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キャリア自律の再考 ~求められるキャリア開発の転換~

近年、メディアなどで「キャリア自律」という概念を目にするようになりました。リスキリングや副業支援など、個人の主体的なキャリア発達を支援する企業も増えているように感じます。これらの潮流を踏まえ、キャリア自律をテーマに取り上げます。キャリア自律の台頭がもたらす意味や、キャリア自律を促すために求められる対応について提示します。

キャリア自律とは

キャリア自律とは、環境変化のなかで自らのキャリアに関心を持ち、生涯にわたって主体的・継続的な学習に取り組むこと、と説明される概念です(※1)。
この概念についてはさまざまな解釈や論考があり、定義のみでその本質を正確に理解することは難しいかもしれません(※2)。そのため、本稿ではキャリア自律の特徴を紹介しながら理解を共有していきたいと思います。

キャリア自律の特徴

自律的なキャリアに関する先行研究を確認するなかで、たびたび言及されるのが次の2つの特徴です。自律的にキャリアを発達させていくということは、①「個人の主観的な評価(personal meaning)」に基づいて展開されるものであるということ(※3)。そして②「境界を越える(boundaryless)」という特徴です(※4)。

「個人の主観的な評価(personal meaning)」に基づく展開とは、個人が価値や意義を感じるキャリアを選択することを意味します。たとえば、自分の興味がある分野について学んだり、問題意識を持っている情報を集めたりといった行動です。ポイントは、企業や上司から提示された課題や目標を達成するために学ぶのではないということ。自らの価値観や問題意識によって動き出し、自分が進みたい道を切り拓くというスタンスです。

また、もう1つの特徴である「境界を越える(boundaryless)」とは、自分の所属している部署や組織などの「居場所」に固執せずに、幅広く情報を探索したり、他者とつながったりするような行動や姿勢を意味します。従来のキャリア開発の視点は、「部署」や「役職・役割」といったあらかじめ決められた「キャリア構造」の影響を強く受けるものでした。自律的なキャリアは、これら構造的な制約を超越して進んでいく姿勢が特徴的です。

キャリア自律と従来のキャリア観を比較する

これらの自律的なキャリアの特徴がより分かりやすく提示されているのが、アメリカの心理学者ダグラス・ホールの提唱したプロティアン・キャリア論(※5)です。【表1】ホールは、自律的なキャリアの在り方として、プロティアン・キャリアを位置づけています。

ホールのプロティアン・キャリア論
【表1】ホールのプロティアン・キャリア論

とくにホールが主張しているポイントは、2点です。1つは、これらのキャリアが他者の決めた「キャリア構造(structure)」の影響よりも、自分自身と周囲との関わり(関係性)のなかで常に変化しながら進むという点です。そして、キャリアにおける成功は個人の心理的な影響を受ける点(主観的な満足や充実感によって評価される)です。

個人が所与のキャリアステップに固執することなく、自分自身の内なる声をもとに歩を進める。その過程で生まれる新たな出会いやつながりを通して、興味や関心を育てていく。個人は「面白さ」に突き動かされながら、自らのキャリア発達を磨き上げていく。キャリア自律の本質にはあるのは、このような個人を主体にした自由で柔軟なキャリア観です。

キャリア自律の台頭が意味するもの

これらの特徴を踏まえると、キャリア自律の台頭はキャリア開発の考え方に大きなインパクトをもたらすものであるということが分かります。企業が積極的にキャリア自律を促しているということは、キャリア開発における”主体の交代”を意味するからです。従来の日本企業において、キャリア開発の主体は企業にありました。これまでの日本企業の人事システムは「個人のキャリアを開発するのは、企業である」という前提で構成されているものでした。

新卒採用にて未経験者を採用し、研修やOJTを通じて技能教育を進める。さらにジョブ・ローテーションを通して管理職候補・幹部候補としての視座を付与していく。従業員は長期雇用や年功賃金を補償してもらう代わりに、企業側が用意した人材開発施策や「キャリア構造」に従い、自らのキャリアを進めていく。個人的な価値観や志向がどうであれひとまず「仕事だから」「給与をもらっているから」「会社の言うことだから」受け入れていく。かつての日本企業において、個人はキャリア開発における自律性は求められてこなかったとも言えます。

つまり、これまでのキャリア開発は、企業が「台本」を用意していたわけです。個人は企業が用意した「キャリア構造」に従って自らのキャリアを進めていくことが求められていました。この背景を踏まえると、キャリア自律の台頭がいかにインパクトのあるものかが分かります。これまでのキャリア開発の考え方を180度転換させるものだからです。

・企業が用意した「台本」が今の時代にフィットしなくなった。
・企業側の用意した「台本」が気に入らないのであれば、自分でもっと面白くすればよい。
・「台本」を用意するのは企業ではなく自分である。

キャリア自律の台頭には、このような厳しくも前向きなメッセージが含まれています。キャリア自律が私たちに要請していることは、積極的なスキルアップや資格取得だけではありません。自分の頭で考え、自分の足でキャリアを切り拓く矜持を持つこと。「従業員」から自分の人生における「主役」へと、自己認識のパラダイムを切り替えていくことを求めています。

キャリア自律が高まらない要因は“刺激不足”

一方で、多くの企業において未だキャリア自律を醸成することが難しい現状があります。日本でキャリア自律が注目されるようになったのは今から20年以上も前のことです(※6)。社会的な認識やメディア上の価値観は変化しているように感じますが、キャリア自律の達成にはまだ課題が残されています。

今年、経済産業省未来人材会議が提示した報告資料では、「現在の勤務先で働き続けたい」と思っている人の比率がアジア・欧米各国と比較してもっとも低い(52%)にも関わらず、転職や起業の意向を持っている人の比率がもっとも低い(転職:25%・起業16%)ことが指摘されています。その一方で「社外学習・自己啓発を行っていない人」の割合は、もっとも高い比率(46%)であることも報告されています(※7)。

どうしてキャリア自律は進まないのでしょうか。キャリアが停滞する要因として指摘されているのは、“刺激不足”です。

キャリア・プラトー(Career Plateau)(※8)やプロフェッショナル・プラトー(Professional Plateau)(※9)と呼ばれるような「プラトー化(スキル開発やモチベーションの停滞)」が進む要因は繰り返される定型業務にあるとされています。【図1】

毎日、同じような業務を繰り返していながらも、「とにかく忙しい」ことに満足してしまうこと。そのなかで学習機会に恵まれず、新たな知識やスキルの獲得がされない状態が続いてしまうこと。このような刺激不足の常態化が自律的なキャリアの停滞につながっていると考えられます。

プラトー化

自律的にキャリアを前に進めるためには、本人の興味や好奇心がエネルギー源になるとされていますが、この興味や好奇心を刺激する情報は企業の職場にどれくらいあるでしょうか。「ジョブ型」や「テレワーク」の導入によって、このような問題傾向はより顕著になっている可能性もあるかもしれません。企業内で構築された職務役割や業務目標、働き方のルールなどが制約となり、新たな情報との出会いが少なくなっている。そのリスクを再考する必要があります。

“刺激”を呼び込む

そのため、社員のキャリア自律を高めていくのであれば、彼らの関心を刺激するような情報や知識を組織のなかに呼び込んでいくことが求められます(※10)。より多様なインプットや出会いによって、個人の興味や好奇心が刺激される確率を高めていくのです。

実際に、自律レベルの高いチームの管理職がどのような刺激を部下に提供しているのかを調査したことがあります。多くの管理職に共通して見られたのは次の4点の行動でした。【図2】

・多様な人材を呼ぶ・会わせる(キャリアモデル)
・転職市場における部下の価値を随時フィードバックする(キャリア・プランニング)
・自分の仕事の利害関係者やエンドユーザーに合わせる(フィールドワーク)
・専門知識を幅広く提供する(ライブラリーワーク)

刺激を呼び込むサイクル
【図2】刺激を呼び込むサイクル

日常的にはアクセスしにくい情報を投下していくことが重要でしょう。これまでにない「出会い」をより高頻度で生み出すための環境デザインが求められます。

たとえば、社内会議に他部門の社員をゲストとして呼ぶことや、社外のプロフェッショナルに課内勉強会を依頼することなど、「職場に来れば面白い話を聞ける」「自分のキャリアを考えるヒントが得られる」という環境をつくっていくことが大切です。

社員は日常的に新たな情報にアクセスすることができるだけでなく、自らの現状と比較し、自分に不足しているものを知覚できるようになります。さらには、自分が何に関心があるのか、どうなっていきたいのかを発見することもできるでしょう。さまざまな機会や場をつくることが、個人の自律を促すことにつながっていきます。

「いかに辞めさせないか?」よりも「どうつながり続けるか?」

“外部の情報を見せると、会社の外に興味が移ってしまうのでは?”
“自律を促して、うちの会社を辞めちゃったらどうするんですか?”

企業のご担当者からこのようなご意見を頂くことがあります。キャリア自律を推進した結果、優秀な社員が退職してしまったという事例は耳にします。「キャリア自律は高めたいものの、辞めて欲しくはない」というお考えを持っている企業は多いのかもしれません。

一方で、辞めさせないことを前提にしたキャリア自律の推進」は、かなり難しいと言えるでしょう。冒頭でも説明したように、キャリア自律の本質にあるのは、「枠組み」を超えるキャリア開発行動(boundaryless)です。企業や職場といった「枠組み」にとらわれずに、自分の興味や関心によって組織内外を自由に動き回る。それがキャリア自律の達成と言えるでしょう。キャリア自律を促す過程で、個人は組織にポジティブな心象を抱く可能性も考えられますが 、長期的には社員は「自社」という枠組みに対してこだわりを持たなくなっていくことも想定されます。つまり、キャリア自律を推進する以上は、一定割合で組織に収まらないキャリアを歩み始める社員が出現することも想定した人事システム に刷新していくことが求められます。

考えるべきは“いかにしてつながりを保持するのか?”なのかもしれません。

たとえば、自社に「正社員」として在籍していなくても、業務委託、顧問、外部アドバイザーとして雇用契約を結び直し、個人の自律的な動きを促しつつ、これまでとは異なる立場から自社のビジネスに貢献をしてもらうことは可能でしょう。あるいは、別の企業で研鑽を積んでいるものの、適宜「アルムナイ(alumni)」として自社に関わり、新たな知識を提供してもらったり、さらには転職先に事業責任者となって、自社との業務提携を提案してもらったりするなどの関係の発展も見込むことは可能でしょう。

「辞める」ことをきっかけに新たなつながりやコラボレーションが生まれることも期待できるはずです。多様なつながり方がそこにはあるのでしょう。ならば「辞める=企業と個人間の『絶縁』」といった認識を切り替える必要があります。個人が自律的にキャリアを進めていった帰結として、自社を辞める選択が浮上した際に、つながりを保ち続ける仕組みを整備していくことが大切です。

ある企業では、1on1のなかでとくに優秀な社員に対しては、常時、社員の関心をヒアリングするだけでなく、転職・起業を想定した対話を進めています。それに対して、何が支援できそうかを企業側から提案したり、転職後にどのようなことが一緒にできそうかをブレストしたりする。退職をネガティブなものとして捉えるのではなく、それを前提にオープンに話す場や関係性を日常的に持っておくことが大切なのかもしれません。

いずれにしても、キャリア自律を促すということは、これまでのキャリア開発の考え方や前提認識を大きくスイッチさせるということです。施策のみを検討するのではなく、「上司」や「研修」などの位置づけや、企業内のキャリア開発システムそのものを見直していくことが求められます。


<参考文献>
(※1)Career Action Center. (1996). Self-reliance is the New Reality of Work, Competition, Companies and Life, edited transcript of speech by Scott Cook, at the 14th annual Pinnacle Luncheon, sponsored by the Career Action Center.
(※2)平野光俊. (2004). 組織モードの変容とコア人材のマネジメント. 神戸大学経営学研究科ディスカッション・ペーパー, (2004), 8.
(※3)Hall,D. T. (2002). Careers in and out of organizations. Thousand Oaks, CA: Sage.
(※4)Arthur, M.B.(1994)“The boundaryless career : A new perspective for organizational inquiry”, Journal of Organizational Behavior, Vol.15, pp. 295-306.
(※5)Hall, D. T. (2004). The protean career: A quarter-century journey. Journal of vocational behavior, 65(1), 1-13.
(※6)経営者団体連盟教育特別委員会 (1999).『エンプロイヤビリティの確立をめざして一「従業員自律・企業支援型」の人材育成を』日本経営者団体連盟教育研修部.
(※7)経済産業省 未来人材会議 (2022). 『未来人材ビジョン』
(※8)Ference, T., Stoner, T., & Warren, F. (1977). Managing the career plateau. Academy of Management Review, 2, 602-612.
(※9)Lee, P. C. B. (2003). Going beyond career plateau: Using professional plateau to account for work outcomes. Journal of Management Development, 22, 538-551.
(※10)Savickas, M. L. (1997). Career adaptability: An integrative construct for life‐span, life‐space theory. The career development quarterly, 45(3), 247-259.

著者紹介
神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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