「支援する人」の成長が利用者の幸せにつながる。障がい福祉を支える職員へのキャリア形成支援(株式会社就労センター)

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

厚生労働省が実施する「グッドキャリア企業アワード」の受賞企業を例に、「企業のキャリア形成支援の在り方」について考える本シリーズ。今回は、イノベーション賞を受賞した株式会社就労センターのキャリア形成支援の取り組みについてインタビューしました。

同社は障がい者の就労支援という事業において、職員の成果などが可視化しづらい環境で、キャリアを自律的に考える環境づくりや、職員の学びや成長を促進する仕組みづくりを整備してきました。

本稿では、職員のキャリア形成を支援する環境づくりを推進してきた株式会社就労センター 代表取締役の長井 映樹さんに、具体的な取り組みやそれによって得られた成果、今後の展望などについて伺いました。

株式会社就労センター
設立:2011 年
事業内容:障がい者総合支援法に基づく福祉サービス

株式会社就労センター 代表取締役 長井 映樹さん

株式会社就労センター 代表取締役
長井 映樹さん

『障がいがあっても地域で継続して暮らしていけるための支援の実現』を理念に掲げ、愛知県内11拠点にて障がい福祉事業所を運営。

法人の成長には、職員一人ひとりの成長が欠かせない、との考えのもと障がい福祉における職員のキャリア形成支援に取り組んでいる。
厚生労働省グッドキャリア企業アワード2024を受賞

ビジョンシートとクレドで、キャリア構築を日常の現場に落とし込む

Q:貴社はグッドキャリア企業アワード2024でイノベーション賞を受賞されていますが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

長井:私たちは「支援する人を支える」視点で、職員が安心してキャリアを描き、成長できる環境づくりに取り組んでおり、こうした継続的な実践が評価され、イノベーション賞を受賞いたしました。

ビジョンシート/株式会社就労センター様より提供
ビジョンシート/株式会社就労センター様より提供

その中核となるのが、入職時に作成する「3年後の自分ビジョンシート」です。目指す姿を言語化し、月次面談や1on1で具体的な行動に落とし込むことで、職員一人ひとりの成長を支援しています。

さらに、「目標管理シート」による定期的な振り返りと評価、自社の行動指針(クレド)や150ページに及ぶ研修資料を通じた価値観の共有など、仕組みとしての一貫性も確保しています。

加えて、私たちがもっとも大切にしているのが「心理的安全性」です。支援には正解がないからこそ、職員が安心して自分の考えを表現し、学び合うことができる風土が欠かせません。

その一環として導入しているのが「エルダー制度」です。新人職員に対して、身近な先輩職員が一定期間伴走し、段階的な育成を担う仕組みで、「あなたは一人じゃない」「ちゃんと見ていますよ」というメッセージを日々のやりとりのなかで伝えています。

たとえば、日々の行動をアプリに記録し、新人職員が入力した「できたこと・できなかったこと」に対して先輩がフィードバックします。単なる結果だけでなく、「なぜその行動を選んだか」という背景を共有することで、先輩の言葉もより的確で温かいメッセージとして伝えられます。こうした取り組みを通じて、支援の現場に“安心して挑戦できる空気”をつくり出しています。

私たちは、キャリア形成や学びを“特別な時間”ではなく、“日常の営み”として根づかせていくことが、福祉の現場における真のキャリア形成支援だと考えています。

個人の努力をチームの力へ、共通のキャリア観づくりに向けて

Q:職員のキャリア形成支援に力を入れるようになった背景や経緯はどのようなものだったのでしょうか。

長井:私たちが職員のキャリア形成支援に力を入れるようになったのは、組織が拡大していくにつれて、職員一人ひとりの努力が、必ずしも組織全体の方向性と一致しなくなってきていることに気づいたからです。

創業当初は拠点数も少なく、私自身が直接職員に方針を伝えられていたため、組織としての一体感が保たれていました。しかし、拠点が増えるにつれ、職員の支援スタンスや価値観にばらつきが生まれ、同じ法人でありながら“ちぐはぐ”な状態が見えるようになってきたのです。

決して、職員が手を抜いていたわけではありません。むしろ皆が一生懸命だったからこそ、真剣に取り組む方向性の違いが、組織のズレとして表れてきました。

そこでまず、法人としての理念や行動指針を明文化し、全職員に共有しました。しかし、それだけでは十分ではありませんでした。職員自身が「自分はこの先どうなりたいのか」「どんな人生を歩みたいのか」といったキャリアビジョンやライフビジョンを描けていないという課題があったのです。

当時は職員の継続率が課題だと感じており、どうすれば安心して働き続けられる環境をつくれるのか、模索を重ねました。そうしたなかで見えてきたのが、「法人の理念」と「個人の幸せ」をつなぐことの重要性です。

「利用者満足」のために「職員の安心と成長」に取り組む

長井:利用者の方が「ここに来て良かった」「生活が楽になった」と実感してくだされば、その声はご家族や相談員※にも届き、信頼や紹介へとつながっていきます。一方で、支援の質が伴わなければ、信頼を失い、事業の安定性にも影響が出かねません。

良い支援を提供し続けるためには、まず職員が安心して働けることが前提です。そして、自身のキャリアの見通しを持ち、成長を実感できることが、その安心感を支えると私たちは考えるようになりました。

私たちは、「職員の幸せ」を直接的な目的とするのではなく、「利用者の幸せ」を追求するなかで、職員のやりがいや成長が自然と育まれる――そうした循環を大切にしています。だからこそ今後も、職員が安心して学び、挑戦できるキャリア形成支援の環境づくりに、力を注いでいきたいと考えています。

※相談支援専門員:障がいのある方から相談を受け、障害福祉サービス事業所を紹介する役割を担っている。

利用者の居場所づくりのために、担い手となる職員の成長が何より重要

Q:キャリア形成支援を進めるなかで、どのような課題がありましたか?

長井:もっとも大きな課題は、キャリア形成支援や理念に基づく活動を、職員が「自分事」として捉え、日々の業務のなかで自然に実践してもらうことの難しさでした。

制度やツールを整備することは比較的容易ですが、「やらされ感」を伴わずに、取り組みを“当然の営み”として根づかせていくには、相当な時間と対話が必要です。私たちは、理念に共感し、その実現に向けて自ら動ける組織を目指してきましたが、当初は理念や方針が十分に浸透しておらず、取り組みの趣旨や意義が伝わりきらないという状況もありました。

「障がいがあっても地域で継続して暮らせる支援の実現」を理念に掲げ、そのための支援の柱として「居場所づくり」「やりがいづくり」「経済的安心」「住まいの支援」という4つを定めています。

特に、第一に掲げる「居場所づくり」は、支援の土台そのものであり、安心して過ごせる空間と、信頼できる人との関係性が何よりも重要です。この「居場所」をつくる担い手が職員であり、その職員が育つ土壌こそ、キャリア形成支援の本質だと考えています。

理念・4つのSTEP/株式会社就労センター様より提供
理念・4つのSTEP/株式会社就労センター様より提供

しかしながら当初は、理念や方針が明文化されておらず、評価も私個人の感覚的なものになってしまう部分が多く、「何をすれば評価されるのかわからない」「自分の支援のやり方が正しいのかわからない」という状況が心理的な不安につながり、離職にも影響していたと考えています。

Q:課題に対して、どのような取り組みを行ったのですか?

長井:課題の解決に向けて、私たちは「対話」と「可視化」に重点を置きました。まず、1on1面談を通じて、職員一人ひとりと定期的に向き合い、毎月フィードバックを実施しています。その際、「なぜ評価されたのか」「次にどのような行動が求められるのか」を、あいまいな表現ではなく、実際の行動に即した具体的な言葉で伝えることを徹底しました。

このプロセスを繰り返すことで、職員自身が「自分の成長を実感できる」「評価に納得できる」と感じられるようになり、目指す方向性を共有できるようになってきました。

さらに、こうした取り組みは一度整えば終わりというものではありません。理念の実現は、常に未完のテーマです。私は法人の代表という立場にありますが、職員には「理念のほうが私よりも上位にある存在です」と伝えています。たとえ代表であっても、理念に反しているのであれば、私が間違っているという姿勢を明確にしています。

こうした考えのもと、私たちは“理念至上主義”を掲げ、制度の運用や支援の実践に取り組んできました。この理念をぶらすことなく持ち続け、現場の声に耳を傾けながら、制度も運用も常に見直し、更新していく。それこそが、代表としての責任であると考えています。

“理念の伝道師”が灯す、現場に根づく成長の文化

Q:キャリア形成活動の重要性や方針については、どのように職員に理解を浸透させていったのでしょうか?

長井:キャリア形成活動を“やらされるもの”ではなく、“当たり前の営み”として根づかせるには、「誰が、どう伝えるか」が重要だと私たちは考えています。

私たちは「障がいがあっても地域で継続して暮らしていける支援の実現」を理念に掲げており、キャリア形成支援はその実現に欠かせない要素です。しかし制度の背景や意義が十分に伝わらなければ、「形だけの取り組み」にとどまってしまうという課題がありました。

そこで、管理職を“理念の伝道師”と位置づけ、代表である私から直接、制度の意図や理念とのつながりを伝える場を設けました。そのうえで管理職には、「会社が決めたから」「代表が決めたから」ではなく、「現状このような課題があって、この制度をこう活かしたい、だから協力してほしい」と、自らの言葉と意思で現場に語りかけてもらうようにしています。

このような伝え方によって新たな取り組みなどに対して、受け身な姿勢から、自ら課題を解決する手段として捉える意識が現場のなかで根づき始めています。

キャリア形成支援が生んだ「定着」と「信頼」。組織全体に波及する好循環

Q:キャリア形成支援を通じて職員や会社全体にどのような効果を与えていると感じますか?

長井:キャリア形成支援に取り組んできたことで、もっとも大きな効果は、職員の定着率と支援の質が共に向上し、組織全体に安定と信頼が生まれたことです。

支援職である職員は、人と人が深く関わる繊細な仕事です。職員が短期間で入れ替わると、利用者にとっては不安定な環境となり、安心して通所できなくなってしまいます。だからこそ、職員が長く安心して働ける環境をつくることは、利用者への支援の質を保つうえでも不可欠でした。

実際、1on1面談や目標管理を通じて成長を実感できる仕組みを整えたことで、離職率は約半分にまで低下しました。長く働く職員が増え、管理職の登用も外部からではなく内部から行えるようになり、組織の一体感や文化の継承にもつながっています。

また、他事業所から転職してきた職員からも「ここは体制がしっかりしている」「支援の仕組みが整っていて働きやすい」といった声が寄せられています。新入職員に対しては、入職時にオリエンテーションを通じて、理念や行動指針を丁寧に伝える体制も整えてきました。

その結果、「ここで働けて良かった」「安心して支援に向き合える」といった声が、現場から自然と聞かれるようになったのは、私たちにとって何よりの成果です。

法人の成長につながる「紹介の増加」という好影響も

長井:さらに、“営業活動”をしなくても利用者紹介が増えているのも大きな変化です。創業当初は100回以上営業に回っても紹介がゼロという時期もありましたが、今では「ここなら安心して(利用者さんを)紹介できる」と信頼を寄せていただき、紹介先の“第一想起”に挙げられる事業所へと成長してきました。その背景にあるのも、職員が安定して支援にあたり、利用者満足が高まっているからこそだと感じています。

キャリア形成支援は、単に「人を育てる仕組み」ではなく、信頼される組織づくりの土台です。職員のやりがいと利用者の安心が結びつき、それが法人全体の成長へとつながっていく。今では、キャリア形成支援の価値はますます大きいものだと実感しています。

キャリア形成支援は“時間づくり”から──DXで叶える学びと成長の土台

Q:キャリア形成支援や支援環境の整備に向けたDX化の具体的な取り組みについて教えてください。

長井:私たちは、職員一人ひとりのキャリア形成を支援するうえで、「振返り、考える時間」を確保することが不可欠だと考えています。福祉の現場では、日々の業務が煩雑で属人化しやすいため、DXで業務の標準化と省力化を進め、職員が本来向き合うべき支援や改善に集中できる環境づくりに取り組んできました。

たとえば、1on1面談の内容を記録・共有できるクラウドツールを導入したことで、評価の根拠が可視化され、フィードバックの質が向上しました。また、支援記録や業務進捗のデジタル化を行い、紙ベースで煩雑だった送迎表の管理については、社内でアプリを開発し、現在、運用の統一を進めています。これにより事業所ごとの業務のばらつきを解消し、現場の混乱を削減しつつあります。

インターネット学習の案内資料/
株式会社就労センター様より提供

さらに、職員はアプリ上で研修の申請や確認が可能となり、すきま時間を自己学習に活用しやすくなりました。ルーチン業務は「毎日・毎週・毎月・毎年」と分類し、自動通知で進捗を管理。対応漏れがある場合は管理部にも通知が届くため、属人化の防止にもつながっています。

突発業務はタスク管理アプリ、長期業務はプロジェクト管理ツールを活用し、誰が・いつ・何を行うかが明確になり、職員の自律的な行動を促しています。

こうした取り組みは、単なる効率化だけでなく、「職員が安心して成長できる環境」と「質の高い支援」を両立させるためのものです。福祉現場特有の課題を見据えたDXの活用を通じて、職員が自信を持って働ける土台を築き、キャリアの希望が持てる職場づくりを進めています。

未来の上司に希望を託せる職場づくりへ──キャリア形成支援の次なる挑戦

Q:今後、従業員のキャリア形成支援において取り組みたいことやさらに注力したいことがあればお聞かせください。

長井:今後は、「管理職という役割をより魅力的なものにしていくこと」に注力したいと考えています。上司が疲弊していたり、業務に追われていたりする姿を見れば、現場の職員はそのポジションに憧れを持ちにくくなってしまうからです。管理職自身がいきいきと働き、“理念の伝道師”として周囲に良い影響を与えていく。その姿を見て、「自分もあの立場を目指したい」と思えるような環境をつくっていきたいと考えています。

そのためには、管理職の業務負荷を軽減し、ミスや属人化を防ぐ仕組みづくりを今後も強化していく必要があると考えています。具体的には、国保連請求・勤怠管理・工賃計算などを担う管理部門の整備によって、現場職員が支援に専念できる体制を構築しています。

また、Webディレクターやプログラマ、デザイナーなど、福祉業界では従来想定されなかった職種も社内に取り入れ、DXの内製化にも取り組んでいます。こうした取り組みにより、PDCAを速やかに回せる文化が定着しつつあります。

今後も、法人として多様なポジションや役割を提示することで、職員一人ひとりが「この組織のなかで成長し続けたい」「自分もこんなキャリアを描きたい」と希望を描ける環境をつくっていきたいと考えています。

ライター:西谷忠和

沖本麻佑
担当者
株式会社マイナビ
MAYU OKIMOTO

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