スキルベース組織とは?「ジョブ」ではなく「スキル」を中心に人と仕事を結び直す発想

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

スキルベース組織とは、「ジョブ型でもメンバーシップ型でもない第三の人材マネジメントの考え方」として注目されている概念だ。本記事では、その背景や誤解されやすいポイント、日本企業や働き手にとって何が変わるのかを整理する。

スキルベース組織とは

スキルベース組織の基本的な考え方

スキルベース組織とは、役割や職務を固定するのではなく、個人が有するスキルを軸として、最適な人材をタスクやプロジェクトに柔軟に配置しようとする組織モデルである。

「スキルベース組織」という考え方は、仕事を特定の職務や肩書に固定したまま人材を配置・管理する従来の人材マネジメントでは、事業環境の変化や人材の流動性に十分に対応しきれなくなっている、という問題意識から生まれてきた。

なぜ「ジョブ」ではなく「スキル」なのか

とりわけ欧米では、職務を基本単位とするジョブ型雇用のもとで、仕事の柔軟な組み替えや個人の能力活用が制約されてきたことが背景にある。

こうした課題を踏まえ、Deloitteは「長く仕事の基本単位として扱われてきた“ジョブ”が、機動性や成長、イノベーションといった組織目的を阻害し得る」と指摘している。

仕事をジョブから切り離してプロジェクトやタスクへと分解・再編し、人を「ジョブ保持者」ではなく「スキルを持つ個人」として捉える新たな組織運営モデルを「skills-based organization(スキルベース組織)」と呼んだ。
引用元:The Skills Based Organization: A New Operating Model for Work and the Workforce(Deloitte, 2022)

ここで重要なのは、スキルベース組織が「スキル管理ツールを導入すること」や「スキルマップを整備すること」自体を目的としていない点だ。核にあるのは、人と仕事の結びつけ方を、肩書や役割を起点にするのではなく、スキルを起点に捉え直すという発想である。

仕事を固定的な職務に押し込めるのではなく、その中身をより小さな単位(プロジェクトやタスク)として捉え直し、それぞれに必要なスキルと、人が持つスキルを照合しながら柔軟に組み合わせていく。

メンバーシップ型雇用が一般的な日本企業においても、個人の経験や強みが属人的に蓄積されがちな状況を整理し直す視点として、スキルベース組織の考え方が注目されつつある。

では、こうした考え方が、なぜ今、多くの企業や政策の文脈で語られるようになっているのだろうか。

それぞれが持つスキル

なぜ今、スキルベース組織が注目されるのか

仕事の変化と、既存制度の限界

スキルベース組織が注目されるのは、仕事の変化と人材不足が同時に進んでいるからだ。

第一に、事業や仕事の内容そのものが急速に変化し、あらかじめ定められた役割や担当だけでは対応しきれなくなっている点だ。デジタル化やグリーン分野への移行に象徴されるように、新たな業務や課題が次々と生まれる中で、仕事は一つの職務に完結するものではなくなりつつある。

スキル重視(skills-first)という労働市場の潮流

こうした変化は、人材不足とも結びついている。OECDは、人口構造の変化や産業構造の転換を背景に、学歴や職歴ではなく「何ができるか」に着目するskills-first(スキル重視)のアプローチが労働市場で広がっていると指摘している。個人が持つスキルをどのように可視化・表明するか、企業がそれを採用や配置にどの程度活用できているかといった点は、より幅広い人材プールを活かすための重要な論点として整理されている。

もっとも、スキル重視が自動的にうまく機能するわけではない。OECDは、デジタルツールへのアクセス格差、スキルを客観的に検証する難しさ、従来とは異なる経験や資格に対する雇用主側の慎重姿勢などが、実践上の障壁になり得ることも指摘している。

新しいアプローチであるがゆえに、働き手のアクセス可能性や、仕事の質・労働条件にどのような影響を及ぼすのかといった点も、引き続き検討が必要なテーマだ。

引用元:Empowering the Workforce in the Context of a Skills‑First Approach(OECD, 2025)

それでもなお、従来の枠組みのままでは限界があるという認識は広がっている。先述したDeloitteの調査でも、多くの労働者や人事・ビジネスリーダーが、ジョブを基盤とした組織運営が現在の仕事の実態に合致しなくなってきていると捉えていることが示されている。

こうした問題意識が、「ジョブ中心の制度をいかに精緻化するか」という議論を超えて、「ジョブを前提にしない運営モデル」への関心を高めている。その文脈の中でスキルベース組織という考え方が注目されるようになっている。

では、この考え方はメンバーシップ雇用が中心の日本企業の文脈ではどのように捉えられるのだろうか。

日本企業にとってのスキルベース組織

ジョブ型前提の議論との違い

スキルベース組織は、しばしば欧米企業のジョブ型雇用を前提とした議論として紹介される。そのため、メンバーシップ型雇用が主流の日本企業にとっては、「前提が異なり、導入のハードルが高い概念」と受け止められることも少なくない。

確かに、職務記述や役割が明確でない状況でスキルを整理・可視化することは容易でなく、短期的には負荷の大きい取り組みになり得る。

日本企業だからこそ意味を持つ論点

一方で、見方を変えれば、日本企業だからこそスキルベース組織の考え方が意味を持ち得る側面もある。

日本の人材マネジメントでは、職務ではなく人を起点に配置や育成が行われてきた結果、業務経験や能力が個人の中に蓄積される一方で、それらが明示的に整理・共有されにくい傾向があった。スキルを軸に仕事と人材を捉え直すことは、こうした属人的な経験や暗黙知を言語化し、組織として活用し直す手がかりにもなり得る。

ジョブ型雇用が「職務を明確にし、それに人を当てはめる」発想だとすれば、スキルベース組織は必ずしもその延長線上にあるものではない。むしろ、日本企業がこれまで培ってきた人材の柔軟な配置や育成の考え方を前提にしながら、「誰が、何をどこまでできるのか」をスキルという言葉で整理し直す。そのための新たな選択肢として捉えることができる。

スキルベース組織が日本企業で誤解されやすい点

もっとも、この考え方は日本企業において、しばしば別の形で受け取られてしまうことがある

ジョブ型移行と同一視される誤解

それは、スキルベース組織が「ジョブ型雇用への移行」と同一視されてしまうことがあるためだ。
スキルを明確にする取り組みが、すぐに職務定義や役割の固定につながると受け止められると、現場の警戒感を招きやすい。

前段で見てきたとおり、スキルベース組織はジョブ型の延長線上に単純に位置づけられるものではなく、仕事の単位をより細かく捉え、柔軟に組み替えるための考え方であるといえる。

ジョブ型雇用とスキルベース組織と違い

スキルの可視化が目的化してしまう問題

また、日本企業においてスキルベース組織の議論が進む際、しばしばみられるのが「スキルを可視化すれば、それだけで人材活用が変わる」という理解である。スキル管理ツールの導入やスキルマップ の整備が先行し、そこで整理された情報が実際の配置や育成、評価と十分に結びつかないままにとどまってしまうケースは少なくない。

しかし、スキルベース組織の本質は、スキルを“把握すること”ではなく、スキルを軸に人と仕事をどう結び直すかという意思決定のあり方にある。

スキルベース組織への取り組みが期待どおりの成果を発揮できていないケースでは、施策同士が断片的で積み上がらないことや、全社の人員計画・事業戦略と接続されていないことが課題として挙げられている。

スキル重視は掛け声だけで成立するものではなく、配置、育成、採用、評価といった個別の意思決定にどう組み込むのかという設計が問われる取り組みだといえる。

スキルベース組織は、働き手に何をもたらすのか

スキルベース組織の考え方が進んだとき、変化の影響を直接受けるのは働き手一人ひとりである。

最大の変化の一つは、キャリアや評価の前提が、肩書や所属だけでは説明しきれなくなる点にある。どの部署にいたか、どの役職に就いていたかに加えて、「どのようなスキルを持ちどの仕事に活かしてきたのか」が、より明示的に問われるようになる。

これは、これまで経験として積み重ねてきたものの、必ずしも言語化・可視化されてこなかった強みが評価につながる可能性を広げる。一方で、自身のスキルをどう整理し、どう示すかという新たな課題も生む。

スキルベース組織は、働き手にとってキャリアの選択肢を広げ得る仕組みであると同時に、受動的でいられない環境をも意味する。

また、不安の声が生じやすい点にも注意が必要だ。スキルが前面に出ることで、「評価がよりシビアになるのではないか」「今の仕事が将来につながっているのか分からなくなるのではないか」といった戸惑いが生まれることもある。 スキルベース組織が働き手にとって前向きな意味を持つためには、スキルがどのように評価や育成に結びつくのかについて、組織側が丁寧に説明し、学び直しや挑戦を支える仕組みを併せて設計していくことが欠かせない。

まとめ

スキルベース組織は、企業の人材マネジメントの変化を示す概念であると同時に、働き手にとっては、自身の経験や強みをどのような言葉で説明できるかが、これまで以上に問われる潮流でもある。ここでいうスキルは、資格や専門技術に限られるものではなく、思考力や協働力、さらには将来的に伸び得るポテンシャルまでを含む広い概念として整理されている。

だからこそ、これまで肩書や所属だけでは伝わりにくかった経験や能力が評価につながる可能性が広がる。一方で、スキルがどのように判断され、どの意思決定に用いられるのかが不明確なままでは、不安や不信を生む余地も残る。スキル重視のアプローチには、スキルの検証の難しさや、アクセス格差といった論点が伴うことも指摘されている。

とりわけ日本企業の文脈で見ると、スキルベース組織は、雇用を直ちに流動化させる仕組みというよりも、社内の再配置や再学習を「スキル」という共通言語によって整理し、回しやすくするための第三の整理軸として捉えることができる。

ただし、それが前向きに機能するかどうかは、スキル情報を可視化したか否かではなく、配置・育成・評価といった具体的な意思決定にどのように接続しているかに左右される。取り組みが断片的で、事業戦略や人員計画と結びつかない場合、期待された効果が得られにくいという指摘もある。

働き手の立場では、制度の良し悪しを性急に判断するよりも、いくつかの点を冷静に整理しておくことが重要である。働き手が整理しておくべきこととして以下のような3点が挙げられる。

  1. 自身の経験を、資格だけでなく思考や協働の側面まで言語化できているか
  2. 企業が集めたスキル情報を、配置・育成・評価のどこで使うのか説明されているか
  3. スキルの可視化が、仕事や学習の機会につながっているか

これらの観点を踏まえることで、スキルベース組織は、評価が厳しくなる仕組みとしてではなく、自身の強みや経験を整理し、次の機会につなげていくための枠組みとして読み替えることが可能になる。

働き手にとって重要なのは、その言葉が示す理念よりも、実際の運用の中で、自分のキャリアにどのような影響を及ぼしているのかを見極めていくことだろう。

東郷 こずえ
担当者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

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