【2024年最新調査】アルムナイ採用の現状とは
近年、雇用の流動化が進むなか、企業の採用戦略において「アルムナイ採用」が注目を集めている。アルムナイ(Alumni)とは、過去在籍していた社員のことを指しており、アルムナイを再雇用することで企業・個人ともにさまざまなメリットが期待されている。
本コラムでは、マイナビキャリアリサーチLabで実施している「中途採用・転職活動の定点調査」の結果を基に、アルムナイ採用の現状について詳しく探っていく。
目次
アルムナイ採用とは
アルムナイ採用とは、過去に在籍していた社員を自社の貴重な人的資源と捉えて継続的にネットワークを築き、そのなかの人材を再雇用する採用方法を指す。
アルムナイはすでに企業文化や業務を理解しているため、即戦力として活躍できる点が大きな魅力であるといわれている。また、過去の実績がわかることから信頼性の高い人材を確保できるため、採用リスクを軽減する効果もあるだろう。近年、この採用手法が注目を集めている。
アルムナイ採用が注目されている背景
雇用の流動化が進む
アルムナイ採用が注目されている背景として、「雇用の流動化」があげられる。雇用の流動化は、少子高齢化や技術革新を理由に政府主導で推進されているものであり、終身雇用や年功序列を前提としたいわゆる日本型雇用の見直しや成長産業への円滑な労働移動への支援が行われている。
総務省統計局の労働力調査によると、2023年平均の転職希望者(※1)は1,007万人だった。転職希望者の年間推移をみると、転職希望者数は増加傾向にあることがわかる。【図1】
(※1) 労働力調査では、現在就業者である者のうち、現在の仕事をやめてほかの仕事に変わりたいと希望している者及び現在の仕事のほかに別の仕事もしたいと希望している者を「転職等希望者」として集計している/労働力調査に関するQ&Aより
雇用の流動化により、企業は人材を獲得しやすくなる一方で、人材流出のリスクも抱えることになる。そのため、採用戦略の一環として、流出した人材を再雇用する「アルムナイ採用」に注目する企業があるようだ。
また個人にとっては、「働きながらより良い環境を探す」ことが一般的になりつつあり、個人にとって転職はより身近なものとなっていることがわかる。
約3人に1人は「過去退職した会社に戻りたいと思ったことがある」
転職経験者における、「過去退職した会社に戻りたい(出戻り転職したい)」と思ったことがある割合は32.9%だった。約3人に1人は「過去退職した会社に戻りたい」と思ったことがあるようだ。【図2】
また、過去退職した会社との連絡有無により出戻りの意欲は異なっている。過去退職した会社の人と頻繁に連絡を取っている人は、過去退職した会社に戻りたいと思ったことがある割合が6割以上となっており、連絡を取っていない人と大きな差がみられた。詳しくは、以下の調査で解説しているため、こちらをご覧いただきたい。
転職活動の理由は「給与」や「仕事内容」への不満
個人の転職活動理由をみると、理由としてもっとも多くあがったのが「給与を高くしたい」であり、次いで「仕事内容を変えたい」「将来性のある会社、業界で働きたい」と続いた。一方で「人間関係」に関する理由で転職活動を行っている人の割合は上記の理由と比べて多くないことがわかる。【図3】
また「2024年6月度 中途採用・転職活動の定点調査」では「退職した会社の人と連絡をとっている」割合は57.5%となっており、退職後に元居た会社の人と連絡を取っている人が過半数いた。このように、転職理由に人間関係が大きく関わっていない人が存在していることがわかる。このこともアルムナイ採用が注目されている背景のひとつとしてあげられるのではないかと考える。
アルムナイ採用の現状
では実際にアルムナイ採用の現状はどうなっているのか、以下2つの調査の内容を再集計してまとめる。
企業のアルムナイ採用
アルムナイ採用実施率
「2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査」によると、企業の中途採用担当者のアルムナイ採用実施率は40.9%だった。従業員数が多いほど実施率が高い傾向にあり、従業員数301名以上では半数以上がアルムナイ採用を実施していることがわかる。【図4】
アルムナイをやってよかったこと
アルムナイ採用を実施していると回答した中途採用担当者350名に、アルムナイ採用を実施してよかったことを聞いた。もっとも回答が多かったのは「即戦力として活躍してくれたこと」となり、次いで「採用・育成コストを削減できたこと」、「自社外で身につけたスキルを還元してくれたこと」と続いた。
もっともよかったことをひとつあげてもらった場合には「数的な人材不足が解消できたこと」も上位となっている。アルムナイ採用によって即戦力人材を採用できたことで人材不足の解消にもつながっている可能性がある。【図5】
アルムナイ採用の課題
アルムナイ採用の実施有無別に、アルムナイ採用の課題について聞いた。「現在実施している」企業でもっとも高かったのは、「既存社員との処遇差に対する不満の発生」だった。「現在は実施してないが、今後検討している」においてももっとも高かったのは、「既存社員との処遇差に対する不満の発生」だった。一方で「現在実施しておらず、今後も検討予定はない」においては、「特にない」がもっとも多く過半数となっている。
また、「今後検討している」企業の課題として、退職者同士や企業がつながる「アルムナイネットワーク(※2)の構築」も上位にあがった。ネットワーク構築には専用サイトの運営やイベント実施などのさまざまな方法があげられるが、導入にはまだハードルを感じている企業が多い様子がうかがえた。
(※2) 企業の元従業員たちと企業などで形成されるコミュニティを指す。退職者同士や、企業と退職者の間で情報交換が可能
アルムナイ採用のハードルと採用率
アルムナイ採用を実施していると回答した中途採用担当者に対して、採用ハードルと採用率について聞いた。
もっとも多かったのは「通常選考と同様の採用ハードル」となり34.0%であったが、「ハードルが低い計(通常選考と比較して採用ハードルがとても低い+通常選考と比較して採用ハードルが少し低い)」は54.5%となり、過半数が通常よりもハードルが低い傾向にあることがわかった。【図7】
実際の採用率はどの程度であるのか聞いたところ、もっとも多かったのは「採用率80~70%」「採用率60~50%」となり29.1%だった。採用率7割以上は45.7%となっている。【図8】
個人の出戻り(アルムナイ)転職
アルムナイ経験率
転職経験のある個人の「出戻り転職(アルムナイ)の経験がある」割合は12.3%と少数派であることがわかる。年代別にみると、もっとも出戻り転職経験率が高かったのは20代で14.8%だった。【図9】
出戻り(アルムナイ)転職をした理由
出戻り転職をした理由・検討している理由をそれぞれ聞いた。出戻り転職をしたことがある人に理由を聞くと、もっとも多かったのは「会社に知り合いがいて働きやすい」となった。次いで「即戦力として活躍できる」「以前退職した会社の問題点が現在は解消されている(人間関係、制度など)」と続いた。
今後検討している人に理由を聞くと、もっとも多かったのは「即戦力として活躍できる」となった。次いで「他社での経験をキャリアアップにつなげられる」「会社に知り合いがいて働きやすい」と続く。出戻り転職を行っている人と検討している人の理由には違いがみられた。実際に出戻り転職を行っている人は、退職した会社の人間関係や人脈を理由に出戻り転職をしている傾向にある。【図10】
前述のとおり過去退職した会社の人と連絡を取っている人の方が、連絡を取っていない人に比べて「過去退職した会社に戻りたいと思ったことがある」割合が高いことから、良好な人間関係は「アルムナイ採用」にポジティブな影響を及ぼしている可能性が高い。
出戻り(アルムナイ)転職で不安なこと
出戻り転職の経験有無別に、出戻り転職への不安について聞いた。「出戻り転職経験者」の不安でもっとも高かったのは、「以前退職したときと会社の環境が変わっていること」となっており、次いで「以前退職したときに起きていた問題が再度起こること(人間関係、制度など)」、「出戻りを受け入れてくれる環境か分からないこと」と続いた。
「今後検討している」人でもっとも高かったのは、「適正な賃金や評価を設定して貰えるか分からないこと」となっており、次いで「以前退職したときと会社の環境が変わっていること」「出戻りを受け入れてくれる環境か分からないこと」と続いた。
「今後も検討予定はない」人でもっとも高かったのは「以前退職したときに起きていた問題が再度起こること(人間関係、制度など)」となっており、次いで「不安は特にない」、「出戻りを受け入れてくれる環境か分からないこと」と続いた。【図11】
アルムナイコミュニティ参加率と満足度
転職経験がある個人に対して、アルムナイネットワークに参加しているか聞いたところ、「参加している」割合は15.3%となった。年代別にみると、もっとも参加率が高かったのは20代で25.3%と、転職経験のある20代は4人に1人がアルムナイネットワークに参加していることがわかる。【図12】
また、参加している人に対して満足度を聞いたところ、「満足している」と答えたのは76.0%となり、参加率はまだ低いものの、参加した後の満足度は高い傾向がみられた。【図13】
まとめ
- 企業のアルムナイ採用実施率は4割強な一方で、個人の出戻り転職率は12.3%で少数派
- アルムナイ採用・転職をしてよかったことは「即戦力としての活躍」が上位
- アルムナイ採用検討中の課題・不安点は企業・個人ともに「採用後の処遇」
個人は「出戻りを受け入れてくれるかわからない」との声も - アルムナイネットワークへの参加率は15.3%と少数派な一方で、「満足している」割合は8割弱
「退職した会社と頻繁に連絡を取っている人ほど、退職した会社に戻りたいと思ったことがある割合が高い」という結果から、退職者との関係性を維持するためにアルムナイネットワーク構築に注力する企業は増加するのではないかと考えられる。
現状、個人のアルムナイネットワーク参加率は約15%と少数派ではあるものの、実際に参加している人の満足している割合は76%と高い傾向があった。まだアルムナイネットワークの構築に対しハードルを感じている企業も多い現状はあるものの、今後、アルムナイ採用の重要度が増していくなかで取り入れる企業が増加し、認知が拡大していくことで参加率もあがっていくのではないだろうか。
一方でアルムナイ採用を検討している企業も個人も、アルムナイ採用・転職をした後の処遇に対して課題を感じていた。企業はアルムナイ採用を受け入れる場合の処遇や環境面に関する情報発信を積極的に行うことで、退職者が出戻り転職をしやすい環境づくりを行うと同時に、受け入れた後に既存社員からの不満が発生しないよう配慮を持った制度設計が重要になるだろう。
キャリアリサーチラボ 研究員 朝比奈あかり