
「働きがい」がパフォーマンスの最大化を促し、事業推進のエンジンになる(株式会社ガイアックス)
自由でフラットな組織作りを実現している株式会社ガイアックス。「全体会議は自由参加」「給与交渉を自ら決定する」など、特徴的な組織のあり方が注目されてきた。
ガイアックスは個人や事業部の「自律」が強く求められるカルチャーが浸透しており、新規事業の創出にも積極的だ。起業を志し、「自分の人生におけるミッション・ビジョンの実現」を目指すメンバーも多く活躍している。
今回は「働きがい」を育んでいる意思決定のプロセスや、ガイアックスの代名詞ともなっている「自由なカルチャー」について、コーポレートカルチャー推進室 責任者の荒井さんに話を聞いた。

株式会社ガイアックス
設立:1999年
事業内容:ソーシャルメディアサービス事業、シェアリングエコノミー事業、web3/DAO事業、インキュベーション事業
コーポレートカルチャー推進室責任者 荒井 智子さん
2013年4月にガイアックスに新卒入社。2年間法人営業・海外営業、社長室立ち上げなどを経て、2015年に「働く人の心と身体を健康にしたい!」と会社に訴え、社内でケータリング型社員食堂をスタートし、2017年にtiny peace kitchenとして事業化。2020年に社内コーチプロジェクトを発足し、2022年にブランド推進室(現、コーポレートカルチャー推進室)の責任者に就任。
目次
「自律をしていること」が当たり前の組織

いても立ってもいられず、目の前のことに打ち込めるか
ガイアックスは「フリー・フラット・オープン」なカルチャーが特徴とされています。そうした自由なカルチャーから「働きがい」が生まれる一方で、「厳しさ」も併せ持っているのではないかと感じます。 カルチャーにフィットする人材は、どのように見極めているのですか?
荒井:まさに「厳しさ」という言葉どおり、決してラクに働ける環境ではありません。このカルチャーが合う方はとても合うでしょうし、そうでない方も多いと思います。
「自律的に生きている方」「気づいたらいても立ってもいられない方」「与えられた日常では満足できず、好奇心が抑えられない方」──そういう方が、結果的にガイアックスのカルチャーにフィットするのだと思います。
採用段階において新卒採用、中途採用のいずれにも共通しているのは「経験談を聞くこと」です。学生時代のアルバイトでも何でも、ベストを尽くして一生懸命に何かに打ち込んだことがあるか。そういう「目の前のことに、貪欲になれるかどうか」という観点で、ガイアックスのカルチャーにフィットしそうかを見ています。
事業部ごとに裁量があり、自律が求められる
「自律」というのは、ガイアックスを語る上で重要なキーワードになりますか?
荒井:そうですね。全社はもちろん、事業部ごとにも自律を求めるカルチャーが根付いています。その背景にあるのは、何事も「自分たちで決定できる自由度の高さ」です。それが結果としてメンバーの自発性を引き出し、事業と経営人材のさらなる成長を生み出しているのだと思います。
また全員がガイアックスのミッションに共感しているのであれば、自由に取り組む方が全体のパフォーマンスも上がるはずです。そうした想いも、カルチャーを支えていますし、会社制度にも通底しています。
各事業部は「独立採算制」を導入しており、事業責任者は「経営者」として事業部のすべての裁量を持っています。経営状態についてもコアバリューである「フリー・フラット・オープン」に基づいてすべて公開。メンバー が経営会議の議事録もチェックでき、情報格差を極力無くすように努力しています。
ですから自然と「何を実現したいか」を自分たちで決め、自分ごととして事業を進めていくことになります。やりたいことを実現していくためにも「自律」は当たり前なんです。
働きがいは、組織が用意するデザートではない

周囲に「話すこと」から意思決定の尊重が始まる
メンバーが自律的に事業創出できるように、何か取り組んでいることはありますか?
荒井:事業化までのプロセスには、主に2つのパターンが考えられます。1つは既存事業から派生して、新サービスが生まれる場合です。「この事業を他にピボット(転換)してみよう」と方向を変えて小さくやってみると、意外と事業が伸びて事業化できたケースです。これはすでに取り組んでいる仕事の延長になるため、そのまま見守っている状態が多いです。
もう1つは突然変異的に、個人が「これをやりたい!」と言い出して実現する場合です。メンバーには、日常会話の中で自分がやりたいと思っていることを「誰かに話すこと」を意識しもらうようにしています。
たとえばメンバー同士で食事をしている時や一緒にサウナに行った時、マラソン大会に参加して走っている時にも「私、最近こういうことをやりたいと思っていて…」と自然に話をする。なるべく多くのメンバーに伝えて、多角的な視点からアドバイスをもらうと実現可能性も高まりますから、そのように「誰かに話すこと」を積極的にしやすい環境やカルチャーはとても大切にしています。
先輩から「いいんじゃない?」と言ってもらえれば自信もつきますし、同僚が「一緒にやろう!」と味方になってくれれば勇気も持てますよね。結果として「経営会議でプレゼンして、事業化を進めよう」というモチベーションにもつながりやすくなります。
そうしたインフォーマルなコミュニケーションをたくさん取り、自分のキャリアの希望を多くの人と共有しておく雰囲気作りはできているのではないかと思います。
働きがいがなければ、頑張ることはできない
ガイアックスでは普段から「自分の人生」について考え、仕事を選んでいくこと自体が「働きがい」に直結しているように感じますね。
荒井:そもそも「この仕事は、人にやらされている」と感じた時点で、最高のパフォーマンスは発揮できないのではないでしょうか?仕事に価値を感じず、誰が幸せになるかも分からず、自分の得意なことも活かせない。そんな状況では、とても頑張れないと思うんです。
それよりも、自分の強みが活かせて、情熱をかけて取り組み、社会的意義や価値を感じることができる。そんな仕事だとエネルギーが出るはずですし、パフォーマンスも当然上がるはずです。そうでなければ、きっと業績も上がらないでしょう。
ガイアックスはITベンチャーです。まだ世の中に顕在化していないニーズを汲み取り、サービスを作っていくことが求められます。そのためには自ら価値を生み出す姿勢が大切ですし、自らの意志がなければ事業も創出できません。
メンバーのやる気と才能を総動員して勝負をするためにも、ムダなストレスはなくし、働きやすい環境を整えるべきですよね。優秀な人材に活躍していただくには、個人の「仕事を通じて実現したいこと」に取り組める環境があるかどうかが重要になると感じています。
働きがいは、組織が“デザート”のように用意するのではないと思うんです。「自分がどうしたいのか」をきちんと考えて持っていないと、成立しないものですよね。
悩むこと、周りから触発されることの大切さ
ガイアックスの皆さんは「自分はこうありたい」という軸があり、進みたい方向性がしっかりと見えているように感じます。「自分は何をすれば良いのか分からない」とぐるぐる悩んでしまう方はいらっしゃらないのですか?
荒井:もちろん、当社にも悩んでいるメンバーはたくさんいます。先日もとても優秀な学生さんが、ガイアックスでインターンを始めてから「俺の今後の人生、どうしていくべきなのか・・・」と悩み始めていました。ガイアックスに来ると、とにかくたくさん問われるので、考え始めざるをえないんだと思います。
学生生活では 優秀だと評価され、プライベートも充実し、他社の内定も獲得している。社会人になってもきっと活躍できるだろうタイプの方ですが、自分の人生にとって何がベストなのかという問いにはそこまで向き合った経験がなかったのかもしれません。
ガイアックスに入ってから、「自分の人生、キャリア本当にこれで良いのかな」と悩み、周囲の人に触発される方もたくさんいます。自分自身と向き合うキッカケがあることも、自律的な人生やキャリアを築いてもらうためにも、とても大切です。
会社起点ではなく「人生を起点」に

自分にとってベストな選択を長期視点で考える
働きやすさや働きがいの実現に向けてメンバーの「自律」をサポートするために、工夫されている施策などはありますか?
荒井:ガイアックスが定義する「自律」とは、自分の人生をどう捉え、何をすることがベストなのかを考えていくことです。そのために、目の前の仕事で何をすべきかを上長と話す「マイルストーンセッション」という仕組みを導入しています。
まずは人生で大切にしたいことや達成したいことを専用のワークシートに記入し、四半期に一度の面談を行います。5年、10年の長いライフプランを元に「この1年の重要なマイルストーン(重要な節目)」を決定するんです。
重要なのは「会社の目標」から考えるのではなく、あくまで「自分のベストな人生」を起点に考えているという点です。日常的に「私の人生においてやりたいことが、ガイアックスで実現できるのか」を考えてもらえるかが、真の意味での“自律”を促していく上で大切だと思っています。
決定したマイルストーンは四半期に一度、達成状況を振り返り、自分で評価します。あらかじめ報酬を決めて目標設定をするため、納得度も高いですね。
上長とも内容を共有しているので、上のポジションへの推薦も決まりやすく、積極的にチャレンジを後押ししてくれるようになっています。どんどん担ぎ上げてもらえるので、成長スピードも速いです。
すべてを自分の裁量で、自分が決める
会社が決めるのではなく、自分の評価も自分で決めているのですね。
荒井:シビアではありますが、胆力がつきます。「上司が全然評価してくれない」という言い訳ができない状態になるということですから。成果を出すためには自律的に仕事を進めなければいけなくなります。
仕組みというと「会社の上層部が決めた戦略に従う」というようなイメージがあると思いますが、ガイアックスでは異なります。会社として仕組みを決めすぎてしまうと、メンバーの自発性を担保しにくいと考えているんです。
そのため、ガイアックスは、Visionも“空白”です。それは「自分で決める」と思えた方が、絶対に頑張れるから。上司の顔色を伺って評価を気にするよりも、事業部を自分の会社だと思って、時価総額を意識して仕事をした方が健全です。
世の中にインパクトを与えるには

ガイアックスのカルチャーは常にアップデートし続ける
最後に、今後の目標について、教えてください。
荒井:もっと世の中の役に立つような事業、取り組みを増やしていくことが大きな目標ですね。ガイアックスのカルチャーがあったから「こういう事業が生まれました」「こういう人材が輩出されました」という状況を、どれだけ作り出し、社会にインパクトを与えることができるのか。そこを目指していきたいと考えています。
また、組織のあり方という視点から考えると、時代の流れとともにガイアックスも大きく変化してきました。入社した当時の10年前と比べてみても、ワークスタイルはまったく異なります。当時は毎日、ワンフロアで朝礼をして顔を合わせる働き方をしていました。
今ではリモートワークも当たり前になりましたし、個人や事業部のスタイルに合わせて働き方が選べるようになっています。コロナ禍では、ガイアックスに根付いていたカルチャーを体感しにくくなってしまったり、人間関係が希薄になってしまったりすることも経験しました。だからこそ、この数年は「各事業部にあったワークスタイルのあり方」を見つけようと、試行錯誤を続けながらアップデートしている最中でもあります。
メンバーみんながいきいきと働ける環境を築くことが、最終的に世の中の役に立っている。そうなっていくように、これからも試行錯誤を続けていきたいです。
編集後記
「マイルストーンセッション」の原型は、ガイアックスが創業した25年前にすでに誕生していたとのこと。今でこそ「個人のパーパス」を考えるコーチングの重要性が注目されてきていますが、当時は革新的な取り組みだったと言えるでしょう。
自分の人生の選択を組織に委ねるのではなく、自律的に決めて幸せをつかむ。今では当たり前の選択を長年にわたって続け、会社として実装してきた歴史の重さを感じました。
実際に「マイルストーンセッション」で使用するワークシートを拝見しましたが、記入するだけで自分自身についてしっかりと振り返りができる設計になっています。「あなたの人生において大事なことを、現在どれぐらい大事にできていますか?」といった、思わずドキッとしてしまう問いも並んでいました。自分と向き合う厳しさを超えた先に、モチベーションの炎が灯る様子が想像できる取材となりました。
執筆:林 美夢