生き生きと働くためのワークライフバランス(株式会社ヤマハコーポレートサービス)
—健康経営を考える
少子高齢化社会による労働人口の減少や、長時間労働と残業の多さが課題とされる日本で、働き方改革が企業の重要な経営課題となっています。そして、働き方改革とともに企業が取り組むべき課題として近年注目を集めているのが「健康経営(R)」(※1)です。
企業が「健康」に経営を進めるためには、社員の「健康」は無視できません。シリーズ第五回となる今回は、さまざまな取り組みを通してワークライフバランスを整えている株式会社ヤマハコーポレートサービス(静岡県浜松市)にインタビュー。健康経営に取り組んだきっかけや、どのような成果がみられたのかを探っていきます。
※1:「健康経営(R)」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標
企業紹介
まずは、株式会社ヤマハコーポレートサービスについてご紹介させていただきます。
会社名:株式会社ヤマハコーポレートサービス
設立:1997年10月
従業員数:700名(2022年4月現在)
事業内容:コーポレートシェアードサービス事業、総合人材サービス事業、トラベルサービス事業、メディアプロダクション事業、保険サービス事業
■おもな健康経営の取り組み
・ワークライフバランスへの取り組み
原則金曜日は定時退社、18時以降は社内外に向けてメールをしないなどの勤務ルールや健康セミナーの開催など
・有給休暇の取得促進、休暇制度の新設
「ライフサポート休暇」「ファミリーホリデー」「ライフサイクル休暇」ほか
「かけがえのない人材の健康が第一」という熱い思いのもと、さまざまな取り組みをされています。
今回は、株式会社ヤマハコーポレートサービス経営管理部の山本智子さんにインタビュー。さまざまな取り組みを始めるに至ったきっかけやその効果などを詳しく伺いました。
——健康経営に取り組み始めたきっかけを教えてください。
2011年以降、グループ内の人事や総務などのコーポレート業務を集約するシェアード事業が急速に拡大した影響で一部の部署に業務が偏るなど、ワークライフバランスを整える取り組みが進められていませんでした。また、2015年から新卒採用を開始したのですが、会社説明会で育休についての質問があったことや、学生アンケートの回答でワークライフバランスを重視している人が多かったことから、学生のワークライフバランスに対する意識の高さを実感しました。そこで、全社をあげてワークライフバランスを整えるための取り組みを開始しました。
——貴社はワークライフバランスを重視し、さまざまな制度・仕組み等を取り入れているとのことですが、取り組みの詳細を教えてください。
ワークライフバランスを整えるための施策としては、まず部門ごとに労働時間の削減・年次有給休暇取得の目標を設定し、経営会議・安全衛生委員会でモニタリングをいたしました。2022年3月までは部門ごとに業務終了時間を設定し一斉退社する日を設けていましたが、2022年4月からは原則金曜日は定時退社・18時以降は社内外に向けてメールをしないという勤務ルールを制定しています。単に終了時間を定めるだけでなく、時間制約の意識をより一層定着させることで、生産性の向上とワークライフバランスの実現に繋げることを目的としています。そして、本来の所定労働時間内で業務を完結させるという考え方を改めて浸透させ、それが当たり前の働き方になることを目指しています。
ほかにも、産業医等による健康セミナー開催やHPでワークライフバランスを充実させている社員を紹介することで社員の健康向上や社員自身の健康意識の醸成を行ったり、若手や女性社員が中心となり全社の働きがい向上の為の施策を検討したり、育児休職復帰時にキャリア面談を実施することでワークライフバランスを整えて働けるように支援しています。
休暇制度については、年次有給休暇を入社月から最高で16日付与し、それを取得促進する施策として一斉有休取得日を設け、祝日やお盆休みにつなげて連続した休暇が取得出来るようにしたり、「マイバケーション・プラスワン休暇」と名付けたりして、業務が落ち着く時期や夏期・年末年始休日、または土日・祝日につなげて休暇取得することを勧めています。
また、弊社は年次有給休暇以外の特別休暇制度も充実させており、2019年4月から「ライフサポート休暇」「ファミリーホリデー」「ライフサイクル休暇」いう3つの特別休暇制度を新設しました。ライフサポート休暇は、毎年2日付与され、傷病や家族の看護のほか、ボランティアや自己啓発活動が対象です。利用しない場合は30日分まで積み立てが可能です。ファミリーホリデーは、積み立ては出来ませんが毎年2日付与され、本人や家族の記念日のための休暇として利用いただくものです。ライフサイクル休暇は5年ごとに5日、長期連休が取得出来るように付与されます。こちらの特別休暇は、ライフステージの節目に人生設計を見直すためのリフレッシュ休暇として位置付けています。
——取り組みを導入するにあたり、課題や問題点はありましたか。また、どのように乗り越えましたか。
金曜日の定時退社や定時外メールをしないという取り組みを導入した際、一部の部門から「繁忙期が重なると定時退社は難しい」との声が上がりました。しかし、この取り組みの主旨としてみんなで実施することに意味があること、また定時外にメールを受け取った側は対応しなければならなくなってしまい帰宅が遅くなることを丁寧に説明し、理解してもらうことができました。
また、業務効率化の推進やマイバケーション・プラスワン休暇の導入時など、新しいことを始めるときはどうしても強制的に「やらされている」と感じる社員や、全社をあげて取り組むことに疑問を感じる社員もおりました。社員に理解してもらったうえで取り組んでもらうために、案内や声かけの仕方に配慮したり、FAQを作成したりと社内広報に力を入れました。それにより社員の意識も変わり、今では案内を心待ちにしてくれている社員もいるそうです。
——「ライフサポート休暇」「ファミリーホリデー」「ライフサイクル休暇」について、導入から現在までの取得率の推移を教えてください。
これらの休暇制度導入前は、年次有給休暇以外に私傷病で休める有給休暇がなく、育児等で付与された年次有給休暇を使い果たす社員がでていました。また、労働組合からも同じ職場で働くグループ会社からの出向者に合わせた特別休暇制度の導入要求もありました。そこで心身をリフレッシュさせ、社員の仕事と生活の両立支援制度を整備することとなりました。
初年度の2019年は、ライフサイクル休暇は取得率が100%、ファミリーホリデーの取得率は半数近くとなっています。ライフサポート休暇は突発的な事柄に備えて残しておく社員も多い為、取得率は2割程度を推移しております。ライフサイクル休暇は、コロナ禍の影響で翌年まで取得可能としたため、一時的に取得件数が減少したこともありましたが、昨年度からは取得率が戻りつつあります。
——休暇制度全体について、社員のみなさまの反応や、会社として実感する効果はどのようなものがありますか。
育児中の社員より、「ライフサポート休暇を時間単位で利用することで、急な保育園からの呼び出しにも対応できてありがたい」という声があります。年次有給休暇の場合は、数時間の育児であっても半日休暇を取得しなくてはならないため、ライフサポート休暇は時間単位の取得ができることが大きなメリットになっているようです。ライフサイクル休暇に関しては、「定期的に長期休暇が取得できるため、次の休暇に向けて仕事のモチベーションが上がった」という声もあります。
実感している効果としては、長期休暇を取得しやすい職場環境・風土ができあがったことかと思います。たとえば、普段の1~2日の休暇もそうですが、特に長期休暇を取得する際は、周りのフォロー体制が必要になりますので、日ごろからのコミュニケーションや休暇を取得しやすい雰囲気づくりが大切です。 また、社員からの声にもあったように、しっかりと休むことで仕事への士気が高まるという効果もあると思います。休みが取りやすい会社だと感じてもらうことで、離職率も低下しやりがいをもって働いてくれている社員も増えています。
——制度が整っていても、「なかなか休むと言いにくい」「上司や同僚に後ろめたい」などなかなか制度の活用が浸透しないと悩んでいる会社もあるかと思います。この点に関して、貴社で工夫したことを教えてください。
まず、先にお話ししました通り弊社はワークライフバランスを重視しており、私たち経営管理部門が全社の取り組みを牽引しています。経営会議や安全衛生委員会、セミナー等でワークライフバランス推進について社内へ発信も行っており、働き方の改善に対する意識や具体的な活動が組織全体に浸透している環境であるということが大きいと思います。
年次有給休暇に関しては、取得が少ない社員をピックアップし、事業部長経由で取得促進メールを送っていて、ライフサイクル休暇対象者に関しては所属長へ個別にメールを送り声かけしてもらうようにしています。事業部全体や所属長からの案内により、休暇取得しやすい雰囲気づくりを行っています。
——貴社は健康経営に取り組み、「健康経営優良法人ホワイト500」などに認定されていらっしゃいます。こういった取り組みが評価されることで起きたメリットはありますか。
採用面でのメリットとして、求人に対する応募者が増えたと実感しています。「健康経営やワークライフバランスを重視している会社であること」を志望理由のひとつにあげてくれる人は多いです。また、社員が「健康経営に力を入れている会社」として誇りをもって学生や内定者に案内しているため、優秀な人材の確保につながっていることもメリットに感じています。
また、健康経営優良法人認定後は、今回のような取材が増えており、弊社の取り組みを紹介することで社会への波及効果があることを感じています。会社の知名度が上がるのもひとつのメリットですね。
——これから健康経営に取り組む企業に向けて、アドバイスがあればお願いします。
弊社はもともと、会社の方針として「人を大切にしよう」という考え方があり、生き生きとやりがいをもって長く働き続けられる職場環境を社員に提供できるよう、「健康経営」「ダイバーシティ」「仕事とプライベートの両立支援」という3つの取り組みを継続しています。
そのなかで、今期から「働きがいの高い組織へ」という方針を新たに加えました。社員一人ひとりが「働きがいってなんだろう?」と自分自身へ問いかける機会をつくることによって、自分らしく、やりがいをもって生き生きと働くことにつながると思っています。そして、個々の人生を豊かにしていくことにつながる……。これが健康経営の目指すべき姿なのではないかと思います。
今後は、社員一人ひとりが働きがいをもって自分らしいキャリア形成ができるように仕組みをつくっていきます。また、会社が一方的に取り組むのではなく、社員一人ひとりが能動的に参加できる仕組みづくりをすることで、健康経営の取り組みが自分ごととして進んでいくのではと考えています。
■プロフィール
山本智子(やまもと・さとこ)
株式会社ヤマハコーポレートサービス 経営管理部。
2008年にヤマハコーポレートサービスに入社後、育児休職を経て2015年より現職。労務管理・会社制度・人材育成等を担当しています。テレワークが多く運動不足を感じているので、休日は家族でウォーキングや湖畔サイクリングを楽しんでいます。
編集後記:キャリアリサーチLab研究員 矢部 栞
社員のことを考えた取り組みでも、なかなか浸透しない、理解してもらえないという課題もあると思いますが、地道で丁寧な社内広報で理解を広められているとのこと。「やらされている」と感じるのではなく、自分ごととして能動的に動いてもらうための工夫は、健康経営に限らずさまざまな取り組みを導入する際に大切であり、勉強になるインタビューでした。
また、2019年に開始したライフサイクル休暇が初年度に取得率100%になっているのも、こういった社内広報で理解が深まり、取得しやすい雰囲気になっているからだろうなと思いました。