はじめに
「マネジメント」は、管理職だけに関係するのではなく、組織で成果を出すための“役割”として、管理職でない社会人にとっても理解しておく価値が高い概念である。
近年その重要性があらためて強調される背景には、働き方改革やコロナ禍を経て多様な働き方が広がったことによって、管理職が現場を運営することに一層の工夫が求められるようになったことがある。また、ダイバーシティ推進によって画一的な管理ではなく、個別の事情に配慮した丁寧な関わりが必要になっている点があげられる。
厚生労働省は、女性や障がい者、高齢者、外国人労働者、性的マイノリティなど、課題把握の単位が属性別になっており、個別に施策を展開している。その一例が、性的マイノリティを主対象とした「職場におけるダイバーシティ調査・推進事業 」である。
本稿では、マネジメントの定義を学術的に整理した上で、リーダーシップとの差異や管理職に求められる役割について述べる。さらに、企業の育成設計と個人のキャリアの観点までを整理する。
マネジメントとは
マネジメントとは、チームが成果を出せるように資源と仕事の進め方を整え、必要に応じて調整していく営みである。ただし、マネジメントは単なる「管理(統制)」にとどまらず、成果を出すための能動的な意思決定と調整を含む。
この点を理解する上で参照しやすいのが、ドラッカーの議論である。ドラッカーは、マネジメントを個別の手続きではなく、「事業のマネジメント」「人的資源を使って生産的な企業をつくること」「人と仕事をマネジメントすること」といった複数の機能からなる体系として論じた。さらに企業目的を「顧客の創造」として位置づけるなど、マネジメントは社会的役割を持つ総合的実践であると捉えた。
すなわち、マネジメントとは「人を通じて事を成し遂げる」機能であり、担当者自身の成果よりも、チームや組織としての成果に責任を負う役割へと重心が移るのだ。
現代日本の職場において、マネジメントの定義を整理するうえ上で重要なのは、マネジメントを単なる「管理(現状維持・監督)」と同一視しないことである。職場では成果を生むために人員や時間、情報、予算などの資源を配分し、業務を設計・調整し、問題を解決し続ける必要がある。
JILPTの「管理職ヒアリング調査」 でも、管理職は業務分担や進捗の管理、残業などの労働時間管理、評価や育成、さらにはメンタルヘルス面の配慮など多様な役割を担っていることが示されている。
なぜマネジメントとリーダーシップは混同されやすいのか
マネジメントとリーダーシップは、実務やメディアにおいてしばしば同義語のように扱われる。しかし、学術的には両者は重なり合いつつも、異なる役割や機能を担う概念として整理されてきた。その混同が生じやすい理由の一つは、実際の管理職が日常業務の中で、マネジメントとリーダーシップの双方を同時に遂行している点にある。
経営学の分野では、リーダーシップ研究で知られるジョン P. コッターがマネジメントとリーダーシップを「相補的だが異なるシステム」として整理している。
ジョン P. コッター(1990) は、マネジメントの役割は複雑な状況への対処であり、「計画・予算管理」「組織化・人員配置」「統制・問題解決」によって秩序と予測可能性を生み出す営みだと論じる。つまりマネジメントで求められるのは、立案した計画を達成するために組織づくりと人員配置を行うことだ。
一方、リーダーシップは変化への対処であり、組織メンバーの心を一つにすることが求められる。そのため、方向性(ビジョン・戦略)を提示し、その実現に向けて人々が一丸となって動けるように、動機づけ・鼓舞を通じて変化を生み出す営みだとされる。
この整理を踏まえると、両者の違いは「どちらが上位か」ではなく、「扱う課題の性質」によって区別されるべきである。マネジメントは日常的・反復的な業務を安定的に回すことに強みを持ち、リーダーシップは不確実性の高い状況で方向性を示し、人の行動変容を促す点に力点が置かれる。
それにもかかわらず、両者が混同されがちなのは、日本企業の管理職像とも深く関係している。日本の多くの職場では、管理職に「現場の業務管理」と「部下を率いて成果を出すこと」の双方が同時に期待される。したがって重要なのは、マネジメントとリーダーシップを二者択一で捉えることではなく、それぞれの役割と機能を区別した上で、状況に応じて使い分け、補完させる視点であろう。
マネジメントを構成する主な要素
マネジメントを「役割」として理解するためには、その内部がどのような要素で構成されているのかを整理する必要がある。古典的な理論と現代的な研究を踏まえると、マネジメントは単一のスキルではなく、複数の機能や行動の集合体として捉えられてきた。
管理過程論
まず、もっとも広く知られている整理の一つが、Fayol(1916)による管理過程論である。Fayolは、管理的活動として「計画・組織・指揮・調整・統制」という五つの機能として整理した。
これは、組織目標を達成するために、何を目指し、どのように資源を配置し、進捗を確認し必要に応じて軌道修正するかという、一連の循環的プロセスを示している。マネジメントが「現場対応」ではなく、構造的・継続的な営みであることを明確にした点で、この整理は現在でも参照され続けている。
マネジリアル・ロール論
一方で、「実際のマネジャーは日々何をしているのか」という問いに注目したのがMintzberg(1973)によるマネジリアル・ロール論である。
Mintzberg(1973)は、マネジャーの仕事を観察し、マネジメントは教科書的な「計画→組織→統制」といった直線的手順ではなく、日々の相互作用と判断の連続で成り立つと論じた。その上でマネジャーの役割を、①対人関係、②情報、③意思決定の三領域に整理し、合計十類型として提示している。
①の対人関係の役割には、(1)儀礼的・象徴的な職務を担うフィギュアヘッド、(2)部下を導き動機づけるリーダー、(3)組織内外の人脈をつなぐリエゾンが含まれる。
②の情報の役割には、(4)内外の状況を把握するため情報を収集するモニター、(5)得た情報を組織内へ伝える周知伝達役、(6)組織を代表して外部へ情報を発信するスポークスマンが含まれる。
③意思決定の役割には、(7)機会や課題を見いだして変革を企画する企業家、(8)トラブルや危機に対処する障害処理者、(9)資金・時間・人員などの資源を配分する資源配分者、(10)重要な交渉に臨む交渉者が含まれる。
この枠組みが示す要点は、マネジメントとは「計画書を作ること」だけではなく、「人とつながり(対人)、情報を処理し(情報)、判断と資源配分を行う(意思決定)」という複合的な役割の束である、という点にある。
人に関わる側面の重要性
さらに、現代の職場環境を踏まえると、マネジメントの「人」に関わる側面は一層重要性を増している。ドラッカーは、マネジメントを「人を通じて成果を上げさせるための機能」と定義し、個々人の能力や動機づけをいかに組織成果へと結びつけるかを核心に据えた。この視点は、知識労働者など、成果やプロセスの見えにくい仕事が主流である職場において、より現実的な意味を持つ。
先述したJILPTの調査でも、管理職が業務進捗の調整や資源配分に加え、評価・育成、労働時間管理、メンタルヘルスへの配慮など、複合的な役割を担っている実態が示されている。
特に近年は、部下の「成果管理」だけでなく、「働きやすさ」や「能力発揮の条件づくり」もマネジメントの一部として期待される傾向が強まっている。こうした理論と実態を踏まえると、マネジメントとは「計画・統制」といったハードな側面と、「対話・支援・調整」といったソフトな側面が不可分に絡み合った営みであるといえる。
マイクロマネジメントとは
マイクロマネジメントとは、部下の行動や意思決定に過剰に介入し、自律性を制限する否定的な管理スタイルとして論じられてきた概念である。ただし重要なのは、「細かい=悪」ではない点だ。品質や安全、法令順守のために細部を確認すること自体は必要なことである。
マイクロマネジメントが問題になるのは、そうした必要性を超えて監視・統制が肥大化し、部下が本来担える判断や工夫の余地(裁量)を恒常的に侵食してしまう局面である。
見分ける観点は「指示が細かいか」ではなく、意思決定の所在と学習の余地である。たとえば、成果基準やリスク境界を共有した上でプロセスの工夫を委ねているなら、それは単なる丁寧な管理であり得る。
一方、手順・体裁・表現などの些末な部分まで逐一介入し、部下が判断しようとするたびに差し戻しが起きる状態は、過剰統制に近いといえる。
ただし、繰り返しになるが、マイクロマネジメントはネガティブに語られやすい一方で、たとえば、新人教育・高リスク業務・法令順守領域といった状況では一定の細部管理が必要ともいえる。つまり、程度と場面のバランスが鍵といえるだろう。
したがって、対処の方向性は「放任」ではなく、統制の設計を“成果基準・裁量範囲・報告頻度”に落とし込むことである。何を守るためにどこまで介入するのかを明確にし、判断を委ねる範囲を合意しておけば、過剰統制を抑えながらリスクも管理できる。
権限委譲
権限委譲とは、仕事(タスク)を割り振るだけでなく、遂行に必要な判断権限を一定の範囲で部下に委ねるマネジメント手法である。ここでの要点は「任せる=放任」ではない点にある。
一般的に権限委譲では、委譲された側が業務の執行を担う一方、結果に対する最終的な責任は委譲した上司側に残る、という整理がなされる。したがって、委譲は「上司の仕事を減らす技法」であると同時に、部下に意思決定経験を与え、組織として判断を分散させる設計でもある。
また権限委譲はマイクロマネジメントの対概念として語られやすいが、上司からの支援や任せる(委譲)範囲の中で、進捗・品質・リスクを把握し、必要なときに軌道修正できるようにする管理活動といった条件と組み合わさることで、初めて機能する可能性が示されている。
現場で「権限委譲ができていない」という課題が繰り返し語られる背景には、委譲が“行為”として単発で起こってしまうことが多いためだと考えられる。
権限を委譲する場合は、判断の境界(どこまでなら自分で決めてよいか)と、困ったときの支援回路(誰に何を相談するか)を明確にすることで、部下の自律性とリスク管理を両立しやすくなるといえる。
プレイングマネージャー
プレイングマネージャーとは、管理業務に加えて自らも実務を担う状態であり、管理業務の多さが多忙化・長時間労働につながりやすいことが報告されている。JILPTの調査でも、多くの管理職がプレイングマネージャーであり、管理業務の多さが多忙や長時間労働につながりやすいこと、さらに人員・予算などの権限不足が業務効率化の障害として認識されていることが示されている。
つまり、成果責任は負うが手段(資源配分の裁量)が十分にないという「責任と権限の不一致」が、管理職の負荷を高めやすい構造がある。
この「時間不足」と「責任集中」が重なると、任せきれずにマネジメントがマイクロ化し、逆に任せ方が粗くなると権限委譲ではなく“丸投げ”に見えてしまうという悪循環が生じやすい。
なお、権限委譲を“個々の業務技術”にとどめず、本人の主体性や心理的資源の活性化へ接続する議論としてエンパワーメントがあり、支援の姿勢としてはサーバント・リーダーシップが参照されることが多い。
まとめ
本稿では、マネジメントを単に「管理職のための技法」としてではなく、組織として成果を出すための機能として捉え直してきた。
マネジメントは歴史的に、計画・調整・統制といった機能の集合として整理されてきたが、近年は人材育成や健康配慮、多様性への対応まで含む役割へと拡張している。
その結果、プレイングマネージャー化や権限と責任の不一致が生じ、マイクロマネジメントといった問題が構造的に発生しやすくなっている。重要なのは、これらを個人の資質や姿勢の問題に還元せず、役割設計や育成、評価の再設計における課題として捉える視点だといえる。
<引用文献>
Fayol, H. (1916) Administration industrielle et générale, Paris: Dunod, 1925(佐々木恒男訳『産業ならびに一般の管理』未来社,1972 年).Kotter, J. P. (1990). A Force for Change: How Leadership Differs from Management.
Mintzberg, H.(1973)The nature of managerial work, Harper & Row, Harper Collins(奥村哲史・須貝栄訳『マネジャーの仕事』白桃書房,1993 年).
労働政策研究・研修機構(2022)「管理職ヒアリング調査結果―管理職の働き方と職場マネジメント―」JILPT資料シリーズNo.254.