「選べる」と実感できる環境をつくる。職業リハビリテーションが支える、障害のある人の自分らしいキャリア形成-筑波大学 人間系 教授 八重田 淳氏

キャリアリサーチLab編集部
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障害者雇用では、就職率や定着率が成果として語られがちです。しかし、就職はキャリアのゴールではなく、あくまでスタートにすぎません。本人が納得して仕事を選び、自分に合った働き方を見つけられているかどうかは、その後の働きがいや成長に大きく左右します。

「自分らしく働きたい」――その思いは、障害の有無にかかわらず、誰もが抱く願いではないでしょうか。しかし、障害のある人の中には、自分に合った仕事を見つけることや、働き続けることに不安や困難を感じている人も少なくありません。

一人ひとりが希望を持って職業を選び、自分の力を発揮できる社会を実現するためには、どのような支援が必要なのでしょうか。本コラムでは、職業リハビリテーションの視点から、職業選択をめぐる課題と、その後のキャリア形成を支える意義について、職業リハビリテーションカウンセリングを専門としている筑波大学の八重田淳教授に伺いました。

筑波大学・八重田淳教授

八重田 淳
筑波大学人間系 教授
リハビリテーションカウンセリング心理学、特別支援教育学、社会福祉学を専門とし、障害者の就労支援やジョブコーチ制度、学校から職場への移行支援、職業リハビリテーションの専門性に関する研究に取り組んでいる。アメリカの援助付き雇用やジョブコーチ制度に関する研究・実践にも精通している。

前回までの記事はこちら
選ばされる就労から、選ぶキャリアへ -就労選択支援制度が問いかける、障害者雇用のこれから

職業リハビリテーションとは?

質問:まず職業リハビリテーションについて教えてください。

八重田:職業リハビリテーションとは、障害のある人が職業選択とキャリア発達を通して自身の生きがいを高めるための支援の総称です。

ILO(国際労働機関)の「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)」では、職業リハビリテーションの目的を、「障害者が適切な職業に就き、それを継続し、職業上の向上を図ることで、社会への統合または再統合を促進すること」としています。

日本の障害者雇用促進法では、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他法律に定める措置を講じ、障害者の職業生活における自立を図ること」とされています。

表現や重点の置き方には違いがありますが、いずれも、仕事に就くことだけではありません。就労の継続や職業上の向上、職業生活における自立までを支援の対象としています。

「雇用すること」から「人生を支えること」へ

質問:職業リハビリテーションは障害のある人の雇用やキャリア形成において、どのような役割を果たしているのでしょうか。

八重田:私は、職業リハビリテーションを、法律や制度で定義されている範囲よりも、もう少し広い概念として捉えています。「リハビリテーション」という言葉には、本来、失われた権利や尊厳、自分らしさを取り戻すという意味があります。ですから、職業リハビリテーションとは、仕事を通じて、その人が自分らしさや誇りを取り戻していくプロセスでもあるのです。

障害者雇用では、採用人数や法定雇用率の達成に目が向きがちです。しかし、大切なのは「どこに就職したか」だけではありません。本人が納得して仕事を選び、経験を重ねながら、どのようなキャリアや人生を築いていくのかという視点が欠かせません。

その意味で職業リハビリテーションは、就職を成立させるための制度にとどまらず、一人ひとりが自分らしく働き、生きていくことを支える考え方でもあると、私は考えています。

納得して選ぶことが、キャリアの出発点になる

質問:職業リハビリテーションの視点から見て、「就職できていること」と「納得して職業を選べていること」には、どのような違いがありますか。

八重田:就職は、収入を得て生活の基盤を整え、社会の中で役割を持つうえで重要です。ただ、仕事に就いているというだけでは、その仕事が本人の希望や適性に合っているかまでは分かりません。

「納得して職業を選べている」とは、自分が何を大切にしたいのか、どのような働き方にやりがいや喜びを感じるのかを踏まえ、「自分でこの仕事を選んだ」と受け止められていることです。

その納得感は、仕事で困難に直面したときに乗り越える力となり、満足感や誇りにもつながります。反対に、就職すること自体がゴールになると、「仕事があるだけでよい」と考え、本来の可能性にふたをしてしまうこともあります。

障害者雇用では、就職後に職場に定着していることが成果として評価されやすい傾向があります。もちろん定着は大切ですが、本人が今の仕事にどのような意味を感じ、どのようなキャリアを築いていきたいと考えているのかという視点も欠かせません。

納得して職業を選ぶことは、自分の価値観に照らして働き方を考え、これからのキャリアを主体的に形づくっていくことだと思います。

職業選択の鍵は「情報」ではなく「経験」と「支援の質」

質問:障害のある人が職業選択を難しいと感じることが多いようです。その課題はなんでしょうか?

八重田:情報が不足していると感じる人もいるかもしれませんが、「情報不足」が最大の問題かというと、必ずしもそうは思いません。今はむしろ情報が多すぎて選べない時代です。私が大きな課題だと感じているのは、「経験」と「支援の質」です。

仕事は、実際に体験して初めて、自分に合うかどうかが分かる部分があります。知的障害のある人を対象とした研究でも、地域で賃金を得て働いた経験が、その後の就職や職業生活に良い影響を与えることが示されています。そのため、学生時代のアルバイトや職業体験には大きな意味があります。

もう一つは、職業選択を支える「支援の質」です。日本では障害者雇用と就労支援の制度は整ってきたものの、本人の価値観や可能性まで踏まえて伴走できる、専門性の高い支援者は十分とはいえません。障害特性だけでなく、キャリア形成や労働市場なども理解した専門職を育てる必要があります。

私は、障害のある人の職業選択を支える専門職の養成に、もっと力を入れる必要があると考えています。アメリカでは、大学院レベルで職業リハビリテーションの専門職を育成する仕組みが整備されています。もちろん制度をそのまま取り入れればよいわけではありませんが、専門的な教育や研究に継続して投資するという考え方は、日本でも参考になるはずです。

職業選択を支える専門人材と、その育成をめぐる課題

質問:障害のある人の就労選択を支える支援者には、どのような役割が求められているのでしょうか。

八重田:支援者に求められるのは、就職先を紹介したり、定着を支援したりすることだけではありません。本人が何を大切にしたいのか、どのような働き方を望んでいるのかを一緒に整理し、納得して選択できるよう伴走することです。

そのためには、障害特性に関する知識だけでなく、キャリア形成や心理学、労働市場など、幅広い知識と高度な専門性が求められます。

日本では、地域障害者職業センターを中心に、障害者職業カウンセラーやジョブコーチが重要な役割を担っています。しかし、障害者職業カウンセラーは全国で約500人と限られており、多様化するニーズに十分対応できているとは言えません。

今後は、制度や資格を整えるだけではなく、専門職を継続的に育成できる教育・研究基盤を充実させることが重要です。質の高い支援者が増えることで、一人ひとりが納得して職業を選び、キャリアを築いていける社会に近づくと考えています。

選択肢を広げることが、主体的な職業選択につながる

質問:障害のある人が主体的に職業を選択するためには、どのような環境が必要でしょうか。

八重田:大切なのは、本人が「自分には選択肢がある」と実感できる環境をつくることです。自己決定が尊重されていても、選べる仕事が限られていれば、本当の意味で主体的な選択とはいえません。

特別支援学校などでは職業教育や実習が行われていますが、それだけで自分に合った仕事を見つけられるとは限りません。世の中には多くの職業があり、そのすべてを経験することはできないからです。だからこそ、「この仕事ならできる」という範囲にとどめず、「こんな仕事にも挑戦できるかもしれない」と可能性を広げていくことが重要です。

また、職業選択は一度で終わるものではありません。働き始めた後も、自分に合った働き方を振り返り、必要に応じて選び直してよいのです。

そのためには、本人が安心して相談できる環境も欠かせません。家族や友人、支援者など、一緒に考えてくれる人がいることで、新しい選択肢にも挑戦しやすくなります。

誰もが挑戦し直せる社会をつくるために

質問:今後、企業や支援者、制度には、どのような変化が求められるのでしょうか。

八重田:これからの障害者雇用では、企業や支援者、制度が、それぞれの立場から長期的なキャリア形成を支える視点を持つことが重要です。

企業には、採用したら終わりではなく、一人ひとりの成長やキャリア形成を見据えた支援が求められます。上司やジョブコーチなどが、本人の変化に応じて継続的に伴走できる体制も必要でしょう。

制度についても、就職率や定着率だけでなく、本人が納得して働き続けられているか、キャリアを築けているかという視点を取り入れていくことが重要です。

私が職業リハビリテーションの研究を通して一貫して考えてきたのは、「どうすれば人は幸せに、健康に働き続けられるのか」ということです。職業は、そのための手段にすぎません。

障害のある人一人ひとりが、自分らしい働き方を選び、必要であれば挑戦し直すことも認められる。そうした社会を実現するために、企業、支援者、制度、そして私たち一人ひとりが、その人の可能性を信じ、長い目でキャリアを支えていくことが大切だと思います。

穂刈顕一
担当者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

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