はじめての障害者雇用でつまずかないために~知っておきたい「合理的配慮」を解説~

穂刈顕一
著者
キャリアリサーチLab編集部
KENICHI HOKARI

障害者雇用では、「どんな仕事が任せられるのかわからない」「どこまで配慮すればいいのか不安だ」というような戸惑いや不安は、多くの人事担当者が最初に直面する壁である。また「設備投資や調整コストが負担になるのではないか」と懸念する人事担当者も少なくないだろう。

しかし、その悩みの本質に改めて向き合うと「どうすれば力を発揮できる環境をつくれるか」という試行錯誤のプロセスである。

本記事では、合理的配慮の考え方を通じて、障害者雇用を“特別対応”ではなく“組織を強くする取り組み”として捉えるヒントを解説する。

できないことに注目する社会から抜け出せるか

企業の人事担当者と話をしていると、障害者雇用について次のような声を耳にすることがある。

「職場で配慮の仕方が難しい」「配慮がやりすぎになっていないか不安だ」

こうした戸惑いは、決して特別なものではない。むしろ、多くの企業が直面している“自然な疑問や不安”だろう。しかし、この不安の背景には、障害の捉え方そのものが大きく関わっていることは、あまり意識されていない。

ここからは、その背景について解説していく。

医学モデルと社会モデルの違い

「障害者」の概念は、国際的には明確に整理されている。WHOが提示したICF(国際生活機能分類)では、障害に関する主要なモデルとして次のように示されている。

それが「医学モデル」と「社会モデル」である。医学モデルは、障害を「個人の機能の問題」として捉え、治療や訓練によって改善・適応していくことを重視する考え方である。

一方で社会モデルは、「できない理由」を個人だけに求めるのではなく、職場環境や制度、周囲の理解といった“社会の側にある障壁”に目を向ける考え方である。

たとえば、聴覚障害者では「電話対応が難しい」という場面。医学モデルであれば「その人には、音が聞こえないから難しい仕事」と整理されがちだが、社会モデルで考えれば「チャットやメール中心の業務設計に変えられないか」「役割分担で活かせる仕事はないか」と発想を転換して調整することができる。

つまり、「何ができないか」ではなく、「どうすればその人の力を活かせるか」へと問いが変わるのである。

合理的配慮とは何か?

この社会モデルを、制度として具体化した概念が「合理的配慮」である。たとえば身近な例でいうと、階段だけでなくスロープの設置をすることや、筆談への対応などがこれにあてはまる。

また、厚生労働省が障害者差別解消法において、合理的配慮は、「社会的なバリアを取り除くために、過重でない範囲で行う必要かつ適切な調整」と定義している。

さらに国際的には、国連障害者権利条約において、「過度な負担を課さない範囲で、個別に必要な変更や調整を行い、他者と平等な権利行使を可能にするもの」と定義されている。

この視点の転換は、障害者とともに働く職場やマネジメントを行う上でも大きな意味を持つ。なぜなら、社会モデルに基づく環境整備は、障害のある社員だけでなく、すべての社員にとって働きやすい職場づくりにつながるからである。

実際、段差の解消や業務の可視化、柔軟な働き方の導入といった取り組みは、誰にとっても生産性や安心感を高めるものになる。社会の側にある障壁を見直すことは、「特別な配慮」ではなく、「組織を強くする投資」ともいえるだろう。

大切なのは、「個人か、社会か」という二項対立ではなく、両方の視点を持ちながら、最適な働く環境を一緒につくっていくことである。

障害者雇用とは、単に法律で定められた雇用率を満たすための取り組みではないだろう。重要なのは、一人ひとりの違いを前提に置きながら、「どうすれば共に働くことができるのか」を問い続ける姿勢ではないだろうか。

その問いに向き合う具体的な枠組みの一つが、「合理的配慮」である。そして制度を満たすことではなく、対話を重ねながら働き方を共に創り上げていくことが本質であるといえるだろう。

だからこそ、先述した「不安」や「戸惑い」は、その第一歩である。そこから一歩踏み出し、「社会の側を少し変えてみる」という選択をしたとき、職場はきっと、今よりも柔軟で、強く、そして優しい場所になっていくのではないだろうか。

合理的配慮の具体的なポイント

個別性(ケースごとに異なる)

「同じ対応をすること」が公平とは限らない。ここで誤解されがちなのが、「みんな同じ対応をすること=公平」という考え方である。

しかし実際には、人によって前提条件は大きく異なる。たとえば、視覚障害者が「資料を読む」という一つの行為でも、「そのまま読める人」「拡大が必要な人」「音声化されていないと読めない人」「点字でないと読めない人」が存在する。

この違いを十分に意識しないまま職場に配属されると、現場ではちょっとした「前提のズレ」が生まれやすくなる。先述した例でいえば、視覚障害のある社員に対して、「資料を拡大すれば読めるはず」という思い込みのもとで業務が進んでしまうケースである。

本来であれば、どのような方法で情報を得やすいのかを本人と丁寧にすり合わせる必要がありますが、そのプロセスが省略されてしまうと、本人が無理をしながら業務に適応せざるを得ない状況が生まれてしまうこともしばしばある。

また、過去の受け入れ経験がある職場ほど、「前回は問題なかったから同じ対応でよいだろう」といった“標準化”が行われることも少なくない。

しかし、障害のあり方や働き方のニーズは一人ひとり異なる。同じ「視覚障害」であっても、見え方も得意な作業も大きく違うのである。この個別性を見落としてしまうと、結果的に本人と職場との間に認識のズレが生じ、双方にとって負担の大きい状態を招きかねないだろう。

だからこそ重要なのは前例に頼るのではなく、時間をかけて丁寧に「目の前のこの人にとって最適な働き方は何か」を対話を通じて見つけていく姿勢ではないだろうか。

対話性(当事者とともに決める)

合理的配慮には、あらかじめ決まった正解は存在しない。同じ障害種別であっても、課題も働き方もまったく異なるのである。

だからこそ、「どこに困っているのか」「どの対応が現実的か」を当事者と職場が一緒に考えるプロセスが不可欠となる。この対話のプロセスそのものが、合理的配慮の核心である。

権利の調整

合理的配慮は「優しさ」や「善意」に基づくものではなく、働く機会を平等に保障するための仕組みである。つまり、「特別扱いではない」「わがままでもない」「追加サービスでもない」ということで、当たり前に働くための前提条件なのである。

一方で、この考え方を「権利だから」と過度に主張してしまうことにも注意が必要である。合理的配慮は、一方的に要求を通すものではなく、個々の状況に応じた「調整」のプロセスでもある。そのため、配慮を求める側も一度立ち止まり、「これは本当に合理的な内容になっているか」「職場にとって過度な負担になっていないか」という視点を持つことが大切である。

このように考えると、合理的配慮とは単なる「配慮」ではなく、誰もが同じように働ける環境を整えるための「権利保障のための調整行為」といえるだろう。

企業での合理的配慮は働き方の投資

企業の現場では、合理的配慮が「コスト」として語られることは少なくない。設備の調整や業務の見直し、コミュニケーションの工夫などを追加の負担と捉えてしまうことにある。

しかし実際には、少し視点を変えるだけで、この理解は大きく変わる。合理的配慮の本質は、単に「個別に対応する」ことではない。むしろそれは、「業務の流れを見える化する」「複雑になったプロセスを整理する」「情報共有の方法を見直す」といった、組織全体の業務プロセスを問い直すきっかけになる。

たとえば、「口頭でしか伝えていなかった業務」を文書化することで、「新入社員も理解しやすくなる」「職場でのミスが減る」「引き継ぎがスムーズになる」といった変化が起きる。これはもはや、特定の誰かのための配慮ではない。組織全体の生産性を高める改善そのものともいえるだろう。

つまり合理的配慮とは、コストとして消えていくものではなく、組織をより強く、働きやすくするために積み上げていく投資である。

働きやすさは「対話」でしか作れない

合理的配慮の本質は、制度ではなくプロセスにある。先述の厚生労働省の定義でも合理的配慮は「対話を通じて決定すること」が重要とされている。つまり、「何が困っているのか」「どこまで対応可能か」「どの形が最適か」を一緒に設計する行為である。実はこの対話こそが、信頼関係を生み、長期的な定着へとつながる。

企業の現場では、採用選考や健康診断、顧客先への訪問といった場面で、その都度調整が必要になる。

合理的配慮の当事者視点の事例

ここからは、当事者視点からの合理的配慮の一例を紹介する。たとえば、「私は視覚障害があり、盲導犬とともに通勤している。」この話をすると、企業の多くの方は「職場に盲導犬は入れるのか?」と驚かれる。結論からいえば、法律上は明確である。身体障害者補助犬法により、企業や公共施設は、「盲導犬の受け入れを原則拒否できない」(義務化)とされている。

これは単なる「配慮」ではなく、制度としての「義務」である。一方で、盲導犬が理由で採用選考の不合格理由になったり、受け入れが現実としてできなかったりということもよく当事者同士の話題になる。

なぜ受け入れることができないのか

先述の例を合理的配慮として向き合うと、盲導犬の受け入れを相互に調整するということが課題となる。しかし実際の採用現場では、次のような理由が挙げられることが非常に多い。

  • 衛生面への誤解
  • アレルギーへの過剰な反応
  • 他の社員への配慮に対する迷いや漠然とした不安
  • オフィス環境(段差など)への不安
  • マニュアルに存在しない
  • そもそも前例がない

これらを合理的配慮の視点で見直すと、本質は異なる。いずれも、受け入れに伴う必要な調整や関係者間の情報連携によって対応可能な問題ではないだろうか。

特に日本の職場で頻繁にみられるのが、「前例がないので難しい」という判断である。しかし本来、合理的配慮とは既存の前例に従うものではなく、個々の状況に応じて調整する仕組みである。つまりこの一言は、制度の問題ではなく、意思決定の停止=理解不足の表れといえるだろう。

データが示す「現場のリアル」

こうした構造は、調査データからも見えてくる。公益財団法人 日本盲導犬協会の調査によれば、盲導犬の受け入れ拒否は飲食店がもっとも多く、全体の4割以上を占めている。さらに、交通機関や宿泊施設でも拒否は発生しており、特定の業種に限らず、社会のあらゆる場面で合理的配慮の課題が起きていることが示されている。

合理的配慮とは「判断を止めないこと」。合理的配慮は、特別な対応でも、難しい制度でもない。むしろ、「どうすればできるかを考える」その姿勢そのものに本質がある。

「障害があるから働きづらい」のではない

働きづらさは多くの場合、社会や職場の設計によって生まれる要因が多い。だからこそ、変えるべきは個人ではなく環境である。そしてその第一歩は、目の前の一人と向き合うことではないだろうか。社会が変われば障害は軽減されることを、静かに示している。

今後の多様な職場環境として、まずは目の前の一人ひとりと向き合ってみることに期待したい。


【参考文献】
内閣府. (2024). 障害者差別解消法について.
https://shougaisha-sabetukaishou.go.jp/kyoseisyakai/syogaisyasabetukaisyoho/
WHO. (2001). International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF).
https://www.who.int/standards/classifications/international-classification-of-functioning-disability-and-health
厚生労働省. (2002). 身体障害者補助犬法.
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001496109.pdf

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