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休暇制度と「休める職場」
~育休も取りやすい「休める職場」の作り方~

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

2022年4月から段階的に施行される「改正育児・介護休業法」。特に男性の育児休業取得率の向上を目的として、制度が改善されている。しかし、そもそも有給休暇ですら、年5日取得を義務化されないと取得率が上がらないほど「仕事を休む」という習慣がない日本人が、育児休業という長期間の休みを取るためには制度の改善だけで十分なのだろうか。今回のレポートでは、休暇取得の実態と休みを取りやすい職場の条件を探っていく。

目次

はじめに

育児休業取得のポイントは「日頃から休みやすい」職場環境

平成25年の育児休業制度に関する調査によれば、育児休業を取得した男性正社員が休業を取得できた理由の1位は「日頃から休暇を取りやすい職場だったから」となっている。また、取得意向はあったが育児休業を取得しなかった男性正社員が休業を取得できなかった理由を見ても、「日頃から休暇を取りづらい職場だった」が2位となっており、「制度が整備されていなかった」を上回っている。

育児休業を取得できた理由・取得できなかった理由/「平成25年度育児休暇制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」厚生労働省委託調査
※どちらも末子妊娠時に正社員だった男性
厚生労働省委託調査『平成25年度育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書』を元に作成

男性が育児休業を取りやすくなるためには、そもそも誰もが日頃からためらいなく休暇を取れる環境が整っていることが重要なポイントと考えられる。そしてそのような環境づくりは育児休業の問題に限らず、介護などいろいろな理由で離職せざるを得ない労働者がでるのを防ぐことにも繋がるといえる。
そこで本レポートでは、さまざまな休暇制度における「休みの取得事情と働き方、職場環境」について調査し、「日頃から休みやすい職場」に必要なことについて探っていく。

休暇日数の理想と実態

有給休暇日数:理想は平均12日取得、実態は平均8日取得(年間)

昨年1年間で「本来取得したかった有給休暇の日数」と「実際に取得した日数」をそれぞれ聞いたところ、本来取得したかった理想の休暇日数は平均で12日、実際に取得した日数は平均で7.9日だった。取得したかった日数は16~20日を挙げている人が多いが、実際に取得した日数を見てみると5日以下の人が約半数となっている。

昨年1年間の有休取得日数と理想の取得日数

介護のための休暇日数:理想は平均4日取得、実態は平均1日未満(年間)

介護が必要な家族がいる人(介護休暇の対象かどうかは問わず)に、昨年1年間で介護のために取得したかった休暇の日数を聞いたところ、1日以上休暇を取りたかった人は3割で、そのうち実際に取得した人は15%と半数以下に留まった。
休暇取得を希望した人が「取りたかった休暇日数」を平均すると約4日で、そのうち「実際に取得できた日数」を平均すると0.8日となり、介護のために取得したい休暇の日数と実際に取得した休暇日数には大きな差があることが分かる。

介護休暇の理想日数と取得日数、昨年1年間で介護休暇を取得した日数と理想の休暇日数

生理休暇日数:理想は平均10日取得、実態は平均1日取得(年間)

女性正社員に生理休暇について聞いたところ、生理休暇を取得したかった人は約2割、実際に休暇を取得した人は3.7%だった。取得したかった休暇日数は平均9.8日で、実際に取得した日数は昨年1年間で1日以下となっている。生理休暇を取りたいと感じていた人は一定数おり、毎月1日程度取れるのが理想だが、実際にはほとんど取得できていないことが分かる。

生理休暇を取得したかった日数と取得できた日数

育児休業を取りたかった日数に対して
100%(希望通りに)休業が取得できた人は、女性:約4割、男性:約2割

育児休業について昨年1年間の取得希望日数と実際の取得日数を聞いた。出産のタイミングによって育児休業の取得可能日数が異なるため、「取得を希望していた日数に対して実際に取得できた日数の割合」を
 取得日数:昨年1年間で実際に育児休業を取得した日数
 理想日数:昨年1年間に育児休業を取得したかった日数
として計算したところ、希望通りに取得できた男性は約2割に留まり、約7割の人は育児休業の取得を希望していても取得できていないことが分かった。今回の調査では、昨年の育児休業の取得日数が0日というのが、「休業を全く取得していない」のか「一昨年に育児休業を取得し、希望よりも育児休業期間を短縮したため昨年の休業日数が0日」なのかは定かではないが、希望していた日数通りには休業を取得できていないことが分かった。

育児休業について、希望した日数通りに休業取得できたか
育児休業を取得したかった日数に対して、実際に休業を取得できた割合

このように、どの休暇制度についても取得状況は十分とは言えず、希望の日数通りには休暇を取れていない場合がほとんどであることが分かる。

「休める職場」の要素

さまざまな休暇制度において、休みたい日数に対して十分に休みを取れていないことが分かったが、どのような環境であればより休みを取りやすいのか。「休みを取れなかった理由」や「休暇制度を利用できた理由」などの調査結果から休める職場の要素を探る。

有給休暇:休暇を取得したかった日に休まなかった理由
「自分が休むと業務が回らない」「他の人に負担がかかる」

有給休暇を取りたいと思った日に休まず勤務したことがある人に、その理由を聞いたところ最も多かったのは「自分が休んでしまうと業務が回らない状況だった」であった。また、「他のメンバーに業務負担がかかる」と回答した人も約2割となっており、休む必要性がなくなった場合を除くと業務状況によって休暇を取れなかった人が多かったことが分かる。

有給休暇を取りたかった日に取らなかった理由

有給休暇:取りやすくなった理由の上位
「会社や上司からの働きかけ」「自分の心掛け」「仕事の内容、進め方の見直し」

労働政策研究・研修機構(JILPT) の調査によると、2018年に有給休暇の年5日取得が義務化された後の2020年のアンケート調査では、義務化前の2017年と比較して有給休暇が取りやすくなったと回答した正社員が5割を超えた。その理由で最も多いのは「年休の年5日の取得義務化の施行」であるが、それに続いたのは「会社や上司などからの積極的な働きかけ」「自分で積極的に取るように心掛けた」「仕事の内容、進め方の見直し」だった。有給休暇の取りやすさには、制度の他に会社や上司からの働きかけ、自身の意識、業務体制が影響することが分かる。

3年前と比較した有給休暇の取りやすさ・有給休暇が取りやすくなった理由
JILPT『年次有給休暇の取得に関するアンケート調査(企業調査・労働力調査)』を元に作成

介護休業を取得する場合の懸念事項
「収入の減少」 「同僚への負担」「上司の理解」「復職時の適応」

JILPTの介護についての調査によると、介護休業取得時の懸念材料として、介護休業を取りたい人が「思う」と回答した割合が高かったのは「収入が減ると思う」「同僚に迷惑がかかると思う」が約9割となり、「上司の理解を得るのが難しいと思う」「復職するとき、仕事や職場に適応できるか不安」という回答が約6割で同程度の割合となった。
同僚への負荷と自身が職場復帰する際の適応への心配という業務上の懸念と、収入の減少への不安、上司の理解が得られるかという周りからの理解への懸念が強いことが分かる。

介護休業取得時の懸念材料
JILPT『介護休業制度の利用拡大に向けてー「介護休業制度の利用状況等に関する研究」報告書ー』を元に作成

レポートではこの記事で紹介していない調査結果についても言及しているが、休みを取れた理由や休暇取得できなかった理由など、さまざまな先行研究や調査結果から、「休める職場」に必要な要素とはハード面の「休暇制度・業務体制整備」と、ソフト面の「休みやすい雰囲気づくり・休暇取得への周囲の理解」ということが分かった。

「休める職場」にするために~ハード面で行うべきこと~

休暇制度の整備と周知:「休暇制度の有無が分からない」人は2~3割

自身の企業で定められている休暇制度の規定を聞いてみると、「制度がない」がもっとも多いのは生理休暇で24.4%。どの休暇制度も「制度があるかどうか分からない」人が2~3割いることが分かった。生理休暇については女性でも3割程度は制度の有無を知らない状態にあることが分かった。休暇制度が整備されていないことも問題ではあるが、制度があるかどうかを把握していない人も多く、制度の整備だけではなく周知が求められる。

自身の企業で、休業制度がどのように定められているか

業務体制の整備:休暇中の業務を、休暇中に自身で対応する人が約1割
「別の日に自分で対応する人」は休暇取得日数が多い傾向

1日程度の休暇を取得する場合、その日の業務はどう対応されるか聞いたところ、「予定をずらして別の日に対応する」人がもっとも多く35.8%だったが、 11.3% の人は「休み中に自分で対応する」と回答した。それぞれの有給休暇取得日数の分布を見てみると、「別日に自分で対応する」人がもっとも休暇を取得できている傾向にあり、反対に「休み中に自分で対応する」と回答した人は有給休暇を取得していない割合が高かった。また、他のメンバーや上司に対応してもらう人は別日に自身で対応する人よりも有給休暇取得日数が少ない傾向にある。休みの日の業務がどのように対応される体制であるかという点は、休暇の取りやすさに影響すると言えそうだ。

1日程度の休みを取得するとき、その日に対応するつもりだった業務はどのように対応されるか

レポートでは他にも、休暇を取得した際の周囲への影響や代替要員の配属についてなど、ハード面で休暇取得に影響する要素について考察しているが、重要なのは、まずは休暇制度を整備しその内容を周知すること、そして休んでも問題が起こらない業務体制を整えることであると分かる。

「休める職場」にするために~ソフト面で行うべきこと~

休みやすい雰囲気づくり:上司が休暇に対して働きかけをしているほど休暇取得日数が多い傾向

「職場の上司の休暇に対する姿勢」と「有給休暇の取得日数」をかけ合わせて見てみると、上司が部下の休暇取得状況について管理したり、声かけをしている人ほど有給休暇の取得日数が多いことが分かる。また、有給休暇の取得日数が0日という人は、上司が休暇について働きかけを行っている割合が低く、特に休暇の際に業務調整のフォローがない場合が多いことが見て取れる。

【有給休暇の取得日数別】職場の上司の休暇に対する姿勢

周囲の理解:どの休暇制度についても、
同僚に対して「積極的に取得してほしいと思う」が半数以上。
育児休業は男性の取得に対しても女性に対してと同じくらい寛容

同僚が介護・生理休暇や育児休業を取ることについてどう思うか聞いたところ、それぞれの休暇・休業について「どちらともいえない」がもっとも多く、その次に多いのは「業務調整さえできれば積極的に取得すべきだと思う」で、半数以上の人は積極的に休みを取得すべきだと考えていることが分かる。育児休業については、女性の同僚が取る場合と男性の同僚が取る場合の両方を聞いたが、どちらも大きくは変わらず、積極的に取得すべきとしている割合が多いことが分かった。また、生理休暇については女性の方が寛容な傾向あるが、男性と比べて極端に差が出ることはなかった。

同僚が休暇制度を利用することについてどう思うか

レポートでは他にも、休暇に対する会社の取り組みや同僚とのコミュニケーション量と休暇取得への寛容さの関係など、 ソフト面で休暇取得に影響する要素について考察しているが、重要なのは、 ハード面を整えたあとで会社や上司からの働きかけなどによる休みやすい雰囲気づくりを行うことと、職場内の一定の交流などによる休暇取得への理解であると分かる。


おわりに

本レポートでは、休暇を取りやすい環境づくりのためには、休暇制度を整備・周知したうえで、誰かが休んだ場合も業務を引き継げる・進めていける業務体制を職場ごとに整備するなど、休暇制度を利用しやすい環境をつくることが重要であることが分かった。この「休める業務体制」は休暇を取った場合に同僚にかかる負担を少なくすることに繋がり、「休みやすい雰囲気の醸成」にも繋がっていくだろう。また、「休暇取得への理解」も進めることができれば、さらに業務体制の整備への協力が得られて好循環に繋がると考えられる。

2022年の4月からは改正育児・介護休業法が施行され、育児休業について注目が集まると予想されるが、「休みやすい環境づくり」は育児休業を取りたい人だけに関わる話ではない。
多くの職場は「誰も休まない」ことを前提とした働き方で業務を進めていると考えられるが、それを見直して「様々な理由で休まざるを得ない状況が誰にもあり得る」「休むのはお互い様」の意識で業務体制や雰囲気の改善に取り組むことは、誰もが働きやすい環境づくりに繋がるのではないだろうか。本レポートでは、この記事で紹介している調査結果以外にもさまざまなポイントをまとめている。ぜひそちらも合わせて見て、働く環境を考えるきっかけにしてほしい。

キャリアリサーチLab研究員 沖本 麻祐

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