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オフィス環境を整備して”来たくなる会社”に(GMOインターネットグループ)
—健康経営を考える

矢部栞
著者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

少子高齢化社会による労働人口の減少や、長時間労働と残業の多さが課題とされる日本で、働き方改革が企業の重要な経営課題となっています。そして、働き方改革とともに企業の取り組みとして近年注目を集めているのが「健康経営(R)」(※1)です。

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に実践することです。従業員への健康投資を行うことで、生産性の向上、組織の活性化をはかります。シリーズ第四回となる今回は、福利厚生施設をはじめとするオフィス環境を整備し、豊富なプログラムで従業員の健康を支援するGMOインターネットグループ(東京都渋谷区)にインタビュー。健康経営に取り組むに至った経緯や成果を探っていきます。
※1:「健康経営(R)」は特定非営利活動法人健康経営研究会 (以下、健康経営研究会)の登録商標

企業紹介

まずは、GMOインターネットグループについてご紹介させていただきます。

会社名:GMOインターネットグループ
設立:1991年5月24日
事業内容:インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、暗号資産事業
従業員数:7,213名(2022年9月末時点 グループ合計数)

■おもな健康経営の取り組み
・カロリーや栄養バランスを意識したランチ提供 シナジーカフェ「GMO Yours」
・食後の昼寝推奨(シエスタ制度)「GMO Siesta」
・マッサージルーム 「GMO Bali Relax」
・オフィス内フィットネスジム「GMO OLYMPIA(オリンピア)」 など

上記以外にも、キッズルーム「GMO Bears」の設置や、「GMO アカデミア」ではエンジニア支援、学習支援などさまざまな取り組みをされています。
今回は、GMOインターネットグループ グループコミュニケーション部 グループファシリティチームの妻谷紗恵子様に、さまざまな取り組みを始めるに至ったきっかけやその効果などを詳しく伺いました。2019年に新設された、グループ第二本社にて取材させていただきましたので、施設の様子もあわせてご紹介します。

——充実した福利厚生の制度を整えていらっしゃいますが、このような取り組みを始めた背景を教えてください。

私たちGMOインターネットグループは、「お客様にもっとも喜ばれる”ナンバー1″のサービスを提供する」ことを目指して、さまざまな事業を展開していますが、自分たちの夢、ビジョン、フィロソフィーを体系立て、「スピリットベンチャー宣言」として明文化しています。この宣言には、私たちの夢や社会に果たす役割などのミッション、それを成し遂げるための事業戦略が示されているのですが、社員が共有すべきスピリットとして「GMOインターネットグループの仲間は皆ファミリーです。思いやりと優しさを持ち、グループ会社、仲間、パートナー、メンバーと呼ぼう。」という一文があります。 社員のことを“従業員”と表現してしまうと、どうしても“上の者から下の者に”というような上下関係が必然的に発生してしまいますが、そうではなくて、社員は会社というものをみんなで支えているパートナーであるという考え方を大切にしています。
そして、お客さまに世界一のサービスを提供するには世界中から優れたエンジニアやクリエイターなど素晴らしい人財が集まる魅力ある組織となり、パートナーのパフォーマンス向上が不可欠です。そのためには、家族であるパートナーの心と身体の健康を守っていくことが重要だと考え、そこから逆算してパートナーに世界一の福利厚生を提供するという方針が決まりました。

——福利厚生制度をどのように整備されてきたのか、具体的に教えていただけますでしょうか。

「シナジーカフェ GMO Yours」の様子

スタートは2010年10月のグループ全体ミーティングでの公約において、グループ代表の熊谷が「社員食堂と託児所を作る」と宣言したところからです。スピードの大変速いインターネット産業では、実にさまざまな競争やサービス革命が引き続き起こっています。 この業界で生き抜くためには、「人財」が重要であると私たちは考えております。「人がすべて」の産業であるからこそ、仲間を大事にするという姿勢が非常に重要であり、その考え方がプロジェクトにつながっています。
公募から選抜されたメンバーと総務担当、約20名で福利厚生の拡充プロジェクトを立ち上げました。そしてまず初めに、自分たちが働く環境をどのように整えていけばいいのか、パートナーのニーズを聞き取るアンケート結果もふまえながらプロジェクトメンバーで打ち合わせを重ねていきました。その結果、パートナーの関心が高いのはやはり仕事や生活を根本から支える食事やオフィス環境だということがわかりました。取り組みの第1弾としてパートナーに美味しいご飯、健康的なバランスがとれた食事を提供することのできる食堂の設置に着手することをきっかけに福利厚生施設の拡充を行っていったのです。 この食堂、シナジーカフェ「GMO Yours」は、食事をすべて無料で提供しています。専属栄養士が常駐し、献立管理はもちろんのこと、食材はすべて産地を表示し、安全安心な食材を提供しています。また、海外とのやり取りのあるパートナーや、深夜にお客様のサポートをするパートナーなど、さまざまな働き方やニーズに応えるため24時間、365日オープンしています。

——シナジーカフェ「GMO Yours」について、詳しくお話いただけますでしょうか。

併設されているカフェでは種類豊富なドリンクが提供されています

GMO Yoursは、働く仲間が気軽に集まり交流を図ることのできるコミュニケーションスペースです。多様な感性を持った人財が集い、刺激しあうことで、新たな技術やサービスが生まれる場となることを目指してつくられました。食堂のほかカフェもあり、常時約40種類の飲み物を提供しています。メニューのなかにはコーヒーショップで出すようなキャラメルラテなどもあり、本社とこの第二本社ビル(渋谷フクラス)のカフェで1日約3000杯の飲み物が出ています。

GMO Yoursは、イベントスペースとしても利用可能で、セミナーや社内のコミュニケーションを活性化するためのイベントを定期的に開催しています。また、金曜の夜はバーに衣替えし、生ビールや日本酒、ワイン、カクテル等のお酒とお食事を無料で提供しています。

——食堂の次に実現された制度について教えてください。

プロの施術が社内で受けられます

次に取り組んだのが、2011年7月に設置のマッサージ施設です。当社では、施術師に常駐していただいて、予約制で利用できるようにしています。仕事で疲れたらちょっと体をほぐして、また業務に集中していただきたいですし、慢性的な病気につながっていかないように健康に留意していただきたいと考えています。
その次は、2011年8月に設立の社内託児所です。女性活躍推進は、今ではもう当たり前の取り組みとして定着していますが、2010年代というとまだまだ一般的ではありませんでした。そんななか、社内に託児所を設けることで、お子さんが待機児童となってしまい職場復帰のチャンスを失ってしまわないように、そして働くお母さんだけではなくて、お父さんのご負担も減らすことができると考え、導入に至りました。これもやはり心と体の健康推進に結果的にはつながってくるに違いないと考えたのです。
また最近では、低用量ピル服薬支援サービスも福利厚生として導入いたしました。職種や雇用形態を問わず、グループで働くすべての女性パートナーを対象として利用者の費用の半額を会社が負担することで、本取り組みを通じて働く女性の健康課題の解決をサポートするとともに、産婦人科医監修のセミナー開催などを通じて女性の健康課題に対する周囲のパートナーの理解促進につなげることで、女性一人ひとりがより働きやすく、活躍できる職場づくりに力を入れております。

2012年7月にお昼寝スペース、2022年7月にはフィットネスジムも社内に設置しました。お昼寝スペースは予約制で、フィットネスジムは予約をすると確実にマシンを使用していただけます。もちろん無料で利用していただけるので、仕事の合間にちょっと仮眠を取って頭を休めたり、休憩中にストレッチや運動をしてリフレッシュできる施設として利用していただいています。これはグループ代表の熊谷も積極的に実践・推奨しています。

——サービスや施設の利用を無料にすると、大きなコスト負担になりますが、費用対効果やメリットについてはどのようにお考えでしょうか。

実は当社は、「無料で提供すること」にこだわっています。確かに費用は相当かかってしまいますが、パートナーには会社に来ることを一つの楽しみに感じていただけるといいなと考えているのです。それに、リラクゼーション施設にしてもお昼寝スペースにしても、仕事で疲れた頭を休ませることでリフレッシュでき、集中して仕事に取り組むことができるので生産性も上がると考えています。

私たちは、パートナーの心と体の健康を促進するためには何ができるか?ということをテーマに、10年以上にわたってさまざまな制度を導入してきましたが、具体的な成果目標を設定していたわけではないので、費用対効果を証明するようなデータは取っていません。それでも、パートナーの皆さんからはとても高く評価していただけていますし、会社全体の業績も2021年度まで13期連続増収を達成していますので、直接的ではないにしても大きな成果に結びついているのではいかと確信しています。

また、具体的な成果としてご提示できるわけではないのですが、人材の採用面でも応募者増につながっていると思います。福利厚生施設はインターンシップ学生でも利用できますので、口コミで情報が広がっていると思います。新卒学生も転職者も、福利厚生を意識する方が少なくないので、制度や施設が充実していることを魅力に感じていただける方は決して少なくないと思います。企業がパートナーのために良い取り組みを行うことで、自然と人が集まってくる、そんな効果があるように思いますし、結果的に優秀な人財の採用に結びついているように感じます。

——さまざまな取り組みをされてきたなかで、課題に感じていらっしゃることはありますか。

人気のお昼寝スペース。予約が取り合いになるという課題も

食堂で提供する食事については、当たり前のことですが、味付けの好みは千差万別なのでさまざまなご意見、ご要望をいただきます。塩分や油分を気にされる方もいらっしゃいますし、アレルギーを心配される方もいます。すべてのご要望にお応えできるわけではないのですが、カロリーや成分を明記してきめ細かく情報を提供しています。もちろん、食事以外の面でも、約7200名にものぼるパートナーの声をできるだけきめ細かくすくい上げられるように目安箱のような意見を集約する場所を設けています。

また、GMOインターネットグループのオフィスは、東京だけでなく大阪や北九州、宮崎などにもありますが、規模もさまざまですので、どこでもまったく同じサービスを提供することは現実的ではありません。今は、各事業所の状況に合わせて改善の取り組みを強化しているところです。私たちが最終的に目指していることの一つに「シナジーを生む」ことがありますので、どのオフィスのパートナーにも満足していただける福利厚生を提供したいと考えています。

——最後に、健康経営の導入を検討されている企業さまにアドバイスがあればお聞かせください。

夢・人生ピラミッド
「夢が、かなう手帳。byGMO」を参考にマイナビにて作成

私たちの場合は、パートナーの心と体の健康を促進するためにはどうすればいいか、働く人の環境を守るためにはどんな福利厚生が必要かということを目的にこれまで取り組んできましたので、健康経営そのものを意識していたわけではありません。代表の熊谷が提案している「夢・人生ピラミッド」においても、「健康」は「知識・教養」「心・精神」とともに、ピラミッドを支えるベースとなっています。
自分たちで考えたさまざまな取り組みを導入するなかで、結果的に健康経営に近い形になってきたわけですので、適切なアドバイスにはならないかもしれませんが、トライアンドエラーを繰り返してきたことだけは、確かです。

特にGMOインターネットグループの場合は、1995年にインターネット事業を開始して以来急速に成長しており、パートナー数も10年前と比較すると倍くらいになっていますので、企業の成長に制度を追いつけるように日々努力しています。少しでも働く人に健康な状態でいてもらいたい⋯⋯、そのためにはトライアンドエラーを続けていくしかないのだと思います。ニーズを踏まえて導入した取り組みでも、評価されないこともありますし、その都度、反省すべき点もでてきます。それでも、パートナーの皆さんがキラキラ輝いた笑顔で楽しく仕事をしてくれることを実感できたり、笑顔で食事をされている様子を見ると、がんばってよかった、自分たちがやってきたことに間違いはなかったとつくづく実感しています。


GMOインターネットグループ 妻谷様

■プロフィール
妻谷紗恵子(つまたに・さえこ)
GMOインターネットグループ株式会社 グループコミュニケーション部 グループファシリティチーム。
2017年にワイン屋さんに入社後、2021年にGMOインターネットグループへ転籍。パートナーがキラキラと楽しく働くために、福利厚生制度の提案や整備を行っている。

編集後記:キャリアリサーチLab研究員 矢部 栞
お客様に世界一のサービスを提供するためには、従業員の心と身体の健康が第一。そのためには、世界一の福利厚生を提供する必要がある……と、経営トップの企業理念をもとに働く人々の「健康」を第一に考える企業姿勢が強く印象に残りました。テレワークの普及が進むなか、「職場に行くことのストレス」に対する関心も高まっていますが、ほどよくリフレッシュできるオフィス環境があれば出社することのストレスも軽減され、業務の生産性も向上が期待できます。
また、みんなが集まりやすい職場環境を整備することで、メンバー間の相互コミュニケーションが活発になり、新たなアイデアやイノベーションが誕生しやすいというプラスの効果にもつながっているようです。パートナーのためを思って始めた取り組みが、結果的に会社の発展に寄与するさまざまなメリットを生んでいるというお話も印象的でした。働く環境の大切さを改めて感じるインタビューでした。


——次回も、健康経営に取り組む企業にインタビュー。とくに休暇制度に力を入れている企業にお話を伺いました。

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