社員の「自分らしい一歩」を後押し-NTT西日本が挑む“本気のキャリア支援”

キャリアリサーチLab編集部
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厚生労働省が実施する「グッドキャリア企業アワード」の受賞企業を例に、「企業のキャリア形成支援の在り方」について考える本シリーズ。今回は、グループ全体で3万人を超える従業員を抱えるNTT西日本株式会社(以下、NTT西日本)にインタビューしました。

同社は変化の激しい時代において、昇進・昇格といった従来型のキャリアパスだけでは社員の望むキャリアに応えきれない現実に向き合い、社員一人ひとりが主体的に動き出せる環境づくりに力を注いできました。その取り組みは、グッドキャリア企業アワード2024での大賞受賞という形でも高く評価されています。

本記事では、制度を単なる仕組みにとどめず、社員の行動を変える“文化”として根づかせていったプロセスや、「自分らしい一歩」を導く、現場が動かしたキャリア支援の広がりについて、総務人事部 プロフェッショナル人材戦略部門 キャリアデザイン推進室の鳥井真次さんにお話をうかがいました。

NTT西日本株式会社
設立:1999年
事業内容:国内電気通信事業における県内通信サービスの提供およびそれに附帯する事業など

総務人事部 プロフェッショナル人材戦略部門 キャリアデザイン推進室 鳥井真次さん

総務人事部 プロフェッショナル人材戦略部門 キャリアデザイン推進室 鳥井真次さん

1996年NTT入社。2023年にキャリアデザイン推進室を設立し、社員の自律的キャリア形成支援を開始。2024年厚労省主催の「グッドキャリア企業アワード」大賞受賞に貢献。国家資格キャリアコンサルタント。
※所属は取材当時時点

社員の“自律”を支える「知る・相談する・学ぶ・挑戦する」 の4本柱

Q貴社はグッドキャリア企業アワード2024で大賞を受賞されていますが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

鳥井:今回の大賞受賞にあたっては、「知る・相談する・学ぶ・挑戦する」という4つの柱を軸に、社員一人ひとりのキャリア自律を後押ししてきた取り組みが評価されました。

自律的キャリア開発支援の4本柱/NTT西日本株式会社様より提供
自律的キャリア開発支援の4本柱/NTT西日本株式会社様より提供

「知る」では、キャリアパスやロールモデル、取得推奨資格などを集約した社内ポータルを刷新。キャリアに関する情報に誰でもアクセスできる環境を整備しました。

「相談する」では、国家資格キャリアコンサルタントを持つ社員が、社内ダブルワーク制度※を活用して社員のキャリア相談に応じる、「キャリア相談窓口」を設立。キャリアに悩んだときに誰でも気軽に相談できる場をつくりました。また、寄せられた相談内容は新たな施策のヒントとしても活用しています。
※社内ダブルワーク制度:本業を継続しながら、最大で業務時間の2割までの稼働の中で社内・グループの業務に取り組むことができる制度

「学ぶ」では、社内外の講座や通信教育、オンデマンド学習ツールなどを自由に活用できる環境を整備。必要な学びにいつでもアクセスできる仕組みを構築しています。

「挑戦する」では、手上げ人事(自ら希望のポストに手上げできる仕組み)や社内ダブルワーク制度を拡充し、「やってみたい」と思った社員が自律的にチャレンジできる環境を整備。こうした制度が形骸化せずに、社員の行動変容を後押しする仕組みとして機能している点が、受賞の大きな要因となったと感じています。

さらに象徴的な取り組みとして、社長自らが全30支店を訪問し、経営戦略やビジョン、キャリア支援の取り組み等について社員に直接メッセージを届けました。経営トップが現場の声に耳を傾け、その声をもとに新たな取り組みに反映する──このような対話重視の姿勢も、社内外から高く評価されました。

社長キャラバンの様子
社長キャラバンの様子

若手・ベテラン・管理職、それぞれに寄り添った研修プログラム

Q:「知る」や「学ぶ」環境づくりとして、これまでに社内ではどのような研修プログラムを作成されたのでしょうか?

鳥井:社員のキャリア形成を支援する研修は、大きく3種類あり、基本的にはすべて社内で企画・運営する「内製型」で展開しています。

まず若手社員向けには、キャリア相談窓口に多く寄せられた「キャリアの描き方がわからない」という声を受け、自己理解からありたい姿の言語化や課題整理、行動計画までを行うキャリアデザイン研修を実施。自分らしいキャリアの方向性を見出し、行動につなげることを目的としています。

次にベテラン社員向けには、定年後も見据えた「キャリア&ライフプラン研修」を企画。人生後半のキャリアを充実させるために今からできることを考える内容に加え、年金・退職金・会社制度をふまえたマネープランのシミュレーションなど、実生活に即した内容も取り入れています。

管理職向けには、1on1面談力を強化する研修を実施。講義や動画によるポイント解説やロールプレイ演習を中心とした構成としています。

これらの研修を通じて、社員が自身のキャリアを「知る」「学ぶ」ための機会を提供しています。

社内研修の様子
社内研修の様子

安心感と実践性を兼ね備えた研修づくり――社員が講師だからこそ伝わるリアルな学び

Q:参加者が研修に興味を持つための工夫や、気軽に参加しやすくするための仕掛けがあれば教えてください。

鳥井:マネー研修では、もともと自部署で「お金の勉強会」を行っていた社員を講師としてスカウトしました。ファイナンシャルプランナーなどの資格は持っていませんが、長年の実体験に基づいた話が非常にわかりやすく、私自身も参加して「この人なら」と感じたのがきっかけです。

「家は買うべきか借りるべきか」「保険の選び方」「年金の仕組み」など、身近なテーマに会社の制度を絡めた内容で、全6回シリーズとして実施しました。非常に好評で、参加者の9割以上が内容に満足と回答しています。

ベテラン社員にとって「キャリア」という言葉は、「会社での今後のキャリア」を連想させることが多く、関心が薄れがちです。そのため、キャリア研修への参加を促すのが難しいという課題がありました。そこで、関心の高い「マネー」を切り口にすることで、より多くの社員の参加を促すことをめざしました。研修内容は、マネーに関する知識の習得だけでなく、定年後も含めたライフキャリア全体を見据えた構成としています。

また、内製型で社員が講師として登壇することで、社内事情や制度を踏まえた、参加者に寄り添った内容の研修が実現できています。参加者にとって安心感があり、実践的な情報提供につながっていることも好評の理由です。こうした「社内の力を活かした研修の企画・運営」が、参加者の興味を引き、自然と参加のハードルを下げる工夫として機能しています。

キャリア自律の土壌づくりと広がる取り組み

Q:アワード受賞以降に始められた取り組みがあればお聞かせください。

鳥井:アワード受賞を契機に、社内のキャリアコンサルタント資格保有者によるキャリア支援の幅をさらに広げています。2025年3月には、社内ダブルワークに関わったキャリアコンサルタントが延べ50人を超えたことを受け、相互に研鑽し合う環境づくりの一つとして社内コミュニティを立ち上げました。現在では約100人が参加しており、ロールプレイやケーススタディ、カードワーク体験など、スキルの維持・向上の機会を定期的に提供しています。

また、「活躍機会の創出」も重要な取り組みの一つです。4月には、2週間で150件のキャリア面談施策を企画し、コミュニティに呼びかけたところ、20人以上の自発的な協力を得て、無事に完遂することができました。協力いただいた方々にとっても、資格を活かす機会となり、活躍の場の拡大につながっています。このようにこのコミュニティには課題解決と個々のレベルアップが有機的につながる力があると実感しており、その活動を支援することが大事だと考えています。

さらに、キャリアコンサルタントをめざす社員向けに、資格取得方法や実務内容を紹介するウェビナーを開催し、約200人が参加しました。今後は試験対策の強化も図り、資格取得前からの伴走体制を整えていく予定です。

その他にも、社内外を問わず、自部署を越えたチャレンジを称えるイベント「E-1グランプリ ※Eは越境の略」を開催。社長自らが応援メッセージを発信したことで、「挑戦を後押しする文化」が根づき始めています。こうした取り組みの積み重ねにより、社員の行動変容やつながりを生む土壌が育ちつつあります。

キャリア支援の必要性に気づいた背景

Q:貴社が従業員のキャリア形成支援に力を入れるようになった背景や経緯はどのようなものだったのでしょうか。

鳥井:キャリア形成支援に本格的に取り組むようになったきっかけは、エンゲージメント調査で「キャリアが描けていない」「会社や上司によるキャリア開発支援が少ない」といった社員の声が明らかになったことです。この結果はもちろん経営陣にも共有されました。

ちょうどジョブ型人事制度への移行を控えていた時期であったこと、また会社としてもキャリアに悩んだ時に相談できる仕組みや社員の自律的キャリア形成を支援する機能が不十分だったということもあり、2023年4月にキャリア相談窓口を新設し、NTT西日本グループ社員なら誰でもキャリアに悩んだ時に相談できる仕組みを整えました。また同年7月にはキャリアデザイン推進室を新設し、継続的な支援体制づくりから始めました。

キャリアの舵を自分で切る――変化の時代に、自分らしい一歩を踏み出すために

Q:キャリア形成支援の取り組みによってめざしている従業員や企業の姿を教えてください。

鳥井:私たちがめざしているのは、社員一人ひとりが「自分のキャリアを描けている」と実感し、自律的に行動できる状態です。

かつては「キャリアを描く=5年後・10年後のありたい姿を持つこと」とされがちでしたが、変化の激しい現代では、それがかえってプレッシャーになるケースも少なくありません。そこで私たちは、「明確なビジョンがなくても、自分なりの方向性を持ち、目の前のことに主体的に取り組むこともキャリアを描いている状態の一つである」という考え方を大切にし、今年度からすべての研修でこのメッセージを伝えています。

たとえば、「新しい技術でいつか世の中の役に立ちたい」という漠然とした思いを持ち、今は生成AIやクラウドの学習に取り組んでいる──そうした一歩も立派なキャリア形成の一環と捉えています。こうした「川下り型(方向感は持ちつつ、目の前に現れる機会を活かして進む)」のキャリア観もあるということを伝えることで、「山登り型(明確な目標に向かって進む)」でなければならないと思い込んでいた社員の表情がパッと明るくなるなど、私たちも手応えを感じています

また、「予期せぬ出来事を活かす」というプランド・ハプンスタンス理論も紹介し、偶然や予期せぬ出来事を前向きに捉え、それをキャリア形成に活かす姿勢も重視しています。未知の経験こそが、自身の幅を広げるチャンスになるからです。こうした姿勢をもとに、社内ダブルワークや越境活動などを通じて、社員一人ひとりが“自分らしい一歩”を踏み出せる組織文化の醸成をめざしています。

本気度を行動で示す――社員に届くキャリア支援のメッセージ

Q:そのようなキャリア形成支援の方針や、キャリア形成に取り組む重要性については、どのように従業員への理解浸透を促進していかれたのでしょうか?

鳥井:最初に触れましたが、まず、社長自らが全支店をまわる「トップキャラバン」を実施し、社員に直接メッセージを届けることから始めました。さらに、社長の動画メッセージでも継続的にキャリア支援の重要性に触れ、“トップの本気度”を一貫して発信しています。

さらに、人事や育成、キャリア形成等に関する制度や取り組みの理解や活用促進を目的に2024年8月から毎月ウェビナー形式で「やりたいこと発掘・実現セミナー」を開催。キャリア相談の活用事例や学習コンテンツの選び方、社内ダブルワーク・専門性判定の仕組みなど、社員が知りたい情報にフォーカスした情報発信を行っています。

特に、「こんなことでも相談していいの?」「キャリアを描くにあたり明確な目標がなくてもいいの?」といった社員の心理的ハードルを下げるメッセージの発信に力を入れています。

その他にも、個別の研修や対話の場を通じて、社員一人ひとりが自分らしいキャリアに一歩踏み出せるようなきっかけづくりを重ねています。

挑戦の輪が拡大中――ダブルワーク応募者が増加。前年比約1.6倍に!

Q:キャリア形成支援を通して従業員や企業全体にどのような効果が出ていると感じられていますか?

鳥井:社員の「挑戦する意欲」が着実に高まっていると実感しています。たとえばダブルワーク制度の応募者数は、2022年度の233人から、2024年度は368人へと約1.6倍に増加。制度の認知だけでなく、「まずやってみよう」と一歩踏み出す社員が増えてきたことの証だと感じています。

また、社内外の研修や資格取得へのチャレンジも活発化しており、失敗を恐れず挑戦する姿勢が「My challenge+(チャレンジ目標)」の評価制度と相乗効果を生み、挑戦を称える文化として根づきつつあります。本職以外の業務やスキル研鑽も評価対象となることで、社員の主体的な挑戦がより促進されています。その背景には、肩書で呼ばずに全員を「さん付け」で呼ぶ文化や、社長によるキャラバン訪問など、心理的安全性を高める職場風土の醸成も大きく影響しています。

社内ダブルワークに関するアンケートでは、社員の9割以上、上司の8割近くが「生産性が上がった、もしくは変わらない」と回答。限られた時間での集中や、社外から得た刺激が本業にも良い影響を与えているという声が多く寄せられています。社員一人ひとりの学びと挑戦が、企業全体の成長エンジンになりつつあると感じています。

「キャリア支援の輪」を広げる、共創の次ステージへ

Q:今後、従業員のキャリア形成において取り組みたいことやさらに注力したいことがあればお聞かせください。

鳥井:今後は、「キャリア支援の輪」を社内全体に広げていくことが大きなテーマです。私たちの部門は3人体制なので、グループ全体3万人超の社員すべてに直接アプローチするには、どうしても限界があります。だからこそ、想いを共有し、共に取り組む仲間を増やすことが欠かせません。

そのために、キャリアコンサルタントの資格を持つ社員や、想いを持って活動する社員に対して、私たちが作成した研修資料や動画をすべてオープンに提供し、自主的な活動を後押ししています。必要があれば出張での支援も行っています。最近では、それらを活用して自主的に研修を実施する動きも出てきました。

そして何より大切にしているのは「日常のつながり」です。「ここに来れば一緒に考えてくれる」と思ってもらえる関係性を築き、やりたいという意志がある人に対しては、惜しみなく伴走していく──そんな信頼ベースの支援を、今後も大事にしていきたいと考えています。

ライター:西谷忠和

沖本麻佑
担当者
株式会社マイナビ
MAYU OKIMOTO

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