「我慢」から「挑戦」へ-SHIFTに見る、業務再設計がひらく障がい者のキャリア

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

前回のコラムでは、障がい者雇用における「職場定着」が単に在籍期間の長さを意味するものではなく、本人が自らの状態を言葉にし、必要に応じて働き方を選び直せる環境こそが、結果として「働き続けられる」ことをお伝えしました。制度が整っていても、業務内容が固定化され、キャリアの見通しが描けない状態では、当事者にとって定着は「我慢」になりかねません。

今回は、その問いに対する実践例のひとつとして、株式会社SHIFTの取り組みを取り上げます。同社のビジネスサポート部では、業務をあらかじめ細かく分解し、難易度や特性に応じて再設計することで、障がいのある社員が一般社員とほとんど変わらない業務を担いながら、資格取得や役割の変化を通じてキャリアを重ねていく仕組みを築いてきました。

同部門の責任者である大泉将さんと、テストエンジニアとして働く障がい者当事者吉本祐太さんに、業務再設計の発想と、その先にあるキャリア変化の実際について話を聞きました。

株式会社SHIFT
事業内容:ソフトウェアの品質保証、テスト事業

【プロフィール】
大泉 将(おおいずみ・まさる)※写真左
求人広告・人材サービス企業でマーケティングや採用支援に従事したのち、教育・福祉領域で障がい者の就労支援や地域の雇用促進を担当。2021年にSHIFTに入社。現在は障がい者雇用を推進するグループの責任者として、150名をこえるメンバーのマネジメントおよび業務設計を担う。

吉本 祐太(よしもと・ゆうた)※写真右
テストエンジニアとして活躍する障がい者当事者。入社前は、食品小売企業にて、部門責任者として製造から在庫管理など幅広く従事。2022年にSHIFTに入社。ソフトウエアテストを実施するエンジニアとして勤務しながら社内検定に挑戦し合格。現在はテスト設計者として業務を担うかたわら、この学びの経験をチーム内にも横展開すべく、チーム内勉強会なども主催している。

業務の切り出しによる活躍領域の拡大

質問:まずは、貴社の障がい者雇用についての考え方を教えてください。

大泉:SHIFTはこれまで、優秀なエンジニアの数と一人ひとりの価値が企業成長につながるという考え方のもと、人材戦略を推進し、より高いパフォーマンスで長く働ける人事施策を打ち出してきました。

バックグラウンドにとらわれず、人柄やカルチャー、ポジションとの相性を重視しています。その結果、IT業界出身者に加えて、アナウンサーや動物看護師、塾講師など異業種出身の方も含めて、さまざまな経歴の方が活躍しています。このように、個人のバックグラウンドにとらわれない採用と成果を重視した評価を実施し、多様な文化や価値観を尊重する風土があるため、障害の有無に関わらず、一人ひとりが挑戦し活躍できる環境があります。

私たちビジネスサポート部は、配慮やケアを必要とする人たちが安定してパフォーマンスを最大化できる仕組みを構築する部署です。障がい者雇用の法定雇用率を満たすための取り組みではなく、事業や会社の成長に貢献する大切な仲間として捉えており、障がいの有無ではなく、どのような成果を出したかが価値として評価されています。

業務そのものの再設計という考え方も、私たちの根幹にあります。ソフトウェアテストをサービスとして事業化し、成長を続けてきたSHIFTの基盤には、業務を分解・標準化して生産性を高めるという考え方があります。これはSHIFTのコアコンピタンスで、ベテランに属人化しがちな業務を分解・分業することで効率を向上し、経験の浅い人材でも活躍できる仕組みづくりを実現しています。それまでエンジニアにしかできなかったテストを、未経験の方でもできるように仕組み化したのです。

ビジネスサポート部では、この考え方をもとに各チームの業務の難易度を3段階に分解し、定型的な低難易度の業務から、判断やコミュニケーションを伴う高難易度の業務まで、それぞれの段階に応じて担っていただける仕組みを整えています。

コロナ禍以前、障がい者雇用で採用された社員の多くは出社を前提に働いていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、業務のリモート化が急速に進んだことで、それまで行っていた業務の継続が難しくなるケースも少なくありませんでした。

当時は、ビジネスサポートグループの役割や業務内容が社内で十分に認知されておらず、障がいのある社員がどのような業務を担えるのかについても理解が進んでいない状況でした。そのため、働き方の変化に対応するなかで、新たな業務の創出や役割の再定義が求められることになったのです。

そこで全部署を対象に業務を体系的に調査し、「ここは難しいが、ここならできる」というように分解して提案しながら、業務を切り出していきました。こうした積み重ねが、その後の拡大につながっています。

評価とAI活用が、次の挑戦を後押しする

質問:貴社における障がい者のキャリア形成とそれを支える組織の仕組みや文化について教えてください。

大泉:ビジネスサポート部は人事本部のなかにあり、1グループから3グループに分かれています。1グループは各部署から依頼された業務を遂行する部署、2グループはテストの領域を担う部署、3グループは障がいのある方の採用や新規企画、組織の仕組み作りを担う部署です。

組織の体制としては、グループ長の下にマネージャー、アシスタントマネージャー、リーダー、メンバーという階層があり、メンバーから入ってリーダー、アシスタントマネージャーへと登用された手帳取得者の方もいます。ビジネスサポート部としては、キャリアを築いていくという意味でも、障がいのある方がもっとさまざまな役割を担っていけるような組織にしていきたいと考えています。

大泉:評価については、全社の人事制度・職級定義に則りながらビジネスサポート部独自の評価指標を作成し、評価の基準やキャリアの道筋をメンバーに明確に示しています。半期に1回の評価のなかで目標設定や振り返りを行い、一人ひとりが希望するキャリアを実現できるようにマネジメントするメンバーとすり合わせています。障がいの有無にかかわらず、成果と成長にあわせて、全社と同じように評価する文化を踏襲しています。

検定を通じて一段階上の役割に挑戦することができたり、長年やりたかった仕事を実現できたりした例もあります。メンバーからリーダー、アシスタントマネージャーへと役割を拡げた例もあり、こうした挑戦機会を通じてキャリアパスを創出してきました。

一定の成果は出てきたものの、次のフェーズの課題も見えてきました。社内のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の体制上、作業領域の比率が高く、やりがいのある高度な業務に挑戦する機会が限定的になりやすいこと、キャリアアップやスキルの向上が頭打ちになりやすいこと、件数処理型の業務になりやすく業務の背景理解やプロフェッショナル化が進みにくいことです。

組織の拡大をしていくにあたって、業務量に加えて、業務の質を高めメンバーの成長につなげる必要があるという課題認識がありました。また、社内でAI活用を積極的に推進する流れがあったことから、ビジネスサポート部でもAI活用の推進に取り組みました。

業務は判断と作業に分解できます。これまで人が時間をかけていた作業の部分をAIに任せ、人はAIが出したアウトプットが正しいかどうかの判断に集中するという仕組みを作ってきました。全員がAIの専門家になる必要はなく、それぞれが自分に合ったレベルでAIを使いこなせれば十分だと考えており、一人ひとりの活躍の幅を狭めずに、それぞれのやり方でAIと向き合える環境を作ることをゴールとしてきました。

結果として、難易度の高い業務にもAIを活用した自動化が広がり、メンバーのなかには私よりもAI活用に長けている人も多くいます。AIの活用は時短だけでなく、自己理解や説明力といった思考のレベルを上げることにもつながっており、メンバーの働きやすさにもつながっていると感じています。

まずやってみることから、すべては始まる

質問:障がい者雇用を推進しようとしている企業に向けて、もっとも伝えたいことは何ですか?

大泉:まずやってみることが大きいと考えています。今回は私たちの取り組みについてお話しましたが、当初は全くできていないところがたくさんありましたし、進めていくなかで失敗も重ねてきました。試行錯誤しながら課題にぶつかり、そのつど変えていくということを、ここ10年ほど続けてきたと感じています。

いきなり成功するのは難しいと思いますので、まずは実践のなかで取り組みを拡大したり、新しいことに挑戦したりしていくことが大切ではないでしょうか。すでに成功している企業も多くありますので、そうした企業から話を聞きながら進めていくのもよいと思いますが、まずはやってみるというところが、もっとも大切なポイントではないでしょうか。

未経験から始めたテスト実行者としての一歩

それでは、ここからは障がい者当事者の吉本さんにもお話をお伺いしていきたいと思います。

質問:入社前はどのようなキャリアを考えていましたか?また、業務で難しいと感じたことや乗り越え方を具体的に教えてください。

吉本:以前は、食品業界で部門責任者として正社員で勤務していました。ただ、残業が多く体調を崩してしまい、その後就労移行支援に通い始めてから、2022年にSHIFTに入社しました。私は精神障がいのうつ病という形で手帳を取得しています。

入社前は、テストエンジニアという職種自体を知りませんでした。もともと趣味でパソコンに触れていたので、エンジニアという仕事については漠然と知っていましたが、テストエンジニアが具体的に何をする仕事なのか調べていくうちに、魅力的な職種だと感じ、SHIFTへの入社を決めました。

入社直後はテスト実行者としてキャリアをスタートし、指示されたとおりに着実に実行することをもっとも大切にしていました。業務のなかで最初に難しいと感じたのは、テストで見つかった不具合(バグ)をお客様に向けて起票(報告)する場面です。最初のうちは、言葉遣いばかりを意識してしまい、伝えたいことがぼやけてしまうということが多くありました。

経験を積んでいくことで、文章が次第に整理されるようになり、伝えたいことをしっかり伝えられるようになっていきました。当時のプロジェクトマネージャーからも、入社当時に比べて文章がまとまり、伝わりやすくなったというフィードバックを受け、それが自信につながりました。そこから、さらにステップアップして次の段階に進みたいという思いが強くなくなっていきました。

資格挑戦が開いた、設計者への道

質問:スキルや専門性が身についたと実感されたことを教えてください。入社前と比べてご自身のキャリア変化で、どのような影響を与えたのかについて教えてください。

吉本:入社前はテストエンジニアという仕事自体をよく知らなかったため、キャリアについても漠然としか考えられていませんでした。実際に働き始めて1、2年が経った頃、テスト設計者やプロジェクトマネジメントといった役割について深く知り、そこから明確にキャリアを描き始めたと感じています。

スキルが身についたと実感したのは、不具合の起票で言葉遣いに苦労した経験を乗り越えた頃です。こうした変化は、定期的な面談だけでなく、上司との雑談のなかでも話題に上ることがありました。

社内の資格試験への挑戦も、キャリアの見え方が変わった大きな出来事です。社内には、合格することで一つ上の役割に挑戦できる「トップガン」という独自のキャリアUP制度(社内検定)があり、自分の実力を試したいという気持ちと、正社員を目指すうえで実績を示したいという思いから、合格を目指しました。

トップガンの合格を一つのきっかけとして正社員になり、現在はプロジェクトリーダーやレビュワーに相当する社内検定に挑戦している状態です。テスト実行者から設計者という、明確な違いのあるキャリアが見えてきたと感じています。

周囲との関わり方にも変化がありました。同じテストチームのなかには、テスト実行者のメンバーも多くいます。私自身はテスト設計者として実務経験があるため、設計者を目指しているメンバーに向けて、テスト設計の進め方を教えるチーム内の勉強会、雑談ベースでの会話などを行うようになりました。

テスト案件にアサインされている際は、同じチームではなく他部門、いわゆる一般雇用の方たちと一緒に仕事をすることが多くあります。もちろん合理的配慮については考慮していただけますが、それ以外は、障がい者雇用だからと特別に気を使われることはなく、一般社員として自然に働けているという感覚があります。

さらにキャリアの変化として、働き方の面では、現在は仕事とプライベートをしっかり切り替えることを意識しています。以前は仕事が終わっても常に仕事のことを考えている状態になっていましたが、そうした経験のなかで体調を崩してしまったため、今は仕事中には仕事のことだけを考え、プライベートでは仕事のことを考えないように、メリハリをつけることを強く意識しています。

「最初の一歩」を踏み出す勇気を

質問:これからも今の働き方を続けていけるか悩んでいる障がいのある方に向けて、これまでのご自身の経験を踏まえ、キャリアを築くうえで大切なことやメッセージを教えてください。

吉本:何事も萎縮せずにチャレンジしてほしいと考えています。私自身もうつ病という障がいを抱えており、ネガティブなことを考えてしまったり、心配事が増えて不安に感じてしまったり悩んだりすることが多くありますので、そのような気持ちはよくわかります。考えたり悩んだりすることは短所だと思われがちですが、悩むことができるというのは物事を多角的に見られるということでもあるため、長所にもなり得ると個人的に思っています。

不安に感じてしまうのは、考えている対象を深く知らないからという場合がとても多いため、まずは経験を積んでほしいと思います。経験をたくさん積むことで、柔軟な対応や物事の判断ができるようになり、そこから成長につながると考えています。怖いと感じるかもしれませんが、なんとか最初の一歩を踏み出せるよう、勇気を出してもらえればうれしいです。

穂刈顕一
担当者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

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