経験した後、2019年にコカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社に入社しました。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスは、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社の100%子会社のシェアードサービス(※1)会社です。コカ・コーラ ボトラーズジャパングループの間接業務を集約し、飲料、酒類、食品等の販売に関する事務処理、情報処理、電話対応の受託業務、飲料販売機材の管理などのサービスを提供しています。
※1:グループ企業内の総務・人事・経理といった間接部門を集約させること

私が所属するケイパビリティ開発課は、2019年に会社が設立されたタイミングで立ち上がった部署で、私自身は立ち上げメンバーとして参加しました。現在のスタッフは6名で、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスの社員、約2,500人のキャリア・能力開発をサポートしています。

——「グッドキャリア企業アワード2022」でイノベーション賞を受賞されました。取り組みを始めた背景についてお話ください。

地域と機能に分かれていた、12のボトラー社が経営統合を重ね、2018年にはコカ・コーライーストジャパンとコカ・コーラウエストの東西2大コカ・コーラボトラー、そのグループ会社が統合し「コカ・コーラ ボトラーズジャパン」が設立されました。コカ・コーラ ボトラーズジャパングループでは、企業理念「Paint it RED! 未来を塗りかえろ。」のもと、変革を推進しています。

このような背景のなかで、メンバーシップ型からジョブ型へと人事制度を統一する過程において、社員に求められる役割や成果が大きく変化しました。社員にとっては会社を転職したくらいのインパクトがあったほどだと思います。
社員は新しい組織に適応するためにスキルチェンジが求められ、特に、大きく変化しつつある組織を牽引する変革型リーダーの育成が急務となり、それを促進するための社員のキャリア開発が必要となったのです。

キャリア開発推進の取り組み/コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社ご提供
キャリア開発推進の取り組み/コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社ご提供

ケイパビリティ開発戦略の主要施策として変革的なリーダーの育成を位置付け、成長戦略の基盤として組織能力の向上に向けた取組を実施しています。具体的には、“変革的なリーダーの育成”を、個人の能力を伸ばし組織全体のパフォーマンスを向上させるためのケイパビリティ(※2)開発の一つとして位置づけ、部門責任者、上司、キャリアコンサルタントが三位一体となって連携し、組織戦略と一体となったキャリア形成支援を実施したことが評価され、今回の受賞に至りました。
※2:ケイパビリティ(capability)は、直訳的には「能力」「才能」の意味で、経営学用語としては、企業の競争力を高める組織的な能力のこと。

——具体的な取り組み内容について教えていただけますでしょうか。

主要施策の一つとして一般職選抜社員向けに「次世代リーダー育成プログラム」を導入しました。本プログラムでは、リーダーシップ開発とキャリア開発を連動させ、一人ひとりに合わせたキャリアパスプランや育成計画を立案し、社員が自律的に成長し変革の実現に向けて挑戦できるように支援しています。

具体的には、まず組織変革を実現するためのリーダーシップケイパビリティーズを定義し、それに即したリーダーシップ開発とキャリア開発プログラムを導入しました。これからの組織で求められる役割や能力を浸透させたうえでリーダーシップに必要なスキルと本人が現時点で保持しているスキルのギャップを可視化し、客観的なフィードバックを通じて社員の行動変容を支援します。
また、部門責任者、上司、キャリアコンサルタントが一体となって、プログラムの各施策を通じて社員の経験やスキル、キャリアプラン等の情報をデータベース化し、データを活用しながら部門の壁を越えた適材適所のキャリアの実現を支援していきます。

どうしてこのような形にしたかというと、社員のキャリアの可能性を広げるためです。部門責任者とキャリアコンサルタントが一緒に入ることによって、業務における成長課題だけではなく、個人のキャリアを入社時までさかのぼって深掘りし、強みを明確化することで社員の可能性を引き出せるように配慮しました。
社員一人ひとりがキャリアプランを考え、上司が支援するだけでなく、面談で得た情報を、部門責任者、上司、キャリアコンサルタントで共有して、社員一人ひとりに合わせたキャリア・育成プランを立案・実行し、部門の壁を越えた適材適所のキャリアの実現を支援しています。三位一体でキャリア支援に取組むことで上司の負担を減らすことも可能です。

——取り組みを進めるなかで、苦労したことがあれば教えてください。

社員のキャリア開発というと、そのことで組織にどんなプラスの効果がもたらされるのか、成果が見えづらい領域です。今回のプログラムは変革型リーダーを育成するための取り組みです。その目的を経営陣や部門責任者に理解していただくことが導入と継続の大事なポイントだったかと思います。

そして、組織全体で新組織を担う変革型リーダーの育成を推進出来る体制を構築するために、部門責任者や上司に積極的に意見を聞きに行きました。部門責任者や上司にとって業績目標の達成は大切ですが、部下のキャリア開発に関して課題を感じている方は決して少なくないので、個別にヒアリングをし、意見やアイデアをお伺いしながら一緒にプログラムを作り上げることを意識しました。

会社組織が大きく変化し日々仕事に追われているなか、“やらされ感”ではなくて、自ら学びに挑戦する状態をいかにつくるかというところも苦労した部分です。次世代リーダー育成プログラムは6月にスタートし翌年の4月に終了します。約10カ月、かなりの時間をかけて一人ひとりのキャリアとしっかり向き合う必要がありました。

——社員のみなさまに自主的に取り組んでもらうために工夫したことはありますか。

プログラムは最初にアセスメントを実施し、その後、研修を2回、面談を6回実施します。特に力を入れているのがフィードバックです。最初のアセスメントで現在の本人の立ち位置をデータ化し、自分が今、どのレベルにいるのかを確認してもらいます。

次にキャリアカウンセラーによるカウンセリングを実施し、自身の強みを語ってもらいます。このとき、自分の強みや得意分野がうまく語れない場合は、自分自身をじっくり振り返るきっかけにしていただきます。

その後は、自分自身を見つめなおしながらリーダーシップ開発研修やキャリア開発研修を実施し、最初に実施したアセスメントを参考にフィードバックを実施し、今後の成長課題を浮き彫りにしていきます。参加者同士で話し合う機会もあり、まったく違う部署の仲間から客観的なフィードバックをもらうことで、「自分が変化しないといけないな」という危機意識に気づいていただきます。

——キャリア自律度を数値化するなど、データに基づいた効果測定を行っているとのことですが、詳しく教えてください。

筑波大学の論文を参考にしてキャリア満足度につながる指標を5段階でスコア化しています。プログラム受講前とプログラム受講後を比較すると、次世代リーダー育成プログラム参加者のキャリア自律意識・行動の全スコアが向上し、キャリア満足度が向上したという結果が出ています。

キャリア開発の効果/コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社ご提供
キャリア開発の効果/コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社ご提供

そもそもキャリア満足につながるキャリア自律は、すごく曖昧なものだと思っていました。そのため、キャリア自律度の指標を定義し、4回のアンケート調査の数値をもとに上司とプログラム参加者で会話をしてもらえる状態をつくりました。数値化することで見える化し、共通言語で話すことを重視しました。データを参考にして対話してもらいますので、上司もどのような支援をすればいいのかが具体的になります。

プログラム参加者は、アンケート調査の結果を何度も確認するので、おのずと「キャリア自律するということはどういうことなのか?」というのを意識するようになります。どれだけ仕事をがんばっていても、「本当にこれがやりたいことなのか? このままでいいのだろうか?」と思っていると成長実感は得られません。しかし、面談を通じて「自分は何のためになぜこの会社にいるのか? 何が得意で、どんなふうに役立っているのか?」を理解してもらえれば、自己理解が深まりキャリアビジョンも明確になっていきます。

——取り組みのメリット、社員のみなさんの反応を教えてください。

次世代リーダー育成プログラムをスタートして4年。これまで約250名の方に受講していただきましたが、みなさんのキャリアに対する考え方とか、変化に対する考え方は大きく変わってきたなという実感があります。キャリアコンサルタントによる面談参加者の9割以上が「自分のやりたいことや得意分野が理解できた。キャリアビジョンが明確になった」と回答してくれました。

また、プログラム終了後1年以内に約3割の方がキャリア実現をされています。本人の希望を踏まえつつ、専門領域を超えてキャリアチェンジできる状態になったのは、大きな成果だと思います。それに、多くの方がプログラム終了後も継続的にスキルアップに励んでいます。

これは、50代のベテラン社員の例ですが、研修前は会社に対して不安や不満を抱えていたところ、研修後に「周囲に不満を持つのではなく、自分が変化することの必要性を実感した」と意識の変化がみられました。「自分のノウハウをいかに後の世代に引き継いでいくか、それは自分に与えられた使命だと気づいた」という言葉もたいへん印象的でした。

——今後の課題、取り組みの方向性についてお話しください。

4年間の取り組みを通して大きな手応えを感じているとはいえ、まだまだ課題はあります。一つは管理職への支援です。組織に対する信頼性をアップしたり社員同士の信頼関係を構築したりするには、管理職の役割が重要です。これからの管理職はティーチングだけでなく傾聴スキルやコーチング能力なども求められます。部下が主体的に行動できるような働きかけができるように、管理職へのサポートにも注力していきたいと思います。

また、次世代リーダー育成プログラムを受講することで、意識や行動が変わった社員のキャリア実現をいかに迅速に支援していくかも今後の課題だと感じています。特に20代、30代には若い世代のキャリア観に合わせてできるだけスピーディなキャリア実現を支援することが今後のチャレンジかなと思います。

経営者からは全社員に「You are the Captain」というメッセージが送られています。「あなたが人生のキャプテンですよ。キャリアの主役ですよ」ということですね。変化を恐れず自分でキャリアを切りひらくためには、今いる場所に閉じていないで積極的にまわりの人に働きかけ、外の人たちとのネットワークをつくり今の仕事に生かしていくことが大切ではないでしょうか。会社のなかでのキャリアというよりは、人生全体のなかで社員が“Will”を見つけ、人生の目的と仕事の目的を結び合わせてパフォーマンスを発揮してもらえるようなキャリア支援をしていきたいなと考えています。

——社員のキャリア自律に関する取り組みを始めたいと考えている企業に向けて、アドバイスがあれば教えてください。

大切なのは、小さく始めて実績をつくることかなと思います。会社のなかで、「社員のキャリア開発に取り組みます。キャリアコンサルティングを実施します」と言うと、「何それ? 何のために?」といった反発や抵抗に遭うかもしれません。その壁を乗り越えていくには、まずは小さくトライしてみて、効果や良さを経営陣に実感していただく必要があると思います。その実績をもとに、協力者を募りながら会社全体に展開していくといいと思います。

また、キャリア自律というのは、なかなか成果が見えづらく、成果を上げるにも時間がかかります。もちろんコストもかかりますので、予算を取る必要もあります。そのためには、成果を可視化して経営層の理解を得ることが不可欠です。成果が数字で見えるからこそ経営者も説得できるのだと思います。

私の場合は、学術的な証明をもとにプログラムの重要性や価値を社内に提示できたことがポイントでした。キャリア自律の意識行動が変わることによって、社員の満足度と組織への貢献意欲が高まるということが、研究論文で学術的に証明されているので、それに沿ったKPI(重要業績評価指標)を設定してプログラムづくりに取り組みました。小さな成功を積み重ねて、成果が実感できる証跡を提示すること⋯⋯、社員のキャリア自律を支援する取り組みを進めるには、やはり経営層の理解は不可欠ですね。


■プロフィール
石井 裕美子(いしい・ゆみこ)
コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社
統合プログラムオーケストレーションサービス部 ケイパビリティ開発課 課長
会社規模や業界を問わず採用、人財開発、組織開発、HRBPのマネージャーを経験。人事採用業務を通じて1,500人以上のキャリア面談や転職サポートに携わった後、社員のキャリアを一緒に考えるための「キャリア相談室」を新規開設し、室長に就任。2019年6月に現職に転職し、人財開発チーム立ち上げメンバーとして参画。組織変革を実現させるための教育プログラム・タレントマネジメントシステムを確立し、グッドキャリア企業アワード2022イノベーション賞を受賞。

編集後記:キャリアリサーチLab編集部 矢部 栞
大学での学びをもとにキャリア満足度の指標を数値化し、プログラムづくりをされた事例です。4年間の取り組みを通じて大きな手応えを実感されており、社内では「自分もやりたい!」という声が高まっているとのこと。プログラム受講者は一部であっても、会社やグループ全体にいい影響があることを感じました。
また、石井様がインタビューのなかで「キャリアは自分で切り拓くもの」「会社の目的と人生の目的を合致させて目指すべき姿を見つけることが大事」とおっしゃっていたのが印象的でした。転職が当たり前の時代に、「この会社にいる意味」「この会社でやりたいこと」を明確化させ、自身のキャリアプランを考えさせることが従業員定着のためには必要であると感じました。


——次回は、シリーズ第1回で寄稿いただいた法政大学の坂爪先生と、グッドキャリア企業アワードで2020年に大賞を受賞した万協製薬株式会社の松浦社長との特別対談をお届けします。

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石井 裕美子
登場人物
コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社 統合プログラムオーケストレーションサービス部 ケイパビリティ開発課 課長
石井 裕美子
YUMIKO ISHII

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