マイナビ キャリアリサーチLab

障がい者雇用の明日を考える
コロナ禍で浮き彫りとなった課題とは?

障害者雇用促進法の基となった身体障害者雇用促進法が制定されたのは1960年。それ以来約60年にわたり障害者雇用促進法は幾度となく改正が実施され、障がい者雇用数は右肩上がりで増加を続けてきた。本企画では、株式会社マイナビの特例子会社である株式会社マイナビパートナーズの藤本雄社長と岩間裕統括部長に、障がい者雇用の現状と課題についてお聞きした。
聞き手:キャリアライター吉本隆男

株式会社マイナビパートナーズ

写真左:藤本 雄さん
株式会社マイナビパートナーズ代表取締役社長
株式会社マイナビで新卒、既卒の採用責任者として勤務した後、2018年に株式会社マイナビパートナーズの代表取締役社長に就任。マイナビグループにおける障がい者採用の促進と安定雇用に努めている。

写真右:岩間 裕さん
株式会社マイナビパートナーズ パートナー雇用統括部 統括部長
2011年より株式会社マイナビの採用業務に従事。障がい者採用も担当する。2016年のマイナビパートナーズ設立以降は、障がい者の採用、教育、キャリア開発など、幅広い業務に従事している

法定雇用率の達成に向けて
障がい者雇用は着実に進展

障害者雇用促進法の改正によって、障がい者雇用はこれまで着実に進展してきたと言える。その大きな要因となったのは、法定雇用率の対象となる障がい者の範囲の拡大と、法定雇用率の見直しだろう。身体障害者を対象とする雇用率制度が創設されたのは1976年。1998年には知的障害者が雇用義務に加えられ、2018年には精神障害者が追加された。また、法定雇用率も段階的に見直され、2021年4月には2.3%に引き上げられている。

マイナビパートナーズ・藤本雄社長

株式会社マイナビパートナーズで代表取締役社長を務める藤本雄さんが、「私が障がい者の方の採用に従事し始めたときの法定雇用率は1.8%でしたが、それ以降、2.0%、2.2%、2.3%と3度見直しがされており、かなりハイペースで上昇してきた印象です。マイナビグループの事情で言えば、リーマンショック後の業績回復が本格化して以降は企業規模が急拡大していましたし、グループ内で人材派遣事業を行っていますので、登録してくださっている派遣スタッフも従業員としてカウントされるため、その分を含めて法定雇用率を達成するのはかなりハードルが高かったです」と、これまでの歩みを説明してくれた。

また、同社のパートナー雇用統括部で統括部長を務める岩間裕さんは、「私がマイナビで採用担当をしていた頃は、新卒採用チームと中途採用チームの2部署、基本的に健常者の採用チームしかありませんでした。しかし、障がい者雇用が重要なミッションになり、専属チームを立ち上げる必要性が出てきました。私はそのチームの担当になり、その後、マイナビパートナーズでも引き続き障がい者雇用の責任者として業務に当たっています。専属チームを立ち上げた理由は短期間に一定数を採用する必要があったこと、限られたマーケットに対し的確にアプローチする必要があったこと、退職リスクを減らすため、環境適合含む入社後の定着サポートが必要であるという点からでした。マイナビは経営陣のご理解があり、障がい者採用を加速しやすい環境ではあったのですが、法定雇用率の定期的な上昇とマイナビグループの従業員数UPに対応していくために、積極的には行っていなかった精神障害者手帳を持っている方の採用に踏み切ったのもこの頃からです」と語る。

障害者雇用促進法の改正により
精神障がい者の採用が加速

 障害者雇用促進法の改正により民間企業で雇用される障がい者の数は着実に増加してきた。厚生労働省が2021年3月に発表した「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」によると、2020年6月1日時点、民間企業で雇用する障害者数、実雇用率とも過去最高を更新。雇用障害者数は、対前年で3.2%、1万7,683.5人増加し、57万8,292.0人となった。その内訳は、身体障害者が356,069人、知的障害者が134,207人、精神障害者88,016人となっているが、新規求職申込件数や就職件数を障害種別で見てみると、少し違った傾向が見えてくる。

藤本さんが、「障がい者の方の採用というと、一般的には身体障がい者の採用をイメージされることが多いと思いますが、近年の傾向としては、求人の数も実際の就職件数も圧倒的に精神障がい者の方の方が多いのが実情です。令和2年度の数字を見ても、身体障害者の就職件数が20,025人に対して、精神障害者の就職件数は40,624人と倍の数になっています」と説明してくれた。

岩間さんも、「潮目が変わったのは2013年(平成25年)頃でしょうか。厚生労働省が2021年6月に発表した『ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況』の資料を見ると、ちょうど平成25年に新規求職申込件数も就職件数も、身体障害者の数と精神障害者の数が入れ替わっています」と語る。

平成25年には改正障害者雇用促進法が成立し、2016年4月から障害者に対する差別の禁止、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための合理的配慮の提供が義務付けられた。また、2018年4月からは障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わったことも、精神障がい者の就職件数の増加につながったようだ。

藤本さんによれば、「しかし、精神障がい者の採用に対して二の足を踏む企業が多いことは否定できません。当社では昨年から、障がい者の方の人材紹介サービスを開始したのですが、ほとんどの企業様で精神障がい者より身体障がい者の採用を優先されるという状況です」とのこと。

岩間さんも、「それまで精神障がい者を採用した経験がないことが影響しているのではないでしょうか。身体障がい者の方の場合は、障がいの内容や程度がわかりやすいので配慮しなければならないポイントを把握しやすいのですが、精神障がい者の方の場合は、何をどこまで配慮すればいいのかわからない。そこにマネージメントの難しさがあるのだと思います」と、企業側の事情を説明する。

コロナ禍によって
12年ぶりに就職件数が減少

長期的に見れば、着実に進展してきた障がい者雇用ではあるが、コロナ禍の影響で採用にブレーキがかかり始めたようだ。岩間さんによれば、「先ほどご紹介したハローワークにおける障害者の新規求職申込件数と就職件数は、直近の令和2年度の数字が減少しました。障がい者全体件数では、令和2年度の新規求職申込件数は211,926件で、対前年度比5.1%減と1999年度(平成20年度) 以来、21年ぶりに減少しました。また、就職件数は89,840件で、対前年度比12.9%減となり、こちらは2008年度(平成20年度)以来、12年ぶりに減少しています」とのことだ。

藤本さんも、「障がい者雇用は、SDGsの観点からも企業のCSRとしても、企業の経営課題と位置づけられる取り組みではあるものの、コロナ禍の影響で親会社の業績が下がって従業員数が減少したり、あるいは、テレワークが進んだ影響で、障がい者の方に担っていただいていた業務が縮小したりしていることが背景にあるのでしょう」と補足する。

一般従業員の間では一気にテレワークが広がったが、コロナ禍は障がい者の雇用環境にどのような変化をもたらしたのか。一般社団法人障害者雇用企業支援協会が2020年11月に実施したアンケート調査(79社が回答)から、企業側の具体的な取り組みをいくつか紹介したい。まず、感染拡大防止のための「出勤調整」を行ったかどうか。68.4%が出勤調整を行ったと回答しており、内訳として時差出勤、在宅勤務、出勤日の調整、勤務時間の短縮などを実施したようだ。また、「在宅勤務」の導入状況については、コロナ禍以前から導入している企業が15.2%、コロナ禍以降に導入した企業が40.5%、導入していない企業が44.3%と、コロナ禍が障がい者の在宅勤務を推し進める契機にはなったものの、在宅勤務導入の難しさも感じられる結果となった。

また、在宅勤務を導入している企業のうち、半数が教育訓練を実施しており、在宅勤務者へのフォローやサポートを実施している企業が63.6%あることも判明した。テレワークをスムーズに導入するために、一般の従業員以上にきめ細かい配慮とサポートが求められたのだろう。

ウィズコロナ時代の
障がい者雇用の課題とは?

藤本さんは、「障がいの内容は一人ひとりでまったく違います。集団の中で仕事をすることをストレスに感じる人であれば、テレワークをはさむことで勤怠が安定しますが、通勤する必要がなくなることで生活のリズムに変化が生じて調子を崩してしまう人もいます。障がい者の方の雇用環境を守るためには、一人ひとりきめ細かく配慮する必要があります」と雇用環境を整えることの大切さを指摘する。

マイナビパートナーズ・岩間統括部長

岩間さんは、「コロナ禍で、従業員とのコミュニーケションの重要性があらためて浮き彫りになりました。朝礼、終礼を必ずする、オンライン会議システムやチャットツールを有効活用するなど、リモートでもできることはたくさんあります。ただ、すべての業務がテレワークで置き換えられるわけではありません。あらためて一人ひとりのスキルをよく見て、アサインできる業務を増やしていく努力は必要です。今回のコロナ禍はむしろ新たな職域開発にチャレンジする機会となりました」と振り返る。

しかし、いっこうにコロナ禍の収束が見えてこない状況で、今後の障がい者雇用はどうあるべきか。最後に今後の課題についてお聞きした。
岩間さんは、「障がい者の採用は、かつて対面と個別対応が当たり前でしたが、今ではオンライン化が一気に進みました。しかし、障がいによっては対人のコミュニーケションが苦手な方もいらっしゃるし、オンラインでは見極めきれないこともたくさんあります。障がい者の方にとっても企業理解や職場理解が進まないこともあるので、オンラインとリアルのハイブリッド型の促進やリアルな情報交換の機会をいかに実現していくか、さまざまな工夫が必要となるでしょう」と今後の課題を指摘する。

藤本さんは、「2023年には法定雇用率は2.5%となる可能性があります。0.2%の上昇ですが、企業規模によってはとてもインパクトの大きい数字です。採用や受け入れ体制の整備など、今から計画的に準備を進める必要があるでしょう。また、企業側は、従業員の定着やキャリア開発も考慮しながら、常に新しい仕事を見つけていく努力が求められます。少子高齢化にともない将来的な日本の労働人口の減少は避けることはできません。障がい者雇用について、目先の法定雇用率の達成だけを考えるのではなく、障がい者雇用によりポジティブに取り組み、LGBTQを含めた多様な人材をどう戦力化していくかが、企業経営の視点からも今後ますます重要になってくるでしょう」と締めくくってくれた。

編集後記:
コロナ禍のなかで障がい者の雇用をどのように守っていくのか、企業は今、大きな課題に直面している。接触を伴う業務の変更、従来の働き方の見直しが進められているものの、「業務そのものが消滅してしまった。テレワークの導入は簡単ではない」という切実な声も聞こえてくる。しかし、コロナ禍が一定の収束を迎えたとしても、感染症対策をしながら新たな労働環境の構築に向けたチャレンジは継続する必要がありそうだ。経営者側には、「目先の法定雇用率の達成だけを考えるのではなくて、LGBTQを含めた多様な人材をどう戦力化していくか」(藤本氏)という視点が求められ、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念の実現に向けてどう取り組むか、従業員にウィズコロナ時代に向けた意識改革が求められているようだ。

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